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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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光属性剣士、現る。




 ――大変だ。

 行き倒れている人がいる。


 さあ今日も今日とて元気に登校だ、と家を出た矢先のことだった。

 もう少しで駅のある町に着くという街道のまん真ん中で、殺人現場のように放逐された俯せの男性を発見してしまった。なんだか珍しい装備……マントに剣なんて提げているし、どこかのギルドの人だろうか。

(それにしては見たことない雰囲気だな……)

 私も国の騎士団やギルドに所属する戦士を幾度となく目にしたことはあるけど、そのなかでも見覚えのないような装飾品が目立つ。鎧にしてはフォルムが丸くて、材料不明というか。

 ともかく、この道は人以外に魔物や馬、時には車も通るし、その割に立ち止まってもらえることは少ないと思うので、とにかく安否が心配だし、近寄って声をかけることにする。

「あ、あの。ちょっと、大丈夫ですか」

 何度か声をかけながら肩を揺さぶると、男性はゆっくり頭を上げた。

「こ……ここは……」

「――」

 思ったよりも若いひとだった。私とそう違わない年頃の、金髪碧眼のヒューマー。頭には分厚いゴーグルを掛けている。顔色は悪く、思考もぼんやりとしているようだった。

「どこか具合でも悪いんですか?あの、肩貸します」

 ひとまずここに横たわったままでは危ないので、道の外れまで男性を連れ出す。うう、この人見かけによらず重い。半分重心を預かるだけでも精いっぱいだ。引き摺るようにしてなんとか街灯を背もたれにするよう促し、水筒を手渡した。

 男性は力なさげにそれを受け取ると、しかし、求めていたもののようにあっという間に飲み干して、生気を取り戻した。

「はー、生き返った。ありがとな、お嬢ちゃん。助かったぜ」

「おじょ……」

 さっきとは打って変わった眩しい笑顔に、私は衝撃を覚える。

「ん?なんだよ、俺の顔に何かついてるか?」

「い!いや!とんでもない!!えと、よ、良かったです!!」

 というかさっきから思ってたんだけど。

 ――この人、めちゃくちゃ、格好いい。

 爽やかなブロンドに、光をたくさん蓄えた澄んだ湖のような碧眼……。

 逞しい目鼻立ちには中性的にも思えるような鋭さがあり、しかし、顎から首にかけての輪郭は成人男性らしく筋張っている。

 少年のような血色のよいはにかみ顔と成熟した大人の横顔を同時に持つチャーミングで甘いあひる口。

 健康的な肌の色、マントの下に隠されたしなやかな肢体と黄金比を成す長身。ほどよくついた筋肉が、華奢なだけではない頼もしさを感じさせる。

「顔赤いし、もしかしてあんたのほうが調子悪いか……?」

「そんなことはございませんです!!!!無事です!!!!」

 見惚れてたせいで完全におかしい口調になってしまった。

「はは、そっか。あんた面白いな!」

 あっ……。

 ――あっっっぶね〜〜〜〜〜〜!!!!ときめきかけた〜〜〜〜〜〜!!!!好きになりかけた〜〜〜〜!!!!!!!!

 完全に顔がタイプだもん。

 いや~ジークの手前言い辛いけど私だって普遍的なアイドル志向はありますよ。

 あれ、むしろこの間の変身魔法のときのに似てるような。そんなまさかね。ははは。

「ちょっと疲れが溜まってたみたいだ。あんたが通りがかってくれなかったら危なかったよ。あんたは命の恩人だ、本当にありがとうな」

「いひっ、いえいえそんなっ……フヒッ……人として当然のことをしたまででふす」

 噛んだし。

 いけないいけない、顔色の悪い赤髪エルフを思い出して平静を保つのよザラ。

 太陽のような笑顔の男性と、ぎこちなく握手を交わす。

「俺はアルスってんだ」

「アルス……さん」

「ハハ、さん付けなんて止してくれよ、くすぐったい。アルスでいいって。あんたの名前は?」

「ザラです」

「ザラか。いい名前だ」

 なん……なに?

