表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
239/265

シン・ホムンクルス・1




「ぜぇーーーーーったいアルスはこっちのほうが似合うもん!!」

「馬鹿言え。それじゃあ俺の隣を歩くのに相応しくないだろう!」

「ジークが合わせればいいでしょ!?アルスはいくら可愛くてもカッコ良くてもいいの!!」

「理想を押し付けて地に足がついてないんだよ!アルスの良さが台無しだ!」

 それは、珍しく(?)私とアルスとジーク、三人の休日が重なった日のことでした。

 私たちは七曜の剣を求める仲間から()()()()を託され、ホワイトサロンの街を訪れていた。

 そのついで、という形で、街並みを散策していたんだけど……。

「二人が喧嘩してんの、初めて見たな~。しかも、俺の為に……」

「嬉しそうにするな!」

 私とジークに挟まれながら、頬を緩ませきっているこの(アルス)が、「そういや、今度ギルドでパーティーやるみたいなんだけど、俺、ちゃんとした衣装とか持ってないんだよな~」とか言い出したのが事の発端だ。

 アルスと洋服大好き人間&人外こと私とジークが、彼のそんな困った顔を見過ごせる筈もなく。

 意図せず、私とジークの間に、第一次アルスコーディネート対決inホワイトサロンが勃発してしまった。何気に初めての大喧嘩である。

 そして何故かいつの間に、二人ともすっかりそのパーティーとやらに同席するつもりになっているけど、全然そんなことはない。

「大体、何でそうゴチャゴチャさせたがるんだ。全体で見たトーンもアクセサリーも統一感が無いだろう」

「えー!だって好きなものは全部乗っけたいじゃん!ジークのコーディネートだって、遊びが無いじゃない!」

 数々のショップをはしごして、二人してああでもないこうでもないと互いに文句をつけ合い続けることしばらく。未だ決着は付かず、勝負は平行線のまま第三ラウンドへ突入というところだ。

 だってね、ちょっとしたパーティーですよ。

 しかも、今やアルスは黒猫横丁のハンターギルド・『空飛び猫の銃士隊』において、若く将来有望なエースであると同時に、唯一幻魔の退治を担うことが出来るスペシャリストだ。その活躍に相応しい格好をしていた方が良いに決まっている。

 それなのに、ジークときたら。こいつは何でもそうだけど、気に入ったものをすぐ自分色に染めようとしたがるのよね。

 ジークがアルスに着せようとしているのは、深いピーコックグリーンのスーツだ。

 コーデュロイの生地に刺繍された華やかな柄や、金ボタンの細かい彫刻が美しい。ジャケットの下には黒いモックネックを合わせるらしい。靴はやや明るめのキャメル色をしたタッセル付きのローファー。

 カラーリングにアルスらしさを取り入れつつ、こなれた大人の男性っぽい落ち着いた印象とを与える、洒落たコーディネートだけど……むむむ。

 私は、アルスにはもっと自由な感じで居てほしい。こんな無理矢理セクシーにしなくていい。これは完全にジークの好みだ。確かに二人で隣に並んで歩いてたらカッコイイだろうけど……だからこそ何か悔しいじゃん!?

「アルス、ちょっと着てみて」

「おう!」

 対する私がアルスに押し付けたのは、ジークとは正反対の雰囲気を持った、空のように澄んだ淡いブルーグレーのジャケットと、白地に黒いチェック柄が織られたスラックス。インナーも白いシャツとドット柄の蝶ネクタイ。ついでにシンプルなスエードのシューズとスラックスの裾の隙間から見える靴下は、差し色で赤を選ばせてもらったわ!ちなみにベルトじゃなくてサスペンダーなのもポイントね。

 実際に私が選んだセットを纏って試着室から出てきたアルスを見てくださいよ。

「よし、着てみたぜ。どうだ?」

「かわいいーーーっ!!かっこいいーーーっ!!」

「かっ…………ハッ、やはり、落ち着きのないコメディアンみたいだな」

 かわいいだろうが。

 見てよ、アルスの金髪とこの淡いトーン出揃えたアイテムの親和と調和を。アルスの痩身を包むスーツの清潔さを。

 足下からちらちら覗く赤い靴下が何ともお洒落じゃないのよ。

 自分でもやり過ぎなくらい可愛くしちゃったかなと思ったけど、さすがはアルス。持ち前のチャーミングさで、自身の長身が醸し出す迫力もカバーしてしまえるとは。視線が顔面とスタイルにそれぞれ交互に集中するのでね、全体とか気になんないんだわ。

