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【第2部 始動】蛮鬼―安寧ト絶望―  作者: 松浦 雀
第1部 新起動 ≪Generation≫
10/20

第1部完結記念総集編

 

 それは、いつも通りの一日だった。「あの時」までは。



「あ~あっついよぉ~もうギブ。猫探しなんて終わらせようよぉ~」


 逃げ出した猫探しをわたし達は炎天下の中、している。

 わたしの名前は藤宮(ふじみや)(なずな)。得意なことは‥‥‥何かなあ。どこにでもいる15歳。


 学校からの帰り道、わたし達はいつものように友人と買い食いをしようと駄菓子屋に寄ろうとして、そこのおばちゃんに逃げ出した猫を捕まえてくれ、と頼まれたのであった。

 別に猫を捕まえる義理は無いのだが、報酬に釣られ猫探しをしている。


「だーめっ!おやつがロハでもらえるんだよ!」


 こう言っているのは、沢口(さわぐち)千夏(ちなつ)。私の友人だ。

 いつでも元気いっぱいでクラスを引っ張っていく。今日の猫探しも彼女主導で動いている。


「なっちゃん、さっきから文句ばっか。フフフじゃあそろそろみんなもバテてきたという事で近くの屋根でもあるとこでひと休憩する?」


 よく言ってくれました、(かなえ)ちゃん。

 彼女は、草薙(くさなぎ)叶。わたしの一番の親友だ。

 背はわたしより少し高く、容姿端麗で頭が良いうえにメガネのドジっ子という男子生徒の心を釘付けにしない要素はないスーパー少女。そして胸がデカい。く~、羨ましいっ!

 ついでに、すごく可愛い。


「叶さんは薺さんの奥さんみたいによく気が付きますね」


 こうやって冷やかしてくる、少し上品な子は沢口涼華(りょうか)。本好きで、寡黙な少女。そして、千夏の姉。二人とも正反対の性格をしているがいつもべったりくっついている。いつも以上に叶にくっついて答える。


「アハハ。そうだよ。かなちゃんはわたしの将来の奥さんなんだから。ね、叶ちゃん。‥‥‥‥‥‥あれ?大丈夫?」

「う、ううううん。だっだっだっ、だっ大丈夫」


 なんと叶は単なる冗談でさっきまでの顔とは反対に、今にも頭から湯気を出しそうな勢いで顔を真っ赤に染めてしまった。


「かなちゃんは、なっちゃんと将来結婚するんだから以心伝心は当たり前だよ!」


 なんか面白そうだと思った(なつめ)まで会話に参加してきた。

 彼女は、桜木棗。わたしらの中で一番小さい、我々藤宮グループのアイドル。ちょっと泣き虫で気弱だから、アイドルというよりも小動物かもしれない。


 棗の弄りの甲斐もあって叶はというと、耳まで真っ赤になっている。


「いや、わ、わた私はそんなわけじゃなくて‥‥‥‥」

「おー。可愛いぞ。よしよし」


 可愛さの暴力に胸がキュンってなってきたので、わたしは叶をぎゅうっと抱きしめた。そうしているうちに遠くの方で一人黙々と(お菓子のために)猫探しをしていた千夏が遠くから叫び声を上げてきた。


「おーい。そこの夫婦さんよぉー。お2人のラブラブっぷりはよく分かったからちょっと手ぇ貸してくれないかねぇ。そしてラブシーンを見て見ぬふりしているそこのお二人さんもさぁ」


