番外 その1 少年と女の子と少女と子犬
今日は散々な一日だった。
そんなことを思いながら帰り道を歩いていた。
算数の時間には自信満々でバカな計算ミスをしてしまったし、体育の時間はちょっとよそ見してたら顔にボールがぶっつかって保健室に行く羽目になった。掃除の時間になんかバケツをひっくり返して廊下を水浸しにしてしまった。しかも、よりにもよってきーちゃんに拭くのを手伝ってもらうことになるなんて。
「「あ~ぁ。どうしてこんなことに……。」」
ん?溜め息がはもったぞ?
見ると自販機のかげから白い足が出てるのが見えた。のぞいてみると、まるで新品の画用紙みたいに真っ白な髪の女の子が座り込んでいた。
「あ゛あ゛~~!!もうどうしてこうなったし。いやパスが不安定になったのが原因なんだけど!たしかに体の部位が吹き飛んでいかなかったのはラッキーだよ?だけど!どうしてこんな羞恥プレイになるわけさぁ~!!!」
………………なんか頭を抱えて難しいことを呟きながら悶えてたので顔はよく見えなかったが。
「大丈夫?」
声をかけると女の子は顔を上げた。
すっと通った鼻筋に、半泣きでちょっと潤んだ目、まるで人形みたいにきれいな顔だった。それに、ちょっと膨らんだ胸が……「あれ?」
「見るなぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
顔を真っ赤にして強烈なアッパーを放った女の子は、なんと服を着ていなかったのです。「ぐふっ」
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「お~い、起きてよ~。反射的にやったのは謝るからさ~」
気がつくと、さっきの女の子が横に正座していた。今度は裸では無く、見覚えのある白い服を着ている。って
「それ俺の給食服じゃんか!」
「へぇ~。これ給食服っていうんだ。白い服でも色々あんだな。」
「冷静そうに意味わかんない事言ってないで返せ!」
「お、女から服を奪って真っ裸にするなんて、こ、この変態!」
顔を真っ赤にする女の子を見て気づいた。
「あ、そうか。お前、服無いんだっけ。」
思い出すと、恥ずかしくてこっちまで赤くなってしまった。
「こ、この話は無しだ。とりあえず、自己紹介しようぜ。」
「あたしはユーフェリア<Euphelia>。ユーって呼んでくれ。」
「俺の名前は裕太。それならユウって呼んでくれていいぜ。」
「オッケー、ユウ。早速なんだが、ちょっと服を作るのを手伝ってくれないか?」
「針も糸も無いのにどうやって?」
「取りあえず、目をつぶって、あたしが服を着てるところを想像してくれ。出来るだけ可愛いく頼むぞ?」
「意味分かんねぇし、自分でンなこと言うかよ?まぁやってやるけど」
とりあえず目だけはつぶってみたが、服を着てるところを想像って言ったって最初のイメージが強すぎるからなんも思い浮かばねぇんだよな~。あ、でも髪とか真っ白だし、天使の服みたいの着たら似合うかもな。え~天使の服、天使の服。
「あ、もう良いよ。目開けて~。」
「ん、もう良いのか。って……え?」
ユーが着ていたのは、俺の給食服なんかじゃ無く、物語に出てくる天使そのものだった。そして、俺が想像したのと、とてもよく似ていた。
「おい、なんで俺が想像した服と全く同じものをお前が着てるんだ?というか、どこから出したんだ?」
「あたしの権能で!」
「さっぱり分からん。もっと詳しく説明しろ。」
「あ~、そうねぇ、う~ん、やっぱり言った方が良い?」
「早くしろ。」
「あたしね、人間じゃ無くて天使なんだ。実際には微妙に違うんだけどね。」
「そんなあたしの権能は『人の願いを叶える能力』。」
「君があたしの服を想像してくれたでしょ?あれを『私のこの服を着て欲しいという願い』って解釈して、権能を発揮したってわけ。」
