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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
3.双子とホムンクルスと、時々オトン。
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ザラと雪の皇帝・1




「寒ーーーい!!何ッだこの寒さはァ!!」

 ジークさん、咆哮す。

 その叫びもごもっともだ。何せ私たちは、この間のリゾートビーチとは打って変わって、真冬の雪国に訪れているのだ。

 私が手編みした灰色のマフラーに顔を埋めながら半ギレしているジークの反応も、仕方ないというもの。ただでさえ寒がりだもんね。

 絵に描いたような健康優良児たるアルスも、今日ばかりは太陽の笑みを忘れて、私の隣で鼻を赤く染めている。

 ここは、かつて北の三国と呼ばれた大陸最北の帝国ヴィズ、その首都たるシルヴァ・ブリュンディッジの城下町。通称・新帝通り。アトリウム王国よりも先駆けて冬を迎えた北国では、こんこんと雪が降り積もっている。

 なんだって私たちはこんな場所で三人仲良く震えているのか。

 その理由は。秋口ごろのホワイトサロンで遭遇した、ヴィズ皇帝暗殺事件に関係していた。

 ――『えー。この度我が校は、光栄なことに、北国のヴィズ帝国から、戴冠記念日のパレードに招待されました。何でも今年は超特別だそうです。現地のルールを守って、ヘルメスの生徒らしく振舞うように。ヴィズの方々に失礼があったらマジで私の首が飛びます、リアルに』。

 タカハシ先生の緊張した面持ちが忘れられない。

 ホワイトサロンで奇妙な友情を築いたオリバーくんことカーネリアン陛下直々のお誘いで、私たちヘルメスの生徒はこのおめでたい日に、破格の待遇で国境を跨ぐことを許されたのだ。一種の遠足というか課外授業のような感じね。

 で、自由行動時間にクラスメイトたちと離れてぷらついていたら、凍え死にそうになっているジークとアルスを発見した次第である。ネロ先輩たちはどうしたのかと訊いたら、三年生はそれどころじゃないとかで出席にバラつきがあるらしい。むしろジークは何で来たの。

「観光に決まっている」

「なー!俺も俺も!オリバーから招待状が来てさー、雪って見たことねえから、楽しみにして来たんだー!」

 バカだな、こいつら。反応がバカ。自分のことを棚に上げてもそう思うくらい無邪気な返事が返ってきたのでやや恥ずかしさすら覚えるのであった。

「とりあえず、もうちょっと眺めのいいところに行こうよ」

「さんせーい!ほら、ジークも行こうぜ!」

「動いたら寒い」

「動かなくても寒いってーの!歩くの嫌ならおんぶしてやろっか?」

「その提案に首を縦に振るわけがないだろう」

「二人とも何イチャついてんの。置いてっちゃうよー」

 いつまでもまごついてる男二人を振り返りながら、私は辺りにいい観客席がないか探した。

 そんな折に――後ろのアホ二匹とは違う、聡明そうな少年に呼び止められた。

「パレードを見るなら、良い場所を知っている」

「ってウワァー!?オリバーくん……じゃなくてカーネリアン様ぁー!?」

 脇から突然、この国の最高権力者であるカーネリアン陛下ご本人が現れた。

 以前ホワイトサロンで出会った時とは打って変わって、鎧姿に毛皮のマントを纏ったいかにも荘厳な王族の姿で(とはいえ私と同じくらいの背丈の子供なんだけど)、

「ふむ。久しいな」

 とごく自然な態度で頷いていた。

 突如登場した不審な少年に、ジークとアルスが詰め寄った。

「何だこのガキ。どこから出てきた」

「おー。オリバーじゃん!元気そーだなー!」

「ちょっと二人とも!この人はね……」

「貴方方は他国民であり客人だ、私に謙る必要はない」

「そ、そうは言っても……」

「見よ、この二人を」

「あわわわわ」

 初対面のジークが頭をつっついたりしてるのは仕方ないかもしれないとしても、何でアルスは彼の正体を知って尚そんなフランクなのか。一国の王様を軽率に抱っこするんじゃないよ。

「ザラ。あなたも陛下などとは呼ばず、ホワイトサロンで知り合ったオリバー少年として接してくれると有難い。畏まった喋り方も必要ない」

「で、でも~~~……わ……わか……り……ったよ~……???」

 複雑な心境すぎてグチャグチャ回答をしてしまった。カーネリアン陛下改めオリバーくんにも、何か事情があるんだろう。確かに他国民である私たちがこんな往来で陛下陛下と頭を下げていたら気分も良くないだろうし……暗殺されかかってた所を見るとあまり表立って騒がないほうがいいのかも……?