 なんと千夏は執念で単独猫探しを成功させて見つけたらしい。そしてついでに、ばっちりとさっきの会話の現場も見ていたらしい。うひゃー恥ずかしい‥‥


「見てよ。猫を見つけたのに木の上に登ってて。アタシも登るから手伝って。」


 わたし達が集まってきた途端に千夏が話し始める。

 わたしが同意を示すと、叶、涼華、棗も同じように首を縦に振った。


「‥‥‥‥あれ?」


 木に登るため、制服を腕まくりしていた千夏がまた声を上げた。


「ん?どしたどした」

 わたしが聞いてみてもいつになく真剣な表情で、ちょっと静かに、と言い耳を澄ませる。

 わたし達も彼女に倣い耳を澄ませてみたが、何も聞こえない。少し経ってから


「いや、何でもなかったみたい。なんか聞いたことない音が聞こえたような気がしたから。聞き間違えかな」


 とまぁ謎な事を千夏が言った以外は、何も変わったことは無く無事猫を捕まえた。それにしてもこいつ、本当にサル目ヒト科ヒト属ヒト♀なのだろうか。歩くのと同じくらいの速さで木に登りやがる。


「そういえば、駄菓子屋のおばちゃんから離れてるからさみしいっていうか‥‥そんな感じだと思うけどさっきこの猫ちゃん、震えてたよ。アタシもさっき引っ掛かれた。ほら、ここ。」


 ふーん。‥‥ん?いやいや、そんな事があったんなら早く言いなさいよ。引っ掻かれた傷跡は長さ10㎝位。しっかり血がぼたぼた出てるし。しかも言わなかったら、すz‥‥


「そんな大事なことなんで言わないのっ!ほら傷口出して。」


 思った通りちょびっと泣きそうな顔をしながら怒り出す涼華ちゃん。

 まぁそんな感じで千夏の怪我の治療も終わり(ホントに次からはすぐ言いなさい)、5人で駄菓子屋に行くためにベンチを立った時。


「なんかやっぱり今日の、この山どこかおかしい」


 千夏が変なことを言い出してきた。


「ちなつ、野生児だもんね。なんか野生の勘みたいなもの?」

「いや、違うっ!」


 いつになく鋭い声で話す千夏。なにも分からないわたし達に対し、彼女は口を開いた。


「だってここの山道、いつもなら野良猫の溜まり場になってるでしょ?だからわざわざ暑い中登って来たんじゃん。なのに、ここには脱走猫一匹しかいないんだよ!?」


 言われてみてやっとわかった。なんか一寸だけいつもとここの光景が違って見えると思ったら、動物がこの猫一匹しかいない。


「確かに。私もなんか変な感じがするとは思ってましたが、まさかそんな‥‥」

「動物たちはどこに行ったの?」

「昨日までは‥‥いた‥‥」


 そうなのだ。昨日も学校からの帰り道で駄菓子屋に寄り道するために山道を通ったが、いつも通り沢山の動物がいた。それが急にいなくなったという事は‥‥


「地震でも起きるのかな」

「と、とにかく逃げよう。」


 その瞬間。遠くから、形容しがたい地鳴りというには大きすぎる音が聞こえ始めた


「来たっ!!」


 ある意味、わたしの地震だと思ったのもしょうがなかったかもしれない。でもその音が近づいてくるにしたがってその予想が外れたことが分かった。妙な事に地震というには音源がちゃんと存在するのだ。


 そしてもう人と電話で話すことは出来ないぐらいの轟音になって初めて、音源を視認した少女たちの顔は凍り付いた。


 ―――巨大な‥‥ロボット?―――


 そのロボットらしき物体は少々わたし達が一般に聞くロボットとは風貌が全くと言っていい程異なっていた。

 そして。


「デカい‥‥」


 これには、わたしも即座には動けなかった。なにせ30メートルくらいある。誰もが度肝を抜かれていた。誰だっていつも通りの日常を送っていて、急に目の前に巨大ロボットが現れたら驚くだろう。


 すぐ正気に戻ると、わたしは思わず叫んだ。


「逃げろっ!」


 わたしは走りながら、どの方法が一番全員の生還率が高いのかを考えて結論を出した。


「よし、次の分かれ道で二手に分かれよう。わたしと叶ちゃんと千夏で左のコース、涼華ちゃんと棗で右を頼む。集合場所は今から行こうとしていた駄菓子屋で。今は逃げる事だけを考えよう。」

