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唄えって言われてもさぁ、
アルトは二小節分くらい彩音に向かって指揮棒を振った。そしてやめた。
「小山ぁ。」
音楽室いっぱいに不穏な空気が広まった。彩音は立ったまま、窓の方に視線を向けていた。
「先生、小山さんは五時間目保健室に行ってたんで、気分が悪いんだと思います。」
学級委員の佐倉が言った。彩音をかばってというよりは、彩音のせいで授業が中断されるのが耐えられないというのは、クラスのみんなに明らかだった。
「保健室じゃなくて自由室だろ?」
同級生の半分くらいは失笑していた。