 ともあれこの国で一番偉い人が良いって言ったんだから、私はもう知らないわよ。たとえ裁判にかけられても無罪を主張するからね。

「えーと、ジーク。彼がホラ……前に話したことあるでしょ、ホワイトサロンで会ったオリバーくん。本名はカーネリアン・ガーランド様っていって、このヴィズの王様なの」

「ほう。お前たちが世話したという」

「案内しただけだってば」

 ジークにはどっかのタイミングで話した気がする。というか、あの時一緒にいたグレンからも伝わっているだろう。何故か仲良いし。いつの間にかグループに加わってるんだもんね。

「挨拶が遅れて申し訳ない。私がカーネリアンだ。この度は、遠くアトリウムから我が国に足を運んで頂き、感謝する」

「俺は……ジークウェザー・ハーゲンティだ」

 オリバーくんがふてぶてしいジークに歩み寄り、二人は握手を交わした。ジークの傲岸不遜さには、王様レベルに対してですらソレかいとツッコミたくなる。

「ああ。そういえば、二人が話していたな。面白いボーイフレンドが居ると」

 いっぽうオリバーくんは一般魔族にも余裕で、まるでそうされることに慣れているかのようにごくごく親切に微笑みかけていた。

 と、ここまでは良かったのだけど。

「俺も話を聞いて――、一言物申そうと思っていた」

 ジークがそう言って、握手を終えたオリバーくんの手を引き留めた。

「ヴィズの王。あの娘を陽動に使ったな」

 低く、凄むような声だった。

 よく知っている、ジークという魔族が人間を裁定するときの眼光だ。思わず私とアルスも気圧されるくらいの視線に、けれどオリバーくんは毅然と向かい合っていた。

「……それについては謝罪しよう。あなたの大切な人たちを危険な目に遭わせた」

「分かっていたのだろう。最初から巻き込むつもりだった。他国の人間なら使い捨てても構わないのか」

「――そうだと言ったら?」

 張り詰めた空気に耐えられず、私とアルスは二人の視界から外れて、手に手を取って震えながら潜んでいた。コワイネー、コワイヨー。

 身内激甘マンのジークはどうも、私たちが結果的にとはいえオリバーくんに巻き込まれるような形で事件に関わったことに腹を立てているらしい。

「私は人を見る目には自信がある。何もあの騒ぎの中、闇雲に声をかけた訳ではない。彼等なら大丈夫だと――そう確信した上で作戦を決行した」

「……」

「ではこう言い換えよう。私と私の軍が――戦士と魔物以外を傷つける事は、万が一にも有り得ない」

「ハァ……これ以上はただの苦情(クレーム)になるな。俺とて、貴殿を侮辱するつもりはない」

「分かっていただけたようで何よりだ」

 コワイネー、コワイヨー、しりとりしよっかー、そうだねー。アルスと身を寄せ合って怯えているあいだに、一応の決着がついたようだ。

 似た者同士のジークとオリバーくんは互いに腕組みをして、自分の理性に鍵をかけるようにして初対面の会話を終えた。今ので互いに何を理解したんだよ。こっちは肝がすっかり冷えきったっつーの。

 てかジーク、シンディやエルヴィスにはネチネチ絡まなかったのに……って、あれは実際に現場でほぼお仕置きしたからか。一回は言っておきたいワケね……。

「今日は、グレンは居ないのか」

「町のどこかにはいると思うよ。恋人と一緒に観光してるはず」

「そうか。彼女にも是非会いたいものだ。時間を見つけて捜してみよう」

 王様、一転してウッキウキである。そういえばグレンにも随分懐いてたものね……。

「ていうか、オリバーくんはこんなところで何してるの……?王様は戴冠式の主役なんじゃ……」

「私の出番はもっと後だ。特等席で見ておきたいものがあってな」

「玉座以上の特等席ですか……」

「あそこに居ると気が休まらないのだ……」

 少年らしからぬオリバーくんの遠~い目が、詮索無用だと言外に示していたので、私は何もツッコまないことにした。

 オリバーくんの案内に従って、私たちは、新帝通りをそのまま見下ろせる石造りの架道橋まで登ってきた。雪に濡れた無機質さが、見てるだけで寒い冷たい。

 でも確かに欄干からの見晴らしは最高で、パレードが通過するという一番広いメインストリートのど真ん中は勿論、その脇で既に待機している町民の姿まで一望できる。

 聞けば町民の皆さんだけでなく国内各地から、オリバーくんだけでなく今年の“特別”な出演者を一目でも見たい一心で民たちが集まっているらしい。

 私たちの国では、王様やそれにまつわる行事……というと、カレンダーに記された祝日くらいのもので、実際に王都で開催されるナントカ式、なんてのも、だいたい一般市民は関われないものだ。