「なずなさんが言うなら分かりました。じゃあ、なつめさん、行きましょう」


 流石、涼華ちゃん。物分かりがいい。兎に角、こうしてわたし達は別れた。



 はぁっ はぁはぁ‥‥


 わたしと叶、千夏は森の中の道を走っている。


 わたし達は三人とも体力テストでぶっちぎりの評価だが、いま走っている道は曲がりくねった山道だからそんなの関係ない。気を抜いたら転んでしまいそうだ。


 巨大ロボットはどうしたかというと、二手に分かれたのを見るや少々悩んだように見え、そしてわたし達の方を追うことに決めたらしい。奴は見た目ほど速くはなかった。


 これなら逃げ切れるっ!


 と思った瞬間、わたしの身体は自由を失った。右足が木の根っこに躓いたのだった。


「なずなっ!?」

「なっちゃん!!」


 2人の悲痛な叫びが聞こえる。


 大丈夫、今起き上がるから、と言い起き上がろうとするも右足に力が入らない。それどころか全身に激痛が走る。


「っつ‥‥」


 苦痛に顔を歪めると、二人がやってきてわたしの両肩をそれぞれの首にまわして走ろうとする。

 そうしている隙にもロボットは待ってくれない。距離を着実に詰めて来る。


 そしてもう残すところ25メートルとなってしまった。二人はわたしという荷物を抱えながらも全速力で走る。走る。走る。


 そして駄菓子屋が目視できるほど開けたところにたどり着いた。

 根拠は無いが、その時のわたし達は駄菓子屋までたどり着けばそのロボットはもう追ってこない気がしたのだ。


 ロボットが木で囲まれた山道を抜け、開けた場所にたどり着いた。するとさっきまで使っていなかったその腕をこちら側に向けて‥‥


「「え?」」


 叶と千夏の声が重なる。


 あっ、と思ったその瞬間、わたしの身体は宙に浮いていた。いや、正確に言えばそのロボットの手に捕まえられていて、ビル2階ぐらいの高さで足をぶらつかせていた。


 わたしはこのまま地面にたたきつけられて死ぬのだろう。わたしは冷静にそう悟り、叫ぶ。


「逃げろーーーーーーー!わたしは大丈夫だから逃げてくれーー!」


 わたしの言葉で正気に戻った千夏はぐずる叶を無理矢理に連れていく。

 これで良かったんだ‥‥


 そうこうしているうちに、頭の中で昔の思い出が再生されていく。これが走馬灯か。

 しかし、このロボットはあろうことかその回想さえも力ずくで打ち破ってきた。


 わたしの走馬灯は激痛によって遮られることとなった。


 ~~~


 どうしようどうしようどうしよう


 私のなっちゃんが死んじゃうよ

 大丈夫なんて言ってたけど大丈夫なわけない。

 あんな大きなロボット、絶対殺されちゃうよ


 しかもさっきから痛がる、なっちゃんの声が聞こえる。


 私、草薙叶は今、千夏に連れられて走っている。


「大丈夫って言ってただろ?だから振り向かないで走るんだ」


 千夏も私を元気づけようと空元気で励ましているのがありありと見える。千夏の目じりには涙が浮かび、声も震えているからだ。これ以上千夏まで失う訳にはいかない。


「うん。分かった。心配かけたね。速く逃げて、後で助けに戻っても遅くないよね。」


 そう言い、勢いよく駆け出す。そしてあと少しで駄菓子屋に着く、というその時。さっきまでとは根本が違う叫び声がしてきた。いや、これはもはや叫び声にもなれていない。喘ぎ声だ。


 耐えきれずに後ろを振り向いてしまう。


「なっ‥‥ちゃん‥‥?」


 そこには血にまみれ、力なくロボットのされるがまま手の中でぐったりしている友達(なっちゃん)の姿があった。


 思わず私は駆け出し、大好きな友人の下へ駆け出した。

 あの子が生きていなかったら、私も死ぬつもりだった。