「早く俺が選んだ服に着替えろ」

「わかったわかった、焦んなって」

 感動する私を横目に、ジークは不機嫌そうにアルスを催促する。何よ、かわいいって言いかけたくせに。

 忙しないファッションショーにも、アルスは不満を漏らすどころか、心底嬉しそうに付き合ってくれている。

 ジークに促されて戻った試着室の中からも、ごそごそと着替える音とともに、時折アルスの鼻歌が混じって聞こえてきた。

「なあ、サイズってこれで合ってんのか?」

「ああ」

 襟や袖を気にしながら、再び試着室から出てきたアルスは、ジークが思わず拍手を送るほど、モデルとしての完成度を誇っていた。

 私が選んだ細身のものとは逆に、やや広く、体格が良く見えるようなシルエットのスーツは、普段のアルスとは一味違った魅力を引き出している。

 アルスの瞳と似た色の生地の輝きは、明るい昼間よりも、きっと夜の静かな時間が似合う。くっそお。

「フッ……合格だ」

「うっ、ぐっ、くう~~~……!!」

「どうした?ザラ。素直に負けを認めたらどうだ」

「違うから。悔しくて呻いてるんじゃないから。お腹痛いだけだから」

「負け惜しみを。……本当に痛かったらちゃんと言うんだぞ」

「そうだぞ~」

 何か張り合い甲斐が無いんだよなぁ。

 ていうかこれ本当、ジークと隣に並んだ時一番かっかっこいいやつじゃんかよぉ。

 でもその理屈で言えば私のコーディネートは私の隣に並んだ時一番可愛いはずだ、負けるなザラ。

 心配そうにお腹を擦ってこようとするジークの手を叩き落とし、私はその場を誤魔化すように、アルスに詰め寄った。

「で、どっち買うの?」

「ええ~?迷うな~……」

「俺の方を選ぶに決まっている」

「バカ?私とジークじゃアルスと過ごしてる時間が違うから」

「背中を合わせた回数は俺の方が上だ」

「キーッ!!」

「痛ッてェ!!」

 男の子同士の絆マウントに思わず足が出てしまいました。ご容赦を。オホホ。

 友人兼兄妹とただの友人同士、どっちが好みを熟知してるかなんて比べるべくもないことですけれどね。それはそれとしてアルスの意志も尊重したいからね。ほら、私って女神のように寛大で慈愛に満ち溢れた人格者なので。

 鏡の前でうんうん頭を捻るアルスに焦燥感を抱きながらも、決断の時を待つ。

「これの中間になんない?」

「「なんねーよ!!!!」」

 本人は悩んだ末に出したものなんだろうけど、そのあまりにも忖度のない答えに思わず宿敵と一緒に声を揃えてしまった。よりにもよって一番頭に来る台詞を今言うかね。

「選べね~~~!!ザラかジークかなんて……!!」

「いや、服ね。服の話だから」

「お前だけの用事じゃないんだ、さっさと決めろ」

 アルスはとうとう、両方の衣装を抱えて蹲ってしまった。そんなに悩ませてごめんて。

 しかし、ジークの言う通り、一応今日は例の件で下見も兼ねている。自分たちから提案していおいてなんだけど、出来るだけ巻いていきたい所存である。

 いっそ本当にジークと二人で協力して、その中間コーディネートとやらを組もうかしら……と思い直しながら、ふと何とはなしにお店の大きなショーウィンドウの外に視線を向けた。

 ホワイトサロンの路地に行き交う人々は、お店の前を素通りしたり、アルスと同じようにスール姿の男性は時折立ち止まって店内を窺う素振りを見せたりと、それぞれに違う反応を見せる。

