敵地
「あっさり入れましたね、先生。やっぱりギャンブル組織はがばいですね」
いやいや、ギャンブル組織を舐めすぎだろう。というか、こいつの場合は世の中の大半を舐めてるまであるか。
巨大な路地を歩いていく。人通りはかなり多い方で皆裕福ななりをしている。
「ねえ、そんな怪しい格好して何してんの?」
突然女の子が俺たちに話しかけてきた。全体的に華奢な感じで、黒い髪を肩のあたりまで伸ばしている。見た感じ年は中学か高校生といったところか。俺たちを本気で怪しんでいるというわけではなく、好奇心から尋ねてきたといった感じで明るい様子だ。
「よくぞ聞いてくれた。僕たちはこの街に潜む悪……」
「俺たちは観光に来たんです。この格好は貧しいから、といったところです」
本当の事を言おうとするフフィテの口を右手の手のひらで遮る。
「何するんですか。それ、心臓えぐった方の手じゃないですか!」
フフィテは俺だけに聞こえるように小声で抗議してくる。
「なんのこと言ってるの?」
フフィテの言葉が聞こえたらしく、彼女は不思議そうにしている。
「いえ、この人の言う事はあまり真にうけないでください」
軽い口調で俺はごまかす。
「へぇー、あんまりまともに取り合っちゃダメな人なんだー。あ、そうだ、観光ならさ、あそこにいくといいよ。ラオンデュッカ神殿」
彼女は俺たちから見て左斜め前の方角を指差す。
「ちょっと待てエェイ!僕をただのおかしい人みたいな扱いはやめてくださいよぉ!」
俺は女の子に背を向けてフフィテを引き寄せる。
「いい? 馬鹿正直に目的を話したら、動きづらくなるでしょ。目的を悟られたらだめなんだ」
「わかりました、すみません」
「よし、じゃあ君はもうそういうキャラでいこう」
「えっ」
あまり自分の扱いにやはり納得はできていないみたいで不服そうだが、フフィテは引き下がる。
「じゃあ、ありがとうね。急いでいるからもういくよ」
「あっ、待って、私、ルリリ。あなたたちは?」
「俺はフフィテ」
「まあ、俺は……、自由に呼んでよ」
ルリリは俺の言葉にさぞ不思議そうに首を傾げていたが、俺たちの意図を汲んでくれたのか追及する事はなかった。
早速俺たちは例の賭博場と思わしき五つの巨大な建物の一番近い一つの目の前まで行った。
「とりあえずここに入ってみようか、しかし、何かいい計画でもあるの? 賭博場を検挙するのに」
「え、先生が考えてたんじゃないですか?」
「なんで俺が考えるんだよ。俺、君についてってるだけだよ?」
「なんだ、考えてないんですか。まあ、心配いらないですよ。ちゃんと考えはありますから」
「へえ、いつになく頼もしいじゃん」
そう豪語するフフィテの表情からは確かに絶対的な余裕が感じられる。
「では行きますよ」
フフィテはそう言って入っていく。すぐ後に俺もついていく。
中に入るとギャンブルが行われていた。カードにチップ、その種類は様々だ。だが……
「この中には政府要人らしきものはいないみたいですねえ」
辺りをキョロキョロと見回しながらフフィテは口を開く。
「お客様、ちょっと」
俺たち二人は突然背後から黒服の男に腕を掴まれて引っ張られた
「おい! いきなり何すんだ、離せよ!」
フフィテは大声を上げて抵抗する。すると意外にもその男はすぐに俺たちを解放してくれた。
「私達は何も乱暴をしようとしているのではありません。ただ……」
「なんだよ?」
冷静な黒服の男に対して警戒心からか対照的につっかかっていく様子のフフィテ。
「お客様方の格好ではここの場所にふさわしくないので、こちらが用意する服に着替えていただきたいのです」
「なんだ、そんなことかー。普通に言ってくれればそれくらいするのに〜」
さっきまでとは一変、フフィテはいつものようなおちゃらけた雰囲気を取り戻し、黒服の言う通りにしようとする。
「いや、気にしなくていいよ。俺たち、ちゃんとした服持ってるから」
俺はおもむろに持ってきたケースから二人分のちゃんとした服を取り出して黒服の男に見せる。
「これなら問題ないはずだよね?」
「いいでしょう、すぐにそれにお着替えください」
そう言い残して黒服の男は去って行った。俺はフフィテに一つを渡し、俺は上からそれを着る。
「先生、どうしてこんな物持ってるんですか?」
「やっぱカジノだからね、ムード作らないとね」
「へー、意外とそーゆーの気にする人なんすね」
「さっさと済ませてしまおう」
俺は暇そうにしている男を見つけそっちの方に歩いていく。
「あのー、すみません、より大金を得られるギャンブルはどこでやればいいんですか?」
「え、あんた、もしかしてラグジュリアス広場に行こうって言うの? やめたほうがいいよ〜」
男は半ば笑いながらこちらに忠告してくる。
「やっぱ、ギャンブルするなら、大きくいきたいじゃないですか」
「お、あんた、いつか破滅するタイプだよ。だが、いいねえ、やっぱ若い者はそうでなくっちゃ。ラグジュリアス広場はこの建物の最上階だ。だが、ここにいくには五百万とりあえず場代として支払わなければならない」
「なるほど、ありがとうございます」
俺はその男から少し離れる。
「先生、遊びに来たんじゃないんですよ、ほんと遊びもほどほどにしてくださいよ〜」
「大金をかける場所には政府高官がいると考えられないか?」
なるほどと納得したようで明るい顔を見せるフフィテ。しかしその後新たに問題が起こったと言うようにまた顔を曇らせる。
「でも、どうします、そんな大金ありませんよ。やっぱり強行突破で全員検挙しちゃいましょう!」
「それは無理だろう。ここは敵地、そんなことをしてもすぐに鎮圧されるのがオチだよ。まあ、わかってたことだ。もうやるしかないな」
「どうするんですか」
「毒を以て毒を制すってね。つまり、ギャンブルだ」
そうだ、やはりその場所に行くには金を稼ぐしかない。
「先生、ようやく合点がいきました! 賭博で捕まってたんすね!」