 ~~~


 わたし、藤宮薺は根性だけでまだ生きている。


 このまま意識を手放した方が簡単なのだろうが、それではこのロボットに負けた感じがして嫌だというものすごく幼稚な考えの下。


 もう生きているのが奇跡なぐらいだと思える。しかしそのような状況が長続きするはずは勿論ない。

 少しずつ意識が遠くなってゆく。


 あぁわたし、本当に死ぬんだな


 そう思っていると、霞んだ視界の中でわたしの一番の友人が向こうから駆けてくるのが見えた。


「大丈夫。私は大丈夫だから」


 そんな言葉が口をついて出てくる。

 わたしの言葉もむなしく、彼女はこちらに走って来る。


 ダメ‥‥と言おうとしたところで、本当にわたしの意識は完全にブラックアウトしてしまった。







 ピッピッピッ

 電子音が聞こえる。


 目を覚ます。体の節々が痛い。わたし‥‥は?

 わたしは藤宮薺。15歳。うん。思い出せる。

 ここはどこなんだろう。


 どうやらわたしは死ななかったようだ。


 わたしは今ベッドに横たわっている。動きたいが、まだそれほどには身体が思うように動かない。


 ん?

 ‥‥あれ?


 身体が‥‥ある。

 わたしはあのロボットによって殺されたはず‥‥生き返った?


 そう思ったら次から次へと疑問が沸き上がってきて、最終的にこの一つの質問に戻ってきた。


 なんで?


 そんなことを思っていると近くのドアに取り付けられたガラスに人影が。そして、ガラガラと何の気はなしに開けると、叫ぶ。


「患者が、藤宮薺が起きています!先生、早く!」


 いや、誰よ?


 見たこともなければ話したこともない女の美人さん。和風で端正な顔をしている。

 驚きたいのはこっちの方だ。


 パタパタとスリッパの足音が近づいているのが聞こえ、そしてひょっこりと見覚えのある女の人が出てきた。


「よっ」


 担任の会津先生だった。

 驚くわたしを尻目に、先生はわたしに繋がれている計器の数値を持っているバインダーに挟んだ紙にメモると、聞いてもないのにしゃべりかけてくる。


 先生が教えてくれたのは要約すると、こんなことだった。

 まずわたし達のいるところは、あのロボットに襲われた山の頂にある研究施設だという事。

 その研究施設は体面上は研究施設だが、本質上は城壁みたいなものらしい。

 勿論、何から人を守るのかは言わずもがな、あの恐ろしいロボットからだ。

 それから‥‥


「山に入っていったあなたたち五人のうち、死者はいないわ。」


 会津先生からまさかの神のお言葉が聞こえた。彼女によると全員が保護、又は救助されたらしい。


 ここまで言うと付いてくるようわたしに言い、会津先生は立ち上がりドアを通って廊下を歩いて行った。

 わたしはというと、(かなめ)さん(さっきの和風美人看護婦さんAに名前を聞くと、桐山(きりやま)要と名乗った)がベッドから車いすに移動させ、その車いすを押して、先生の後を追わせてくれた。


 気付くと、その廊下の突き当りにある巨大なドアの前に先生は立っていて、何やらポケットからカードキーらしきものを取り出すと、スキャンした。


 大きな起動音と共にドアが動き始める。

 そこの部屋の中には‥‥


 涙と鼻水にまみれた千夏、涼華、棗がいた。

 わたし達は涙を流しお互いの無事を喜んだ。だが再開を喜ぶもつかの間、会津先生の声により遮られてしまう。


「それでは、再会の喜びもそこそこにして、みんなに重要なお話がある。」


 先生がまた口を開く。唐突な質問から先生の説明は始まった。


「みんな、神隠しって知ってるよね。人が消えちゃうやつ。そんじゃあ、ハーメルンの笛吹き男の話は知ってる?」


 聞いたことだけならあるかもしれない。3人を見やっても、千夏と棗はさっぱり分からん、といった顔だ。涼華は知っていたらしい。


 彼女の説明でわたし達もどんな話か思い出した。


「おぉ。良く知ってたな。でさ、突然なんだがこの二つってすごく似てないか?

