男達の宴
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・登場人物のところにカミロを追加しました。
「ウチに来い」
「……あの、どういう……?」
「ハーゲンティとコペルニクス、お前ら二人の力が要る」
放課後、二人で今日は何しようねー、なんて呑気にしていたときのことだった。
突然のネロ先輩の呼び出しに戸惑い、ジークと二人で状況を飲み込めないまま顔を見合わせる。
ネロ先輩は不機嫌そうに懐から派手な封筒を取り出して、私たちに手渡した。
「親父の凱旋と、両親の結婚記念を兼ねたパーティーだ」
「へー」
むやみに質の良い封筒の中身は、これまたむやみに上質な紙の招待状が二枚。
そこには宛名だけが空欄になっていて、あとは金で箔押しされた煌びやかな文字で、『グリュケリウス将軍凱旋記念&グリュケリウス夫妻結婚十周年パーティー』とあった。
「……十周年?」
「今の母は後妻だ」
ちなみにネロ先輩のお父上の三十歳年下だとか。隣のジークが「うちもこういうの有り得るのか……」とちょっと顔を青くしていた。う、うちも有り得るのか……。
「三人目のな」
更にネロ先輩から爆弾投下。お、恐ろしい……。
「なぜ俺たちが?」
ジークが招待状を受け取るか悩む仕草を見せると、ネロ先輩は忌々しそうに頭を掻きむしった。
「……近頃、妙な魔物がうろついてるのを知ってるか」
「妙な魔物?」
「新種らしい。詳しいことはわからねぇが、親父たちがやけに警戒してる」
ネロ先輩の言葉で、再びジークと目が合う。
「ハーゲンティ、お前は魔族だろ。なんとかしろ」
「ふむ……いいだろう」
ジークは顎に手を当てて、真っ直ぐな目線をネロ先輩に向けた。
な、なんとかしろって。そんな大雑把な理由で……。
……待った。というか、そういうことなら私は門外漢だ。
「私、何かお役に立てるとは思えないんですけど……」
「お前はいざという時の囮だ。魔物はどうもお前を好むみてぇだし、この間も学校の近くで追われてただろ」
そろりと挙手すると、ネロ先輩に一瞥された。
ぐう。さすが主席。お耳が早い。
つい先日、私はその妙とされる魔物と追いかけっこを演じたばかりだ。あれだけ大きかったし、やっぱり騒ぎにはなってるわよね……。
「そ、それにつきましては、多大なご迷惑をおかけしました……」
「今その件で学校側も魔法庁から圧がかかっててな。お前が来るなら、多少はクチも聞いてやる。何より、お前が居ればハーゲンティを動かしやすい」
殆ど脅しじゃないですかー。拒否したら何されるかわかんないじゃないですかー。そういうとこが怖いから関わりたくないんですよなんとか言ってやってくださいよーの気持ちでジークの後ろに隠れる。
「そういう理由なら承諾しかねる」
さすがジーク、友人相手でも私を後ろ手に庇ってくれるのであった。
「なら無理矢理連れて行く」
ほらぁ。私は更にジークの影に身を潜める。
しかしジークは私の思惑とは裏腹に、
「はぁ……わかった」
何かに観念したように私という人質をあっさり受け渡すことを承諾してしまった。
「え、私の意思は?」
「ハッ、相変わらずだな。その女がいる限り御しやすくて助かるぜ」
「どうとでも言え。ザラに危害を加えたらお前でも容赦しないからな」
「え、私の意思は?」
「当日は迎えの車を寄越す。ドレスコードは守れよ」
「仕方ない……」
「え、私の意思は?」
この少ないやり取りの中、計三回無視されました。
ようやくネロ先輩が私を認識したと思ったら、今度は物理的にも見下されながら、ずびしと指を差される。
「コペルニクス、お前は私服で来い」
「はい?」
「どうせロクな衣装持ってないだろ。使用人に見立てさせる」
悔しいですが仰る通りで。どうせあなた達とは生きてる水準が違いますよ。むしろありがとうございます。あっでも買い取れとか言われたらどうしよう。ネロ先輩なら私の嫌がる顔を見るためにそのくらいしそうだ。
「他には誰か呼ぶのか?」
「多分キョウは呼ばなくても来る。三人も居れば十分だ。ったく、面倒くせぇことこの上ねぇ……」
そう言ってネロ先輩は、心底苦い顔をしながら、ジークと後から現れたキョウ先輩を連れてどこかへ行ってしまった。
えっ。
ジーク連れてかないでよ。
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