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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
2.ドッキュン聖者とガッカリ剣士
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放課後お茶時間





「ルナハニーの限定スムージーが飲みたい」

 わざわざ“授業が終わったら話がある”とビビアンに呼び出されて来てみればそんなことですか。

 私とフェイスくんは、ビビアンの柄にもない真剣な面差しにさぞや大層な告白があるのだろうと構えていたのだけど、全くの徒労だった。

 とある放課後、久し振りに三人で集まる機会が出来た私たちは、人の出払った黒魔術科の塔で一つの机を囲んでいた。

「……の、飲みにいけばいいんじゃない?」

「三人で行きたいの!!」

「なんでまた……」

「ザラがさ……技術大会のとき居なかったじゃん……」

 ビビアンが拗ねた子供のように頬を膨らませた。かわいいな何だそれ。その節はどうもご心配をおかけしました。技術大会では当日もあの調子だったし、結局魔法庁の取り調べやら学校側からの聴取やら生徒への忖度やらで、まともに参加することは叶わなかったのだ。当然、シンディに監禁されていた間も友達の顔を見られなかったし、早くも苦々しい思い出と成り果てている。

「あーし……三人で剣闘大会とか錬成大会とか見たかったのぉ……なのにさ、当日フェイスもいないしさぁ!」

「そりゃそうだよ。僕忙しいもん」

 白熱するビビアンとは対照的に、フェイスくんは相変わらずあっけらかんとしている。

「そうなんだ、なにしてたの?」

「ずっと視察。警備みたいなものだよ。僕はその筆頭だったから。一日じゅう色んな人の相談受けてた。ビビアンもスカウトとかラリーに出てたじゃない」

「そういえば去年もそんなこと言ってたねぇ」

 占星術科期待のホープであるフェイスくんは、イベントごとになると、当日の天気やトラブルの予見、更にはオブジェの位置にポスターの角度から、誰をどこに配備するかなどの相談(うらない)で各地から引っ張りだこになる。私たちよりも小さい体であちこちに頼られている姿は素直に尊敬するけど、心配にもなる。フェイスくん、同年代の子に比べて、あれだしなぁ。

 一方のビビアンも、魔物学科の生徒として、更にヘルメスの兵士として、日常非日常関わらず忙しない身の上だ。唯一暇人の私を除いて、実はスケジュール調整が難しい人たちなのだ。

「だから!!行こうよ!!」

「何がどう、だから、なのかわからないけど。そんなにその限定スムージーが飲みたいの?」

 なんだかんだ言って誘えば満更でもないのが、フェイスくんの人気の理由な気がした。

「うん。なんか、注文するたびに味変わるんだって」

「「なんて?」」

 思わず声を揃えてしまった。

 あのう、それは、不出来ということではないのでしょうか。

 ルナハニーズカフェといえば。この情勢の中、全国にチェーン店舗を持つコーヒーショップで、コストパフォーマンスと栄養と味にこだわった幅広いメニューで老若男女問わず受け入れられ、中でも若い女性から人気を集めている。独自に開発した保温魔法や気分高揚のエンチャントによって携帯性に優れたテイクアウトが一種のステータスにもなっている。パッケージの器には魔導伝導率の良い素材が使われ云々かんぬん……この辺はジークとかが詳しいかな。

 そんなルナハニーで定期的に季節限定のドリンクが発売されると、私たちのような女学生はこぞって新作を試しに行くものだ。

「なんかぁ、やばい魔導士がキッチンに入ったらしくてぇ。やばいレシピでやばいドリンク作りまくってるんだってぇ。そんでぇ、今回のは飲むまで何が起こるかわかんないんだって。レイチェルはいちご味だったけど、ソフィアは絵の具味だったって言ってた。マキとカルティナは、いっしょに行ったのにそれぞれ超高級チョコ味とパパの革靴味だったんだって。超面白くない?」

「じ、地獄の運試しだね……」

 あと何回「やばい」って言うのよ。

 パパの革靴味ってすぐわかるもの?味わったことないと脳にデータとして残ってないのでは?それとも、もしかしたら、飲んだ瞬間に()()()()()()()()()()()()()()絶対的な味なのかしら。それとも訊いたら普通に教えてくれるのかな。

 何にせよ好奇心をくすぐられてしまった私たちは、顔を見合わせるなり、

「行こう」

 と口にして、席を立った。



.

.

.




 ――しかし。どれだけ勇んでも、すぐに品物が出てくるわけではないのである。

 私たち三人は、ルナハニーズカフェ、エメラルド・カレッジ・タウン店の外に伸びる長蛇の列に並ぶことを余儀なくされたのである。……こ、これもティータイムの内だから……。

「二人と遊んでるから、こういうとこに来るのに抵抗なくなってきたよ」

 ふとフェイスくんに言われて、辺りを見渡す。ああ、たしかに……見渡す限り女性客、女性客。ちまちま、見るからに付き合わされている感じの男の子がいて、フェイスくんと同じように目立っていた。

「あ〜……ご、ごめんね。つい……」

 ビビアンと共に苦笑いする。フェイスくん、かわいいけど一応年頃の男の子だもんなぁ。可愛らしい店内の内装に気圧されて、気まずい思いをさせていたら非常に申し訳ない……。

「別にいいよ。僕だけじゃ近寄らないしね、結構新鮮で楽しいよ」

 聖人かよ。

 彼はいつも、口先では一度文句を言うけど、私とビビアンが誘えば嫌な顔をせずにどこへでも一緒に来てくれる。どこまでも付き合いがいいというか、フットワークが軽いというか、そこもみんなに頼られる理由である気がする。

「何でも見てみないことには始まらないから」

 表情こそあまり変わらないものの、フェイスくん自身も楽しんでいるようで何よりだ。

「フェイスくんって、普段他の人とはどんなことしてるの?」

「あー気になる。つかガッコであたしら以外に友達いる?へーき?」

「いるよ……。地元にだって同年代の子が居るしね」

「なんかーフェイスって同世代だと浮きそーじゃん?」

「まあ、否定はしない。学科の人とは、一緒に課題やるけど……それが遊びみたいなものだから。あんまりこういう風に出かけたりっていうのはないかも」

 確かに、フェイスくんが私たち以外とわいわい騒いでいるのはあまり見かけない。元々そういうタイプじゃないのもあるだろうけど、下手をすれば一回りも違う年齢のクラスメイトたちとどんな付き合いをしているのか、だいぶ謎めいている。

「おっ。じゃーあたしらのがトクベツじゃん」

「さあ……」

「照れんなって~!」

「やーめてってば」

 ビビアンがフェイスくんの頭をロックして撫でくり回している。

「も~……。ビビアンのそういうところホンット嫌い」

「はーーー!!?」

 ぐしゃぐしゃにされた髪を直しながら、フェイスくんがビビアンを睨んでいた。

 私はそんな二人がおかしくて、声をあげて笑う。

 そうこうしている内に、私たちの順番が巡ってきた。






.

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