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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
237/265

第三の剣・魔錫剣・4




 地上でジークとヴェインさんが争う音が聞こえてくる。

 振り返って後戻りしたいのを必死に抑えて、今はただ、洞窟の奥を目指した。

 大丈夫、ジークなら、きっと、絶対大丈夫。そう自分に言い聞かせながら。

 私は、再び相対した壁の女性に向けて、ヴェインさんから預かった鍵を掲げた。

 そして、問う。

「私を呼んだのは、あなたですか?」

『──そうだ』

 洞窟の冷たい棺の中で眠っていたエルフの女性は、静かにそう応えた。

 ここに来なくちゃ、と、訳も分からず走ってきたから、まさかこうして会話まで出来るなんて思ってもみなかった。

 でも、私はどこかで、確信していた筈だ。今日、この鍵を手にして、この洞窟に足を踏み入れた時に。

 女性は凍り付いた壁の中で、身動き一つもせず、けれど鮮明に、私に囁き、呼びかけ続けたのと同じ声色で語る。

『妾はミュ=ナ。エルフヘイムの女王にして……真祖ル=メルより、七曜の剣が一振り、“魔錫剣ウアスの杖”を継承せし者』

 今更、驚いたりもしなかった。

 いや、ええと……エルフヘイムの女王、とかは流石に想像してなかったけど。

 これで全ての点と点が線で結ばれた。

 ヴェインさんが私に託した“アイツ”──それこそが、このミュ=ナさんであり、今回の七曜の剣の英霊として、私たちに儀式を行わさせる筈だった人物。

 きっと、フェオ=ルさんもこれを知っていたんだ。もしかしたら、ヘルメスさんも。最初から、全ては彼女が鍵を握っていた。

『次代のアンリミテッドよ──その鍵で、妾の封印を解いておくれ』

 そして、彼女を解き放つのは、私の役目だ。

 若々しい姿とは打って変わった老練な口調で、ミュ=ナさんもその望みを口にした。

「本当に、いいんですか……?」

 私が“鍵”を握り込む様子を壁の向こうから眺めているのか、ミュ=ナさんは小さく微笑むような音を零した。

『あの男に苦戦しているのだろう』

 彼女が示す“あの男”についても、確かめる必要はない。

 むしろ、彼女こそが、誰よりもヴェインさんを知っているような、親しみのこもった言い方だった。

「……はい……っ!私の……大事な人が戦ってくれてるけど……いつまで保つか分からないし……外には幻魔だって湧いて来てるし!仲間も置いてきちゃったし、明日も学校だから、なるべく早く帰りたいし!」

 私はミュ=ナさんに縋るような思いで、矢継ぎ早に告げた。

『妾に策がある』

 だから、ミュ=ナさんが力強くそう提案してくれたことが、涙が出そうになるくらい嬉しかった。

『その代わり、其方は……母様を……復讐に憑りつかれたフェオ=ルを、七曜の呪縛から解き放ってくれ』

 私は頷き、銀色の鍵に魔力を込めた。

 その瞬間、ばきばきばき、と、音を立てて、氷の壁に大きな亀裂が走った。周囲に霜が散り、冷ややかな霧が立ち込める。

 棺でありながら、宝石を眺める為のショーケースのようにミュ=ナさんを閉じ込めていた壁は次々と砕けていく。

 ヴェインさんが施したであろう美しい檻から抜け出したエルフの女王は、おとぎ話のように妖しくて、儚い。

 その静謐な覚悟の横顔には、フェオ=ルさんの面影があった。





「ジークッ!!」

 地上に戻ってすぐ、祭壇の影でぐったりしているジークを見つけ、即座に駆け寄った。

「ザラ、無事か」

「私なんか平気だよ!ジークの方が無事じゃないじゃん……!!」

「どうってことない」

「あるでしょうがぁ!!どういう意地の張り方してんのよ、このバカッ!!」

 あちこち血塗れでボロボロだというのに、何故かこのバカ魔族はそれを認めたがらなかった。

 介抱しようとする私さえ押し退けて、無理矢理に立ち上がる姿は、痛々しさを越えて、どこか狂気的ですらある。

「フン。向こうが思ったよりやる奴だっただけだ」

「もぉ~~~……!!」

 でも、そのとんでもない、ぶっ飛んだジークだから、あのヴェインさんの相手をしても、こんな風に突っ張っていられるんだろう。私は何故だか、誇らしかった。

 そして、当の敵であるヴェインさんはというと。

 遠くから、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、傷一つない身体を軽やかに弾ませて近付いてくるのが見えた。

「アンリミテッドにデミヒューマン。お前ら、どっちもこの世界にとっちゃ“異物”だろ?憎くねえのか、この世界が。この世界に生きる連中が」

 悠々と歩み寄ってきたヴェインさんは、ジークにとどめを刺すでもなく、私に攻撃を加えるでもなく、ただ、挽肉を卸す前の品定めのように、そう問いかけた。

「気持ち悪くねぇのか?俺達と他の連中は明らかに違う生物だ。それなのに同じ言葉を操り、同じ価値観で生きようとする。俺達が一度叩きゃあ死ぬような連中が、俺達を同じ人間のように扱う。イカレてんだろ」

