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*わが親友が愉快すぎるからぜひ話を聞いてほしい*

我が国、というのもなんだが、我が父王が治めるこの国には優秀な人財が多い。魔法大国と呼ばれるだけあって魔法を得意とする者も多く、だからといって騎士団も個々が優秀で、全く魔法に引けを取ることはない。

中でも特に将来を期待され、有望視されてるのが我が親友殿だ。


幼くして公爵家を継ぎ、同期の(王子)の顔を立てることもなく魔術・剣術・戦術・そして筆記と全てにおいて首席で卒業する天才児。

襟足で整えられた黒髪は羨ましいほどにサラサラで、手入れ方法が気になると御令嬢方が噂をするほど。外で訓練をしているのに日焼けをしすぎていない程よい小麦色の肌と、ゴツすぎないすらりとした体つき。スーッと通った鼻筋と、形の良い薄い唇、長い睫毛に縁取られた切れ長の目と、王家に伝わる紅玉ですら色褪せて見えるほどに美しい紅の瞳、この全てが絶妙な位置に鎮座し、超絶美麗なお顔となっている。彫りが深いイケてる男顔、というよりは中性的で美しい絶対的な美、というべきか。羨ましいを通り越していけ好かないほどに全てを持つ男だ。挙句脚も長くて背も高いと来た。……こいつどっかで水たまりに足引っ掛けて転ばないかな……。


そんな親友殿が結婚したのは記憶に新しい。多くのご令嬢が羨むも、彼女しか親友殿の嫁にはなれなかっただろうことは誰しもが知っている。と、いうのも親友殿は常人ではありえないほどの魔力を持ち、その溢れる魔力に大抵の人間は酔ってしまう。濃い魔力に耐え、なおかつ近くに居られるのは、長いあいだ奴の近くに居て慣れてしまった者か、稀にいる特異体質者、もしくは奴同様に膨大すぎる魔力を持つ者だけなのだ。


残念なことに奴と同程度の魔力を持つ女性は彼女しかいなかった。まあ、それが発覚するより前に奴が惚れたんだが…。


そう。奴は惚れた。はっきり言おう。ベタ惚れだ。


例えば結婚してしばらくした頃、彼女が奴にお菓子を届けに来たことがあった。なんでも奴の好物であるレモンタルトがうまくできたとかで届けに来たらしい。それ以来、奴は仕事場の扉が開くたび、一瞬期待に満ちた目でこちらを見るようになった。


「やっほー、きたよー!」


奴の仕事場へ足を踏み入れる俺を一瞥してスルー。彼女でなければ完全塩対応だ。何もなかったかのごとく書類整理を再開する。


「…お前、俺に冷たくない?」


「……用がない人間に割く時間はない」


不敬罪という言葉をご存知ないのだろうか、この男は。と、いうかお菓子を持って来た嫁さんを引き止めて三時間も共に過ごした挙句そのまま家に帰りやがったのはどこの誰だっただろう。時間ないとか、意味わかんない。


「そういえばお前、奥「なんでしょうか」」


これだ。彼女のこととなれば態度が豹変するのだ。この男は無愛想だし自分から話すタイプではないが、別段無口というわけではない。話しかければのってくるし、噂の類も耳が早い方だ。問題は、彼女を前にすると緊張故に話せないことだろうか。それと、我慢しなくてはという思いから積極的に行けずにいることだろう。上司の娘だから、ということもあり、責任感も強いこいつは結婚して半年以上経つにもかかわらず、未だ閨を共にして居ないというのだから驚きだ。ちょっと嬉しくなるのは俺の器が小さいからだろうか。へへーん、見目が良けりゃ全部上手くいくと思ったら大間違いだ!とか言いたいのは俺だけではないと信じたい。


「距離は縮まった?」


「…………」


無言で睨みつけてくるあたり、全く兆しは見えないのだろう。まあ、もちろん。それは彼女の口から聞いているから知っているが。


そう。この夫婦。ものの見事にすれ違ってて哀れを通り越してもはや愉快だ。


始業時刻の数時間前に来て身体を鍛え、終業時刻の何時間も後に帰っていくような生活を送って居たこの男が。結婚してからは、始業時刻ギリギリで滑り込み、終業時刻の鐘とともに部屋からいなくなるのだから恐ろしい。

