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6.不快な出来事

PC前に戻って来ました。

よろしくお願い致します<(_ _)>

 翌日のことだ。


 不快なことに、幼稚園に満を迎えに行った時に『あの女』に声を掛けられた。最初は無視したが、満に促され渋々振り返る。すると厚顔無恥にも、悠馬の様子を尋ねて来たのだ。


 あまりのことに一瞬言葉を失い掛けた。が、もし目の前の女が常識のある人間なら、そもそも子供の友人の父親と不倫関係に陥る、などと言うはた迷惑な真似は行わないだろう。この女はそう言う女なのだ。自分の利益にしか注目せず、冷静に周囲を見渡したり相手の不都合や気持ちなど慮ったりすることが出来ない人間だ、と了解する。

 以前少しだけ子育ての苦労について、悠馬のことを見直し掛けたことがあったが……こんな常識外れの女に手を出す男だ。やはりどんな事情があったにせよ、その愚行を許すことはできないと、自らの甘い判断をゴミ箱に放り込む。


 縋る様な上目遣いで擦り寄る女に「貴方には関係ないことです」とバッサリ投げつけて、幼稚園を後にした。目に入れるのも不愉快なのに、話し掛けられるなど言語道断だ……!

 しかしこれだけハッキリ言えば、こちらの不快感もしっかり伝わっただろう。


―――が、その認識が甘かったと、直ぐに思い知る。


 帰宅した後、満にオヤツを食べさせていると、あの女が現れた。

 俺が出ると、明らかに驚いた表情を見せた。それで、悠馬に会いに来たのだと分かった。


 頭がおかしいだろ。

 何故、関係の終わった男を追い回す?


 しかも息子連れだ。

 何の為に不倫相手の家に子供を連れて行くなんて、残酷な真似をするのか……? 一瞬怒りで頭が真っ白になったが、少し考えてそれが彼女なりの戦略なのだと理解した。子供同士は幼稚園の様子を見る限り、とても親密であることが窺える。それを免罪符に、相手が訪問を拒否できないように計算しているのだ。

 つまり―――息子はこの女の、愉しみをサポートする道具、なのだろう。


 フツフツと、足元からマグマのような怒りが湧いて来た。


「何の御用ですか」


 不機嫌を露わに、女を睨みつける。

 滅多にこのような態度を、俺は他人に対して取る事がない。相手を怖がらせると分かっているからだ。けれども敢えて、俺はそのような態度を取った。これで逃げ出してくれれば、面倒なことを言わなくても良い。流石に女相手にキツイことを言うのは、俺だって躊躇う。できれば穏便に去って欲しかった。

 しかし女は諦めなかった。


「あの、満ちゃんのお父さんはお元気ですか? 幼稚園にもいらっしゃらないし、連絡しても返事が無いので心配で……」

「……重ねて言いますが、あなたには関係の無い事です」

「関係あります! 私達は……!」


 女は顔を上げて、俺を睨みつけた。が、そこまで言って言葉を失う。


「『私達は』……何ですか?」

「……」


 それ以上言ったら、容赦しねぇ。

 強い威圧を込めて、見下ろすと女は怖気づいたようだ。


 さぁ、早く去れ。


 俺はますます殺意さえ込めて、相手を睨みつける。

 しかしなかなか、女はそこから動こうとはしない。

 モジモジと、手を握り締めたり体を触って視線を落としているだけだ。


 俺はこういう女が苦手だった。

 否、苦手というより、嫌い(・・)だ。


 女の煮え切らない態度からは、被害者意識が漂って来る。自らが相手を傷つけることに頓着しないくせに、一転立場が苦しくなると弱者を装いそれを以て相手を攻撃する。その卑怯なやり口が、鼻に突くのだ。

 ともすれば、相手が折れて自分の良いように動いてくれる都合の良い展開を望んでいるのだろう。そうしなければ「思い遣りがない」「冷たい」などと言って批難するに違いない。

 まるで自分中心に、世界が回っていなければ気が済まない、とでも言うように。


チッ


 腹立たしさに、俺は舌打ちをした。

 ここまで散々、苛立ちを抑えて最低限の礼儀を守って来たのだ。

 なのにこちらの譲歩にも頓着せずに、迷惑を掛けた相手の家にまで押しかけ、少し分が悪くなったと思えばこちらに食って掛かる。―――コイツは自分が悪いなんて、思っちゃいない。それが分かったからには、サッサと引導を渡すしかないだろう。


 本来なら、最初に言い渡すべきことだった。

 けれども灯が、それを望まなかったから―――俺は行動を起こさなかったのだ。


「ハー……」


 あからさまに溜息をつい見せ、玄関の壁に片手を付く。疲れる相手に対して、キチンと礼節を保つ気力もない。


「もう、この家には来ないで下さい。これ以上関わるつもりなら、しかるべきところに相談いたします。―――それに、あなたがお探しの人物は、もうここにはおりません」


 彼女の息子は、満に連れられ既に部屋の中だ。

 カッとなった女が八つ当たりのように声を荒げて「航太郎! 帰るわよ!」と叫ぶ。その顔の見苦しさに胸やけがする。

 他人の母子関係だと言ってしまえばそれまでだが、このまま感情にまかせて何をするのか分からない女に幼子を引き渡すのは、気が重い。

 彼女の息子を暫くこちらで遊ばせてから、夕方相手宅に届けることを提案すると、思っても見ない回答に戸惑いつつも女は頷いた。


「では」


 言いたい事も言ったし、確認すべき事も確認した。

 俺は呆気に取られている女の目の前でそれだけ言って、素っ気なくパタンと玄関扉を閉じたのだった。

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