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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
200/265

ディスカバー・ティーチャー・0

前回のエピローグ兼今回のアバン。

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 ――「あっのっさァ~~~……他の魔導ギルドとかならともかく、子供相手に負けて、あまつさえ七曜の剣も渡しちゃうってソレ……魔騎士としての尊厳、ドブに捨てて来ちゃった?」


 現アトリウム国王・エセルバード二世は、玉座で受ける部下からの報告に、心底頭を抱えた。苦々しい表情で細い縁の眼鏡を外し、苛立ちを抑えつけるように、眉間の皺を指先で解す。

 人払いを済ませた、静かな謁見の間で頭を垂れる七魔将フェオ=ルとエルネストは、主君の盛大な溜息を聞く間、ひたすらに唇を噛み、カーペットの毛並みを睨みつけることで耐え忍んだ。

「……面目無い」

「返す言葉もねーっす……」

「ウン。この体たらくで言葉返されても、怖いけどね?わァ、言い訳あるんだ、ってビックリしちゃうよ、俺も。わァ、負け犬が吠えてる!つって」

「そこまで言わなくたっていいじゃんすか……」

「言うわよアンタそら。言いたくもなるでしょうよ」

 通常、あまり怒りを露わにしないエセルバード二世だが、今回ばかりは、逃した魚の大きさにやや口調を荒げた。

 何しろ、新生アトリウム建国以来の計画だ。そこなフェオ=ルなどは、三世代に渡って意志を引き継いできた、一族の使命でもある。

「……妨害して来たのは、件のアンリミテッドと魔族、それとセレスティニーアの第三公太子だ。大魔女ヘルメスも関与している疑いがある」

「っか~~~……出たよ。流石、因果を捻じ曲げる力だ。も~……魔法庁の議会(エルダーズ)や魔導連と板挟みにされる俺の気持ち、考えてよ……」

「ルカの差し金だろう。彼奴め、今頃舌を出して我々を嘲笑っているに違いない」

 フェオ=ルの口から経緯が詳細になる度、エセルバードは脱力して玉座から崩れ落ちていく。

 ただでさえヴィズ帝国やラプカ諸島、クガネ、アシハラ、クル他といった西方藩国との国交で心労を蓄積させている彼にとって、更にロードクラスの吸血鬼や大魔法使いとの軋轢が生まれることは、避けられぬにしても、考えるだけで向こう一年間は胃薬と向精神薬の製造業者と業務提携を望むほどの事態だった。

「まさかさぁ、私怨で舵切って無体とか働いてないよね?」

「それは~……。や~んわり止めといたっすね~……」

「あ゛~良かった。ホント、その為に二人組ませた甲斐があったよ。俺はそれが一番怖いわ~」

「ふん。我の積年の憎悪、貴様ら短命種の短き命程度では測れぬだろうよ」

「短い命って言い過ぎだろ」

 エセルバードは再び深く溜息を吐く。短く狩り揃えたプラチナの髪を乱雑に掻き上げると、気分を入れ替えるように玉座に正しく座り直し、魔騎士の上司ではなく、人間の王としての言葉を並べ立てた。

「まァ、取り敢えず、そんだけの貧乏クジ引いたにも関わらず、二人揃って五体満足だったんだ。悪運が強くて何よりだよ。無事に戻って来てくれてありがとね。貴重な戦力を失わずに済んだ、これだけでも恩の字さ」

「……はいっす」

「厚情、痛み入る」

 百年に一度訪れる月融夜(ムーン・ドロップ・デイ)——英雄たちの遺産を“七曜の剣”として生まれ変わらせる秘儀の最中には、零れ堕ちる月の魔力に触れて、狂死した者も少なくないと、王家の記録には残されている。事実、フェオ=ルの母親などもそうだ。

 他にも、月の雫が落ちた場所で疫病が流行ったり、セレスティニーアに伝わっていた獣化の呪いが蔓延するなど、災いにも等しい現象が観測されいてる。

 気休め等ではなく、真実、七曜の剣に関わって生き延びただけでも、この二人は賞賛に値する戦士なのだと、エセルバードは言い聞かせた。

「銀龍鈎も、その場で儀式に使われた、とかじゃないんでしょ?」

「はい。つーかあの感じ……何に使うかも分かってねーみたいな……?」

「あっ、そう……。ただ悪戯にこっちのカードを奪われただけ、と」

 王の低い非難の声に、魔騎士たちは小さく呻いて、肩身を縮こまらせた。

 いかに協調性を欠いた傲岸不遜な七魔将とはいえ、自らの成果を常に棚に上げられるほど、組織への帰属意識が薄い訳ではない。余計なことを口走って、この一見飄々とした、容赦のないヒューマーの王の機嫌を損ねることが自身の破滅に繋がることは理解していた。

「七英雄の亡霊や七曜の剣が、今すぐ暴れて王都を攻撃するもんじゃないって分かっただけ良しとしよう。ひとまず保管されてるだけなら、こっちで持ってるのと変わらない」

 エセルバードの眼鏡に、怜悧な光が宿る。

 彼はあくまで“王”であり、エルネストやフェオ=ルを導く者ではない。

 人の上に立つ器、人心を背負う聖者として稀代の才覚を持つ男の不敵な微笑みに、魔騎士たちは気圧されると同時に、畏敬の恍惚を覚えて、生唾を飲み込んだ。

「済んだ事をネチネチ責めてもしょうがないっ。――とにかく、次の満月に備えよう。下がっていいよ」

 その一言で、謁見の間の扉が開いた。門番を務める近衛兵士たちの、物言わぬ重い甲冑姿が、言外に早々の退室を促してる。

「失礼しまーす……」

「お疲れ様、ゆっくり休んでね」

 エルネストとフェオ=ルは恭しく一礼し、その場を後にした。






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・何気に満月の夜にこれを書いています。

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