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無限の少女と魔界の錬金術師  作者: 安藤源龍
1.魔族にズッキュン
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燃えろ!男の出会いは狐色!!・3




 旧校舎。その名の通り、十年ほど前まで学舎として使用されていた施設であり、現在ジークが(勝手に)住処にしている。利権や風水――魔術的な立地の関係上取り壊しもままならず、くたびれた煉瓦造りの建物がいつまでもヘルメス魔法学校の敷地内に鎮座しているのである。辺りは手入れのされていない雑木に囲まれ、壁や地面からは雑草や蔦が伸び放題になっている。もはや廃校舎だ。

 三人(主にキョウ)は購買部で本当にオヤツを買い込んで、瓶コーラ片手に旧校舎の石畳を踏んだ。

 旧校舎の入口の前では、先ほどの男子生徒が待ち構えていた。彼の美しいとされるエルフの顔が台無しになるほどの、仄暗い表情で。

 ジークとキョウはある程度のところで歩みを止め、そのまま男子生徒へ向かっていくネロの後ろ姿を見送った。

「遅えぞ、グリュケリウス」

「悪かったな。で、何の用だ」

 ネロは喧嘩好きだが、自分の能力――イフリートに依存している節がある。殴って燃やせばいい、とタカをくくっているのだ。喧嘩で強くなることよりも、相手を屈服させることを目的としている。もともとが実戦派でないことも手伝って、()()()()()といったものに欠いている。いっぽうで身体能力に優れ、戦闘経験も豊富なジークとキョウは、この時点でネロに危険信号を出していた。

「俺の親父と兄貴はなぁ、テメエの親父の代わりに死んだんだよ!!」

 ネロにとっては突然、ジークたちにとっては案の定、男子生徒の拳がネロの左頬を貫くように殴打した。

 打撃の勢いでよろめいたネロが、たたらを踏む。

「この間まで、生きてたんだ……なのに、もう帰って来ないんだ……!お前の親父に、思い知らせてやる……、自分の家族が傷つく恐ろしさを!!」

 男子生徒は全身で叫びながら、無抵抗のネロの鳩尾を蹴り下ろした。感情に任せた、自分の骨をも砕く出鱈目でルールもない暴力だ。噎せ返るネロの髪を掴んで、無造作に地面に叩きつける。

 助けるべきか、と目線で問うジークに、キョウが無言で瞑目し、頭を振った。

「お前は知ってるか……親父たちがっ……どんな姿になってたか!!将軍を庇って……、顔もわからなかったんだ……」

 襟首を締め上げられて、ネロの身体が持ち上がる。

 何がしかの慰めか、あるいは相応しい応えを期待した男子生徒の瞳は、迷いと甘えで水浸しになっていた。

 ネロは気に入らなかったらしい。

「それがどうした」

 男子生徒に頭突きを食らわせた。ここへ来て初めての反撃に狼狽した男子生徒は、呆けたように尻餅をついた。

「テメエこそ、戦って死んだ父親と兄貴の誇りを愚弄するのか。テメエのように死ぬ覚悟も無く、親父の言いなりになって犬死したって言うのかよ」

 ネロの静かな怒りに呼応するように、赤い炎が黒い制服の隙間から立ち昇る。

「殺すなら父を殺せ。そうしたら、今度は俺がテメエを必ず殺してやる」

 二人のあいだに生まれた陽炎の壁から、ぬっとネロの腕が飛び出し、やがて男子生徒の喉元を掴み上げた。

「燃やせイフリート!!」

 そこだけが、爆発したように火力を増した。

 男子生徒は苦しみ悶え、焼け爛れた声帯から音にならない断末魔が虚しく通り抜けていく。焦げた肉の饐えた獣っぽい匂いが、あっという間に漂い始める。

「あの世でさぞ残念がってるだろうな。テメエの親父と兄貴も」

「ネロ!!」

 ジークとキョウがネロたちのもとへ駆け寄った。上着で男子生徒の身体をはたき、鎮火させる。

「わかってる。殺すかよ」

 ネロが落ち着いた口調で答えると、炎も同じように退いていった。

 幸いにも男子生徒の脈は確認できた。しかし気道が熔けて癒着したせいか、呼吸困難で意識を失っている。

 キョウが男子生徒を背負う。

「……こういうの、暫く見てないと思ったけど」

 苦々しい表情で呟いた。

「憐れむなキョウ。傲慢だぞ」

「そんなつもりないさ」

 キョウはおどけたように眉を上げて、男子生徒を医務室へ運んで行った。

 ジークはそっとネロを伺う。

 そこには、会った時と変わらず、ギラギラと輝く双眸があった。





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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり親の因縁とかそういうのもありますよね……。 ネロくんのストッパー役?的な立ち位置のキョウくん。好感が持てます。
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