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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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FURUETERU ABUNAIHITO




「何してんの」

「ここが一番暖かい」

 季節もそろそろ冬ですね。

 中庭でやや冷たい木枯らしに吹かれてそんなことを考えていると、なぜかキョウ先輩の脇腹に挟まっているジークを発見した。寒いの苦手なんだ……。

「わ〜キョウ先輩、すっかり冬毛ですね」

 困ったように苦笑しているキョウ先輩に近寄ると、着物の隙間から覗く体毛が、以前会ったときよりも膨らんでいるのがわかった。魅惑のフワフワ毛並みだ。これはジークが虜になるのもわかる。

「そうなんだよ〜触ってみる?」

「い、いいんですか!」

「女の子なら大歓迎だよ」

 やった!!

 私は一切の躊躇なく、キョウ先輩の頬や顎の下に手を伸ばし、その手触りを愉しむ。ああ、指のあいだをすり抜ける、この癒しの温もりはどうだ。しかもシャンプーのいいにおいまでするぅ。キョウ先輩が切れ長の目を更に細めて、くすぐったそうに笑っていた。

「わ、わ、意外と固いんですね……!」

「今の時期なら、ウサギ獣人とかネコ獣人の方が凄いと思うよ」

 たしかに、ビビアンが冬毛のせいで太って見える〜って愚痴こぼしてたな。あとこの時期は抜け毛が凄くて痩せたと勘違いするとも。あのコそればっかだな。

「ジーク、いい加減暑苦しいよ~」

「寒い……」

 今度マフラーかなんかを買ってあげよう。

 キョウ先輩の毛皮に包まれてすっかり和んでいるジークだったが、その安寧は間もなく、二人の後輩の登場によって破壊されるのであった。

「待ってやマーニ〜」

「ししょ~~~!!」

 マーニくんとディエゴくんの仲良しコンビが、慌ただしくジークの前にやってきた。

「何だ、騒がしいな」

「お願いが!あるんだけど!!」

 マーニくんは息も整えずに、スライディングの体制から流れるように、いつぞや見せた地面にめり込まんばかりの勢いでジークに土下座する。彼(彼女?)の欲望の為に手段を選ばないところは長所であり短所だと思う。




「魔物の捕獲ぅ?」

 ジークの素っ頓狂な返事に、マーニくんが地面に突っ伏したまま器用にコクコク頷いた。その後ろではディエゴくんも同じようにジークに平伏している。ちなみに、キョウ先輩は隙を見て逃げ出した。えっ。じゃあ何で私も居るのかって。それはほら……私だってたまには中庭でおやつくらいしますよ?別にジークが誰と何しようが関係ないけど?あ、危ないことだったら止めたほうがいいし?

 ……ていうか、どうしていっつも、私から会いに行くと何かしらに巻き込まれてるのよこの男は。気まぐれな私も悪いけどさ、みんなのジークじゃないんですけど。意外と顔広いのが腹立たしいわ。

「今の時期じゃないとダメなの!お願い!」

「おれからも、よろしゅうお願いします!」

「そんなもんハンターギルドにでも依頼しろ」

「そんなお金あるわけないでしょ!!」

「ハッ、クソ庶民(笑)」

「オウ、表出ろや」

「言っておくが俺に頼むほうが高くつくぞ」

「私もそう思う……」

 私が言えた義理じゃないけど、この男にあまり貸しを作らないほうがいいと思うのよ。何せ魔族だし。

「いいじゃんよ〜ッ!!」

「うるさい。さっさと消えろ」

 寒さが堪えているせいかジークもややノリが悪い。基本この二人には厳しくこそすれぞんざいな扱いはしないのに。やだ……もしかして私と同じ……?(トゥンク)

「まあまあまあ、今すぐにっちゅーわけやないですってぇ〜明日でも明後日でも気ぃが変わらはったらでね?も、暇な時でええですねんてぇ〜」

「その明日明後日までに何する気だお前、急に饒舌になりやがって」

「そらぁ〜、ねぇ、おれらも魔導士やさかいに……ちょおっとお薬とか暗示をね……?」

「実行の前にバラすとは相当自信があるらしい」

「ひぃーっ!ちゃいますちゃいます、ぜんぶマーニの入れ知恵です、おれの考えなんて一つもあらしまへん!!」

「クラァ!秒で親友売ってんじゃねーよ!お前手のひらにはドリルでもついてんのか!」

 違うわ。面倒くさいわ。

 ただでさえジークの周りは異様なテンションの人ばかり集まってくる印象がある。マーニくんとディエゴくんもその一角を成しているだけのことはあるというか。乗り気じゃないのも納得。

「ね〜ザラちゃんからも言ってよ〜」

「ええ……?」

 まあ私にも飛び火しますよね。

「ボクら困ってるんだよ〜ザラちゃん、困ってる人、見過ごせないでしょ〜」

「う……」

 泥のついた顔でマーニくんが懇願する。

 困ってる……困ってる……。

 その言葉が頭のなかでぐるぐる反響する。そうか。困ってるなら助けてあげなきゃ。そうするのがあたりまえだから。

「おいコラ!」

 とか諫めてくるジークから体を背けて、マーニくんがそっと私に耳打ちする。

「……ここに、割引券があります」

 ジークに見えないよう、懐でちらつかせたそれは――あの有名スウィーーーーツブッフェの半額券じゃないです!!?

 それも二枚。だ、誰と行こう。ビビアンかな、ロザリーかな、元取りたいしルリコかしら。じゃない、まだ私のものでもなんでもないわよ、落ち着け私。

「ど、どうしたのコレ」

 そう、まずはそれを確かめなければ。手に入れたとて、正規のモノじゃければあらぬ嫌疑をかけられるのは私なのよ。

「あーホラ、こないだの技術大会でさ。ボク、優勝したから。その賞品の一部」

 それを譲渡する、と。

 ここに私とマーニくんの契約が成立した。

「ジーク〜♡」

「な、なんだお前まで……」

 私は前金として半額券を受け取ると、めいっぱい、力の限り、魂を込めた内股とキメ顔でジークの腕にからみついた。人はね、大事なものの為ならプライドを捨てられるの。

 ジーク好みの私を演出するなんて容易いことだわ。人生初のお色気作戦?馬鹿ね、経験じゃないのよ。

「私ぃ、誰かのために頑張ってるジークが、好きだなぁ〜……♡」

 とっときの猫撫で声で甘えながら、更にダメ押し、体をこれでもかと密着させる。どうだこの上目遣い!!

「フン……お前程度の色気に屈する俺ではない」

「イヤ鼻血鼻血!!!!」







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・またクソみたいなタイトルをつけてしまった…。

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