 まるで、どこかの駄々っ子人造人間みたいなこと言うじゃない。

「イカレてるのは、あなたです」

「ハッ。毒されてんなぁ。意味ねえって」

 私が一蹴すれば、ヴェインさんは瞳を翳らせて、退屈そうに路傍の石を蹴り上げた。

 恐ろしくて、悍ましくて、烈しい炎のような人なのに。どうしてか、私やジークに語りかける言葉には、惜しむようなものがあった。

 関わった人間が一人も生き残っていないとさえ言われた先代アンリミテッドは、その凶悪さの後ろに──もっと別のものを隠しているような気がした。

 でも、彼の中に人間らしい揺らぎが垣間見えたのも、その一瞬だけだった。

 ヴェインさんが舞うように鋭く踵を返すと、祭壇の周囲を氷塊が覆い尽くした。

「そろそろ死んどけ」

 逃げる暇も隙もなく、上下左右から、鋭利な氷柱の壁が迫る。挟まれたら、どころか、触れただけで、私もジークも容易く貫かれるだろう。

 杖を構え、雷の魔法を放ってみても、閃きは氷の中に吸い込まれていくだけだ。

 ジークが私を庇うよりも先に、私がジークを押し倒した。

 瞼を強く閉じて、歯を食いしばる。大丈夫、オリヴィエが来てくれれば、治療はしてもらえる筈だ。そんなことを考えながら。

 ──しかし、ジークの身体の上で、私が八つ裂きになることはなかった。

「──相変わらずだな、ヴェイン。だが、其方の横暴もそこまでよ」

 ミュ=ナさんの声と共に、全ての氷塊が霧散する。

 アンリミテッドの魔法が打ち消されたことに驚愕しているのは、ジークだけじゃない。

「ミュ=ナ……何故、お前まで……」

 薄明の月に照らされた霜の粒が降り注ぐ光景の中で、ヴェインさんが、初めて動揺を見せた。

 目の前で起きたことが信じられないというように目を丸くして、浅い呼吸を二度、三度と繰り返した。

「其方の魔力のお陰だ」

「ああ……そうかよッ、なら、もう一度殺してやる!」

 そして、ミュ=ナさんが現れた理由を察したように、忌々しそうに、愉快そうに歯噛みすると、もう一度魔法を発動するべく両手を翳した。

 今度は熱風が私たちに襲いかかる。牙のような形をした巨大な炎の影が、神殿ごと呑み込もうとしていた。

 そこにミュ=ナさんが再び対抗するべく、私たちの前で立ち塞がった。

 彼女が指先で素早く空にルーンを刻むと、ヴェインさんの魔法は煙となってかき消された。

 僅かな熱気だけを残して退散していく残り火の気配を掻き分けて、ヴェインさんが苛立ったようにミュ=ナさんに飛びかかった。

「俺以外の男、侍らせてよォ。どんな気持ちだよ。ますます殺してやりたくなるぜ」

「ミュ=ナさん!」

 咄嗟に駆け出そうとする私の腕を、ジークが引いた。反射的に振り返ると、ジークは蒼白な顔で、慌てたように首を横に振っていた。

「──“無辺の時空に眠りし異形の昴は、星辰が織りなす滔天の根源の扉を叩く。真空さえ照らす蒼茫の叡智よ、我が手に宿り、秘められし力を解き放たん”──」

 見ると、ミュ=ナさんは、魔法で宙に浮きながら、詠唱を唱えていた。

 ヴェインさんが三度、魔法で追撃しても、彼女の周りにだけ張られた防護壁が、全ての攻撃を弾く。

 まるで神々しい偶像でも見上げているようだった。

 ミュ=ナさんが詠唱を一節ごとに紡ぐたび、私でも分かるほど、周囲の魔力が激しく巡っていく。

 エルフの女王は月の後光を背負いながら、魔力の本流の中心で、ひたすらに精神を研ぎ澄ます。

 一方で、対峙するヴェインさんは、狼狽したように必死の形相で、ミュ=ナさんの防護壁を破ろうと、次々に高威力の魔法を射出していた。そのどれも、彼女に掠りもしないと分かっていながら。