 正確には、笛吹き男は神隠しのグレードアップ版みたいだろ?」


 は?いや、確かにそうだけど‥‥?


 わたし達にこれでもかと疑問符を浮かべさせた後、先生は静かに話し始めた。


「ハーメルンの笛吹き男の犯人は、金属生命体。

 奴らは自分より強いものを何でも模倣する。そして、そのアップデート版となり、最強の座を維持し続けるんだ。

 そうやって古代から生きていた金属生命体。


 んで、前の世紀まではあいつらは神隠しを模倣して笛吹き男となっていたんだが、ついにそれをも上回る究極の兵器が出来てしまった。


 その兵器名は、バーバリアン・アサ。

 こいつは、とにかくめっぽう強い。無敵だ。滅亡戦争の犠牲者もほとんどの原因がこいつらとなっている。この情報は間違いじゃなんだが、間違えてもいる。どう意味かって言うと、これらはその金属生命体に”真似”されたんだ。


 大戦での死者のうち、実際に2割は人間のせいだが、残りの7割はこの金属生命体のせいだったんだよ。そういう経緯で怪物が生まれちまった。


 差し当たりアサを真似ているのは4番目に確認されたという事で⊿型、デタックスと我々は名づけることにした。


 こんだけ奴らは強いって話をしたが、あいつらはどこからでも攻めてこられるほど、万能ではない。世界で三か所しか攻めてこられるゲートが無いんだ。

 そのうちの一つの防衛ラインとしてここには研究施設という名前の基地が出来た。


 でもどうやって立ち向かうのか、分かんないだろうから君たちに良いものを見せてやる。」


 そう言って会津先生はパイプ椅子をきしませ立ち上がり、部屋の中にあった重厚なドアを開ける。

 厳重なセキュリティーを先生が解除し、ドアが完全に開き切ったところでわたし達は中へと入った。


 そこでは、轟音が鳴り響いていて、作業服姿の人たちが何人も走り回っている。


 わたし達全員がちゃんとたどり着いたのを確認すると、声高に言う。


「見ろ、あれこそが私たちのデタックスに対抗するための切り札、バーバリアン・バニルよ!」


 彼女の言葉と共に振り向くと‥‥


 巨大ロボがいた。大きさは20メートルぐらいだろうか。胸が大きく前に張り出している特徴的なボディ。なんか華奢だが滑らかな体表で、アサの無骨なデザインとは違う。


 先生は口を開き静かに話し始めた。


「今見せたロボットが生体兵器、バーバリアン・バニル。

 みんな、初めて見るだろうがあれは怖がらなくていい。我々に9機しかない貴重な”守護神”だ。人類がデタックスに対抗しうる唯一と言っていい程の手段。これはもう根底からアサシリーズとは違う。


 まず、操縦方法からして違う。これはシンクロ方式で動かす。


 まぁ欠点もあってそれは中に搭乗できる人が少女に限られること、それと人間の身体に無い部位は動かせないこと。

 前者はどうにもならないが、後者は克服した。


 中にコクピットがあって、そこにもう一人入るんだ。その人が現地で、内側からサポートする。主に、腰にあるミサイルパックだな。あともう一つ大事な役目がコクピットの人にはあるんだが、これは‥‥後でいいな。


 あと、今は関係無いがこいつは蛮鬼という最終形態がある。


 でもこんだけ凄いって言ったがお前たちが襲撃される3日前、バニル数機がデタックスによって中の人たちごと殺されてしまい他のバニルも大半が中破以上の被害を被ってしまった。


