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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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ノー・ビアード・パパ




「そういえばさー。そろそろ変身魔法やりたいよなー。みんなも~簡単なのはちょちょいのちょいっしょー。なー」

 黒魔術科二年、タカハシ先生による実技講習の時間の、その終わり際。多くの場合はこんな風に、爆弾が投下されていく。

「……」

 なーじゃないです、という心の声が教室の中の全員で一致する。

 さっきまで全く関係のない内容だった筈なんだけど……。タカハシ先生に常識は通じない。

「そろそろ本格的に使うヤツやりたいだろー。はいじゃあみんな、変身魔法――特に別の人間に変身のした時の悪用方法を言ってご覧」

 特上の気分屋であるタカハシ先生を止める術がないことは、この二年間で嫌というほど理解している。ので、もはや流れに任せるほかない。生徒どうしは、顔を見合わせながらなんとな~く発言していく。

「成りすまし~」

「詐欺~」

「脅迫~」

「スパイ行為~」

「他人に使う~」

「はいとってもよろしい。そんな感じで、誰かになれるってのは例え短時間でも超危険です。ので、みんなでその危険を身をもって知りましょう」

 こ、これは嫌な予感。タカハシ先生は時計を横目に自分の荷物を纏め始めている。

「ちゅーわけで明日、ちょっとテストするから。それぞれ異性に変身してみてね。男だったら女、女だったら男、それ以外は~じゃあ別の種族で。予習復習忘れないよーにー」

 とんとん、と教本の角を揃えて、さっさと帰ろうとする先生を慌てて引き留めようと、陽気なアロイス(ここまで名詞)が質問する為に手を挙げた。

「はーいせんせー」

「はいノーフォードくん」

「コツとかないんですかー!」

「そうな〜。肉親が一番寄せやすいね。毎日見てりゃ嫌でも記憶してるし、何より似てるだろ〜。家族がいない奴は、やっぱり近しい友達や恋人、憧れている人なんかもいいね。マジで他人に興味ない奴は理想の異性を思い浮かべてみろ〜。まこの際なんでもいいんだけどな、あくまで変化がわかりやすいやつって話」

 ここでタイムオーバー。授業時間の終了を知らせるオルガンが鳴り響く。この音が鳴ってしまった以上、タカハシ先生は絶対に居残らない。立つ鳥跡を濁さずと言わんばかりに綺麗さっぱり教卓を片付け、一秒の無駄もなくこの場を立ち去る。勿論絶対に生徒たちとのコミュニケーションも取らない。話しかけようが攻撃しようが絶対に決まった時間に始まり決まった時間に終わらせることに心血を注いでいるらしい。

「じゃ今日はここまで。他に質問ある奴はいないな。よし。あとは職員室か研究室に来い。あばよ!!」

 タカハシ先生はそう早口でまくしたてて、そそくさと廊下へ消えていった。

 どんだけ教室いたくないんだ、あの人は。

 教室に取り残された私たちは、絶句――のちに恐怖を覚えながら、課題のために奔走し始めた。ある者は図書館へ、ある者は研究棟に向かって駆け出し、ある者たちは頭を寄せて作戦会議。

 ……私もいい加減、中途半端な評価ばかり貰っていてはいけない。早く家に帰って、自主的に勉強だ!なんて偉い!



.

.

.




 先生曰く肉親が良いということなので。私は――お父さんの姿を参考にするべく、家の中のお父さんの痕跡を探すことにした。

 一番身近な異性っていうとあとはジークかフェイスくんかだし。十年前に行方不明になったとはいえ、一応顔も毎日は見てるもんね。そんなことを思いながら、靴棚の上に並んだ写真立てを指先でつついてみた。

「お母さん、お父さんの写真ってどこ?」

「そうねぇ。玄関の以外だとぉ……アルバムは邪魔だから物置にしまっちゃったわぁ」

 お母さんがあまりに笑顔のまま言うので、私の脳裏に一抹の不安がよぎる。

「……お父さんのこと、嫌いになったわけじゃないよね?」

「もちろんよぉ。家に居ないだけで嫌いになってたら、あの人と一緒になんかなれないわよぉ。なんなら嫌いになっても、お母さんはお父さんのたった一人の奥さんよぉ」

「そうなんだ……」

 私が十年も家を空けている父に嫌悪感を抱いていないのも、お母さんをはじめとする親族の寛容な姿勢のお陰だ。確かにほかの家庭に比べたら、何年も連絡すらせず行方を眩ませているなんて相当ダメな父親だろう。人間としても心配すぎる。

 でも、おじいちゃんもおばあちゃんもお母さんも、誰もお父さんを悪く言わなかった。私の手前あえてそうしているのかはわからないけど、いつしか私は“他所は違うけどうちはそういうもの”と自然に思い込むようになった。

 それに――そう。お母さんの愛情深さは今も変わらないのだ。

「他人と家族になるってそういうことだものぉ」

「ふぅん……」

「ザラちゃんだってそうでしょぉ?」

「まあ……嫌いになったところで、お父さんの娘はやめられないし……」

「やだぁ。そっちじゃなくてぇ」

 ――は?

 お母さんのにこにこ顔をしばらく訝しんで、ようやく理解する。

「しっ……!知らないよ!物置ね!ハイハイ!」

 ったく最近、隙あらばいじって来ようとするんだから。油断ならないわ。だいたい最近そういう雰囲気になっただけでまだ全然……そういうのなんて早すぎっていうか……ごにょごにょ……。

 こほん。私は咳ばらいをひとつして、階段横の小さな倉庫部屋に足を踏み入れた。

「えーと……これかな」

 お母さんの手によってきちんと整理された物置で、それはあっさり見つかった。

 埃をかぶっていないところを見ると、さっきのお母さんの言葉が真実なんだと思える。きっとときどき思い出して、見ているんだろうな。

 ハードカバーで閉ざされた、飴色の重いフォトアルバムを数冊、両手でなんとか抱え込む。

「よいっしょ……」

 私は階段を上がって、そのまま自室へ向かった。






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・いま明らかになるザラパパの正体――!(なるとは言ってない)

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