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四季折々  作者: 七種 草
序章 幼き頃
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第5話 行き先

 ヌラムの準備をしていたのは剛太の家族だけでなく、由里の家族も同様であった。毎日の日課である薪拾いに加えてテント内の片付けをして、咲希と由里は疲れ切っていた。それ故に二人は毎晩早くに眠りについていた。



 ヌラムが明日へと迫った夜、咲希はふと目が覚めた。それに気づいた由里も起き上がった。


「咲希……? こんな夜中にどうしたの?」


 咲希は目を見開き、ある方向をじっと見つめていた。そして急に立ち上がった。


「すぐそこにいる」


 そう言うと、咲希はテントから飛び出していってしまった。


「咲希? 待って!」


 咲希を追いかけて由里もテントから出て行った。それを寝たふりをしながら見ていた由里の両親は起き上がり、ある人のところへ向かった。


 由里が咲希に追いついた時、咲希は月の光が降り注ぐギャップの真ん中でたたずんでいた。辺りにはうっすらと霧がかかり、咲希の姿が少しかすんで見えた。咲希に近づくと、彼女が何かを握りしめていることに由里は気づいた。


「咲希……、それは?」


 咲希は何かを握りしめながら、森の奥を見つめていた。


「さっきまで、ここにいたの」


 由里は何のことだかわからず、聞き返した。


「え?」

「さっきまでいたんだよ。あの『声の主』が!」


 咲希は目を輝かせながら振り向き、手に握りしめていたものを由里に見せた。それは薄いガラス板に挟まれた葉のネックレスであった。


「これは……?」

「たぶんここに『声の主』がいたんだけど、咲希が来たらいなくなっちゃったの。それで周りを見渡したら、これが木にかかってた」


 手にしていたネックレスを月にかざし、咲希はどこか遠くを見つめていた。


「『声の主』、咲希に何か言おうとしてた……」


 咲希は独り言のように呟き、ネックレスを首にかけた。そしていつものように笑って「帰ろっか」と言った。


 そして二人は今来た道を戻っていった。しかし、さっきまでここにあったはずのコロニーは忽然と姿を消していた。辺りには人っ子一人おらず、テントを張った跡と燃え切った薪の跡しか残っていなかった。


「アフロディって……ここで合ってるよね?」


 突然自分たちの住処を失った彼女たちは自分が置かれている状況を理解できず、ただ呆然と立ち尽くしていた。ここに来て一度も口を開かない咲希に対して、由里はやっとの思いで思考を巡らせ行動に移った。


「何か非常事態が起きたのかも。まだ近くにいるかもしれないから見てくるね」


 その言葉を聞いて咲希はやっと我を戻したようだった。


「それなら咲希も――」

「咲希はここにいて。誰か迎えに来てくれるかもしれないから。私が誰か見つけたらいつもの『合図』をするからさ」


 由里は咲希を残して微かに霧が立ち込める森の中へと消えていった。暗闇と霧で由里の姿がだんだん見えなくなっていき、咲希は胸の奥に痛みを感じた。暗闇に一人残されていく不安か、由里の姿が消えていく恐怖か、それとも――。




 その頃、剛太はアフロディの若い男たちと見知らぬ男たち二十人程でライフルを抱えながら歩いていた。この集団には近頃アフロディに訪れていた三人組のうちの若い二人も含まれていた。


(なんでオレはこんな真夜中にライフル持ちながら歩いてるんだ?)


 事はおよそ三十分前、剛太は深い眠りからたたき起こされた。ヌラムをこれから始めるとのことだった。剛太は驚き飛び起きたが、出発直前まで事の次第を聞けなかった。


「なんで『今』ヌラムするんだ? 十三夜月の宴もやってないし、しかも今日は小望月だぞ」


 この地では、ヌラムする直前の十三夜月にその土地に感謝する宴を開き、望月にヌラムする風習があった。その言葉に対し剛太の父は何も答えず、剛太にライフルを手渡した。


「お前はこれを持って純と共に行動しろ」


 父の顔はいつにも増して険しかった。父の視線の先には畔と三人組の一人の老いぼれがいた。そして剛太に視線を移し何か言おうとしたが、口を閉じて剛太の頭を撫でた。


「――で帰ってこい」


 父の声は、周りのざわめきで剛太の耳にはちゃんと届かなかった。剛太がこの言葉を理解したのはこれからおよそ五年後のことである。その言葉を最後に剛太と父はその場で別れた。


 共に行動しろと言われていた純だが、この集団で歩き始めて少ししたら、「辺りの様子を見てくる」と言ってどこかへ行ってしまった。剛太の周りには見知らぬ男ばかりだった。剛太は辺りを見回すと、自分と同い年くらいの少年を見つけた。そこでふとあることを思い出した。


(出発する直前、咲希と由里っていたか?)


 頭の中に何とも言えない不安が広がり始めた時であった。集団の動きが止まった。隊長らしき人が皆に散らばってライフルを構えるように指示を出す。剛太は何もわからないまま指示に従った。構えたまま待っていると、三人組の二人が光の照らされている方へと歩み寄っていく。剛太の視線はその二人を追いかけ、その先を見た。そして、一瞬剛太の思考回路が止まった。その視線の先には咲希がいた。

次話「言い伝え」は2016/11/24(木)に更新します。

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