 こんな風に崇め奉られる尊い人をお目にかける機会、というのはちょっと珍しい光景に感じる。社会のお勉強になるわね。

 ジークのかじかんだ手をアルスと二人でさすって温めていると、じきに、新帝通りの向こうにあるという王宮のほうから、規則的な太鼓のリズムが地を揺らして近づいてきていた。

 しばらくして追い付いてきた管楽器たちの歌うような演奏を合図に、人々が手や旗をちぎれそうなくらいに振りかざして、それの到来を歓迎した。

 鼓笛隊に、踊り子、騎手。さまざまな仮装をした獣人たちが、ヴィズの雪空を彩るように行列を作って行進していく。

 建物ほどの風船の横を躾けられた鹿や熊たちが駆け抜け、魔導士たちが氷のカーテンやオーロラを宙に描き出すと、街並みはより一層大きな歓声に包まれた。式典用の豪奢な鎧と装飾を身に纏ってパレードの陣形を制御する警備隊ですら、この光景に華を添えるのに一役買っている。

「すごい……すごいすごい!」

「わーっ!超楽しいなー!」

「流石に規模がデカいな」

 紙吹雪と本物の雪、それからどこからともなく降り注ぐ穀物や小さなお菓子のシャワーと、白銀の梟が織りなすアーチを潜り抜けながら、人に飼いならされた大型のドラゴンが引き連れる移動舞台の上で、朗らかに微笑んで手を振る一組の若い男女があった。

 その周囲はひと際派手で警備が堅く、その二人がやんごとない身分であることは一目瞭然だった。

 雪に焼けた褐色の肌と、真っ黒な豹の耳を持ち、剣を携えた正装の男性。その傍らに佇む真っ白な肌にエメラルドのドレスを纏ったエルフ族の女性。

 二人が目をあわせてはにかむを見て、ああ、と納得した。

 耳を澄ませば、城下のひとびとは「おめでとう」、と祝福を口にしていた。

「王子様と王女様……かな?」

「うむ。あれが今年の目玉だ」

「綺麗……」

 実物のお姫様を目の当たりにするのは初めてだけど。なんというか、すごく、綺麗だった。

 造形の美醜の問題じゃない。勿論、舞台の上の王女様は美しいけれど。煌びやかな衣装を着て、透明に微笑んでいる肌そのものが、まるでシルクのヴェールのようで。

 見惚れている私の横で、オリバーくんが自慢げにしていた。

「あちらの新婦は、私の再従姉妹で、ユーリ殿下という。出自ゆえに長らく存在を秘匿されてきたが、此度の三国和平条約改正の折に、嘆きの国の皇子であるヴァシュカ殿下のとの婚姻が認められた」

 ――そうか。『特別』とはこのことだったのか。

 オリバーくんに招待してもらって、本当に良かった。

「政略結婚ってやつか。……俺たちと歳も近そうなのにな」

 絵本のなかのような光景に夢見心地だったのも束の間、しかし、私はアルスの言葉で一気に現実に引き戻される。

「……じゃあ、あの幸せそうな笑顔も、嘘なのかな……」

 てっきり、王子様と王女様の微笑みは、愛しい人との誓いを祝福されていることから来る満ち足りた表情なのかと。

 そうか、王族ならああやってニコニコしているのも仕事のうちよね、きっと……。落ち込む私の横で、オリバーくんが鼻を鳴らした。

「ザラの観察眼が正しい。あの二人は、それは大層なロマンスを演じた末の恋愛結婚だ」

「えぇー!すごい!素敵!」

 何だって私は、人様の、それも自分とは全く産まれも育ちも違う人たちのことで、こんなムキになっているんだろう。

 それは多分、私が純真な乙女であり――立場も種族も隔てた二人の愛を証明したかったからだ。

「元は敵国同士なんだろ?どうやって会ってたんだろうな」

「それが、ヴァシュカ殿下は先に人質として霧の国で捕らえられていたのだが――まあ……そうだな。色々あって王位を捨てて、ユーリ殿下の側仕えの騎士となった。王宮で不遇に扱われていたユーリ殿下と、敵国の元王子であるヴァシュカ殿下……絆を育むのにそう時間はかからなかったということだ」

