顎クイ・0
――男なんて大嫌い。
みんな馬鹿でどうしようもなくて、本能だけで生きている。口先で理路整然と女を負かした気になって、そのくせ女にいいように弄ばれる。
だけどそんな男に騙されて調子に乗って、奪われるだけの母親はもっと嫌い。
バカな男とバカな女。アタシはそれを見て、冷めたように笑うばかり。
“ほらね、どうせあんた達なんて、どれだけ高尚な思想を掲げてどれだけ尊く生きていようが、所詮は本能に逆らえないケダモノなのよ。”
ああ、気持ちいいわ。気持ちいいわ。この世はアタシ以外、下半身に脳味噌がついたような汚らわしいクズばっかりで、サイテーサイアク。
だからアタシのこの魔法は、アタシが強くあるためのお呪い。
復讐とまではいかない、些細な意趣返しだ。
アタシの魔法に勝てる男はいない。居るとしたらそれは女を愛さない同性愛者か、それともこの世界の生物以外の何かか――あるいは、アタシを本気で愛してくれる運命の人。
アタシの魔法はそれを証明してくれる。取るに足るか、足らないかを。
安心させてくれるのは、それだけなの。
最近になって、錬金科の三年に編入してきた男がいる。
キツイ顔つきをした赤髪のエルフで、編入早々、あのネロやキョウと仲良くつるんでいる。
ネロ・グリュケリウス――炎の心臓を持つ、人であって人でない男。
キョウ=アカツキ――強力な退魔力を持った異国の魔導士。
どっちもアタシの魔法に健闘した、気に入らない/面白い男だ。そいつらと対等にやってるって、どういうこと?
聞くところによると、授業も免除されてるってハナシじゃない。それも、『アンリミテッドを護衛する』っていう役割と引き換えに。ますますもって気になる。
一体彼――ジークウェザー・ハーゲンティが、何者なのか。
確かめてみたい。
ネロやキョウ、ヘンリーのようにアタシを楽しませてくれる存在なのか、それとも、アタシが「やっぱり」と溜息を吐いて嘲笑いたくなるような凡骨なのか。
どうせなら――そんな人が、アタシの王子様だったらいい。
確かめてみよう。
アタシことシンディ・ダイアモンドの――この最強の魅了魔法・『ヘップバーン』で。
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