正直こいつ頭おかしいんじゃ無いかとも思ったけれど、嘘をついてるようには見えなかった。どうやら、本気でそんな事を思ってるらしい。だから、こんな事を聞いてみた。
「じゃあさ、ユーはなんであんなところで、しかも全裸で座り込んでたの?」
「服の話を蒸し返すな~!!もともと、あんな知らないところにいくはずが無かったんだよ。普通なら、目的地を決めて転移でビューッと移動してお終い。のはずだったのにさ~?転移するときに地震みたいなのが起きて、場所が微妙にずれちゃったのよ。しょうがないから歩いて移動だね~。」
「その、転移ってのは何度も使えないのか?」
「目的地を決めるのがと~ってもめんどくさいから、歩く方が早いんだよ~。」
「なるほど……。あ、きーちゃんだ。お~い。」
見慣れた顔がいたので手を振ると、こっちに走ってきた。
「あの子がきーちゃん?」
「うん。そうだよ。」
きーちゃん、本名は栞原 夏生。幼稚園の頃からずっと一緒の、幼馴染み。お互いの好きなものとかは大体分かる位には仲が良い。だから、様子がおかしい事にもすぐ気づいた。
「どうしたの、そんなに慌てて?」
「タロが突然倒れて、動かなくなっちゃったの!
「え、タロが?」
タロはきーちゃんが飼ってる犬の名前だ。きーちゃんは動物が大好きで、他にも何匹かペットを飼っている。
「今裕太の家に行くところだったの!お父さん、まだ家にいるよね?」
「ごめん、今日は休みの日だからって言って街へ出ちゃってるんだ。」
「え、そんな!?じゃあどうしたらいいの?」
「取りあえず見せて、何か分かるかもしれないから。」
「ユウ、あんた医者だったのかい?」
驚いた顔でユーが聞いてきた。
「まさか。お父さんが獣医で、その手伝いを何度かした事があるだけだよ。」
「ふむ、なるほど……。」
「どう、裕太何か分かった?」
「呼吸はあるけどものすごく弱い。胸の方を触ると、なんだか圧迫感がある。何らかの原因で肺が圧迫されて、酸素不足に陥っている。これが答えだ。」
「じゃあ治せる?」
「いや、治療はお父さんがいないと無理だ。でも帰ってくるまでタロが持つかどうか……。」
すると、難しい顔で黙っていたユーが口を挟んだ。
「方法はあるよ。」
「っそうか!ユーの能力をつかえば!」
「いや、あたしの権能だけじゃ足りない。ユウ、君の覚悟も必要だ。」
「ユウは素質がある。私の助けがあれば、死の運命を変えられるかもしれない。でも、それには強い意志が必要だ。」
「ユウ、君は運命という因果の化け物に立ち向かう覚悟はあるか?」
ユーの言ってる事はよく分からなかった。けど、その問いに俺は迷いなく答える事が出来た。
「あたりまえだ。俺は幼馴染みの泣き顔を見過ごせる男じゃない。」
「それでこそ人間だよ。さぁ、祝詞を叫べ!君はもうそれを手に入れているはずだ!」
呼応するように叫んでいた。
「我、本巡裕太は願う。我にアスクレピオスの加護を!死に瀕した者を救い出せる力を!」
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その後のことは余り憶えていない。気がついたときには、ユーの姿はなくタロは元気にきーちゃんの周りをぐるぐる走り回っていた。きーちゃんが言うには、
『今回のこれはもともと寄り道だったんだ。あたしはもとの道へ戻るよ。』
みたいなことを言って去って行ったらしい。
大人になった今でも気がつくと白い服を追いかけている自分に気づく。またいつの日かあの不思議な天使に会えるんじゃないか。そんな予感がするのだ。
アスクレピオスの加護を受けた彼が、また別の少年を救い出し、再度運命に大きく関わるようになるのは、また別のお話。
なんとなく気分がのったので書き上げました。
また何かあったら投稿します。




