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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
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第五の剣・鈷杵剣・1




 ホワイトサロンのギルドハウスに、“ルナティック”の全員が揃っている。

 異国人・異種族同士のメンバーがずらりと並ぶ景色は、相変わらず壮観だ。

 少し暑くなってきたので窓を開けると、蒸したような風が室内に入り込んできた。

 私たちは中央の円卓に地図を広げ、端々に各々のコーヒーやら小刀を置いて重石にした。

 はじめに、私がカミロとお父さんから聞いた地名を口にすると、真っ先にヤイバがおお、と手を打った。

「カマラスタ!そりゃあ、ウチよ」

「ウチって……クル藩国にあるってこと?」

「位置関係的にはそうなんじゃがのう。ワシ等ぁ、宗教団体とは政治的に結びつかんと法律で決めちょる。ありゃ僧兵らの独立国家みたいなモンじゃ」

 広げた地図を見下ろして、ヤイバが気まずそうに自分の顎を撫でた。

 そういえば前にヤイバのお父上の病気のことがあった時、そんなような事を言っていたような……。

「自由に出入りできない感じなのか?」

「難しいとこじゃのう。向かったところで拒まれはせんじゃろうが……」

「何か問題でも?」

 アルスとジークに詰め寄られ、渋々といった感じで、ヤイバは溜息を吐いた。

「奴等が祀っとるんは、その聖人アルク=バランその人でのう。伝説の鈷杵っちゅうのも、そりゃあ、えれぇ神聖視しよる。もしワシらが七曜の剣の継承権争いに来た、なんて言おうもんなら、門前払いか、最悪奴等の護摩焚きの燃料じゃ」

 あら、お父さん達にさんざん濁された割に、結構ドンピシャじゃない。と、いうか、隠したがっていたのにも納得がいった。カーンさんが言っていた儀式の場の法則性から鑑みても、じゅうぶん、関連性のある土地だ。

「そもそも、七曜の剣の実物は魔騎士団が持ってるんだもんな。真正面から行ったら、どー考えてもオレらのほうが悪者じゃん……」

「参拝客と修行僧は広い心で受け入れてもらえるんやけどもなぁ」

「最悪、そっち方面に偽装して行く……とか?」

 オリヴィエがこれまた苦い顔で地図と睨めっこを始めた。彼の言うことも最もだ。いくら王子であるヤイバを連れて行っても、手ぶらで、それも聖人を祀っているその場所で、聖人の遺産を巡って戦いますなんて言ったら、マジで追い出されるどころか火あぶりにされかねないわね。

 こっそり忍び込もうとか、人質を取ろうとか、魔騎士の人にどうにかコンタクトを取ってみようだの、いやいやもしかしたら校内にスパイが居るかもしれないなんて、あれこれみんなで頭を寄せて捻ってはみたけど、なかなか良い案が出てこない。

 諦めて他の候補地を考えてみようか──そんな空気になってきたころ。

 突然、私の耳の奥で、電話のベルの音がけたたましく鳴った。

『皆さん──聞こえますか──今、私はあなた達の脳内に直接語りかけています──』

「何じゃぁ!?」

「ほんとに脳に直接聞こえてくる!」

 ベルが止んだと思った次の瞬間、今度は頭の中に、謎の声が響き渡った。まるで脳みそが勝手に電話を取ったみたいだ。

 これは──もしかして。

 私には思い当たる節があった。天界に昇った時、最高神であるイヴァンさんと会話していたとき。それから、二回目に天界に行こうとしたとき、カミロが天界と連絡を取るのに使っていた通信手段。そうだ、天界の住人は何かと電話っぽい感じでこっちとコンタクトを取るんだ。

