表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
1.魔族にズッキュン
41/265

祭りだワッショイ・0

 



 ――キョウ。

 刀を見なさい。刀とひとつになりなさい。お前は、ヒトではなく、妖を斬る刀そのものになれ。

 それが、師による絶対の教えだ。

 京水(キョウスイ)は幼い頃から、自分の刀を分身だと思って育ってきた。

 広い道場で、師と二人、稽古に打ち込んでいたことを思い出す。


師匠(せんせい)。どうすればもっと強くなれますか」

「え~……。わいぃ、もう十分強かろうもん」

「もっとです。俺は師匠を越えたいんです。その為に、必要なものを教えてください」

「ん~……そうじゃのう……。まあ、簡単なんは――魂じゃらせんか」

「……魂」

「ちゅうか、心じゃ。心を磨きやんせ。うちん流派は、術師の精神状態がそんまま反映されっでな。強か心を持つことこそが、刀をば極める道になっどじゃ。多分」

「具体的には?」

「そら色々やっど。じゃっでん、まぁ……(にせ)に生まれたでには。コレっちゅう、一本守れっもんがあっと、腹は決まっかもな」

「守れるもの、ですか」

「ン。家族、友人、恋人、ペット、誇り、名誉、金、酒……何でんよか。コレに関してならば一生執着ばでくっ、いうもんを見つくっところからじゃ」




 寄宿舎の自室から同居人を追い出して、扉も窓も締め切って、キョウはただ一人、寝床で瞑想していた。

 友人のガールフレンドを攫って、それをダシに勝負を仕掛けてくるゲス野郎がいる。俺は明日、そいつと決着を着けなければならない。

 普段は金庫に入れておく愛刀も懐に抱えて、ときどきその刀身を鞘から引き抜いては、確かめるように刃の煌めきに集中した。

 大昔から暁月(アカツキ)家と馴染みのある専属の刀鍛冶が、キョウのために打った大太刀だ。

 ――気に食わない相手だ。

 脳裏にヘンリーのにやけ面が浮かぶ。

 ――だからこそ。力の使い方を間違えちゃいけない。本気になればアイツの思うツボだけど、暁月の本質を忘れるな。この力は、アヤカシモノを斬る。()()()()()()()

 事実として――キョウは昨年、我を忘れて、ヘンリーとの戦いに熱狂した。

 しがらみから解放されて、ただ目の前にいる人間との闘争に明け暮れた。あれはなんと心地の良いことだっただろう。女体にも勝る快感だった。一年経ったいま思い出しても、身体の芯が熱せられてぶるぶると打ち震えるようだ。

「はあーッ……」

 深呼吸。

 鋼が作り出した白い波が、キョウに問うているようだった。

 己には斬らねばならぬものがあるだろうと。

 そうだ――俺は、斬る。(あやかし)を。ヘンリー=ゲバラの魂に巣食う悪鬼を、叩き伏せる。

 俺が負けたのは――あの悪鬼に気付けなかった、自責に負けたのだ。

 あれを善良な好敵手だと認めた自分の魂が既に穢れていると、気付けなかった。

『ヒト以外に容赦をするな』。

 暁月一族――ひいては幽鬼調伏部隊の掟である。

「……恨んでくれ。地獄の底から、俺たちを、押し上げていてくれ」

 眼前で祈るように切羽と鍔を詰め合わせたとき、不思議とキョウの頭は、ひんやりとしていた。






 .




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=68615004&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