 一挙手一投足が惚れさせに来てるじゃない。

 そういう地域の方?いや、だけどディエゴくんのような距離の近さも、軟派なキョウ先輩のような下劣さもない。

 あくまでスマートに親しみやすい感じ。本当に純粋に人が好きなんだって全身から伝わってくる。常に笑顔だから、暖かい気持ちになるわね。

 思えば私の周囲のひとは不愛想、無表情、変人ばかりだし、こんないかにも快活な人と触れ合うのは久しぶりかもしれない。特に最近は。誰かさんたちのせいで。

 しかし和んでいる場合じゃない。行き倒れていた青年――アルスも救助したことだし、私は本来の目的、学校へ行かなくては。もうだいぶ遅刻だろうし。

「それじゃ、私はこれで……」

「えっ。もう行っちまうのかよ」

「学校あるし……」

 あとこのままだと本当に浮気しそうだし……。

「そうかぁ……残念だけど、それなら仕方ねえよな……」

 立ち上がろうとした私に、アルスが露骨にしょんぼりと眉を下げた。私を引き留めんと伸ばした腕を引っ込めて、項垂れてしまう。

「付き合ってくれてありがとな……またどっかで会えると良いな……」

 表情と言葉は元気なんだけど、声がぜんぜん追いついてない。めちゃめちゃ後ろ髪引かれるわこんなん。ここで行ったらすごい罪悪感に苛まれるよ。

「……わかった、わかった、わかりました。行かないから」

 もうこの際、学校は諦めよう。これも何かの縁だ。

「ほっ、ほんとか!?わー、すっげー嬉しい!誰かと一緒に居たい気分だったんだよー!!ザラは優しいなー!」

 私がアルスに敗北した途端、彼は再び私の手を取ってぶんぶん振り始めた。

 な、なんだろう。大型犬を相手にしているような。ストレートな感情表現に戸惑いつつ、今にも喜びのあまり抱きついてきそうな彼をどうどうと諫める。

 ま、まあ。もう少し休むにしても、いきなり置き去りは可哀想だものね。

 せっかくなので、アルスに色々話を聞いてみることにした。

「ところで、なんであんな所で倒れてたの?」

「俺、旅の途中でさ。やっとこっちに来られたー!と思った瞬間にエーテル酔いしたみたいだ」

「ああ……」

 急に空中の魔素(エーテル)濃度が違う場所に出ると、立ちくらみのような症状が出るという、あの。乗り物のような閉鎖的な空間から解放されたときになりがちと聞く。

「じゃあ、この先の町は初めて?」

「そうだな」

「それなら、私が町を案内するよ」

 お人よし どうせするなら 最後まで。(ザラ渾身の一句)

 どうせ慣れた地元だし、見た感じ――アルスの格好からするに彼は外国人のようだし。ガイドがいた方がいいのは明らかでしょう。

「おー、おー!助かる!宿が取れるとこ探したかったんだ!」

 まだ泊まるところすら決めてなかったんかい。どうも行き当たりばったりだなあ。……と思ったところで気づく。どうもアルスは、世話を焼かせたくなる才能があるらしい。私はまんまとその才能の餌食になっているようだ。

「俺、根無し草なんだよ。さすがにこっちで野宿は怖いからな」

 そしてもうひとつ、アルスは先ほどから気になる言い方をする。

「こっち……って、そういえば、アルスはどこから来たの?」

幻界(ミラージュ)ってとこ」

「幻界って……」

 授業で聞いたことがあるようなないような。確か、最近になって観測された新しい次元(せかい)で、その多くは謎に包まれている。とか。曖昧だけども。

 なるほど、そう言われれば納得できるような装備をしているわけだ。

「ちょいと訳ありでね。あちこち見て回らなきゃならないんだ」

「へえ……」

 私の関心をよそに、アルスは元気よく立ち上がる。勢いで街灯が少し揺れた。

「よっしゃ、そうと決まればさっさと行こうぜ!」

「え?さっきまで倒れてたんだしもうちょっと休んだほうが……ってそっちじゃないし!待ってー!」

 私の制止も虚しく、アルスはマントを翻して街道をずんずん進んでいく。

 元気MAXの軽々しい足取りは、出会った瞬間の憂いなど何処かへ蹴っ飛ばしてしまったようだった。私はそれを慌てて追いかけて、正しい方向へ引っ張る。

 うーん。犬だなぁ。






.

.

.

.

・新キャラクター・幻界の剣士アルス。やっと出せました。

実はザラサイドとジークサイドでパーティーメンバーが違うのですが、アルスはザラ側です。

そしてザラのもとに集まってくる男に、まともなのは居ません。

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