僕たちのアナバ
「ええと――二人の未来について、でいいんだよね?」
「ああ」
「二人とも変わった星の持ち主だからなぁ……」
そうぼやきながらも、フェイスくんは手際良くカードや水晶を準備し、その結果を解読し始めた。
――魔界から帰ってきて数日。
ジークの提案で、角の少年ーひいては“私達”に纏わる何か、その手掛かりを得るため、占星術に長けたフェイスくんに頼んで、未来を予知してもらうことになった。
私たちは放課後の占星術科の教室で、机を挟んで向かい合ったフェイスくんの言葉をじっと待つ。
フェイスくんが一枚のカードをめくる。
「まず、よかったね。今のところ二人の運勢は順調。お互いに良い影響が出てる」
「えぇ〜ほんとにぃ〜?」
まずはほっと安心。リップサービスちゃうん〜?とかデレデレする隙はあった。
「信じるかどうかは自由だけど」
年下の冷たい視線めちゃくちゃ心にくるな。やめてよ。
更にフェイスくんはカードをめくり――そのたびに眉間の皺を深くしていた。
「……と、いうか。ジークって死んだことある?」
「……死にかけたことは」
やや間をおいてジークが答えると、フェイスくんは納得したようにカードを指で弾いた。
「そのせいか。ジークの運命、過去にいちど途切れてるんだよね。それで、ザラに運勢を吸収されてる。それぞれの人生が一本の糸だったとして、いまの二人はぐちゃぐちゃに絡み合ってる感じ」
「お、おうう……なんかやらしい」
「言うのか、ソレ」
あら……。じゃあジークが以前言ってたことは、あながち間違いでもなかったのね。私達、一蓮托生ってことなのかしら。
どういう理屈かはわからないけど――あの人気のない校舎での出来事は、文字通り私たちの運命を変えてしまったのね。
今の私なら、過去の私に、そいつと関わると碌な事ないわよ、と教えてあげられるけど――きっとどんな時の私だろうと、その忠告には耳を貸さないだろう。
「二人で一人分になっちゃってるんだよ。双子みたいに」
「――!」
ジークと顔を見合わせる。ここでも現れた、『双子』というキーワード。ううむ。ますます謎は深まる。
「だから――そのうち星の周期的に良くないタイミングがある、かも」
「マジすか。どうなっちゃうの。喧嘩するとか倦怠期?」
ビビアンから聞いたことがあるんだけど、長いこと付き合っていると、ある日を境に急に彼氏がウザかったりクサかったり、何をしていてもイライラする時期がやってくるらしいので、それかな。
「……」
フェイスくんの表情は芳しくない。カードを見つめながら、歯噛みしているばかりだ。
「フェイスくん?」
「言いたくない。言霊になるから」
まだ何も訊いてないのに。フェイスくんはそれを見なかったように、視線の外へ押しやって、頭を振った。
「……それって、どういう……」
「それに、まだ決まったわけじゃない。未来は些細なことで変化するし、多角的だ。僕にとってたまたま、都合の悪いことが見えているだけかもしれない」
私の呼びかけに応えるというよりは、まるで自分に言い聞かせるように呟き続けるフェイスくんに不安を覚える。
「え……そんなに悪い結果なの?」
結構凹むんですけど。相性いいんじゃないのぉ。
「……だったとしても、いますぐ離れたりしないでしょ」
「ま……、まあ……」
一応、ちらとジークを窺うも、私のことを見向きもしていなかった。真顔だ。いや。真剣なんだろうけど。こっちにもやや凹む。
「なら平気。気にしないで。ぜんぶ嘘だから」
「フェイス」
ど。どういうことなの。怖いよ。ちゃんと言ってほしいけどそれもダメなの。
誤魔化そうとするフェイスくんに、ジークが鋭く声を掛けるが、フェイスくんは応じない。仕方なく一息置いて、
「もう一つ聞きたいことが」
そう話を逸らすと、フェイスくんはあっさり、いいよと提案を受け入れた。二人で改めて姿勢を正し、互いに向き合い直す。
「それは、誰に影響を及ぼすことになる?」
未来視の占いの結果がどうあれ―私たちが割り出すべきは、あの少年との因果関係だ。あの子が明確に、私たちの未だ知らない未来で関わりがあるのなら、何かの取っ掛かりにはなる筈なんだ。
「見えるのは……多分、まだ二人と縁が出来てない、未知の誰かだね」
その答えに、ジークと二人、がっくりと肩を落とす。ここに来てまだ新しい登場人物が絡んでくる可能性があるのかぁ……。
結局分かったのは、このままだと私たちの未来に、フェイスくんが口を噤むような何か悪いことがある。そしてそれが誰かに影響を及ぼすということ。
要は何もわからんかったけど、ま、まあ、前者は確実性を帯びたワケだし……。かといってどうにも出来ないのは変わらないような。知れただけでも良かったような。複雑な心境だ。今すぐジークと縁を切れ、と言われなかっただけ全然マシかな。そう思おう。
「もう少し詳しく視る?」
「いや……これ以上探れば、君にも危険が及ぶかもしれない」
「え。そうなの」
占星術は本当に必要最低限しか知らない私にとっては初耳である。
「僕みたいに占いでなんでも知れる魔法があるなら、それを感知したり防ぐ魔法もあるってこと」
「相手は得体の知れない幻魔だしな。用心に越したことはない」
なるほど……。例え占いでもそう易々と何もかも教えてくれる訳じゃないってことね……。今度から軽率に占いをお願いするのはやめにするわ……。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして。お礼は学校前のベーカリーのドーナツでよろしく」
私たちはそれぞれ握手を交わして席を立ち、そのままベーカリーへと向かうのであった。
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前回から9日経ってますよ…。
今回の主役はフェイスくんです。