「魔法なんか使ってんじゃねえ……!!ふざけんな!!そんな下らねえ死に様、許さねえぞ!!」

「妾は、これで良い」

「やめろ、お前は俺が殺す……お前が死んで良いのは、俺の魔力だけだッ!!」

「聞こえなかったのか。妾は、この為に蘇ったまで。其方との因縁も、一度は終わったものだ。なれば、再び我等の手で幕を引こうぞ」

 ミュ=ナさんが、ルーンを結んでいた指先を鋭く振り下ろす。

 その瞬間、世界が光で溢れた。

「ミュ=ナアアアアアァァ──────ッ!!!!」

 最後に放たれたのは、ヴェインさんとミュ=ナさん、どちらの魔法だったのだろう。

 それさえも分からない真っ白な衝撃の中で、爆発するような音が遅れてやってきた。

 叫んだ自分の声さえもかき消される。

 かろうじて、ジークに抱きしめられて、地上に留まっているのだけが分かった。

 ようやく視界が戻ってきた頃、爆心地の中心で戦っていた筈の二人が、共に地面に伏しているのが見えた。

「ミュ=ナさん!!」

 先にミュ=ナさんが起き上がり、ヴェインさんの傍に這いずるようにして近付いていた。

 ミュ=ナさんは──下半身が吹き飛び、上半身も既に元の骸骨に戻ろうとしているヴェインさんを愛おしそうに抱えて、自らの膝に横たえた。

「ヴェインさん……」

「チッ……。見下ろすんじゃねえよ……」

 あっという間の出来事だった。

 “策がある”、というミュ=ナさんが、壁から抜け出し、ヴェインさんを打ち倒すまで。

 彼女は、最初から、相打ちになる覚悟で、ヴェインさんと──愛しい人と戦うつもりだったのだ。

 その話を聞いた私は、二人の間にある因縁を前に、何も口出しすることが出来なかった。

 現にこうして、殺し合った恋人同士は、互いを求めるように触れあっている。

「妾が其方を殺せても、其方に妾は殺せまい……」

「クソ……よく分かってんじゃねえか」

「其方は……」

「言うな。言うんじゃねえよ……」

 苦悶の表情を浮かべながらミュ=ナさんの頬を撫でたヴェインさんの指は、砂となって零れ落ちる。

 ヴェインさんの身体がミュ=ナさんの腕の中で朽ち始めたのと同時に、神殿を覆っていた異様な緊張感が、ふっと緩むような感覚があった。それでも尚、ヴェインさんは人の形を留めて、ミュ=ナさんの傍から離れようとしなかった。