 今基地に存在するのはまだパイロットが決まっていないか、壊れているかのどちらかだ。

 因みに、基地の近くにいたおまえたちが襲われたのもそれが理由だ。」

 とも言った。


「あれ?‥‥な、なんかこの話の流れって‥‥アタシ達に‥‥」

 ついに千夏が気が付いた。先生の本心に。


「あぁ。お前たちに、なってほしいんだ。バニルのパイロットに。」

 続ける。


「戦闘に巻き込まれただけなのに戦えって言うのは間違っている。

 でも、そのおかしいのを承知で頼む。お願いだ。」


 そう言うと先生はパイプ椅子のさび付いた音を響かせ、立ち上がる。

 直後、彼女の頭はコンクリートの冷たい床に押し付けられていた。隣に立っていた要さんもそれに倣って土下座をする。


 想像ついたとはいえ、実際に言葉にして出されるのとは違う。


 わたし達は困惑した。

 涼華がわたし達の言いたいことを代表して言う。


「少し、考えさせてもらえませんか?」


 先生は深々と下げていた頭を持ち上げ、わたし達の顔を見て安堵と心配が混ざったような顔をして聞き返す。


「大丈夫か?」


 この問いかけは、わたし達がパイロットになってくれるかもしれない、という安心と共に生まれてきた、教師としての生徒を思いやる心も含まれての言葉だったのだろう。いや、そうなはずだ。


「ありがとう」

 上目づかいで彼女が言う。その目元を見たら赤く腫れていた。彼女なりに悩んだのだろう。目元が全てを物語っていた。


「お前らを巻き込むつもりはなかったんだ。ここの医療システムで検査していったら、たまたまお前らのシンクロ値が目に飛び込んできたんだ。とても優秀だった。

 もみ消そうとたんだが上司に見つかっちまった。」


 泣きそうな顔をして付け加えた。

「兎に角‥‥その、考えておいてくれ。

 あと、お前らに見せたいものがある」


 そう言うと、彼女は涙を拭くと片膝をついて立ち上がり、わたし達がこの基地に入って来たのと同じドアへと向かっていった。ドアが開くとさっきの個室が現れた。会津先生が入っていったのでわたし達も続いた。


 10数秒後同じ様にしてモーターを唸らせ重いドアが開くと、そこは研究所のような場所が広がっていた。


 先生は何もなかったようにドアから歩きだす。そこを私の車いすを押している要さんが続く。先生について行ってたどり着いたところにはドアがあった。黙って、その突き当りのドアを押し開けると‥‥


