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四季折々  作者: 七種 草
最終章 秋
33/38

第2話 誓い

2017/11/10 1時頃に追記しました。更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

 大きく開かれた剛太の瞳に五年前と同じ光景が映し出される。目の前に立ちはだかる男は銃口を少女に向け、ニヤリと笑った。剛太の伸ばした手はそこには届かず、鋭い銃声がそこに響き渡った。しかし伸ばした手は突如として風に埋もれ、銃声は大きな風音の中に飲み込まれた。そこにいた皆は目を覆い、木の葉と砂煙が舞い上がる中剛太はうっすらと目を開けると、木の上には少女の姿はなかった。忽然と姿を消した少女を必死に探すもどこにもおらず、剛太の顔から血の気が引いていった。


「咲希……?」


 舞い上がった木の葉や砂は彼らの目の前を何事もなかったかのように通り過ぎていった。剛太の頭の中が真っ白になりかけた時だった。彼らの背後から地を揺らすような低い声が響き渡った。


「そんな容易くシーバを殺せるとでも思ったか」


 振り返るとまた別の木の上で大きな獣が少女を乗せ、白い毛並みを銀色に輝かせていた。獣は金色の鋭い瞳をゆっくりと閉じ、少女へ向けた。


「お前も一人で無茶し過ぎだ」

「ごめん、ヴィントゥス」


 少女は銀色になびくそれをゆっくりと撫でた。それを見ていた成矢は怒りからか声を震わせて言った。


「どういうことだ……。デウスとてあれを避けることなどできるわけないだろ!」


 吠える彼に獣は冷たい視線を向けた。


「やはり人間は愚かだな。そんなことも忘れたのか」


 冷たい風が微かに彼らの前を通り過ぎた。微かに震える手足を地につけ、剛太は獣から目を離さずにゆっくりと立ち上がった。


「忘れた……? 一体何のことだ?」


 乾いた地が音を立てて彼らの間を通り抜ける。獣と少女の頭上にふいに影が落ち、森がざわめき出した。


「言い伝えで伝えておくように言ってあったはずなんだがな。今となっては関係のないことか」


 影に埋もれていく彼らの顔は徐々に見えなくなり、金色の瞳ばかりが鋭く光っていた。金色で覆われる黒い瞳孔は大きくなり、そこにある吸い込んでしまうようであった。獣は鋭い犬歯をちらつかせ、大きな口を開いた。


「三人の神様(デウス)はもう一つ呼び名を持っている。森の神様(デウス)〝シーバ〟の別名は〝風の使者〟」


 突如として周りの草木が大きく騒ぎ出した。草木が揺れる中、風が彼らだけを避けるようにそこに風が当たることはなかった。


「風を操り、風となることのできる我々が、風を読むことができない人間どもに容易く殺られるわけなかろう」

「風になるって――」


 獣の言葉を耳にした剛太は様々な場面が脳裏を通り過ぎていった。大木の下で優に過去を打ち明けた時いつもと違う風が吹いたこと、咲希と再会した後彼女は風と共に姿を消したこと、開戦の日ヴィントゥスは風と共に去ったこと――彼らの周りにはいつも風がいた。それが彼らの能力とは知らず、しかし風が吹く度にいつの間にか彼らの姿を探していたことに剛太は今となって気がついた。


「やっぱり今までお前は俺たちの近くにいたのか」


 その言葉を聞いた獣は一息ついて呆れたように言った。


「言っただろ。ワシはお前たちの傍にいた者だと」


 少女は獣の背から降り、静かに木の上に立った。獣は腰を下ろし、大きな白い尾を彼女の横に振り下ろした。


「だが、それもここまでだ。時は迫っている。遊んでいる暇などないのだ」


 声を張り上げる獣の前に少女は腕を掲げ制した。彼女は静かに口を開き、透き通る声が響き渡った。


「ヴィントゥス、もういいの。時だとか運命だとか、そういうのはもういいの。そういうのに関係なく私は闘い続ける。この世界すべてが私の敵になったとしても、私は闘い続ける」


 凛とした声が響き渡り、そこにいるすべての者の視線を集めた。人間にとっての敵とはいえ、少女の姿はとても凛々しく、美しいものであり、見つめずにはいられなかった。しかし剛太は拳を握りしめ、唇を噛んだ。


「そんなこと言うんじゃねぇよ。自ら傷つきにいくようなこと言うんじゃねぇよ!」


 必死な剛太の言葉が轟き、再び静寂が訪れた。視線は剛太に集められるも、彼は気にすることなく彼女を見つめて言った。


「自分だけが犠牲になるようなことはやめてくれ」


 それを見ていた成矢はふいに彼らの間に入り、剛太を横目で見た。


「せっかくの彼女の決意を無下にするのはどうかと思うぞ」


 冷たい視線は反対側へと流れ、木の上にいる少女へと向けられた。決意を胸にした少女の瞳は揺らぐことなく真っ直ぐと前を見据え、それを見た成矢は口角を上げた。


「彼女がせっかく決意を表してくれたんだ。それに応えてやらなくてどうする。なあ、シーバ」


 その言葉と共に成矢は再び拳銃を彼女へ向けた。しかしそれと同時に彼の後ろから鈍い金属音が聞こえた。


「これは何の真似だ、剛太?」


 成矢の背後で剛太はライフルを成矢に向けて構えていた。剛太はスコープ越しに成矢を睨んだ。


「言わなくてもわかってんだろ。もうここで終わらせんだよ」


 いつの日かと同じ台詞はあの日とは違って揺らぐことはなかった。しかし成矢はそれに気づかず、彼を嘲笑った。


「何をふざけたことを言っているんだ。君が引き金を引けるわけ――」


 彼の言葉を遮るように銃声が響き渡った。彼の笑みの真横を鋭い金属が通り過ぎ、その笑みは一瞬にして凍りついた。


「この俺がいつまでも過去に囚われ続けていると思ってんじゃねぇぞ」


 鋭くなった瞳はゆっくりと剛太に向けられた。剛太は一瞬怯むも、銃口を成矢の頭に捉え直した。しかし成矢は動ずることなく、彼の口から地を這うような低い声が漏れ出してきた。


「このクソガキが……。いい気になってんじゃねぇぞ。テメエごときがこの俺様を殺せるとでも思ってんのか」


 今までの彼とも気の狂った彼とも思えぬ声が聞こえ、剛太の背筋が凍りついた。成矢の黒く染まった瞳はどこを見るわけでもなくただ剛太に向けられ、彼は片腕を上げた。


「殺れ」


 上げられた腕は剛太に向かって振りかざされ、それと共に剛太は周りから銃口を向けられた。逃げ場を失った彼はその一瞬の時をとても長く感じた。そして流れゆく景色の端に優の姿が小さく映った。


「剛太!」


 その優の声を聞いて剛太は瞳を閉じてふと思った。


(咲希もあの時こんな気持ちだったのか――)


 森が大きくざわめく中、銃声が幾重にも重なって響いていた。

次話「邪魔者」は2017/11/23(木)に更新します。

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