「結界が消えた。……やはり、その男によるものだったか」

 ジークが過敏に感じ取る。ヴェインさんが斃されたことによって──あの、例の“三百歳以上立ち入り禁止結界”とやらが、解除されたということらしかった。

 その証拠に、間もなく、神殿の外に弾き出されていた筈の、紛れもないフェオ=ルさん本人が走ってくる姿があった。

「ミュ=ナ!!」

 フェオ=ルさんは戦いの痕跡が残る雪の道を踏みしめて、ヴェインさんに寄り添うミュ=ナさんのもとへ向かった。

「アンリミテッド……!!」

 その憎しみは、どちらに向けられたものだったのだろう。

 今にも頽れそうな娘を抱き締めるよりも前に、彼女はアンリミテッドに対する憎悪を露わにした。

 私は、改めて、自分の力が恐ろしくなった。

 ヒトを──母親を、こんな風に変えてしまう力を、私も、ヴェインさんと同じように持っている。

 きっと、彼等は、私の“有り得たかもしれない可能性”だ。

 フェオ=ルさんは、けれど、ヴェインさんを責めようとはせず、彼の前で無力に項垂れた。

「……貴様に殺されても、良いと思ってしまった」

「……アンタ、変わったな」

「娘を失えば、心変わりもする。我も所詮……人間だ」

 三人が互いの過去の感情をぶつけ合う光景を眺めながら、私は、密かに、ジークと繋ぐ手に力を込めた。

 見届けなきゃいけないと思った。

 放心したようなフェオ=ルさんの姿に満足したのか、ヴェインさんも、それ以上、悪態をつくことはなかった。

 そんな時間さえ惜しいというように、ただ、噛み締めるように、目の前の最愛の人との最期の挨拶を交わしていた。

「ミュ=ナ……待ってる」

「ああ、すぐに……遅くなってすまなかったなぁ……」

 そうして、ヴェインさんの優しい微笑みは、温かさを残したまま、遺骨の姿へと還っていった。

 そしてそれから間もなく、ミュ=ナさんも、力を使い果たしたように頽れた。

 私が支えたミュ=ナさんの身体は、紙のように白く、軽かった。

「ミュ=ナさん!体が……!?」

「妾も、元は死に体だ。ヴェインの魔力で……人の形を保っていただけに過ぎぬ。留めていた時間の針が……進んだだけだ」

「待って……!どうにか出来ないの……!?」

 最早呼吸さえままならないミュ=ナさんは、今にも力尽きてしまいそうだった。まるで、魂も魔力も、根こそぎヴェインさんに道ずれにされてしまったみたいに。

 私を押し退けるようにして、フェオ=ルさんが割り込んできた。

 フェオ=ルさんは、ミュ=ナさんの首元や腕を確かめると、絶望したように、握っていた杖を落とした。

「莫迦な……ここまで月食(つきは)みが進行していたのか……!?おまえ、まさか、あの男の……」

「違う、のだ、母様……これは、ル=メル様の……罰だ……」

 私には、意味の分からないやり取りだったけど。

 ミュ=ナさんが長くないことは、フェオ=ルさんの様子が物語っていた。

 あのフェオ=ルさんが、娘の最期に成す術もなく、身体を震わせている。七魔将としての側面しか知らない私たちからしてみれば、思いもよらない事態だった。

 私は、母親に手を伸ばそうとして、けれど届かないミュ=ナさんの手を取り、フェオ=ルさんに差し伸べた。

「母様……妾は、幸せだった……!愛する人達と、共に朽ちる事ができて……」

 私とフェオ=ルさんの腕の中で、ミュ=ナさんの命が無くなっていく。

「母様、産んでくれてありがとう……!!」

 最期に、母娘はやっと抱き合った。

 それまで軽かったミュ=ナさんの肢体は、ぐっと、ずっと、重さを増した。もうどこにも、彼女の力は宿っていない。私が持っていた銀の鍵も、留めていた時間の負債が一気に押し寄せたように、瞬く間に錆付いて、塵芥となって雪の中に埋もれていった。

「莫迦もの……莫迦ものめ……」

 娘の遺体に縋る母親の目に、涙はない。

「嗚呼……何故、我には……我が娘の為に流す涙すら……残っておらぬのだ……何故……憎しみなどの為に……流し尽くしてしまったのだ……」

「フェオ=ルさん……」

「愚かな母を許しておくれ、ミュ=ナ……」

 月を仰ぐ魔女の懐から、一振りの杖が転がり落ちた。

 動物の頭を模した衣装が施された、杖にしか見えない柄からは、鋭く輝く刃のようなものが垣間見えた。

 それは杖の中に暗器として隠された剣──すなわち、“ウアスの杖”だった。

 正式な継承者だった筈のミュ=ナさんが亡くなってしまった今、恐らく、継承の儀式はやり直しになるだろう。

 それなら、私たちにももう一度手に入れる機会がある。

 ──そう、だったとしても。

 私は受け入れられない。

 私は“ウアスの杖”を拾い上げ、フェオ=ルさんのもとに返した。

「この剣は……フェオ=ルさんが受け継ぐべきだと思います」

「アンリミテッド……」

 ここではないどこかで、もう一度儀式をやり直して、継承権を争うことが出来たとしても。

 この剣を受け継いだ人たちの想いだけは、無駄にしちゃいけないと思った。

「ジーク、せっかく戦ってくれたのに、ごめん」

「いや。異論は無い」

「みんなに謝らなくちゃね……」

「理由を知れば、納得してくれるだろう」

「ヤ、ヤイバも……?」

「あいつは知らん」

 ここまでボロボロになってくれたジークには申し訳ないけど。

 でも、ジークなら許してくれるって、分かってた。

 そうよね。ジークの言う通り、きっと他の仲間たちだって、きちんと説明すれば理解してくれる。ていうか、させる。

 ──こうして、三つ目の七曜の剣と、アンリミテッドにまつわる戦いは、決着を迎えた。

 継承自体は、私たちの負けで、つまり、失敗だ。

 お父さんを人間に戻す為の道具を一つ、失ってしまったことになる。

 ヘルメスさんの代理としても情けない体たらくを晒してしまった。それでも、私は、間違ったことはしていないと思う。

 お父さんのことは、何とかなる。七曜の剣のことも。私のことも、ジークのことも。

 憑き物が落ちたようなフェオ=ルさんの表情を見ていると──きっと、これからも何かが大きく変わるような気がしたから。

 ……とにかく、今は……どうしよう。

 ミュ=ナさんを運んで、みんなと合流して、それから……。ああ、ショッキングな事が立て続けに起きたから、地味に頭回んないかも。

「ヤッホー☆そろそろ決着ついたかしらーん!?」

 疲労した頭で考えていると、上空から、箒に乗ったヘルメスさんの明るい声が響いた。

 突然差した箒の影をぼんやり見つめていると、それに続くように、神殿の下の坂道から、アルスを筆頭にした仲間たちが現れた。

「二人とも、無事……じゃねえじゃんか!」

「じっとしてろよ、今、オレが治すから」

 アルスとオリヴィエは、ジークを見るなりぎょっとして、慌てたように魔眼による治療を施そうとする。

 私のもとを離れたミュ=ナさんの遺体は、もう一人の七魔将──宝石人のディアマンさん、というらしい方が、ロノさんの身体と一緒に担いでいった。

 山道から去ろうとするフェオ=ルさんは、一度だけこちらを振り返ると、

「アンリミテッド……。あの娘を、看取らせてくれて……感謝する」

「……はい。ロノさんにも、よろしくお伝えください」

 私の言葉にも、聞こえたのか聞こえたのかよく分からないような態度で鼻を鳴らし、何かを振り払うように急ぎ足で山の中に消えていく。

 その手には、しっかりと、“ウアスの杖”が握られていた。

 緊張の糸が切れて、どっと疲れた私は、尻餅をつくようにその場に座り込んだ。

「お疲れちゃんっ♪」

「ヘルメスさん……ごめんなさい、ギャフンと言わせられませんでした」

「だいじょびだいじょび、問題ナッシング☆きっとザラちゃんのことだから、フェオルンに譲ってあげたんでしょ?」

 やっぱり、ヘルメスさんには何でもお見通しみたいだ。

 私と目線を合わせるように屈み込んだヘルメスさんは、私の失態に憤るどころか、まるで労うみたいに私の頭を撫でた。

 一方で。

「譲ったって……譲ったってことかい!?」

「何じゃそりゃぁ!?」

「ご、ごめん。ちょっと、よんどころない事情があって……」

 ヒエンとヤイバの二人にとっては、やはり聞き捨てならない情報だったようで。

 私の体調にもお構いなしに、二人が勢いよく詰め寄ってきた。こうなることは覚悟してたけど、いざ実際にこの状況に追い込まれると、結構しんどいものがある。主にオーガと妖怪の圧がすごくて。

