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第3話


 絶望が場を支配していた。

 右腕が鉄腕と化したスケアピグは不敵な笑みを浮かべてショーカを見据える。

 

「ラララ、これでオレさまと貴様は形勢逆転。

 更に貴様が武器を失って万々歳というわけだァ!」

「くっ、あたしの右腕返せよ!」

「返してやるさァ! たっぷり味わいやがれェ!」


 ハルバードを掴んだまま、右腕を突き出すスケアピグ。

 無数の噴射口がドス黒い炎を吹き出し、力強く鉄拳が射出される。


(しまった!)


 暴れ馬のように不規則な軌道で飛び回る鉄拳。

 だが確実にショーカに近づいてきており、回避するのは不可能に思えた。

 そしてついにその拳がショーカに衝突する。


「――『聖盾よ』……!」

「むゥ!?」


 直前、ガキン! と鉄腕は横から現れた結界によって逸らすように弾かれた。

 パラシアがショーカの腕の中で結界を展開したのだ。


「聖教徒めェ、小癪な! むむ、オレさまの腕だというのに制御が難しいィ!」


 弾かれた鉄腕は明後日の方向へと飛んでいき、

 スケアピグはそれを呼び戻すのに四苦八苦していた。

 その隙にショーカはスケアピグから更に距離を取り、

 物陰にパラシアを降ろした。


「ありがと、助かった!」

「い、いえ。勇者様のおかげでなんとか体を休められたので……」

「休められたって、まだまだ血だらけじゃない……」


 立ち上がり呼吸を整え、柔らかく笑うパラシア。

 だがその体は未だ傷だらけで止血も済んでおらず、片目は開かないままだった。


「私のことは良いのです。それよりも、新たな天啓をいただきました」

「えっ、神様から?」

「はい。『拳無き腕より力を開放せよ』とのことです」

「あ、今度は技の名前とかじゃないんだ……」


 少し落胆した様子だったが、聞けただけ良かったと気を取り直すショーカ。

 そんなショーカを見ながら、パラシアは遠慮がちに口を開く。


「その……これはあの大将軍(ジェネラル)を見て思ったことなのですが」

「ジェネラル? もしかして今戦ってるモンスターの事?」

「そうです。あれはモノを食して力に出来ると言っていました」

「うん、事実あたしの右手も食べられちゃったし」


 拳のない右腕をひらひらとさせてショーカは苦笑する。


「ええ、ですが勇者様の攻撃であれのお腹には大穴が開けられました」

「それってつまり……」

「そこにいるのかァ!」


 パラシアとショーカの間に鋭い一撃が振り下ろされる。

 ふたりともすぐさま飛び退き、パラシアはさらに結界を張り直した。

 攻撃の正体はハルバードであり、

 それを持つ右腕の制御を取り戻したスケアピグであった。


「勇者様! 私には構わず立ち向かってくださいませ!」

「うるせェ! 死ねェ!」


 地面にめり込んだハルバードが横薙ぎにパラシアをなぎ払う。

 その華奢な体に触れる直前、一瞬結界が刃を押しとどめた。

 すぐに結界全体に亀裂が走り、またもやパリンと割れてしまうかと思われたその時。


「見捨てられる訳ないでしょーっ!」


 綺麗なフォームで駆け寄ったショーカがハルバードの柄を左手で引っ掴み、

 後ろへ引き倒す。

 ハルバードを握っていた右腕は胴体と繋がっていなかったので踏ん張れず、

 地面へ倒される事となった。


「何ィ!?」

「こんなものは!」


 そのままショーカはハルバードを鉄腕から引き抜き、スケアピグに投げつける。

 まさかの事態に驚いていたスケアピグは反応できず、

 その胸にハルバードの刃が深々と突き刺さってしまう。


「勇者様……!」

「早く逃げて!」


 パラシアは頷くと、避難している人々の元へと走っていった。


「ぐゥゥ! おのれ勇者ァ!」

「悪いけど、あたしの右手は返してもらうよ!」


 激昂したスケアピグがハルバードを力任せに引き抜く間に、

 ショーカは落ちた鉄腕に駆け寄る。


「どうなるか分からないけど、元々はあたしのものなんだから!」


 鉄腕の接続部に右手首を押し込む。

 バチリと意識が一瞬ショートするが、

 すぐに腕から先の感覚がショーカの元に戻ってきた。


「これであんたの右腕はあたしの右手だ!」

「無駄な事をォ! もう一度喰らえばオレさまのモノよォ!」


 ドシンドシンと地響きを鳴らしながらショーカへ突撃するスケアピグ。

 右手のなくなった怪物を見据え、ショーカは両手を構える。


「倒し方は分かった、後はやってみるだけだ……!」


 両手の噴射口から青い炎が吹き出し、今か今かと発射の時を待っていた。

 そしてスケアピグとの距離が充分近づいた瞬間、ショーカは叫んだ。


「メテオブレイクスマッシャー!!」


 赤熱した鉄拳が”ひとつだけ”飛び出し、スケアピグを穿とうと直進する。


「ララララ! それしか出来ないならオレさまは負けねェ!」

 

