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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
231/265

鵺のなく頃に・終




 キョウ先輩が妖を退治したあの日から、数日後。

 突然、カミロが私の前に現れた。珍しく彼の方から私に会いに来るなんて、何かあったんだろうかと思い、話を聞いてみると、なるほど納得の理由で、カミロは聖人としてのお役目を果たそうとしていたらしい。

 私は早速──天界からの用事を預かって来たというカミロを、その相手先であるキョウ先輩の元へと連れ出した。

 初めて会う天界人にキョウ先輩は暫く物腰を低くして接していたものの、カミロの態度に慣れる内、すっかり聖人を敬う気持ちは無くしてしまった。

 一通り紹介を終えると、カミロは面倒くさそうに頭を掻いて、あの日以来に聞いた名前を口にした。

「──オハリって嬢ちゃんなら、こっちに来てるとよ」

「な……」

「——“自己犠牲”。ウチでは最も尊ばれる行為だ」

「……カガチは」

「そいつは知らん。だが、お前が斬ったってんなら、無事に命の奔流(プール)に還ってるだろう」

 オハリさんに、カガチさん。

 あの戦いで亡くした大切な人たちの顛末が語られると、キョウ先輩は、「そっか」とだけ、小さく呟いた。

 泣くことも喜ぶこともせず、安堵したように、瞼を伏せて。

「“あんまり早く来るな”、だとよ」

 その姿は私にも、想像できた。

 あの自然豊かな天界で、今頃は愉快な天界人たちに歓迎されているであろう美しい宝石人が、姿勢を正して、キョウ先輩を叱咤していそうな台詞だ。

「ったく、人を伝言板代わりににしやがって。良いご身分だぜ」

 カミロは本当にそれだけ伝えると、また、酔いの醒めない千鳥足で、どこかへあてもなく消えて行ってしまった。

 お酒とギャンブルはするけど、それと同じだけの善行を働く聖人は、わざわざ、私の友人の為に足を運んできてくれたのだろう。

 カミロを見送りながら、傍のジークがキョウ先輩にぽつりと漏らした。

「……キョウ。俺は、天界に行ったことがある」

「ええっ!?ジークが!?魔族なのに!?」

 あ。そこやっぱツッコみたくなりますよね。

 ジークが咳払いでキョウ先輩を諫める姿に、彼等なりの気遣いを感じた。

「そっか、そんなこともあるんだねぇ……」

「あそこは、美しい場所だった」

 元・ヘルメス三銃士の二人は、感慨深そうに、それぞれの天界を思い浮かべている。

「俺から、カミロに——」

「いいよ。彼女が無事……じゃないけど、死後も平穏に暮らせそうならそれで。らしくないこと言うなよ」

 今度は、キョウ先輩がジークの脇を小突いて、揶揄っていた。

 ジークは不満そうにしたけど、彼等はすぐに空を見上げて、暫く言葉少なに過ごしていた。

「見えてるかな、上から」

「ああ」

 この二人で居れば、当然に、あとからネロ先輩も加わってきて。

 何故か今日の放課後は、四人で遊びに行くことになってしまった。まあ、たまにはいいか。




 それからのキョウ先輩は、相変わらずだ。

 少し変わったことと言えば──前ならナンパに当てていた時間に、ぼうっと立っていることが増えたくらい。

 その理由を訊いてみたら、“鍛錬の間に、空を眺める時間が増えたんだ”って。

 いつものように、朗らかに笑っていた。






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