「まーまー、ザラちゃんもジークくんもグロッキーなんだし、今日のところはドロンしちゃいましょ☆」

 そんな二人と私の間に入って、ヘルメスさんが宥めるようにまあまあとおどけてみせた。

「ちっ……確かに、これだけの明るさで忘れそうになるが、今は深夜だったな」

「そうじゃったわ!イカンイカン、ワシも早う帰って店の準備をせにゃおえん」

 何とか矛先を収めてくれたことに感謝しつつ、私はほっと胸を撫でおろした。これは、一度みんなで集まって会議とかやる必要がありそうね……。

 私が一息ついている間に、オリヴィエの魔眼で大怪我から回復したジークが、アルスに肩を借りながら戻ってきた。

「そういえば、幻魔はどうなった」

「問題ねーよ。俺達も戦ったけど、七魔将のディアマンってのがエラい強くてさ。そいつのお陰でかなり楽に封印も出来たし──あとは何より、ヘルメスちゃんが大元の“裂け目”を閉じてくれたからな」

「ヘルメス“ちゃん”……?」

「そう呼べって」

 いつの間にか(アルス)がすっかり大魔女の世界観に巻き込まれていた件について。

 ……は、いいとして。

 そっか。私たちが先に行った後、アルスたちと七魔将で奇しくも共闘するような形になっていたのね。そりゃ、幻魔相手ならそうならざるを得ないか。

「思ったより気持ちの良い奴だったぜ。幻魔が発生してるなら、市民に被害が出ないようにここで食い止めるのが私の役目だーとか言ってさ」

「エルフの女とはえれぇ違いじゃったのう。大儀のある将もおるもんやな」

 確かに、ヤイバの言う通り──今まで会ってきた七魔将は、剣以外ならどうなっても良いとばかりに、とにかく目的に向かって真っ直ぐな人たちが多い印象だったから、てっきりあのディアマンさんもそういうタイプかと思っていたけど。意外や意外、きちんと騎士としての役目を優先していたのね。

「アル坊とは、なんや言い合うとったけどな」

「あの状況じゃ、長々喋ってもいられねーよ」

 アルスは肩を竦めて、揶揄うようなヤイバの視線を往なしていた。どうやら、良い出会いだったようだ。

「とにかく、オレ達のほうは無事だったからさ。ザラも……ジークも、生きてて良かった」

「大袈裟だよ、オリヴィエ」

 先程までボロボロだったジークを間近で見ていたオリヴィエは、私の無事を再び確かめると、泣きそうな顔で大きく息を吐いた。

 みんなにも怪我が無くて何よりだ。きっと、少なからずオリヴィエの魔眼が必要になった場面もあっただろうに。誰もそれをひけらかしたりしない。カッコ良くて、眩しいくらいだ。

 だから、私も精一杯笑顔を作って、オリヴィエの冷たくなっていた頬を両手で包んだ。

 こんな風にすると、オリヴィエは決まって照れ隠しに横暴に振舞うけど、それも可愛いところだ。

「あのなぁ。こっちはガキの頃から、さんざんそこのババアに神殿には近付くなって脅されてたんだぞ」

「そうだったっけ?まあ、それも今日までねん☆あたしちゃんがぜ~んぶまるっと、お片付けしておいちゃったから♪」

 ババア、と失礼にも指差されたヘルメスさんは、相変わらずお茶目でチャーミングな笑みを湛えて、自慢気に魔女帽を直していた。

「“裂け目”を封じた……って言ってましたけど。やっぱり、ここの結界とか、そういうのも全部、ヴェインさんの魔法によるものだったってことですか?」

「ん~~~多分そうね~。元々、昔から幻界と繋がってる場所ではあったんだけどぉ。あのアンリミ()クンがそれを利用して、ウアスの杖の継承者を閉じ込めてた……っていうかぁ、外部から守ってたぁ?みたいな感じぃ?」

「成程……」

 私の横では、ジークが得心したように、顎に指先を添えて頷いていた。

 ヘルメスさんの推測が正しければ──ヴェインさんは、死の間際にあったミュ=ナさんを人目から隠して、誰にも近付けないようにする為、わざわざここを選び、文字通りの死力を尽くし、守護し続けていたということになる。