 大型の魔物との戦闘を想定した砦という土地柄も相まってか、市民に混じって、多くの鎧姿のハンターや、ローブ姿の魔導士の姿もある。

 ヒューマー、エルフ、獣人……その種族も様々だ。

 その人の流れの中に、見つけてしまった。無意識に目が追う。

 ──見間違える筈も無い。

「どうした、ザラ。急に固まって……」

 私はジークに構わず、お店を飛び出した。

 今まさに、私たちの居る服飾店の前を通り過ぎようとする人物の腕を掴まえて、私は無理矢理に引き留めた。

「グリムヴェルト、何でここに居るの!?」

「ああ、ザラか……。やれやれ、一番見たくなかった顔だよ」

 引いた腕には、手錠のようなものが嵌められていた。

 ──クロムウェル=グリムヴェルト。

 私たちの最大の敵だった、人造人間(ホムンクルス)

 異様だった容姿は、私たちが人間に造り替えたことにより、すっかり人間たちの街並みにも馴染むようになっていた。

 今は半年前に起こった、“幻魔大量発生事件”の首謀者として王都に拘置されている身で、私も数回、面会に訪れたことがある。毎回断られたり、嫌がられてたけどね。

 自分という存在を憎み、そして自分を産むきっかけになった私とジークを憎んでいた彼が、そう簡単に心を入れ替えて釈放されたとは考えにくい。

 グリムヴェルトの傍らで、やはりというか、漆黒と白銀、対照的な鎧を纏う二人組が同時に振り返った。

「エ、エルネストさんまで……」

「よ~っす……。おいおい、そんなに警戒しなくてもいいんじゃん……継承権争いは終わったんだしさ~……満月でも何でもねえし……」

 案の定、グリムヴェルトの監視役として、魔騎士が随伴していた。一人は、低血圧お兄さんのエルネストさん。七曜の剣関連以外にも、よくお会いする顔だ。

 そしてもう一人は、いつの間に私を追いかけてきていたアルスを真っ直ぐ見据えて、静かに口を開いた。あ、ちゃんとジークも付いてきてる。

 何気に手にはお店の紙袋が握られていて、結局私とジークどっちのコーディネートを買ったのか知りたいところだけど、今はそれどころじゃない。

「また会ったな、幻影の住人」

「あんた、ディアマン、だっけ。この間は世話になったな」

 宝石人の騎士、ディアマンさん。ついこの間のジェイデス神殿での継承権争いの時にも現れたものの、その時は押し寄せる幻魔に対して、私の仲間たちと協力して戦っていたという。

 ……ということは。七魔将の中でも結構常識人枠のお二人なのでは?

 私はちょっと安心した気持ちになって、二人の様子を窺った。確かにエルネストさんが言うように、今は警戒するようなタイミングではなさそうだ。

「何で彼をこんなところに連れ来たんですか……?」

 グリムヴェルトを指した指先は即座に叩き落されたけど。

 睨み合う私とグリムヴェルトを差し置いて、エルネストさんはホワイトサロンの街並みの遠くへと視線を向け、顎をしゃくって私たちにもそうするように促した。

「ふ~……そろそろ分かるんじゃね~の……」

 エルネストさんに倣い、目を皿にして、景色に集中する。

 しばらくそうしていても容量を得ず、首を傾げる私とジークの隣で、いち早く、アルスが何かを察知した。持っていた紙袋を乱暴に地面に置き、腰に提げた魔硝剣を引き抜く。

 アルスの剣呑な表情と、鋭い眼光が向けられた先の光景に、ようやく私たちにも合点がいった。

「あれは……!!」

「霜の、巨人……!!」

『アッ!!とうとう出やがったな!!』

「魔界で取り逃して以来か?ようやく見つけたぜ……!」

 それまで静かにしていたお父さんまでムキになって声を上げるくらいの事態。

 ──霜の巨人。

 グリムヴェルトが生み出した、文字通り、建物ほどの巨大なクリスタルで出来た人型の幻魔。

 忘れもしない。グリムヴェルトが初めて敵として現れた、魔界での戦い。アルスとも因縁があった筈だ。

 そうだ、あの時は結局グリムヴェルトも巨人ごと撤退して、アルスもそれを追いかけたきりで見失ったままだった。この反応を見るに、長いこと捜していた宿敵であることは間違いないようだ。

