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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
4.月の魔力は愛のメッセージ
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レディ・ガイ・0

 



「やぁ、君たち。素直に呼び出しに応じてくれて嬉しい限りだよ」

 ヘルメス魔法学校の主・セージ=ヘルキャットによる突然の招集で、通称・学園の三銃士であるネロ、キョウ、そしてジークは、校長室の机の前に仲良く並んでいた。

 ゴール前でのフリーキックを守備するように、それぞれがただ静かに、重い顔で佇む。

 時折ちらりと隣の友人を垣間見ては、これからセージに告げられるであろう話題を想像して、深い溜息を我慢した。

 今日のセージの姿は珍しく、公の場に晒す場合に最も多く用いる人間の姿をとってふんぞり返っていた。

 集められた三者は、単に各々の奇行によって名を轟かせている訳ではない。この男子生徒たちに共通しているのは、“極端に有能であること”だ。

 絶大な後ろ盾とカリスマ性を持つ国軍将校の嫡男。

 異国の技術を持つ魔物退治のエキスパート部隊、その最年少戦闘員。

 人間界に渡れるほどの力を持った名家の魔族の錬金術師。

 常にヘルメス魔法学校の栄華と名声を求めるセージにとって、これほど将来有望で、学校――ひいては、魔法庁への牽制たりえる人材も居ない。

「特に……ハーゲンティくん。準備のほうはどうかな?」

「順調だ。問題無い」

「それは何よりだ。グリュケリュウスくん、アカツキくんも、引き続き頼むよ」

「はあ……」

「言われなくとも」

 現在、三年生の卒業を間近に控えた学校——というかセージの思惑のなかでは、新たな計画が進行していた。

 アンリミテッドという百年に一度現れるかどうかという格別の()()()を抱え続けるにあたって、彼等の力が別の機関に渡ることをみすみす見逃す手は無い。

 妙な緊迫感にとうとう辛抱溜まらず、キョウがどっと肩を落とした。

「最初からそういう話で入った俺はともかく……まさか、二人まで同じようなことになるとはなぁ」

「妙だと思ったんだ、アンリミテッドの護衛監視をしろと言う割りに、同じ学年に配属しないとは」

「そりゃあ、せっかく魔族を引き入れるチャンスだ。なるべく最短の手順を踏むつもりだったんだ。むしろ、これでも猶予を与えたほうだとも」

 当たり前のことを問われているように、セージが白々しくおどけて見せた。

 今から十か月ほど前――まだヘルメスの生徒として登録すらしていなかったジークを見初め、アンリミテッドの側に居る名目を与える()()()()()()から、今日まで。全てはセージの魂胆のもとに描かれたシナリオだった。

 セージはジークに出会ったとき、あと一つだと思っていたパズルのピースが全て揃ったような感覚を覚えた。……最も、長命の彼女にとって、今更大した野望などないのだが。

 しかし、その時代ごとに、子供たちにとって最適な学びの環境を整えるのがセージの役目だ。

 永い魔導士人生のなかで見出した『後進の育成』という真理と信念に従って、セージはひたすら面倒な書類に判を押して、自分より年下の“お偉方”に腰を低くしているのであった。

「ジークとネロが……ねぇ」

「テメーに出来るような仕事が俺たちに出来ないとでも?」

 キョウがしみじみと噛み締めると、すかさずネロが口調を荒くした。

「うーん……おれ達、結構能力にバラつきのある組み合わせだと思ってるんだけどなぁ。あ、でもジークは意外と向いてる……かも?」

「俺も人間界との繋がりが欲しいだけだ。適正などどうでも良い」

 詰まる所、ここに居る全員が互いに企みを抱えて、エゴイスティックな利益の為に握手を交しているに過ぎなかった。

 そして、だからこそ強固な盟約でもあった。相手を裏切れば、全ての負債は自分だけに返って来る。

 キョウは危ぶんでいたものの、セージはこの問題児トリオ全員に素質を見出していた。

 心配していられるのも今のうちだぞ、と胸の内で冷やかしながら、後任たちの会議を眺めていた。

「フンッ。なら俺が再びトップに立ってやる。あんたもその席をせいぜい温めておけよ、校長」

「堂々と乗っ取り宣言をするとは……」

「どうせ士官学校なんて、親父の七光りでどうとでもなる。こっちで私兵を育てるほうが、退屈凌ぎには丁度いいくらいだ」

「確かに。ネロにあと必要なのは、おれとジーク以外の将軍だもんね」

「分かってんじゃねえか」

「……人間に与した覚えは無い」

「ジークも大概、素直じゃないよね~」

「魔界まで助けに行ったクセにな」

「お前がそれ言うのかよ」

 強烈な煽動家。温和な狂戦士。怜悧な術師。

 どれも人の上に立つに相応しい人材だ。

 セージは改めて、自らの千里眼を以て、三人の男子生徒の未来を占った。少しだけ先の光景を垣間見て――それだけで、セージは満足した。

「ハーゲンティくん。君とは長い付き合いになりそうだ」

「……ご免被る」

 校庭に植えられた桜たちが、ヘルメスに新しい春風が訪れるのを今か今かと待っている。

 真昼の月と目が合ったような気がして、セージは茶目っ気たっぷりに、天空から覗く丸い影に向かってウインクをした。






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