 胸の奥が締め付けられる。

 もし、私が──ジークを失いそうになった時、そんな事が出来るだろうか。

 同じアンリミテッドが選んだ道は、あまりにも違う形をしていて、想像することさえ難しかった。

 帰りは、流石にカエル化ではなく、ヘルメスさんの転移術で各々の帰るべき場所に送ってもらえることになった。

 術の準備が終わり、あとはみんなを送り出すだけ、というタイミングで、ヘルメスさんが突然、意地悪に囁いた。

「取られちゃったのは剣と継承権だけ。持ってるのは、あくまでヒトなのよん……♪」

 それは、七曜の剣の一振りを七魔将に譲ってしまった私に向けられたものだった。

 きっと、ヘルメスさんからのヒントだ。

 ──“持っているのは、あくまでヒト”。

 私はその言葉を胸に刻んで、転移術の魔法陣の上に立った。






.

.

.






 そして、その晩……というか、暮れごろ、というか。

 ジェイデス神殿から帰り、そのままアルスとろくに挨拶も交わさずベッドへ直行した私の夢の中に、やはり、“彼”は現れた。

『後輩』

「やっぱりしぶといですね……」

『あったりめえよ。無限の魔力っつーことは、無限の魂と同意義よ。そう簡単にこの世から消えて無くなるモンか』

 私の部屋と瓜二つの夢の中の空間で、無限の魔導士は、生前と同じ姿で踏ん反り帰っていた。

 以前は靄のような影に包まれていた表情も、今は月明かりに照らされて、はっきりと窺い知ることが出来る。間違いなく、神殿でジークと戦い、ミュ=ナさんにとどめを刺されたヴェインさん本人だ。

『生前の俺とやり合ったみてえだな。どうよ、楽しめたろ?』

「戦ったのは私じゃなくて、パートナーです。それに、ちっとも楽しくありませんでした」

『ああ?ったく、つくづくつまんねえ生き方してんな。もっと酔狂ってモンを嗜んでみろって。愉しいぜぇ、イカレてるってのは』

「そんなことに……自分の力、使えませんよ」

『オイオイオイオイ。お前それでもアンリミテッドかよ』

 これで三度目の邂逅になるヴェインさんは、けれど、今までで一番活き活きとしていた。とっくの昔に死んでいる人に、そんなことを思うのも変な話だけど。

 自分とは余りに違う私という存在を焚き付けるように、ヴェインさんは大仰な仕草で語ってみせる。

『この力は無限だ!無尽蔵に湧いてくる魔力をどう使ったって良い。身体を強化して、精神を強化して、際限なく強くなれる。ガタが来ようがそれごと魔力で補える。出来ないことなんて何一つねえ!』

「で……でも、あなたは……ヴェインさんは、若くして亡くなってしまったんですよね」

『そうさ。燃やし尽くしたからな。後悔はねえ』

「ヴェインさんをもってしても、不老不死にはなれなかったんですか」

『バカ言え。バケモノになるつもりなんかねえよ。大体、俺はガキの頃から自分が短命だってのは分かってたしな。そん時から腹は決まってたぜ。俺は俺として与えられた有限の時間を、ひたすら欲望のまま突っ走ってやるってよ』

 言っていることは、悪人の主張に他ならない、倫理を欠いた無茶苦茶な台詞なのに。

 ヴェインさんには、魂から輝くような、欲望と力の熱が漲っていた。その様子は、冒険活劇の主人公のような眩い魅力にも移ってしまう。とことんまでハチャメチャを尽くした生き様は、なるほど、彼にしか出来ないものだからだろう。

 あらゆる不可能を可能にしてしまえる無限の魔力。私には無い魔術の知識と技術で、最強最悪の名を欲しいままにした魔導士になら──私が想像出来るようなことは大抵、叶えられたんじゃないだろうか。

「じゃあ……あなたほどの力があれば、アンリミテッドを辞めることも出来たんじゃないですか?」

『その発想は無かったな。何だ、お前、アンリミテッドが嫌なのか』

「嫌って訳じゃないと思います……多分」

 そう思ってふと口にした疑問だったけど。言葉にしてから、改めて、自分でもおかしなことだと気付いた。何でそんなこと考えたんだろう。

 私自身にも分かり得ない気持ちを、ヴェインさんは目敏く察知したのか、その答えにうんざりしながら、それでも、後輩に指導するように仕方ないといったように溜息を吐いた。

『いいか後輩。人生で手に入れらるものは三つある。代表格は愛と金と名誉だ。他には自由とか才能もあるけどな。だが、その内タダで叶えられるのは二つまでだ。それ以上は代償が必要になってくる。テメエの血族、テメエの命よりも大切なもの、そしてテメエ自身の命そのもの。順番に失うことになるぜ。覚悟しとけ』