 それも、一体だけじゃなく、数体が列を成して、ホワイトサロンの街を囲う防護壁や、物見櫓を通り抜けながら、ぼんやりとこちらに向かって侵攻していた。

 街は即座にパニックに陥り、市民は一斉に逃げ惑った。立ち止まったままの私の肩にも、向かい側から走り抜けてくる人が次々ぶつかる。

 アルスは幻魔に向けたものと同じ厳しさで、グリムヴェルトを見据えた。

「お前がやった……ワケないよな」

「当然だ。今の私にそんな力が無いことは、君達がようく知っている筈だろう?」

「じゃあ、魔界で現れたのとはまた別の個体?」

「さあね。確かに最初の一体を生成して、幻界を襲わせたり、魔界で君達にけしかけたのは私だ。だけど、今は制御を失ってる。増殖でも何でもするだろう」

 そんな無責任な、とは言い難い。何より、このグリムヴェルトから、その幻魔を操る術を奪ったのも私たちだ。

「ああ、アルス。怒ってるのかい?故郷のことを忘れて、呑気に人間界で暮らしてたのは君の方なのに」

「そうだよ。だから、自分にも腹が立ってる」

 ゆったりと歩みを進める巨人から視線を逸らさずに、アルスが静かな怒りを露わにしていた。

 そんなアルスの様子に、グリムヴェルトは小さく鼻を鳴らした。

「今朝、この辺りであの巨大型幻魔の目撃情報と被害報告が数件、寄せられた。幻界出身のハンターが所属しているというギルドに連絡を取ったが、当人は非番だと言うのでな。仕方なく、この人造人間を参考人として連行することになった」

 ディアマンさんが、逃げ遅れそうになる人々の流れを華麗に捌きながら、盾にするようにグリムヴェルトを突き出した。

 なるほど、そういう事情ね……。やっと理由が分かったわ。確かに、これ以上の適任は無い。

「ったく……午前中から呼び出されてまともに働けると思うなよな~……」

「貴様はいい加減、その弛みきった態度を改めて、規則正しい生活を心がけるべきだ」

「うるっへ~~~……出来たらしてんだっつ~の……モラハラ野郎がよ~……」

 うん、その幻界出身のハンター、休日なんで呑気に服買ってましたって言いづらいな。

 とはいえ、結局こうして唯一幻魔を使役していた人造人間と、幻界出身者が一堂に会したワケで。

「だが、アルス・コペルニクスがこの場に居るのなら、話は別だ。協力してもらうぞ」

「言われなくとも」

 頷くアルスと一緒に、私とジークも各々の武器を手に取る。どうせ幻魔を封印出来るのはアルスとジークだけだし、こういう時は一蓮托生だもの。こいつらの手綱を握る人間として、私にもやれることをやらないと。

「俺らは避難誘導手伝ってくっからさ~……ま、丁度いいし……後はヨロシク~……」

「分かりました、エルネストさん達もお気を付けて」

「心配には及ばない」

「あんたらも、適当に切り上げて来いよ~……っと……」

 そう言って魔騎士二人は街の混乱を収める為、高速具を付けたままのグリムヴェルトを放置し、人込みの中へ向かっていった。

 一見、厄介ごとを押し付けられたように見えなくもないけど。適材適所というやつだ。

「ここで決着つけてやる!」

『アルス、慎重にな。でも幻界の美しい景色をブッ壊した文明の仇だ!スマートかつ大胆にギッタンギッタンにしてやれ!研究対象を破壊された学者の痛みを味わわせてやれーッ!!』

「お、おう!」

 お父さんが興奮気味に声を荒げていた。義理の息子の生まれ故郷に対する……というよりかは、自分都合の比率が大きいようだ。自分で自由に動くことが出来ない分、鬱憤も溜まっているんだろう。

 再び巨人に標的を定めると、何だか、あの表情の無い虚ろな頭部と目が合ったような、お互いにばっちり補足し合ったような、不気味な寒気が走った。

 そして、それを裏付けるかのように、巨人の群れは、私の姿を見つけるなり、それまで緩慢だった足取りに妙な速度を増し始めた。どしん、どしん、と、一歩進むたびに地面が揺さぶられる。

「うわあ、なんかこっちに向かって一直線だよ!?」

「そりゃ、君が一番魔力を持ってるんだからそうだろう。幻魔の習性を忘れたわけじゃあるまい?」

「出たよーっ!!」

 ──出たよ、その理屈!!

