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3.落ち着いて話をしようと思います

校門に居たのはやはり桐島だった。


「桐島来たぞ」


俺から声をかけられ、俯いていた桐島が顔を上げる。


「もう、こんな寒い日にどれだけ待たせるの?本当に使えないんだから…信じられないほどの愚図ね」


辛辣な内容ではあるが、そこにはいつもの刺々しさは感じられない。

普段との違いから、強がりで言っているのが分かる。

ここは食ってかかる事はせず、相槌を打つべきところなのだろうと慎重に言葉を選ぶ。


「そうか、使えないならここに居ても仕方ないな。俺教室に戻るわ…」


前言撤回。頭で分かっていても身体がその通り動くとは限らない。

俺はいつも通りに対応してしまった。目には目を…が俺の基本スタンスだ。それは異性に対しても変わらない。


踵を返して教室に戻ろうとした俺だが、歩き始めてすぐに後ろに引っ張られる。

犯人は言うまでもなく桐島だろう。


「ちょっと待ちなさいよ。普通空気を察してここは優しくするところじゃないの?」


俺は振り返る事なく、答える。


「見た感じ元気そうだしな。というか、そもそも優しくして欲しかったのか?いきなり毒吐いてくるから俺は喧嘩したいのかと思ったぞ」


「ぐっ…」


俺のもっともな言い分に、早速言葉に詰まったらしい。『ぐっ』とか言葉に出して言うのかよ…とツッコミを入れたい所ではあるが、流石に我慢する。

内心で溜息をつきながら、渋々桐島の方に振り返る。


っ!?


振り返るとそこには驚きの光景があった。

あの桐島が目に薄っすら涙を溜めているのだ。

どうやらかなり情緒不安定のようだ。あまり刺激しない方がいいだろう。


「とりあえず教室には戻らないから手を離してくれ。それとここだと先生が来るかもしれないから場所を変えよう」


まずはここから離れよう。話を聞くのはその後だ。桐島は大人しく俺の提案に従ってくれた。この時間に制服で外にいるのは得策ではない…マスターの所にとりあえず逃げ込もう。馴染みの喫茶店を目的地と定め、足早に向かった。




「すいません、まだ準備中な……お?幸坊じゃねえか。こんな時間にどうした?」


「マスターごめん。静かに話せる場所を探してて。この格好なので、どこでも入れる感じじゃないし、でも…外は流石に寒くて」


最近は暖冬と騒がれているが、それでも12月ともなると肌寒い。制服じゃなかったとしても外で話すのは勘弁してほしい。


「何か訳ありな感じだな。二階の休憩室使っていいぞ。あと開店準備で忙しいから、飲み物は自分で用意してくれ」


「マスターありがとう。桐島、先に上に行っておいてくれ。あと飲み物は何がいい?マスターが豆に拘ってるからコーヒーがオススメだぞ」


何がいいか悩んでいるのだろう。返事がくるまでに少しの間があった。


「………ないの」


桐島からの返事は小声で、かろうじて最後だけが聞き取れる程度だった。


「ん?すまん、何て言ったか聞こえなかったからもう一度言ってくれ」


改めて聞き返すと、なぜか睨まれた。

飲み物を何がいいか聞いてるだけだ。今の会話に睨まれる要素あっただろうか?


「コーヒーは飲めないって言ったのよ!!」


語気を強め少し照れた様な表情の桐島。

コーヒー飲めないからって子供扱いされると思ったのだろうか?

思わず苦笑してしまう。


「何よ!?」


俺が笑った事で、余計機嫌を悪くさせてしまったらしい。


「いや、何でもない。そうしたら紅茶とかもあるから…ミルクティーとかどうだ?」


「気が変わったわ。オススメなんでしょ?コーヒーにするわよ」


「いやいや、お前さっきコーヒー飲めないって言ってたじゃん」


「だ・か・ら、気が変わったの!コーヒー持ってきて」


そう言って、二階に上がっていくから桐島。

なんかムキになってるけど、どうしたもんかな…。


今のやり取りを見ていたマスターも苦笑いを浮かべている。

ここで逆らったらまた面倒な事になるのは分かっているが、どうせなら美味しいと言ってもらいたい。ここのコーヒーは本当に美味いんだ。


「幸坊、どうすんだ?とりあえずコーヒーにしておいて、俺が後から別の飲み物持っていてやろうか?」


「マスター大丈夫。あいつの飲み物はカフェオレにするから」


そうマスターに告げて、カフェオレとミルクティーの準備を始める。

本当はコーヒー飲みたかったんだよな…。

でも桐島がカフェオレも飲めなかった時の事を考えて、保険はかけておいた方がいいだろうと判断してのチョイスだ。


お盆に載った飲み物を見て、マスターがニヤニヤしているのが気になるが、ここで何か言おうものなら面倒なツッコミが入る事は明らかなので、気づいてないフリをして二階に上がる。


「遅かったじゃない。たかだか飲み物入れてくるだけでどれだけ待たせるのよ!!」


休憩室には、不機嫌そうな顔つきの桐島が腕と足を組んで座っていた。

もう、コイツの相手するの疲れたんですけど…。

このままここに置いて帰っていいだろうか?そんな考えが頭をよぎったのは言うまでもない。

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