「ええと……なんとなく、分かります」

 雑に指を折って数えながら、ヴェインさんはそんな話をし始めた。

 改まった雰囲気に、私も居住まいを正して、彼の言葉に耳を傾ける。

『だが、強さは──力だけは、何人にも与えられた普遍の可能性だ。いきなり天才にはなれないが、強さを求める意志に、貴賎は無い』

 ヴェインさんが、窓の外の月を指差した。まるで、ヒトが月夜に焦がれるその慕情も、同じだと言いたげに。

 月という天体を観測する為、望遠鏡を担ぎ、天体図を描き、計算式を導き出す。

 でも、望遠鏡を置く場所も、天体図を描く紙も、計算する時間も必要だ。ひとつのことに専念して、道具も全部用意しようと思ったら、お金は掛かるし、きっと友達や家族に構っている時間も無くなって、気が付いたら一人になっていることもあるだろう。

 ヴェインさんが言う“強くなること”とは、きっとそういうことだ。

『お前は何を求める、アンリミテッド』

 試すように、ヴェインさんは私の瞳を射竦めた。魔性の存在が放つ、裁定の視線だ。

 私は、知っている。こんな時、自分の心の内をどんな風に打ち明けるべきかを。

「──私……、私は……強さとか分かんないけど。誰かに、寄り添える存在でありたい!手を差し伸べられる人間でいたい!」

 自分にもそう言い聞かせて、私は声高らかに宣言した。例えこの場所が、私の生き死にを決める処刑場だったとしても、私は今と全く同じ言葉を放つだろう。

 私の覚悟に、ヴェインさんも、納得してくれたのか、ゆっくりと目を閉じた。その口元は、少しだけ緩んでいる。

『……強さは不可逆だ。一度でも力を手にすれば、弱かった頃には戻れねえ。弱い奴の側には居られねえ。お前がそうありたいと望むなら、お前は弱いままで居ろ。みっともなく周りに縋って、荒事なんかはそのパートナーとやらに任せて、部屋の隅でガタガタ震えてろ。そうすりゃ──笑って見送ってもらえる』

「ヴェイン、さん……」

 まるで──私がさっきまでそうしていたように。ヴェインさんは、眩しくて、もう届きようもない、途方もない場所の星でも見上げたように目を細めていた。

 ショーウィンドウで眺める度に諦めてきた宝石が、目の前で、一番似合う誰かに買われて行ってしまった時のような。

 穏やかで、切なくて、微笑みとも憐みともつかない表情を浮かべて、ヴェインさんは月明かりから顔を背けた。

『ハ。何となく分かってきたぜ。お前は喜劇の女王さ、後輩』

「え゛」

『吸血鬼も魔族も天使も、テメエを見りゃあ、あまりにみっともなくて笑けてくるってモンだろ』

 な、なんか突然ディスられたし。

 確かに、人外のみなさんが私の話をする時、いつも笑ってるような。いやそれ、笑われてるんじゃないの。自主的に笑顔にしてるのと、強制的に笑顔になってるのは大違いじゃない???

『──俺には無かった才能だ』

 そしてとうとうヴェインさんまでもが吹き出した。

 そこで私もようやく、ふと、彼の人生に足りなかったであろうものが理解出来た。

 でも、理解できたからこそ、同情してはいけないとも思う。

 私も、彼も、同じアンリミテッドだ。けれど、全く違う、ザラ・コペルニクスと、ヴェイン=マクガイア・オルタナだ。

 私も彼も一人の人間だというのなら、きっと、……求めていたものだって、そう変わらない筈だ。そうでなければ、彼は、あんな山奥に、奥さんと子供を隠したりしない。

 真っ暗だと思っていた窓の外は、気が付くと、嫌というほど見た朝焼けの色に染まりつつあった。

「あのライターも、ヴェインさんのですよね」

『お前と縁が出来たのもアレのお陰だ、感謝しな』

 以前、シェンさんのお店で見つけた、ジッポライター型の魔導演算機。

 恐らくあれは、ミュ=ナさんに宛てたメッセージだったのだろう。今や塵となって消えてしまったものの、私は、全てを見届けた。

『おっと、そろそろ時間か。じゃあな、後輩。せいぜい下らなく生きろ』

「ヴェインさんは、どこに行くんですか?」

『さあな。──ま、ちっと()()でも迎えに行ってくるわ』

 ヴェインさんは片手に“女房”のジェスチャーを示して、徐に部屋の窓を開け放ち、窓枠に足を掛けた。

「──行ってらっしゃい。無限の魔導士」

 吹き込む風に揺られるカーテンの中で、男性のシルエットが、外に向かって飛び立っていく。

 小鳥たちの囀りに混じって、私の現実にも、朝の気配が近付いていた。






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・ウアスの杖編、これにて完です。後日改めて、修正・加筆します。


・ちなみに、フェオ=ルの手で蘇ったヴェインとザラの夢の中に現れたヴェインは別個体といいますか、微妙に“生前の魂”と“死んだあとも彷徨い続けている魂”としての差があり、記憶も共有していません。なので、蘇りしヴェイン(仮)は、彷徨えるヴェイン(仮)がザラに何を託したか、というのは知らなかったりします。でも逆に、彷徨えるヴェイン(仮)は今回の顛末を知っていそう。