 好きで一番魔力がある訳じゃないのに、いつもこの仕打ち。分かってます、分かってますとも。何なら私が居るから幻魔が現れたとでも言いたいんでしょう。そうでしょうとも。

 ど、どうしよう。

 逃げたら立ち向かった意味無いし。

 私が情けなく狼狽えている間にも、アルスは走って行っちゃうし。

 えーい、もうこうなりゃヤケだ。後ろでふんぞり返っているグリムヴェルトを無視して、私もアルスに続いて駈け出す。

「ザラ、俺達の後ろに」

「う、うん!」

 同時に、ジークもエメラルド・タブレットを携えて、私の前に躍り出た。どっちみちあなたたち二人の全力疾走には付いていけないから、大丈夫です。

 まずはこれ以上、街に侵入させないように、私の魔法で足止めでも何でもしてみよう。大丈夫、私だってあの時から大分成長したんだ。同じ敵に負けたりなんかしない筈。

 ……近寄ってみると、前より大きくなったような気もしてくるけど、大丈夫な筈。それが何体も居るなんてことに軽く絶望したけど、大丈夫な筈!!

 既に建物の屋根と屋根を自在に飛び回りながら、巨人の体に斬撃をお見舞いしているアルスの影を見上げながら、私も自分の杖を構える。

 巨人の大きな手が、間近に迫ろうとしていた。私を捕まえて、食べる気なんだろうか。

 ジークが駆け寄ってくるのが分かる。大丈夫。囮役だって、もう慣れたものよ。

 目の前に、クリスタル越しの歪んだ街並みが広がる。ぎゅっと目を閉じて、意識を杖に集中させた。

「──あれ?」

「何故、私を……っそうか、()()()()()()!!」

 気が付くと、巨人の手は私の身体を無視して──更にその背後にある、グリムヴェルトに向かって伸ばされていた。

 陽の光に照らされて輝く巨大な掌が、まるでままごとの人形を乱暴に扱うように、グリムヴェルトの身体をむんずと掴み上げた。

「グリムヴェルト!!手を伸ばして!!」

「──!!」

 私が巨人の手に追い付こうとしても、適わない。おもちゃ箱から見つけ出した宝物以外はいらないとでもいうように、手の甲で力強く押し返されて、尻もちをついた。

 もう一度起き上がって走り出す。それでも、グリムヴェルトは、私に縋るくらいなら大人しく食われるつもりらしく、巨人の拳の中で抵抗すらせずにじっと耐えていた。いかにも彼のしそうなことだ。

 グリムヴェルトを摘まみ上げた巨人は、餌を自分の頭部まで運んだ。

 途端に、それまで口や目鼻といったパーツすら無いと思っていた場所に、歯列のような切れ目が走った。まるで口のように開いたそこには、幻界特有のオーロラの空間が広がっている。

「待っ……!!」

 止めたいのに、既に、もう次の巨人の腕が近くまで迫ってきていた。私はそれを掻い潜るのに必死で、彼が──グリムヴェルトが呑み込まれるその瞬間を見届けることさえ出来なかった。

 悲鳴のひとつもなく。グリムヴェルトの姿は忽然と消えて無くなっていた。

 彼を呑み込んだ巨人が、突然、眩く発光しだした。グリムヴェルトを呑み込んだその口から、爆発するような勢いで光が漏れ出す。巨人の体の中で、花火が暴れているみたいだった。

 あまりの眩しさに目を覆い、立ち尽くす。

 一体、何が起きているのか。幻魔が人間やモノを食べる光景は、これが初めてじゃない。

 だけど、あいつらは、あえてアンリミテッドの私ではなく、グリムヴェルトを選んで食べた。それにどんな意味があるのか。

 その答えが、今明らかになろうとしていた。

「そんな……!!」

『何で……』

 ()()()()()()()()()()()。グリムヴェルトのものだ。

 ──良かった。どうにか生き延びたんだ。そうだ、幻魔を操る術を失ったからといって、魔術まで扱えなくなってしまった訳じゃなかったんだ。

 未だちかちかと白く閃いている視界が元に戻るのを待って、私は再び巨人を仰ぎ見た。

 きっとグリムヴェルトが居る筈だ。そう思ったのに。

『何でこんな事にィィィーーーーーーッッ!?!?!?』

「でっかーーーーー!!!!???」

 そこには、巨人の群れの代わりに、巨人より大きくなったグリムヴェルトが佇んでいました。

 何でよ。







.

.

.

.

・後日、修正・加筆します…。何なら誤字脱字報告等、あればよろしくお願いします。。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=68615004&size=88
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