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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
3.双子とホムンクルスと、時々オトン。
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ホムンクルス・0

 



 彼女の声が好きだった。

 小気味良くて、張りのある、口を開けば我が儘ばかり飛び出すあの声が。

 彼女の髪が好きだった。

 毎日丁寧に手入れをしているんだと誇らしげに語っていた、あの指通りのいい髪が。

 彼女の全てが好きだった。彼女の全てを愛していた。

 どれほど求めても、どれほど与えても満たされない。永劫の慕情があった。世界でたった一人の人間を選んだ。


 運命は一番残酷な方法で、希望を刈り取っていく。

 不幸を忘れるほどの絶頂に、絶望は都合よく用意されている。

 それまでの時間が、前借りだったとでも言うかのように。何もかもを奪い去っていく。

 ああそうだ、運命は思い出せと言っている。

 お前は何者であるのか、お前は何処から生まれたのかを。

 その問いに嘘をついたときから、罪の在り処が決まっていたのだ。

 所詮は、空で泳ぐことなど、海で飛ぶことなど、出来ないのだから。夜闇が昏くあるように、定められた宿命を歪めたままでは、とても居られない。

 俺が得たものは――失うべきものと、等価だったのだ。

 あるいは、目の前の双子こそ――守らなければならないものだったのではないか。

 何を愛せば良かった。何を諦めれば良かった。教えてくれる女は、もう居ない。

 世界が、ホムンクルスの居る世界を拒むというのなら。

 俺は、彼女の喪失を黙認した世界を否定してやる。世界中の魂を犠牲にして、取り戻してやる。そう願っただけじゃないか。

 もう何を抱き締めることも叶わない。残されたのは、自分が壊した世界の亡骸たちのみだ。

 何もいらない。

 これで良かった。最初からこうすれば良かったんだ。

 全てを擲ってようやくまた手に入るなんて、やっぱり、我儘な女だ。




「――そんな顔しないで」


 最期まで笑うなんて、お前らしい。


 今度こそ、お前と共に居られるだろうか。






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