『私はアルク=バラン──天界に住む一介の僧侶です』

「まさかのご本人!?!?」

 しかも、かけてきたのはまさに渦中の人だった。このタイミングで偽者ということもないだろう。

『私の千里眼にて、あなた達が私の杵の継承権を欲していることは見通していました。私も、私が所有していた武器であれば、浮世で無為に権威の形代と成るよりは、真に必要とされる方々の手に渡り、使命を全うするのが、道具としての正しき使い道であると存じます』

 穏やかで深い男性の声は、朗々と、諭すように語った。

 今まで相対してきた七英雄の中でも、特に落ち着いているというか、正直言って……。

「すごい……かつてないほどマトモだ……」

「シッ!思っても口にしないの!」

 アルスが代わりに漏らしてしまったけれど。名高い僧侶というだけのことはあって、聞いているだけでさぞ威厳と慈悲のある人なのだろうというのが想像できた。

「おお……。何か、お声を聞いちょるだけで、心と身体が温かくなってきよるのう……ありがてえ感じがするのう……」

「ぼくは逆だ……アレルギーみたいな感じになる……!!痛痒い……!!」

 いっぽうでヤイバはアルクさんのお声に過剰に感動し、ヒエンは過剰に倦厭していた。

 そういえば、あっちの国の聖属性と魔属性みたいな感じの二人だった。何か特別に感じ入るところがあるのだろう。

『ですので、カマラスタの信徒たちにも、あなた達を迎え入れるよう告げましょう。どうぞ、胸を張ってカマラスタの地に足をお運びください』

「いいんですか……!?」

『ちょっと待って、同時に喋らないで。──ええ、ああ。聞こえていますよ。あなたがた魔騎士団の皆さんにも、無限の少女の一団にも、同時に話しています』

「えっ!?!?」

 二連続で驚いてしまった。

 当たりをつけていたカマラスタの地が正解だったこともだけど、この通信が魔騎士側にも通じていたなんて。確かに私たちにだけ聞こえてたら、フェアじゃないけども。絶対文句言ってそう。フェオ=ルさん辺りが。

『はい、そこ静かに。──ええ、ええ。いえ。剣を継承する資格は、本来であれば万人に与えられるもの。王国はそれを独占したに過ぎません。あなたがた以外に、剣の力を欲する者が現れることは、何ら不思議ではないのですよ。それこそ、我々が否と言えば、王国には剣の力は与えられない。あくまで平等な権利のもとに、あなたたちは争うべきなのです』

「聖人なのに争うべきとか言ってる……」

『競うべきなのです』

「マイルドなほうに言い直した……」

 静かな湖面の揺らぎのようなアルクさんの超然とした声は、けれど、同時にこれ以上ないほどの意志の強さを持って、私たちに勝負の是非を宣告した。

『私は衆生より解脱した身です。今更、新生王国への不満などありません。何の文句がありましょう。ねえ。ホント。全然。ちょっと、激しめの滝のほうに移動しますね』

「ストレス感じとるやん」

 アルクさんの声色は変わらないままだったけど、何やら静かな怒りのようなものは感じられた。わざわざ“新生王国”と呼んだところに、色々思うものがあるんだろうな……。と察せずにはいられない。

 だって……七英雄の人の口から、今のアトリウムに対する褒め言葉、一回も聞いてないし……。

 それでも私たちは彼らを七英雄と呼び敬うよう教えられているのだから、そこは汲んでほしい。

 アルクさんは咳払いをひとつすると、また穏やかな口調になった。

『では満月の夜、私は分霊となって、水上都市であなたたちと相まみえましょう。なんでしたっけ、勝負させるんですっけ?──ああ、はいはい。ではその勝負の内容も、その時にお伝えします。各自、時間厳守で。交通手段はご自由に。船が一番便利だと思いますよ』

「やっぱり適当じゃないか?」

『皆さま、心は清く、頭は冷たく、そして手を綺麗に。お父様とお母様を大事にするように。私はこれにて失礼させていただきます』

 満月の夜に再会することを宣誓し、何となくありがたいお言葉を残された後、アルクさんからの通信は途絶えた。






.




