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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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男達の宴・2




週末。

 お昼前になって、家の前に真っ赤な高級車が止まっていると騒ぐお母さんに急かされ、心当たりしかない私は、さっさと鞄を持って、車から降りてくるネロ先輩を出迎えた。

「案の定見すぼらしい格好だな」

 お前がラフな格好でええから言うたんちゃうんか。

 開口一番鼻で笑われディスりを受けた私は、衝撃で暫く停止したものの、車の中に見知った顔を見つけてなんとか気を持ち直した。後部座席に、すでにジークとキョウ先輩が座って……。

 座って……。

「ブフォ」

 はしたないと分かりつつも、吹き出すのを止められなかった。

 シートに腰掛けている二人は正装、ではない。

 ジークだと思っていたのはゴスロリメイド男だったし、キョウ先輩だと思っていたのは、黒猫の着ぐるみから鼻だけ出ている狐男だった。

 私は再び立ち尽くす。

「何をそんなに驚いてる。仮装必須って書いてあっただろ」

 ドレスコードってそれかい!!

 いつも通りにスマートに足組している筈のジークだが、その格好はフリフリのエプロンドレスとヘッドドレス。真っ黒なロングドレスからたまに覗くボーダーのタイツとリボン付きブーツの徹底ぶりに私の腹筋はいま突如として六つに割れた。

 一方のキョウ先輩は、めちゃくちゃかわいくディフォルメされた黒猫の全身着ぐるみだ。顔の部分だけくり抜いてあって、そこからキョウ先輩の柔らかな笑顔が伺える。突然のキョウ先輩のアイデンティティ崩壊に私の腹筋がピリオドの向こうに行こうとしている。

「やばい。二人とも超ハマってる……っ!」

「わーいウケた〜」

「フン。当然だ」

 生きることに全力な男たちは笑いを取ることにも全力なのか。

「あれ。ネロ先輩は仮装しないんですか?」

「家に着いてから着替えるに決まってんだろ。こんな格好で出席できるか」

 とキレあそばしているネロ先輩は、学校で見るようなビシッとしたフォーマルスタイルだ。なるほど。ジークにエスコートされるまま、後部のボックス席に乗り込むと、一気に不安が押し寄せてきた。当然のように運転手さんがいるので、私とジークとネロ先輩とキョウ先輩、四人が対面するような形になっている。

 ネロ先輩のお家に着くまでに腹筋保つ気がしないし、私、何着せられるんだろう。

「ジークそれ、どうやって用意したの」

「作った」

「ンフフ」

 ずるいなぁ。真顔で面白いんだもん。

 多分錬金術でなんとかしたんだろうけど、ジークならこれくらいのお裁縫も出来そうである。

「ザラの分も作れば良かったな」

「あっはは、言っても私のサイズ知らないでしょ」

 ジークが私に似合うのを考えてくれるのは嬉しいけどね、と付け足す前に、ジークがびくりと肩を震わせた。

「えっ?あっ……ああ、そ、そうだとも。スリーサイズなんか検討もつかない」

「知ってんな?お前」

「…………出所はマーニだ」

 珍しく言い淀んだと思ったら。あ、あの野郎。いや、女の子でもあるのか。

 えっ。それを利用しているの?彼。ていうか彼女。──ゆ、油断も隙もねぇ〜〜〜!!

「消しなさいよ!!今すぐ頭から!!記憶消して!!!!」

 下着といいスリーサイズといい順序がおかしい。もっと好きな花とか好きな色を知ってからにしてほしかった。

「わかった、じゃあ今後は目測にしておく」

「目測……?」

「……C」




.

.

.




ネロ先輩のお車で移動すること数十分、いかにもな高級住宅街でもひときわ大きくド派手なお屋敷の前で、私たちは車を降りるように促された。

「前が見えねぇ」

「何してんのジーク」

 ジークの顔面はめり込むくらいありったけの力でブン殴っておいた。本当は師弟ともども地面にめり込むまで土下座させたい勢いなんですけどね。

 ――門扉がもう金だ。目に優しくない。

 グリュケリウス将軍、と記された金の像が出迎えてくれた先では、既に奇抜な格好に身を包んだ人々が、用意されたテーブルで食事をとりながら談笑している。ピエロ、看守、女装男装なんでもありだ。

「コペルニクス、お前はまずこっちだ」

「はあい」

私は言われるがままネロ先輩の後をついて、お屋敷の中へ足を踏みいれる。ここでも将軍の胸像がお出迎えだ。右を見ても左を見ても色とりどりの芸術品と煌びやかな宝石が並んでいるのは、壮観を通り越して、なんか、風邪の時の悪夢みたいで不気味だった。

「坊っちゃま、おかえりなさいませ」

 長い廊下を渡った先で、背の高い黒髪のエルフのメイドさんが、ネロ先輩に恭しく頭を下げた。使用人さんって、マジで居るんだ……。ジークの家には居ないって言ってたな……。

「モルガン。彼女に衣装を」

「かしこまりました。ザラ様、ご案内いたします」

 ネロ先輩が顎で示すと、メイドさんが今度は私にお辞儀をしてくださったので、私も条件反射的に頭を下げる。

 先導がネロ先輩からメイドさんにバトンタッチされ、私は突き当たりの部屋まで、忙しなくキョロキョロしながら歩くことになった。

「こちらにご用意させていただいております」

 扉を開けてもらったところで、――さっきから無言のジークに肘鉄を入れる。

「何平然と付いてきてんだよっ」

「イテッ」

 庭で別れたはずなのに何でずっと居るのさ。苦笑いするメイドさんに心を痛めながら、ジークの背中をぐいぐい押し出す。

「着替えるって言ってんでしょ!」

「いや、見ておかないと……」

「あんたの確認はいらないのよ」

 最近輪をかけて図々しいなコイツ。

しかし私は、間も無く、この選択が間違いだったと思い知る。




.

.

.




「ダハャーッハッハッハッハッ!!!!思った通りだ!!!!」

「ザラちゃん、着せられてるーっ!!」

「ダッセエェ〜〜〜〜〜〜!!!!」

ジークに確認して貰えばよかった。

私に誂えられたのは──女騎士の鎧だった。

 全身鎧ながらも、何故か胸だけが露出していて、谷間が強調されるようなデザインになっている。

兜も存在しない。しないどころか髪までいじられてツインテールにされた。鎧なのに臀部だけ装甲がない。その代わりにミニスカートとニーソックスで私は防御されている。防具になるか、こんなもん。寒いし。

 何を。何を笑ってんだよ。

 仮にも友達の彼女にこんなセクハラ衣装着せて鼻水出るまでゲラゲラ笑う奴おる?やっぱこの人たちクソだわ。ジークまでアホほどウケてるし。恥ずかしくて死にそう。

「ッ……」

「待て待て待て!!悪かった!ガチ自害はやめろ!!」

「ザラちゃんほら、おいしいケーキあるよ!」

 泣きながら舌を噛み切ろうとすると、さすがにジークとキョウ先輩は私のご機嫌を伺い始めた。

「この俺様の仮装が霞むなんてな……っぶっくく」

 ネロ先輩も妖精の王様、ということで王冠とカボチャパンツに白タイツというなかなかの格好なのだが、私の女騎士が面白すぎて若干スルーされてしまったらしい。どうもすいませんね、笑いの女神でよ。






.

.

.

.

・マーニ→ジーク→ネロの順で情報が漏れています。

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