複雑な想い
滞りなく1日の業務を終えて制服から通勤着に着替える。
まとめた髪を下ろし軽くメイクを直して帰りたいところだけど今日は帰れない。
帰りたいのに帰れない。
仕事の時はいつも通り楽しく、シュッと気持ちを整えられたが今は鬱蒼とした気持ちに勝てそうにない。
「店長いつもとなんか違いますね?」
「デートですかー?」
「明日からお休み取ってましたもんね!」
「残念ながら今日から実家に帰るだけだよ」
そう、実家に帰るだけ。
間違いなく帰るだけなのだ。
けど私にとっては地獄でしかない。
「御実家お近くでしたっけ?」
「1時間半くらいかな」
「気をつけて帰ってくださいね!」
「ありがとう。鍵閉めよろしくね、お先に」
「「「おつかれさまです」」」
サロンを出てから現実逃避の為にサロンの雰囲気について考えてみた。
サロンの子達は本当にいい子だ。
気遣いできるし、派閥などもなく素直な子が多い。
何よりもみんな明るく仕事に対してとても前向きだ。
私が働き出した時は派閥のせいでお店全体がギクシャクしていて先輩の機嫌で怒鳴り散らされ、サービス残業、休日のサービス出勤は当たり前だった。
したくもないごり押しの営業も辛くブラックもブラック、真っ黒な会社だった。
「毎日泣いてたなぁ」
今思えば入社から3年は毎日辞めたいと思ってたし、1年目に関しては毎日泣いていた。
あの頃は突然誰かを好きになってそして結婚して会社を辞めることを目標にしてたっけ。
そう考えるとなんだか笑えてきた。
あと1ヶ月で三十路になるのに初恋もまだなんて…
少女漫画も恋愛ドラマや映画など恋に恋しちゃいそうなものが好きなくせに一切誰かに恋愛感情を抱くことができないなんて。
あーーあーーあーー!!
暗くなる!寂しいけどいいの!
気にしても仕方ない!
とりあえず現実逃避をひとまず辞めてこの後の対策を考えなくちゃ。
今から実家に帰るには訳がある。
勿論すぐに帰ろうと思えばいつでも帰れる距離に実家があるのだから都合をつけて帰ることは多々あった。
だけどここ半年ほど彼方からのアクションは一切なかったのに突然、しかも誕生日の1ヶ月まえに何故呼び出されたのか。
まぁ理由は言わずもがな母の主婦仲間が原因だろう。
母の主婦仲間のうち特に仲良し4人組の2人は私の中学時代の同級生のお母さんである。
その同級生の1人が先日SNSに結婚、また新しい家族が増える事をあげていた。
「はぁ…」
何に対抗しているのかはわからないけど主婦の友情には見栄やなにやらの渦巻くものがあるんだろうと愚痴を聞かされる事を覚悟した。
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あと1時間くらいで駅に着くよ
お迎えよろくしね
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兄にLIMEを送ればあとはゆっくり休んで少しでも心を軽くする為に目を閉じる。
これも結婚しないであろう私ができる親孝行だ。
そう思えばなんだか気持ちが楽になった。