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猫はいずこへ進むのか
うんともすんとも、猫はなんとも動いてくれない。この汚らしいといっても過言ではない虎模様の、でっぷりとまでは言わないが割と大柄なこの猫は、ふてぶてしくもそこに居座っている。たまらず彩音は「軽く」お尻のところを蹴ってみた。「軽く」はあくまでも彩音の感覚。猫は尻尾を一度左に振り、車のウィンカーのように右に戻した。彩音は意を決してさっきよりも強く、若干の力を加えてもう一度猫のお尻を蹴った。
これは猫の気に触ったらしく、彩音を睨みあげるようにして喉を唸らせた。かと思うと、理科室の向こう側、校門伝いの壁の方へさっと歩いていくではないか。彩音は理科室の中からの視線を感じてはいない素振りで、猫についていった。
もちろん「ねこ〜、どこ行くの〜」なんて、大きめの声で言いながら。