 そして、満月の夜がやって来た。

 雷色の惑星から、天上の光が降り注ぐ。

 癒しにも、諦めにも似たような月光は雨粒に溶けだして、聖者を照らすための射光を生み出す。

 男鹿の角も生え変わるという月夜は、まるで、これからまた欠けては満ちていく自身の姿を理解した、再生の卵の灯のようだった。

 私たちルナティックの七人は、ヤイバの例の“屋形船”を借りて、クル藩国の離島・水上都市カマラスタに上陸していた。

 案の定、私は船酔いしたけど、今回はオリヴィエの魔眼に助けてもらうことができた。ヒエンは船を懐かしがっていたし、アルスやヘルメスさんはテンション上がり過ぎてちょっとおかしくなってた。床の上ごろんごろん転がって顔に跡つけてた。

 港から降り立ったカマラスタの上空は、重い雲に覆われていて、暗く、肌寒かった。

 石畳に大粒の雨雫がぼたぼたと降り注ぎ、埠頭のぎりぎりまで押し寄せる波の高さが更に嵩増しされるような気がして、もしこのまま湖が増水して溺れたらどうしようなんて不安が脳裏に過ぎった。

 ──クル藩国の東に位置しながら、独立を貫く水上宗教都市・マラスタ。

 街は水上都市の名に相応しく、湖のど真ん中で、地底から湧き出てきたようにどどんと鎮座している。

 聖仙アルク=バランその人を祀るこの街には、英雄が説いた教義とその真理を求め、各地から修行僧や巡礼者が絶え間なく訪れ、足跡を追う。 

 その様相は街並みというよりは、いつかのホワイトサロンでのお祭りを彷彿とさせるような、神秘的なものだった。

 不思議なもので、外国のものだとしても、街に設置されているオブジェや飾りなんかが、神秘的な存在を祀る為にあるのだというものが分かる。ヒエンの書の中で見た景色にも近い、真っ赤な門や、吊り提げられた荒縄がよく目についた。

 ちなみに都市は最奥の神殿から水路と浮橋で結ばれていて、あちこちの修練場や祈禱場に繋がっているらしい。

 アルクさんの言っていた通りになったのか、私たちはほどなくして、街の僧侶の方々に、聖人アルクを祀る神殿の本堂という場所まで案内された。

「ほんとにあっさり通してもらえたね……」

「ワシが身分明かすまでもなかったっちゅうか……むしろここまで来たら言わんほうがよさそうじゃな」

「どこまで話が通ってるかわからないけど、少なくとも拒絶される感じはなさそうで良かったな」

 私は肩身の狭そうなヤイバ、そして男性の姿に戻ってどこか自信ありげなオリヴィエと声を潜めて話した。

 波の形を模した空色の屋根の下をくぐると、ようやく乾いた、灯りのある空間に出ることができた。

 石の壁に囲まれた神殿内部には、巨大な木像が佇んでいた。案内してくれた僧侶さん曰く、香木で彫ったアルク=バラン像だという。

 その足下に──既に私たちを待ち構えている人影があった。

 二人は、見覚えのある人物だ。

 全開の継承権争奪戦で相まみえた、ドワーフの騎士バーリンさんと、鳥の魔物を連れたダークエルフのミリアーデさん。

 魔騎士の二人は私たちの到着に気付くと、静かにこちらを振り返った。

 そして、もう一人。

 褐色の肌に、真っ白な髪を短く斬り揃え、一枚の布だけのような法衣を纏い、瞑目している瘦身のオーガ族の男性がいた。よく見ると、その人には木像の顔立ちに良く似た面影を宿している。