「きゃーっ!なにそれ〜っ!お姫様と騎士ーっ!?御伽噺みたーい!」

「私はお二人のことを聞いて……是非、新しきヴィズの象徴になって欲しいと頼み込んだのだ」

 それで、結婚の記念と戴冠式の記念を被せたのね。すごいなあ王族。本当にそんな話が現実にあるんだ……。

 この間のカーンさんとフランセスさんご夫妻といい、まだまだ世のなか捨てたもんじゃないわね。

 そんなことを思いつつ、欄干にもたれている魔族の姿を盗み見た。

 うーん。騎士だったらアルスのほうが向いてるわね。ジークは私を攫いに来る魔王でしょ。

 ――なんて心の内が読まれたのかと思うくらい、ジークとばっちり目が合って、ぎらりと捕食者のように微笑まれた。私は慌てて、視線をパレードに戻した。

「――では私もそろそろ行くとしよう。お三方、心ゆくまでヴィズのパレードを楽しんでいってくれ」

 ヴァシュカさんとユーリさんたちを見送ると、どこからともなく現れたいつぞやのエルフのお兄さんを連れだって、オリバーくんはマントを翻して鉄の馬車に乗り込んでいった。なんだアレ。




.

.

.




 戴冠式のパレードの盛り上がりが終盤に差し掛かったころ、それは現れた。

 ――というのも、まず姿を見たのではなく、王宮から続くパレードの最後尾……つまり新帝通りの遠く向こうから、信じられないほどの熱狂的な歓声が響いてきたのだ。

 てっきりもうやってる側も見てる側も疲れ果ててるものかと。むしろ待ちわびていた主役の登場に、町のひとびとが全力を振り絞っているようにさえ見えた。

 カーネリアン様、万歳――横断幕や風船、空に延ばした腕を旗代わりにして、誰もがその名を呼んでいた。

「あ!オリバーくんだ!」

「オオカミ乗ってるぜ!」

 ドラゴンを連れた白銀の鎧の部隊と黒鉄の馬車、それに先ほどと同じ移動する舞台に乗った雪像・氷像たちに囲まれながら、魔物と思われる巨大な狼の背に乗って、オリバーくんが颯爽と登場した。

 小さな皇帝が笑顔で手を振るたびに、城下のひとびとが波打つように湧き上がる。いや、てか、何で狼。

「耳を劈かんばかりの歓声だな。この国は獣人が多いんじゃないのか」

 ジークが忌々しそうに呟いた。同じくらいの聴覚なのに他の奴らはコレに耐えられるのか、というようなことを言いたいらしい。

 確かに、最高潮の生演奏に国民の熱気が加わって、私ですら気圧されているほどだ。だが、町のひとびとはそんなことお構いなしに、一心不乱にオリバーくんに向かって声援を送っていた。

「すごい人気だな~。こりゃ暗殺騒ぎも頷けるぜ」

「よっぽどいい王様なんだねえ」

「或いは、先代皇帝が余程酷い政治を執っていたか、だな」

「あはは……」

 私たちが橋の上で苦笑いを浮かべているうちに、オリバーくんは狼から降りて、新帝通りの真ん中で演説を始めていた。

「ヴィズの民たちよ!私が先王よりこの王冠を受け継いでから、二度目の冬がやってきた!この日を迎えられたことを嬉しく――そして誇りに思う!私が今、この場所で、無事に昨年と同じようにそなた達と相まみえていられるのは――ひとえに、この戴冠記念式典を執り行い、その準備と開催に参加してくれた者たちの尽力の賜物だ!まずは彼らに、大きな感謝と拍手を!」

