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*後輩のために幕を引きます*

私の家は侯爵家だ。歴史はあると言っても最近は落ち目。子供の頃からずっと財政の厳しい我が家をずっと見てきたから、必然的に私は結婚をするのではなくそこそこ給金が良い仕事に就きたいと考えていた。

手に職をと考えた時に良いと思ったのは騎士になることだった。そこそこの魔力があれば、学園には無償で入れる。私は15で学園に入った。そしてそこであの子と出会った。大公閣下のご令嬢だ。かの大公閣下といえば現国王の弟であり、火龍、水龍の両騎士団をまとめ上げる双龍騎士団の総帥として名を馳せる伝説級にやばい人。たとえ彼が罪を犯してもそれまでの功績と、彼と関わりたくないことを理由に司法省は裁かないのではないかと言われるほどに、いろいろやばい規格外の人。娘のためなら国にも牙を剥くし、国一つ滅ぼすであろう、ほんとにほんとにやばい人。その娘であるあの子は、すごく良い子だった。こちらが心配になるほどに。一体何人の男があの子に恋をしたかはわからないけど、あの子は持ち前の天然さと鈍感さをもって全てを回避してみせた。わざとかとも思ったけど、あれは本物のど天然だった。


あの子が変わったのはたぶん二年生になってからだったと思う。もともとぽやっとした子ではあったけど、さらにぼーっとする時間が増えた。ほんとはあまり好きではないと言っていた剣の授業に対する熱心さが向上した。そして何より、口を開くと必ず“公爵様”の話が出てくるようになった。

階段から落ちそうだったところを助けてもらった、お礼に渡したレモンタルトをすごく気に入ってくれた、実は甘いもの好きだと知れて嬉しい、剣を教えて貰う際に指が触れて緊張した、、、等々。あれは完全に惚気だった。


あの子は自分では気づいていなかったけれど、確実にその“公爵様”に恋をしていたと思う。


結婚してから、あの子はより幸せそうに笑うようになった。けれど時折見せる寂しそうな顔がどうしても気になった。そしてその原因があの子の旦那にあることを確信した。

だから私は、わざわざ双龍騎士団の総帥に志願したのだ。“あの子をこっそり影から見てる第三皇子の護衛”の任を。火龍騎士団は国を、水龍騎士団は王家と城を、それぞれ守る役割がある。水龍騎士団に所属する私の任は当然、王家の方々を守ること。けれど城で開かれているとは言え、仮面舞踏会には王家の方々は滅多に参加しないし、新月のたびにわざわざ休暇を取って仮面舞踏会に参加するわけにもいかない。私にだって婚約者がいるわけだし。

だからこそ、総帥(あの子の父親)に直々に頼んだ。あの子のそばにいて変な虫がつかないようにしてあげられるように。公爵が気づいた(最悪の事態の)際、間に入れるように。(その場合、どうなっても城を守れるように)あの子が面倒ごとに巻き込まれたりしないように。総帥は、私の考えを正確に汲み取って、水龍騎士団の団長に伝えてくれた。私の要望が通らないはずもない。だから私はドレスを着込んで新月の夜、パーティーを楽しむふりをしてあの子を見ていた。彼女も私の動向をうかがっていたから監視はしやすかった。


けれどそれももう限界だと思った。あの子が何をしたいのかは知っていたけど、明らかに両想いなのにあの子が無意識に傷つく必要もない。

それに火龍騎士団内での騒動は水龍であるこちらにも届いている。城を守らないといけない私たちにとって、あの子がこのままでいることは色々まずい。

解決するには公爵のヘタレ具合をどうにかするしかない。


だから私は決断したのだ。




「お久しゅうございます、教官…」


できる限り穏便に私は微笑む。この男はまだ仕事中。私はドレスアップをした状態だけれど彼が通り過ぎるのを待っていたのだ。城を危険に晒すわけには行かないけど、彼のヘタレをどうにかするには、現実を突きつけるしかないから。


「……久しいな。何か用か?見たところ勤務中ではなさそうだが」


「ええ。本日は少しうかがいたいことがありまして」


「…まだ業務がある。手短に頼む」


では手短に。そう呟いて、私はこの男を睨みつけた。


「いつまでうかうかなさっているのです?」


自分でも無礼な物言いだとは思う。廊下でばったり会った(本当は待ち伏せたのだけれど)、公爵にいきなりこの物言いだ。けれど学生時代の教官ではあるし、何度も話したことのある相手だ。身分を笠に偉そうな態度をしない人であるのは知っている。ついでにたぶん総帥に守ってもらえる。すべては彼の娘を守るの(大義名分)ためだ。


「………なんのことだ?」


「……あの子が今、どこにいて、何をしているか知ってますか?」


「っ!」


私の質問に何かを察した公爵は静かにうろたえた。けれど気にしてる場合じゃない。このままでは国王陛下は胃痛で死ぬし、この男のせいで城は半壊するし、あの子は不幸だ。

あの子の兄も、第三王子も、この男に何かを伝える気はなさそうだから、仕方がない。私は小さく溜息を吐くと、公爵をにらんだ。


「…彼女が参加するようになって……結構な月日が経ってるんですよ?まだ誰も彼女に声をかけてないけど…もし誰かに口説かれたら…彼女はどんな反応をするんでしょうね?」


言い終わる頃には公爵は姿を消していた。私はすぐに耳についた魔石のピアスに呼びかけた。


「火龍騎士団団長、仮面舞踏会の会場に向かいました。水龍騎士団第一師団は速やかに会場に。第一から第七部隊までで魔力を抑え込みます。第八、第九部隊は結界を張って客を守ります」


私はすぐに指示を飛ばし、後ろから追いかけた。これで幕引きだ…と、思いたい。

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