「あの……あなたがアルクさん、ですか?」

「いかにも。私がアルク=バランです。ようこそいらっしゃいました、無限の少女達。これで役者は揃いましたね」

 この人が水の鈷杵(こしょ)剣を所持していた七英雄の一人、聖仙ことアルク=バランさん。

 てっきり木像のほうが多顔多腕の異形なので、もっと人外寄りの見た目なのかと思ってたけど、そうか、所謂人間界用の分霊だから、生前の姿に近いのかしら。いつもの英雄の亡霊じゃなくて本人そのものらしいから、透けてもいないしね。

 アルクさんは私たちを集めると、自らに注目するように促し、まるで弟子たちを諭すように語り始めた。

「──このカマラスタでは百年ほど、雨が降り続けています。それはこの湖に棲む怪物、バクナワの呪いによるものです。バクナワの呪いにより、大地は滑り、沈み、植物は瘴気を放つようになり、水源が汚染されるようになりました。まあ、ここで修行したい僧侶たちにとってはむしろ苦行が捗ってウェルカムっぽい感じなんですが……流石にもう、人間たちが住むのに適さない土地になってきてしまっているのが現状です」

 とのこと。

 どうやら私たちを迎えた曇天は、何も私たちを拒もうと思って沈んでいたわけではなく、この街特有のものらしい。

「確かに、このままだといつ湖の底に沈んでっちまうかもわからんのう」

 ヤイバが喉を鳴らしながら顎を撫でつけると、意を決したように自らの胸を拳で打った。

「ま、ここはどーんとワシに任せとけ!!」

「ヤイバが出るの?」

「オウ。仮にも、ワシが将来預かる領土の内側やからな」

 私はちらりと魔騎士側を窺った。前回の相手がバーリンさんだったから、多分今回はミリアーデさんのほうになるんだと思う。

 ミリアーデさんは凛とした表情のまま、ただアルクさんの声に耳を澄ませているようだった。

「──私の願いを叶えてくれた者に、剣の力を託しましょう」

 瞼を伏せたまま、アルクさんは確かにそう宣言した。

 これが、今回の勝負の内容ということだろう。……いや、毎回英雄のお願いごとを聞いているような気もするんですが。

「あなたの願いって?聞かせてもらえるかしら」

「当然、バクナワの呪いを絶つことです」

 ミリアーデさんのちょっと威圧的な詰問にも動じず、アルクさんはさらりと言ってのけた。

 つまり、その、この雨の元凶を絶ってくれと。めっちゃ大変そうじゃない?

「そのバクナワってのが来る前はどうしてたんだ?」

「いえ。バクナワはずっと居たのですよ。あれは退治などできるものではありません。湖という自然の脅威そのものなのですから」

「じゃあ、何かで魔物の力を抑え込んでいたってこと?」

「ええ。あなたたちが手にしているそれ──私のアガスティア。それと全く同じ、瓜二つの“真打”と呼ばれる法具を水中に奉納することで、バクナワから都市を守護していました」

 アルスとミリアーデさんが交互に訊ねる。

 アルクさんが指し示したのは、ミリアーデさんの懐だった。恐らく、いつもの如く七曜の剣の現物を忍ばせているんだろう。

「武器一つで結界を張っていたのか?」

 今度はジークが訝しむように眉を顰めた。職人としては気になるところなんだろう。

「はい。クルの職人が丹念に鋳造(エンチャント)した武器は、時として神霊の力と同等か、それを凌ぐ神威を持ち得ます。ですので、たったひとつとはいえ、魔物を鎮静化させるには十分でした」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんじゃ。こっちの神さんは職人が好きなんじゃ」

