表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第5話


「この先の崖下を抜ければヴェルポリスでございます、が……」


 リューゼルは渋い顔で眼前の状況を眺めた。

 ショーカたちも同じ表情で周囲を見渡している。

 周囲を崖に囲まれた岩場、そこには大小様々な岩片が転がっており、

 とても通れるような道ではなかった。


「無数のゴーレムの残骸……

 魔王軍の侵攻はこの抜け道にすら及んでいたのですね」

「これ、近づいたら動き出したりしないよね?」


 ショーカの一言にはっとしたパラシアは、結界を周囲に張って警戒する。

 騎士たちが結界の中で円陣を組み、その内側に避難民達が集められた。

 リューゼルはパラシアの側につき、ショーカは結界の外で殿を務める。


「みんなが守りに専念するためなんだから、これ借りてもいいですよね!」

「うぅむ、致し方ありませんな。頼みましたぞ、勇者殿」


 オリハルコン製の巨大ハルバード『ハルバトース』を

 右腕で掴んで構えるショーカ。

 柄が人間には長過ぎるため、後ろの端を持たないと地面についてしまう。

 その為ハルバードの持ち方としては少し不格好になっていたが、

 ショーカは気にしなかった。


「さーて、邪魔な石っころはこれでどかしちゃって――」

「ゴロゴロゴロゴローッ!!」

「――とはいかないか!」


 ショーカがハルバードで岩片をどかそうとした瞬間、

 それらが振動して集まり、一塊の巨人へと合体する。

 いかにもな土色の岩石だったその表面は、

 顔に当たる部分が赤く光ると同時に漆黒に変化した。


「むう、あの輝きは黒曜石!

 ならばこやつらはエンシェントゴーレムに違いありませんぞ!」

「えっ!?

 一体で国一つ滅ぼすと言われている伝説のゴーレムじゃないですか!」

「「「ゴロゴロゴローッ!!」」」


 リューゼルたちが驚いている間に、

 他の岩片たちも集まり多数のゴーレムたちに変化する。

 それらもまた黒光りする黒曜石の体へ変化し、

 赤黒い単眼をショーカたちへ向けた。


 その数、道を埋め尽くす程の大軍。

 ただの伏兵にこれほどまでの兵力を割ける魔王軍の強大さを示していた。


「むしろ集まるんならどかしやすい! どっせーい!」


 不敵な笑みを浮かべ、ハルバードの刃を下に向けて振り下ろすショーカ。

 そのまま横に勢い良く振りぬき、多数のゴーレムを巻き込んで吹き飛ばした。

 轟音とともにゴーレムたちは岩壁に激突し、壁を砕きながら粉々に砕け散る。


「どんなもん!」

「勇者様危険です!」


 眼前のゴーレムの単眼がキラリと光るのと、

 パラシアが悲鳴を上げたのは同時だった。


 一拍置いてショーカが爆炎に包まれる。

 便乗するように他のゴーレムたちの眼も瞬き、

 ショーカのいた場所を執拗に爆発させた。


「うっ、結界に何か……」

「パラシア殿、結界を強めてくだされ!