 あれが所謂カリスマか。

 オリバーくんの一声を合図に、一斉に豪雨のような拍手が降り注いだ。私たちもそれに合わせて手を叩くいっぽうで、

「この感じだと、町の露店を見に行くのも大変かもね」

「少なくとも、熱心なファンが撤収するまでは待ったほうがいいかもな」

「んじゃ、ちょっと休憩してから行くかー」

 お祭りならではの懸念を口にするのであった。この温度差が国民性かしら……。今の状態で町に繰り出しても、人混みにもみくちゃにされるのが関の山だ。

 というか、誰も彼もが新帝通りでオリバーくんに夢中になっているし、お店や出し物どころじゃないだろう。実際に、オリバーくんに向かって手旗を振り乱す人の中には、エプロン姿や制服姿のひともたくさん見える。あれじゃ相手にもされないかも。

 私たちは大人しく、この場所から式典の行く末を見守ることにした。

 演説を終えたオリバーくんは舞台を降りて、今度は町民一人一人の挨拶や握手に丁寧に応じていた。なるほど、あれだけ親切な対応なら愛されるわけだ……。うちの学校で言うなら、ネロ先輩がすごく優しくて気さくだったら、そりゃあ人気が出るでしょうね。現実は怖くて横暴だけど。

「それにしても寒い……!」

「三人でくっついてよーぜ」

「さ、賛成だ……」

 じっとしていたせいで寒さが甦って来たのか、ジークが身震いした。アルスの提案に異を唱えないなんて余程身に堪えていると見たわ。三人で隙間なく身を寄せ合うと、少しは気が紛れた。

 陽が傾いてきたのもあって、頬に当たる風がいっそう冷たく感じた。降り注ぐ氷の粒も、心なしか大きくなったような。ジークとアルスが同時に仲良くクシャミをした。

「うわっ……!」

 まるで二人に呼応するように――吹雪が私たちの身体を叩きつけた。

 一瞬、何か巨大なものに体当たりされたのかとさえ思った。

 ごっ、と、横薙ぎの一閃のような鋭さで、物理的な衝撃を伴った寒風が町を駆け巡る。

 あまりの強さと速さに、立っていられない、目も開けていられない、ついでに恐ろしく寒い。

 あっという間に身体中の体温が奪われていく。しかも吹雪は通り過ぎるどころか、まるで台風のごとくここと定めたように留まり続け、町全体を吹き飛ばしそうな勢いで扇ぎまくる。

「な、なに……!?」

「………………!!」

「………………!!」

 氷の抱擁のなかで、ジークとアルスの声もかき消されてしまう。恐らく私の声も届いていないだろう。

 かろうじて目を開けてみるも、視界はとっくに真っ白だ。太陽も大地も判別が不可能で、雲の中か――あるいはいつか行った幻界に居るのかと疑うほどの色彩の喪失。

「――っ、ジーク、アルス!どこにいるの!!」

 私は渾身の力で二人を呼ぶ。返事はない。

 私だけが突然、あのパレードの世界から弾き出されてしまったのだろうか。そんな禄でもない予感に、更に背筋が冷える。

「ザラ!」

 反射的に、名前をよばれたほうへ振り向く。

 ――あれ?今のは、ジークの声でもアルスの声でもなかったような。

 まあ何でもいいや、とにかく声が聞こえたほうへ行こう。私は、人影さえも見えない雪風の壁に向かって腕を延ばした。

 震える腕が、誰かに勢いよく引っ張られた。思わず胸に飛び込むような形になると、声の主はしっかりと私を抱き留めてくれた。その感触の不慣れさに――私はようやく気づいた。

 顔を見上げるまでもない。この人は、私とそう背も変わらない筈だから。

「よォ、クソガキ。またとんでもねーコトになってんな」

「カミ……酒臭っ!!」

 顔が近くにあるぶんモロに食らってしまった。クズ聖人カミロが、私の肩を掴んで笑っていた。






.

.

.

.

・ちなみにザラがジークにマフラーをあげたとき、以下のようなやりとりがあったとか。

「ジーク、これ……」

「何だ?急に」

「あげる」

「……俺、何か大事な記念日を忘れていたりするか?」

「あ。いや、全然そーゆーんじゃなくて…。た、ただのプレゼント」

「ザラが……俺に……???」

「も、もおっ、素直に受け取らないならあげないよ!」

「いる!猛烈にいる!欲しい!!」

「はいはい」

「……マフラーだ」

「その。こんどヴィズに行くでしょ。あったかくなりますようにって、おまじない、かけて編んだから……」

「手編みなのか」

「……お、重い?だめ?やっぱ、買ったやつのほうがよかった?」

「……か、」

「か?」

「家宝にする……」

「重ッ」




.

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