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高2の冬…社長令嬢拾いました。

相変わらず不機嫌な桐島を、大人の余裕というやつでやり過ごし、対面の席に着く。


「遅かった事に対するお詫びの1つも出来ないの?どんな教育を受けたらこんな風に育つのかしら…」


大人の余裕だ…大人の余裕…そう自分に言い聞かせる。


「まぁ、そう怒るなって。飲み物持ってきたから冷めないうちにとりあえず飲もうぜ」


そう言って桐島の前に淹れてきたカフェオレを差し出す。


「はぁ!?何これ!!私はコーヒーを頼んだのよ。注文もまともに取れないの?」


おお、やはり予想通り噛み付いてきた。予想通りで思わず笑ってしまいそうになるが、火に油を注ぐ事にしかならないので、ここはぐっと堪える。


「まぁ、そう言うなって。マスターの拘りの豆で淹れたコーヒーを使ったカフェオレだ。美味いからとりあえず飲んでみろって」


納得していない表情の隠そうともしていないが、言われた通りにカップを取る桐島の姿を見て、結構素直な所もあるのだなと思った。

コーヒーが苦手なのが原因なのだろう。恐る恐るカップに口をつける様子は見ていて微笑ましい。


「あ…」


小声で一言漏らすと、その後は何度もカップに口をつけカフェオレを飲んでいく。

時折チラチラと俺を睨むのを忘れないところが、妙に可愛く見えて不覚にもドキッとしてしまった。

お互い無言のまま、10分ぐらいが経過しただろうか?一息ついた桐島がようやく今回の事を話し始めた。


「ねぇ、羽衣天音って知ってる?」


「ああ、こないだ活動休止で会見してたな」


「ええ。そしてその子が所属してる事務所のタレントがスキャンダル起こしたのは?」


「今朝のニュースでやってたな」


「そう…。なら話は早いわね。その芸能事務所って…私の親の会社なのよ」


「へぇ、すげえな。つーか、桐島の親って会社の社長さんだったのか。だからお前はそんなに偉そうにして………ん?お前の親の会社……は?」


思わず聞き流してしまいそうになりながら慌てて言葉を止める。


「あれ妹が、今回の様な大規模なスキャンダルだと違約金がどうとか言ってたが、大丈夫なのか?それよりも、まずあれ本当の話なの?」


「ええ、ニュースでどんな風に放送されてたかは知らないけど、多分見たまんまじゃないかしら。経営に携わってる訳じゃないから違約金とかその辺りの事については分からないけど、とりあえず両親は対応に追われているわ。自宅の前は記者達でごった返してる状況で安心出来ないから、誰か友人の家にでも避難していなさいと言われたわ」


まさかあの件に桐島の家が関わっているとは思いもしていなかったから、開いた口が塞がらない。

呆然として何も言えずにいる俺を尻目に桐島が話を続ける。


「それで友達と言っても、迷惑をかけるかもしれないから気安く頼めないし…。迷惑をかけても大丈夫な人を考えてみたら、友達以下のあなたしか居なくて…」


ん?今なんて言ったんだ?俺の聞き間違え…だよな。


「すまん、もう一度言ってくれ」


「はぁ〜!?真面目に話してるのに人の話聞いてなかったの?信じられない…最低…」


「いやいや聞いてたって。お前の家が大変な事になってるんだよな。そうじゃなくて、最後の迷惑がどうとかってとこだけもう一回聞かせてくれ」


「もう。次はちゃんと聞いてよ?」


「ああ、分かってる」


「迷惑をかけるかもしれないから、友達には気安く頼めないの。それで迷惑をかけても大丈夫な人がいないか考えてみたら、友達以下のあなたの事を真っ先に思いついたの」


やはり俺の聞き間違えではなかった。まぁ、確かにクラスメートではあるが友達になった記憶は俺にもない。

だが、なぜそれで友達以下という扱いになるのか理解出来ない。

そして、友達以下なら迷惑かけていいと言うのも理解に苦しむ。


「悪いが凡人の俺には理解出来ないのでその提案は聞き入れられない。あとこれは余計なお世話かもしれないが、他人に何かを頼む時はもう少し態度を考えた方がいいぞ」


断られるとは思っていなかったのだろう。桐島の顔が面白い事になっている。


「野宿をして誰かに襲われろと言う事ですか?」


っ!?

なんか斜め上の発想の切り返しがきた。


「いやいや、俺一言もそんな事言ってないよな?」


「私を家に泊めないなら遅かれ早かれそういう事になるだけです。いいです…もうあなたには頼みません」


桐島はそう言って席を立つと、走り去っていく。

俺以外の誰かに頼ればいいだけだろうが…くそっ。


「マスターごめん。今度またゆっくり来るから」


「幸坊、さっきの子泣きながら出て行ったぞ。あんまり女を泣かせるなよ」


「そんなんじゃないけど、肝に命じておくよ」


店を出て左右を見渡すと、桐島が曲がり角をちょうど曲がった姿が見えた。

出るのがあと少し遅れたら完全に見失っていただろう。

急いでその後ろ姿を追いかけると、程なくして桐島に追いつく事が出来た。

桐島の手を取り、足を止めさせる。


「待てよ」


「離して…」


俺の手を振り解こうとするがその力はとても弱々しく震えている。

桐島の泣いてる顔を見て、思わず守ってやりたいとかそんな風に思ってしまった。

なぜそう思ったのか…自分の気持ちが理解出来ず、ぎこちない笑みを浮かべてしまった俺は、周りから見たらきっと気持ち悪い事この上なかっただろう。


「親に相談しないとだから、泊めてやれるかまだ分からないが、とりあえず一度家に来いよ」


そう言って、桐島の手を引きながら帰路についた。


『大澄幸人…高校2年の冬…ツンしか見せない泣き虫の社長令嬢拾いました』


そんなくだらない事を頭に浮かべながら…。

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