 暗い部屋の中には、直径1メートルくらい、高さ2メートルくらいの大きさの、液体で満ちたガラス管があった。

 その中には、叶がいた。


「彼女にはまだ早いだろうから、15分間だけ、お前たちの自由にしていい。この状況については後で説明する。私は邪魔になるだろうから要さんと外で待っている。」

 先生たちは部屋を出ていく。


 わたしは弾かれたように動き始めていた。

 一週間サボり続けた筋肉に鞭打ち、一歩ずつ進みだす。


「か、叶‥‥かなちゃん‥‥」


 わたしの呼びかけに、液体の中の彼女は如実に反応をする。

「な‥‥っちゃん‥‥?」


 声がくぐもって聞こえるが、彼女がそう答えたのは分かった。

 わたしはガラス管を挟んで、叶の身体をぎゅうっと抱きしめた。間に壁があるとしても、思いも何もかもが流れ込んでくる。


 ずっと二人だけの空間でいたいが、千夏たちもわたしの大切な友人だ。

 ここは譲るべきだろう。そう思い後ろを振り返ると、彼女たちの姿はもうわたしのすぐ傍だった。


 3人も叶の周りを取り囲む。直後、彼女たちも堰を切ったようにして涙が溢れ出させる。


 そうしているうちに、先生が入ってきた。

 ごめんな。そろそろ今日は終わりにしてくれないか?という言葉と共に。


 わたしは身を切られるような思いをしてその部屋を出ていくように促された。

 さっきまでの重い雰囲気と打って変わって、わたし達は少しだけ心を弾ませていた。


 その時だった。サイレンが鳴り響いた。


 急に目の前の壁が変形していく。ぼんやり見ていると、何にもなかったはずの壁は気付いたら新たな形をわたし達に見せる。


 どうやら隠し通路の扉らしい。

 わたし達があまりに急な事態に茫然としていると、彼女はわたし達の目の前で本日二回目の土下座をした。


「お願いだ。私に出来る事なら何でもする。バニルに乗ってくれ。今いるパイロットは誰も出撃することが出来ないんだ。このままではまた、世界が滅びちまう」

 深々と頭を下げたまま、上げない。


「「わたし、乗ります」」


 気がついたらわたしはそんな言葉を発していた。そして、わたしと一緒にそう宣言したのは千夏、ではなく涼華だった。


「「「涼華ちゃん!?」」」

 先生も含め、その場にいたわたし達全員が驚いた。

 千夏が説得を試みるが彼女は頑なに説得に応じない。


 勿論、千夏たちの説得対象は涼華だけではない。

 が、わたしも叶がいるから、と言うと何も言い返せずに黙ってしまう。


「っつ‥‥ありがたい。」

 そう先生は言うと、じゃあお前らはこっちについてきてくれ、と隠し通路のドアを開ける。


 通路に足を踏み出した先生について行こうとすると後ろから声が掛かる。


「ちょっと待ってくれ。アタシも付いて行く。」


「「え?」」


「ああ。アタシもバニルに乗らせてくれ。いいか?センセ。だいいち、なずなをこんな風にした奴を許せるわけがねぇ。」


 そう言う千夏の発言に、先生の顔は少し曇る。

「申し訳ない‥‥」


「私もっ‥‥のる、というか‥‥その‥‥」

 棗も宣言してきた。


 最後の方は尻すぼみになってしまう。

 彼女に関しては、わたし達は精一杯反対した。でも、


「みんな死んじゃいやだよ‥‥」


 頑張って、泣きそうになりながらも言っていく。彼女は弱気で少し泣き虫だから、いつも誰かの意見に同調する。そんな棗がわたし達と一緒に死地に向かう、というのだ。


 本当に申し訳なさそうな顔をして、先生は言う。


「後悔は無いんだな?その意思がある奴だけついて来い」


 一瞬の後にわたし達は迷わず動き出す決意をした。

 そして‥‥



 わたし達は暗い通路をただひたすら走っていた。


 そして、辺りが開けた。そこは、奥行きが長い、コンピューターやマイクが置いてある、司令室らしき部屋だった。


 その部屋は片面がガラスになっていて、そこから見るにバニルの肩あたりの真後ろっぽかった。そのガラスから覗くとバニル9機とも一望できる。


 そして、その司令室らしき部屋には9つの酸素カプセルのようなものが置いてあった。

 わたしと涼華にそこの傍で要さんに説明を受けるように指示してから、棗、千夏を連れて会津先生は別の所に歩き出す。


 それから、わたし達は要さんの説明を受けた。


 わたしがシンクロする機体はMK.5。そして涼華がシンクロする機体はMK.8だとか。まぁそんなのどうでもいい。

 操縦方法については要さんに説明を受けたが、ほとんどの質問は一言で片付いてしまう。


「成れば分かります」


 成る、とはバニルにシンクロする、という事らしい。


 そんな要さんだが、一つだけ何回も言われた言葉があった。


「絶対に自分がバニルとなったからって、腕とか脚とかを切り落とされないようにしてください」


 どうやら、シンクロしているという事で意識を離れているはずの身体にも、意識を戻した瞬間にフィードバックされてしまうらしい。


 つまり、腕をもし切り落とされたとしたら一生わたしの腕も使い物にならないただの邪魔なものに変わってしまうと言うのだ。


 そしてその説明が終わるとわたし達は要さんの指示通りにカプセル内に入った。

 全身に激痛が走ると、その後急速に意識が失われるのを実感した。



 目を覚ます。

 周りが眩しい。


 あれ?失敗したのかなぁ

 なんか遠くで人の声が聞こえる‥‥


 そう思った瞬間、わたしはふと気が付いた。


 なんで今、わたしは立てているの?

