ハーブティーとわたし
週に一度行くショッピングモールの片隅に、輸入食品を扱う店がオープンした。
西洋の図書館をイメージしたという店内には、所狭しとセンス良く魅力的な商品が並び…うん、目移りがすごい、うわあ、見た事ないグミだ、何このジャム美味しそう、ちょっと待ってめっちゃドライフルーツ売ってる、買っておかねば…すげえ見た目のパスタがあるぞ、ミートソースでこってり食べたら絶対うまいやーつだ、あれに見えるはホクホクジャガイモに合うこと間違いなしのこってりドレッシング、もちろん買いだな…てゆっか何このワインの山、うおお!見た事ないデザートワインだ、これは娘と一緒に乾杯せねばなるまい!!!
地味に輸入食品が大好きな私、一歩踏み出すたびにテンションも五センチくらい上がってですね!!くぉおお!!ヤバイ、このままだと天井を突き破ってしまう!!!いっぱいになったかごを抱えて、お会計を済めせ、両手に袋を下げて車へゴー―――!!!
おかしいな、今日の晩ごはんの買い物の資金がなくなったぞ、まあいっか!今日は冷凍庫の掃除メニューと野菜室すっからかんスペシャルにしよ!
大荷物を抱えて自宅に戻り、戦利品をテーブルの上にずらりと並べたら…なんかやけに、心が冷えてきたような、イヤ気のせいだな!私は良い買い物をした、浪費して落ち込んでなど…いない!!!
サクサクと我が家にお迎えした皆さんを相応しい場所に移動させてゆく…ワインは冷蔵庫、パスタは棚、ドレッシングは今日使っちゃうからテーブルの上でいいや、ドライフルーツはとりあえず味見しとくか…。
多少お菓子の棚の蓋の閉まりが悪いものの、なんとか収納を完了した私は、ポットにお湯を沸かし、買ってきたばかりのハーブティーをいただくことにした。少々の気の迷いを、リラックス効果満点のお茶でながそまい……。
私がハーブティーと初めて出会ったのは二十歳の頃だ。ずいぶんおシャンなお見合い相手にオーガニックなカフェがあるからと連れて行かれて、ルースティーをごちそうになったのがきっかけである。
透明なティーポッドにゴミみたいなクズが入ってて、正直うへえ… (´Д`;lll)ってなったんだよね。でも残せないし、覚悟決めて飲んだらまあ、美味いというか、味はそうでもなかったけどすんばらしく爽やかな風が口の中を吹き荒れてですね!!!!!
あの時の衝撃、驚き、感動、すっからかんにお見合い相手の顔を忘れてしまったというのに、ばっちりしっかりくっきりハーブティーのインパクトが刻み込まれたのだなあ。
以降私はハーブティーを贔屓にするようになり、今までいろいろと嗜んできた。とはいえ、どこにでも売っているような日本製のティーバッグがほとんどで、めちゃめちゃ詳しいわけではない。無難な量販品をあらかた飲みつくしたので、このところ輸入物に手を出し始めたところだったりする。
お湯が沸くまでのしばしの間、心躍るようなデザインの外箱にじっくりと目を通す。ふふ、なんだかちょっぴりプロっぽいな……。フウム、さわやかなハーブをオリジナルでブレンドしたものがいろいろとティーバッグになって入っているのか。ペパーミントにリンデ、やろー???なんか聞いたことのないハーブばっかだな、どんな味なんだろ……。
ゴー、ごごご…コンっ!!
おお、お湯が沸いた、私は買ったばかりのハーブティーの箱を開け、中の袋を取り出して…ティーバッグを一つつまみ上げ、大ぶりのカップにそっと入れる。
こぽこぽとお湯を注ぐと……、ふわりと湯気に混じって、ハーブのいい香りが…鼻に……。
…うん?カモミールっぽいかな?少しミントっぽいな、なんだろう、遠くにムスク系の香りがいるような、気のせいか由緒正しいお寺さんの空気が……。
まあ、口に入れた途端に違和感のぶっ飛ぶハーブティーもあるからな、ティーバッグを一振り二振りして、とりあえず一口……。
……。
………うん?
「ゔぉぼえがぁあああ!!なんこれ、おもくそまじい、ちょ!はい、ハイ?はぃイイイイ?!」
一口飲んだ時に口内に広がる一瞬のクールなミントの香りをあっちゅー間に塗りつぶす絞り汁感!!!のど元を通った後胃袋からせり上がってくる、何とも不快な人類の歴史を感じさせる生活臭の染み込み過ぎた澱感!!!体内に取り入れてしまったことで己の細胞が侵食されてしまう悲劇を受け入れなければならないという絶望感!!!
「…ちょ!!うべあぁが?!ぶべっびょぉおおお!!!ま、まずっ!!!ちょーマズい、なんなんこれ!?売っていいのこれ!!!」
もしや一口目だけ絶大なインパクトを与えるヘッピリムシタイプのハーブティーの可能性もあると思い、二口めを飲んでみたのだが!!!
味わおうと舌の表面を開放すればするほどに不愉快なにおいが認識され、頭の中には次々と同レベルの破壊力を並べようとおかしな画像が浮かんでくる…ベランダで干からびていたぞうきんを水にぬらして絞った感じ、おままごとで水たまりの木くずを救ってお茶ですよと言いながらコップに注いだ感じ、解体する床の抜けた家屋の一階で掃除をしてたら雨が降ってきて二階の土壁が混じった雫が垂れてふいに口に入っちゃった感じ……。
……あかん、これあかん奴や!!!
普段ほとんど食べものを捨てる事の無い私だが、今回に限っては…これは食いものでは、断じて、ない!!!だから捨てていい、捨てるべき、捨てなきゃいかん、捨てる!!!
まだ温かいカップの中身をティーバックごとシンクにあけ、グラスに水を注いでグビリ…むう、足もとの猫どももやけにしかめっ面をしている気がする、ドンだけものすごい威力なんだこのハーブティー……。
陽気なデザインのハーブティーの箱を睨み付け、ストンと椅子に座る…、しまった、もしかして残り49パック、全部こんな感じじゃあ、あるまいな……。
………。
私は、旧知の馴染みに、お茶会のお誘いのメールを出すことを、決めたのであった。