彼女に会いたいあまり、仕事のペースが何倍速にもなった上、溜まりに溜まった有給を消化し始めたのだ。

問題は、早く帰りたすぎるこの男の仕事中放つ超集中オーラが誰も近づきたがらない要因となっていることだろう。本人の与り知らないところではあるだろうが、これは王宮内で由々しき事態として取り上げられており、火龍騎士団の拠点となっている西の宮に彼女用に部屋を用意しようと言う案件も持ち上がっている。もちろん機密事項でこいつは知らないはずだが…。


一方で彼女。この終始不機嫌な男の奥方は日々楽しそうだ。元々、かなり楽観的で毎日を楽しく過ごすことが得意な彼女は新しい家も気に入ったようで、毎日楽しいらしい。実は甘党な親友殿のためにお菓子を用意したり、親友殿がいつ気づくかとワクワクしながら屋敷の一部をいじってみたり、庭に出て親友殿の部屋に飾るお花を探したり、『旦那様の管理する領地は今日も余すことなく皆幸せそうでした』と周り(その周りになぜか旦那が含まれていないが)に報告するために街に繰り出して何時間もかけてフィールドワークしたり…。なんか、偏りがあるがだいぶ楽しそうなのだ。もちろんこの親友殿はそんなこと知らない。なぜならこいつが毎日させるという彼女の報告は『お菓子作ったり、お庭を散策したり、お部屋の模様替えをしたり、街に出ました!』といったようなものだからだ。彼女は彼女なりに親友殿と向き合って、仲良くなろうとしているのだが、親友殿は気づかない。


ちなみにこの親友殿、意外と目ざとく屋敷の細かな変化には全て気づいている。気付いているけど言わないから彼女は知らない。それ故不毛な間違い探しゲームが続いているのだ。愉快すぎる。


最近はお掃除も手伝いたいとお掃除したり、親友殿のためにと紅茶を淹れる練習をしたり、お菓子のレパートリーを増やしたりしているらしい。なぜ知ってるのかって?

だって俺は親友殿が仕事に苦しんでいるあいだにちょくちょく公爵家に顔を出しているのだ。もちろん、変な噂がたったりしないように彼女の兄貴と一緒に。そして話を聞いている。


そしてそして、知っている。


彼女には、親友殿の気持ちがこれっぽっちも伝わっていない。それこそ面白いほどに。んで持って、自分は嫌われているし旦那様にはもっと相応しい人がいるはずだから探しに行きたいなどと宣うのだ。笑える。


彼女一人で何かしようと思ったら迷走する気がしてならなかった。もちろんそれはそれで面白いのだがさすがにそれは親友殿が不憫すぎると思って彼女に提案を持ちかけた。


それなら城で月に一度開かれる仮面舞踏会に参加してみては、と。顔はわからなくても所作や雰囲気からなんとなく選べるだろうし、来る者ほぼ全てが未婚となれば選びやすい。しかも一応俺も監視役として近くに居られる。


もちろん最後の一言は言ってないが、彼女は是も非もなく頷いた。こうして俺はこの夫婦のすれ違いぶりを近くで眺めることができるわけだ。


もちろん彼女が仮面舞踏会に参加しているのを知ったら親友殿は発狂しかねないし、手引きしたのが俺だとバレたら王子といえど半殺しだろう。それに公爵家の使用人。あそこの使用人は彼女を溺愛しているからばれたらヤバイ。全員が全員歩く際に足音をさせないうえに気配を完全に消せるという隠密スキルを持っているうえ、皆かなり優秀だから、万が一そそのかしたのが俺だとばれたら確実に消される…。最近俺になんか冷たい気がするからちょっと心配はしている。


まあ、そんなわけで俺はバレないようにこっそり楽しむ。使用人のみんなには悪いが、うまく親友殿をなだめてほしい。


だが元はと言えば天然過ぎる自分の嫁に早々に気持ちを伝えない親友殿が悪いのだ。だからしっかり反省してほしいと俺は思う。

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