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ただ見せつけられているだけなのだろうか
「貸して!ケンちゃん。」
片岡さんはハシゴが握っていた赤い液体が入ったフラスコを奪った。彩音はそんな片岡の暴挙よりも、年上の音のこの先生を「ケンちゃん」て呼んでることの方が新鮮な驚きを受けた。
彩音の驚いている様子など少しも気にせず、片岡はフラスコをビーカーの方へ傾けたまま近づけた。
「少しずつ、ゆっくりだよ、マユちゃん。」
「うん。分かってる。」
ハシゴはビーカーを右手で支えたまま、片岡を眺めていた。あともうちょっとで液体がビーカーに注がれるというその瞬間、片岡は顔だけを彩音の方に向き直してこう言った。
「代わる?」