 今結界にこびり付いたのは溶岩ですぞ!」


 爆炎の正体はゴーレムの眼から高速で噴射したマグマだった。

 顔を青くしたパラシアは結界の強度を強めると共に、

 ショーカの安否を憂いる。


「これがエンシェントゴーレムの攻撃……

 勇者様、どうか……」


 煙が収まり、結界外の様子があらわになる。

 パラシアたちは息を呑んだ。

 ただの岩場だった周囲は冷えきっていない溶岩で覆われ、

 熱気で空気が歪んでいたからだ。

 恐ろしい熱気により燃え盛る岩場の中をゴーレムたちがゆっくりと歩を進める。

 その眼は結界越しにパラシアたちを狙っていた。


「だ、団長。あんな化物どうすれば……」

「倒さねば殺されるのは我々だ。それに……」

「それに?」

「普通なら人は溶岩で死ぬ。だが、勇者殿は果たして普通の人間かな」

「リューゼル様、それは……!」


 ともすれば人間扱いしていないリューゼルの言い草。

 それにパラシアが一言申そうとした時だった。


「……――おおおおおおおっ!!」


 バキ、バキバキと冷えた溶岩が地割れを起こす。

 隆起した溶岩は粉々に砕かれ、その下にあるものを露わにする。


「メテオブレイクゥ……スマッシャァァダァァッシュ!!」


 巨大な右手、ついで巨大ハルバードが現れる。

 続いて鉄腕とそれに付随する無数のスラスター。

 そして浮上する右腕に引っ張られて地上に脱したショーカ。

 その体は溶岩により赤熱しており、蒸気と共に空に立ち昇っていく。


「よくもやってくれたな、石っころたち!」


 右腕の推力だけで空中に飛び上がったショーカはゴーレムたちを睨みつける。

 突如復活した勇者の姿にゴーレムたちも視線をショーカに戻し、

 再びマグマを発射しようと単眼を光らせる。


「スマッシャーリリース!」


 その瞬間右腕を体から切り離し、ショーカは地面に着地する。

 超高速で発射されたマグマは宙を飛んでいる右腕に飛んで行く。

 

「全部撃ち落とす! おりゃおりゃおりゃおりゃぁーっ!!」


 スラスターを存分に吹かして縦横無尽に振り回されるハルバード。

 それがすべてのマグマをゴーレムのそばに撃ち返した。


「勇者様!」

「ごめん、油断した。けどもう気を抜かない!」


 ショーカの生還に目を潤ませるパラシア。

 そんな彼女にショーカは申し訳無さを感じながらも、

 右腕を真上に上げて鉄腕をはめ直す。

 どろどろの溶岩に足を取られたゴーレムたちは姿勢が崩れ倒れていく。


「まだまだ多い……ねえパラシアちゃん!」


 ハルバードで付近のゴーレムを薙ぎ払ってから

 パラシアの近くまで戻るショーカ。


「勇者様、本当に良かった……! 私……」

「あ、あはは、心配かけてごめんね。それより、頼みたいことがあるんだけど」

「はい、なんでしょうか」


 涙を拭ったパラシアは表情を引き締める。


「結界って丸く出来ないかな? こう、円の中にみんなを入れて……」

「……はい?」


 パラシアはショーカの言っていることが良くわからなかった。


「勇者殿、この爺にも分かるように説明していただけませんかな」

「えっと、このままじゃジリ貧になると思ったんです。

 石っころもまだかなり残ってますし」


 リューゼルが助け船を出す。

 それに乗せられたショーカは自分の考えを一から話していく。


「ふむ……それで?」

「みんなをここからヴェルポリスって所に逃がすには、

 結界ごとそこまで吹っ飛ばすしかないと思ったんです」

「ほう……うん?」


 リューゼルの目が点になった。


「それでパラシアちゃん、出来そうかな?」

「ちょ、ちょっと待ってください!

 それって結界にその武器で攻撃するってことですか!?」

「うん。あたしの力も足りてるし、これしかないと思うんだ」

「それは……」


 パラシアはショーカから目をそらし結界の外を見る。

 ゴーレム達は未だ溶岩に捕らわれているが、

 時間をかければ冷え固まった溶岩から脱出してくるだろう。

 

「……わかりました。頼みます、勇者様」

「こっちこそ頼んだよパラシアちゃん!」


 結界の外に飛び出るショーカ。

 それを見届けたパラシアは目を瞑り、手を合わせて結界に集中する。


(あの武器は私の結界を破った事がある……

 今以上に強化しないと、割れてしまう)


 周囲の熱気で滝汗が流れる。

 それでもパラシアは集中を切らさない。


(勇者様の期待に応えて皆さんを無事に届ける為にも……!)


 結界に記された聖印が強く輝き、その強度が増した事を外に示す。


「大丈夫ってことだね、それじゃあ……」


 周囲のゴーレムを片付けたショーカは進行方向を見据える。


「あの崖下の先って言ってたよね。だったらここから!」


 ハルバードを構え直したショーカは体を横向きにして位置を調整した。


「ショーカ選手、行きます! はああぁぁぁ――」


 大きく振りかぶって一瞬力を溜める。

 そして、力いっぱいハルバードを振りぬいた。


「――ホームランッ!!」


 ガキィン! と甲高い衝突音が響き渡り、衝撃波で周囲の地形が円形に窪む。

 人外の力をぶつけられた結界は地面ごと空中へ吹き飛び、

 あっという間にヴェルポリスの方角に消えてしまった。


「……大丈夫だよね?」


 あまりの速度に冷や汗をかくショーカ。

 気まずそうに空中を見つめていたが、ゴーレム達が立ち上がりつつある事に

 気付いた彼女は慌てて結界の後を追った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