・七魔将の項目にフェオ=ルのプロフィール、七英雄の項目にル=メルやウアスの杖について追記しました。




・【ヴェイン=マクガイア・オルタナ】


性別…男

年齢…享年19歳

身長…183cm

種族…ヒューマー

誕生日…2/14

家族構成…無し

特技…魔法(特に攻撃と肉体強化の黒魔術)、千里眼

好きなもの…殺戮、略奪、闘争、美酒、美女

嫌いなもの…それ以外のもの全て

所属…黒魔術科/魔導マフィア“オーディンズ・ヴェンデッタ”

一人称…俺


 ザラの前に存在した、先代アンリミテッド。

 当時は史上最強にして最悪の魔導士として名を馳せていたが、人知れず命を落とし、魔法庁によって存在を抹消された。

 生まれながらに絶大な魔力とそれを扱う術、そして自らの運命を見通す千里眼を有しており、産声を上げると同時にヴェインの魔力で故郷は燃え尽き、本人も自分が20歳まで生きられない運命を悟った。

 古代のマジックアイテムを取引する魔導マフィアに所属し、吸血鬼や隣次元存在とも熾烈な争いを繰り広げるなど無茶苦茶に暴れ回っていたが、本人曰く“欲望に忠実に生きただけ”とのこと。

 ある時、共謀したセージ校長と魔法庁、そして錬金術の神・クリアの罠にかかり、無理矢理ヘルメス魔法学校に入学させられると、禁呪回収の為、魔法庁の手先として利用された。

 その中で宿敵ミュ=ナと出会い、禁呪を巡って七日七晩の死闘を演じる内に、互いに初めて会った対等な存在として惹かれ合い、結ばれた。

 19歳の終わりごろ、七曜の剣の呪いと月食みの呪いに蝕まれ、余命幾ばくかになったミュ=ナとその腹に宿る子供と共に死ぬ約束を交わし、二人の身体をジェイデス神殿の奥底に匿い、幻界と繋げてまで秘匿した。

 その後見事に世界中に散った禁呪を集めきったものの、最初からヴェインを始末するつもりだった魔法庁に裏切られ、ミュ=ナと子供を人質に取られる形で討たれる。死に体を引き摺って辛くもジェイデス神殿に辿り着き、約束を守ることなく、ミュ=ナの棺の前で息を引き取ったが、その魔力と執念は魔物となって死後も尚、家族を守り続けた。


 無限の魔力によって心身を強化する魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、魔力探知、等全てを全自動で展開し、更にそれらを常に無制限で改造・更新し続けるという離れ業をやってのけていた正真正銘のバケモノアンリミテッド。もちろんこれには魔術の知識も必要で、その習得さえも魔法で行っていた天才。

 しかし、自身の運命と寿命に関わる魔法だけは頑なに触れず、多くの吸血鬼や人外と戦ってきた経験からか、“人間であること”に拘り、自らが迎えるべき運命を受け入れていた。まさしく色々な意味でザラとは正反対の存在。


 

 ヴェインは「vain(=虚栄心)」、「vein(=静脈)」、「vane(=翼)」、「bane(=致命傷・毒)」などのクアドラプルミーニング。オルタナはオルタナティヴロックの「alternative」もしくはF●シリーズで使われる同名の魔法、そして改造を意味する「alteration」から。

 マクガイアは恐らく養子に入った先で貰ったか、マフィアでの通名としての姓。



・【ミュ=ナ】


性別…女

年齢…享年約150歳

身長…180cm

種族…エルフ

誕生日…4/30

家族構成…母

特技…魔法(特に結界術)、

好きなもの…草花、動物、野菜、果物、ハーブティー、雨、エメラルド、悪戯

嫌いなもの…特に無し

所属…エルフヘルム

一人称…妾


 フェオ=ルの後継者として、エルフヘルムを治めていた女王。

 筋金入りの箱入り娘で、世間知らずの自由奔放なワガママ放題だが、生来のカリスマ性でエルフヘルムのハイエルフ達を率いていた女傑。

 七曜の剣を精製する月融夜(ムーン・ドロップ・デイ)の生き残りとして、ル=メルの亡霊から直々にウアスの杖を託された継承者でもある。真祖ル=メルの生まれ変わりとも噂されるほどの魔力を有しており、ヴェインと互角に渡り合った唯一の存在。宇宙にあるという魔力の根源と接続し、天気や地形すらも自在に操った。

 強く、美しく、清い、エルフの理想像のような女王である彼女さえ居れば、一族は安泰だとされていた。アンリミテッドのヴェインが現れるまでは。

 禁呪を盗みに来たヴェインと戦って以来、ミュ=ナはそれまで閉じられていたエルフヘルムから頻繁に脱走するようになり、また自身の居城にもヴェインを出入りさせるようになった。

 森から出れば魔力を失うと言われていた真祖の末裔は、しかし、一族が遺した呪いによって致命の病を負うことになった。

 ヴェインとの子を宿した時には既にいつ死んでもおかしくない状態であり、彼と交わした“共に寄り添って最期の瞬間を迎える”という心中の約束だけを胸に二十年眠っていた。


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