 迫り来る鉄拳を笑いながらハルバードで叩き落とすスケアピグ。

 だが、次の瞬間彼の目前にあったのは巨大な鉄腕だった。


「ダブルシュート!」

「ぐぎゃァッ!?」


 元々スケアピグのものだったその右腕は渾身の力で猪顔をぶん殴る。

 巨大な質量で殴られたスケアピグはたまらず横に倒れてしまう。


「オープンハンド!」


 鉄腕の拳がぐぐぐと開かれ、倒れ伏したスケアピグの顔面へと向かう。

 そのまま鉄腕はスケアピグの鼻先を顎ごと横から鷲掴みにした。


「ングゥー!?」


 スケアピグは左手で鉄腕を除けようとする。

 しかし鉄腕は万力の如き力で口を抑えており、簡単には外れない。


「これで加護とかいうのは使えないよね! それじゃあ新必殺――」


 もがき苦しむスケアピグの前に立ち、

 とんと軽く数メートルの跳躍をするショーカ。

 拳の消えた腕の接続部からは、妖しく煌めく緑の輝きが迸っていた。


「メテオブレイクウゥゥ……ビィイイイイイム!!!」


 両腕の先から緑の閃光がスケアピグに向けて発射される。

 腕よりも太いビームの奔流が怪物の身を焼き焦がす。


「ングゥゥゥーーーー!!」

「スゥラアアァァァッシュ!!!」


 ビームの色が緑から金色へと変異し、細く鋭く収束していく。

 そして腕と同じ太さまで収束された瞬間、

 ビームを瞬時に交差させてスケアピグの体を一瞬で切り裂いた。


「グオオォォォオオ……!!」


 断末魔と共に大爆発が起こり、

 その余波で周囲に展開されていた魔王軍は消し飛んでいった。

 爆発は瓦礫や死体、その他一切合切を吹き飛ばし、

 余波が収まった頃には荒野は綺麗さっぱりと何もかもが消滅していた。

 残っていたのは結界で守られた人々、自身の力で爆発を防御した騎士隊、

 勇者ショーカ。

 そして……死に損ないのスケアピグ。


「オォ……オオォオ……! ユウジャァ……!」

「うそっ、まだやられないの!?」


 ハルバードを左手に握りしめながら立ち上がる黒焦げのスケアピグ。

 その口は未だ鉄腕に閉じられているが、闘志は微塵も潰えていなかった。


「ゴロズ……ゴロ……」


 だが、終わりは訪れた。

 ショーカへ向かって数歩歩いた後、スケアピグは前に倒れる。

 そしてそのまま、彼は動かなくなった。


「……勝った? こ、今度こそ勝ったよね?」


 小さく呟きながら、自らの元に両手を戻すショーカ。

 右腕は腕を真上に上げなければ嵌まらなかった。


「勇者様!」


 地上に降りたショーカの元にパラシアが駆け寄る。


「あ、君は……」

「パラシアと申します。勇者ショーカ様、ご降臨いただいた上、

 窮地を救っていただきありがとうございます!」

「お、お礼なんて良いって! 神様との約束だし……」


 照れ隠しのように頬をかく勇者に、少し和むパラシア。


「ふふ、謙虚な方。ですが……私たちは今すぐにでも出発しなければなりません」

「それはそうだよね。全部吹っ飛んじゃったし」


 辺りを見渡して、ショーカは自身の力の強大さを痛感した。


「ええ。ですから、その旅路に勇者様もご同行願えますか?」

「いいけど、どこへ行くの?

 というか、この世界の事何もわからないんだけどあたし……」

「それは私がおいおいお教えしますよ」


 恥ずかしそうにこぼすショーカに苦笑するパラシア。

 それから真剣な表情をしたパラシアはショーカに行き先を告げた。


「私達が目指す場所はヴェルポリス、人族最後の砦にして、最後の国家です」


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