 さっきまで酸素カプセルみたいなところで寝かされていたはずだ。


 そうやって思っているうちに、五感が戻ってきた。そしてはっきりと周囲が見えるようになってやっと分かった。

 どうやら、もう成ってたいたらしい。


 でも、身体が重くて動かない。

 どうすればいいんだろう、と少しぼんやりと考えていると、隣のバニルからも声が聞こえてくる。


「あれ?私、もう成ってますか?さっきまで寝ていたと思うんですけど‥‥」

「もしかしてその話し方は涼華ちゃん?」

「あぁ良かった。なずなさんですね?私だけしか成れてないかと思っていました」


 少し静寂の後、わたしは呟いた。

「わたし達‥‥これからどうなるんだろう‥‥」


 2人での会話が完全に途切れた瞬間、目の前にあった壁が分かれ、その奥から司令塔が出てくる。さっきの司令室だと思っていたのはただのオペレータールームっぽいものだったらしい。


 そこにあるスピーカーから会津先生の声が鳴り響く。


「二人とも、無事バニルに成れたのね?それじゃあこれから説明するわ。よく聞いておいて。

 あなたたちが大体の事は要さんに聞いているという前提で話をする。」


 いやいや、全然話してくれませんでしたが‥‥


「これから、あなたたちに繋がれているロックは全て解除される。たぶん、あなたたちくらいの動きならいつも以上の動作が出来ると思う。


 今回は涼華ちゃんのコクピットの中には、ちなっちゃんがいる。藤宮ちゃんの中には誰もまだ入っていない。

 それと、あんだけ勇気出してくれたのに申し訳ないが今、棗ちゃんにバニル搭乗の説明をしながら急ピッチで適性を検査している。適性が高かったら彼女もすぐに後便で増援に来る。


 この司令塔とはいつでも無線であなたたちと繋がっているからなんでも言いたい事があれば、呟いてくれ。

 出来る限りのことはする。無線を切りたいときには前に突き出している胸の右側にあるダイヤルを捻ってくれれば切れる。


 それじゃあ、頼む。


 世界を、守ってくれ」


 先生の言葉が切れると、わたし達の周りが急にうるさくなった。近くにいた整備士たちが駆け足で基地を後にし、わたし達の肉体がある方のガラス張りの部屋へやって来た。


 全員の無事が確認できたところで、先生は周囲の制御担当の人たちに命令を矢継ぎ早に出し、わたし達の身体の拘束具を解除していく。

 ロックやボルトが解除されるたびに私の身体はどんどん軽くなってゆく。あんだけ重かったからだが嘘のようだ。そう実感している隙にもオペレーターの声が鳴り響く。

「バニルMK.5、後方ゲート、開門!」


 ガゴゴゴゴという凄まじい音を響かせ、私の後ろにあった壁が開くのを感じた。後ろから伸びてきた頑丈そうなアームにわたしの背中に合計4か所ある留め具が当たる。


 ガシュッ

 という音を立てて留め具が回り、完全に固定される。そのままそのアームがまた戻っていくのに従い、バニルと成っているわたしの身体も共に後ろのゲートに消えていった。


 ゲートの後ろは射出口となっていた。


 オペレーターたちの準備も終わったようだ。

 そして会津先生が宣言する。


「バニル5号機、出撃カウントダウン開始!」


 耳元でカウントダウンが開始される

「残り五秒、射出装置点火!」

 足元から振動が伝わってきた。

 そして、その時が来る。

「3,2,1、バニル、射出します」


 会津先生の叫び声。

「行っけ――――――っ!」


 その瞬間、わたしの身体は急激なGの増加を感じ、次に周りを見た時には世界が一変していた。





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