 ヒエンと共にうんうんと頷くヤイバに、アルスがふーんと不思議そうな目を向けていた。

 あれ。でもそのバクナワを鎮めるための真打とやらがあるのなら何故に呪いで雨が振り続けているのですか。

「だが、今はその守護が失われている。何があったんだい?」

「それが、バクナワが間違って真打を飲み込んでしまったみたいなんですね」

「ダメじゃん!?」

「そんなもの飲んで、バクナワは平気なのかよ!?」

「平気じゃないみたいですね。だからそれ以来、苦しくて、彼はカマラスタを呪っているんです」

 さも他人事のように流すアルクさんにややずっこけながら、私たちは衝撃の事実を知ることになった。

「なるほど……。じゃあ、そのバクナワが飲んだアガスティアの──片割れ?みたいなものさえ回収できれば、問題は全部解決ってことですか?」

「そういうことです」

 分からないなりに私が要約しても、アルクさんは優しく微笑んで肯定してくれた。学校の先生みたいだ。

 今回の継承権争奪戦は、いつもと一味違うようだ。いや、同じ味だったことないわ。

「話はだいたい分ったわん♪あたし達で何とかしてあげないとネっ☆」

「ですね!」

 私としては、七曜の剣抜きにしても何とかしてあげたいところだし。そこはヘルメスさんも同じみたいで嬉しい。街もだけど、バクワナのほうも、いつまでも苦しいままだと可哀想な気がする……って、最近魔性側からの立場で物を見るようになってきた弊害かしらね。

「仮にも自分を祀っている土地だろう。何故自ら救済しない?」

 一方でその魔性側のジークは、魔性らしく、聖人の俗世を試すような行いを訝しんでいた。

 アルクさんは少し言葉に迷う素振りを見せると、観念したようにぶつぶつと呟き始めた。

「いえあの、そうしたいのは山々なのですが、分霊の手続きって本当にややこしくて……修行していると暇がなかなか無くてですね……。これも急造の体なので、魔法も殆ど使えないんですよね……」

 言い訳がましくごにょごにょ語尾を濁していたが、要は人間界に来た時のカホルさんと同じで、実際よりもかなりパワーダウンした状態らしい。

 さて。そうなると当のバクワナという危険そうな魔物と相対するにはどうしたものか。

 水中で長時間呼吸できるような魔法をヤイバにかけてあげるとか……?私じゃ無理でもヘルメスさんかジークが作った薬とかなら効果があるかもしれないし……。

 と、私たちだけでなく魔騎士側も頭を抱えていると。

「じゃ、手っ取り早くバクナワちゃん本人に来てもらいまショッ☆はい、ちちんぷいぷいブイブイピ~!」

 ヘルメスさんが突然、杖を手に適当(インチキ)な呪文を唱えた。

 途端、凄まじい地鳴りと共に、神殿が大きく揺れた。

「な、何だ!?」

「何が起きてるって言うのよ!?」

 この手のヘルメスちゃんパニックに耐性が無い魔騎士二人が慌てふためくなか、私たちは驚きつつも慣れたように神殿の外へと躍り出た。

 こういう時は大抵、何かどでかい事が起きているのだ。

 神殿の外に出ると、街並みの合間に揺蕩う湖面が、間欠泉のように天高く噴き出していた。これ絶対ヘルメスさんの魔法だ、と分かるド派手な演出だった。

 魔騎士の二人も、何事かと私たちの後を追ってくる。

 そして、湖水の勢いが限界まで達すると、今度は水中から巨大な蛇のようなものの影が覗いた。

 それは、こちら目掛けて飛躍すると、大口を開けて私たちの眼前に迫ってきた。

「え」

「あらまちゃんっ☆」

「バーリン、危ないっ!」

 咄嗟に避けたヘルメスさんと、ミリアーデさんに庇われたバーリンさんを除き、その場に居た全員が、多分、同時に同じ光景を見た。

 真っ暗な闇。

「やだぁ~ん、あじゃぱ~!思わず避けちゃったワ……!みんなだいじょ……」

 ちょうど背後で、師匠の能天気そうな声が聞こえてきた。

「ばないわねっ♪てへっ、ヘルメスやっちゃった☆アイムソーリーひげそーりー!ゆるしてちょんまげ☆」

 ばくん、という音がして、バクナワの大口が閉じたのを知るのは、自分の体が真っ逆さまに落下していくのを体感してからのことだった。






.


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