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四季折々  作者: 七種 草
第一章 冬
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第3話 異端児

 コロニーの端で子どもたちはゴム鉄砲で遊んでいた。石に的を描き、点数を競っていた。その流れ弾が剛太の横に飛んできた。剛太はゴムを拾い上げ、親指を軸に人差し指にゴムをくくりつけた。そして人差し指を的に向けると、ゴムは的のど真ん中に飛んでいった。子どもたちは歓喜の声を上げ、剛太に群がった。


「お兄ちゃん、すごい! すごいよ!」

「ねえねえ、コツ教えてよ!」


 剛太が口々に言う言葉に圧倒されていると、向こうからこの子どもたちの親だと思われる人たちがやってきた。


「コラ! こんなところにいないでおうちに帰りなさい!」


 子どもたちの不満が漏れる中、大人たちは子どもたちを押していった。その中で、小声である言葉が聞こえた。


「あの人はコロニーを恨んでいる悪い人なんだから、近くに行っちゃダメでしょ」


 親の独りよがりな考えに子どもたちは「はぁい」と返事した。剛太が辺りに散らばったゴムを拾い上げていると、二人の足が視界に入った。顔を上げると、そこにはあの日の三人組の二人・(せい)()直人(なおと)がいた。直人が「こっちに来い」と言い、三人であるテントの中に入った。そこにはカリオフィの長・(わたり)がいた。


(ドゥーチス)、剛太を連れてきましたよ」


 成矢の声に気づき、亘は書物に向けていた目を剛太に向けた。


「連れてきたか」


 まじまじと剛太を見るその目はまさに疑いの目であった。剛太は顔をしかめ、亘を睨んだ。


「俺を呼び出して、何の用だ?」


 剛太の横柄な口のききように、直人は剛太の胸倉を掴んだ。


「お前、自分の立場わかってんのか?」


 睨み合う二人に亘は割って入った。


「貴様ら、静かにせい。直人、今すべきことはそのようなことではないはずだが?」


 直人は亘の言葉を聞き、剛太から手を離して一歩下がった。胸元を直す剛太に再び亘の鋭い視線が向けられた。


「ところでだ、剛太。お前さん、今朝方東の森にいたな?」

「東の? あぁ、確かにいたな」


 剛太は樹齢三千年の木に行ってから、ほぼ毎日咲希を探すために辺りを歩き回っていた。その言葉に亘はニヤリとした。


「やはりな。お前で間違いないようだ」


 その言葉に剛太は不穏な空気を感じた。


「どういうことだ?」

「お前も知っていることだが、今朝方狩りは東の森で行われていた。しかし獲物を仕留めようと発砲するも、すべて何かに弾かれ軌道を逸らされたという。しかもこの時、毎度別の場所から発砲音が聞こえたとか」


 剛太を蔑むその目に怒鳴り声を上げた。


「俺がやったとでもいう証拠があるのか⁉」

「証拠となり得るものならたくさんあるではないか」


 亘は重々しい腰を上げ、剛太の周りを歩き出した。


「まず東の森にいたということが何よりの証拠」


 剛太は一切身動きせず、目を伏せて歩く亘を目だけで追った。


「そして」


 亘は剛太の右斜め前で立ち止まり、左手の人差し指で剛太を指差した。


「お前はアフロディ一射撃を得意とする家系の一人だからな」


 この時、剛太は人差し指を向けられたことが屈辱的に感じた。


「このような芸当ができるのも、私の知っている中じゃ、お前らの家系の純と剛太、お前だけだ」


 この言葉に剛太の身体は強張り、心臓が鳴る音が聞こえた。亘は再び剛太の周りを歩き出した。


「コロニー合併以前から、お前さんの腕は見させてもらっていたよ。あの歳で兄にも劣らぬほどの腕があるなんて、さすがという言葉以外なかったものだ。そしてその兄だが」


 亘は声色を変えた。


「今、デウス殲滅部隊としてここを離れている」


 亘の低い声が剛太の背後から聞こえてきた。


「つまり」


 亘は歩みを止め、ゆっくりと口を開いた。


「このようなことができるのはお前しかいないんだよ」


 テント内の静かな空間に反して、外からは楽しそうな子どもたちのはしゃぎ声が聞こえた。その温度差が余計にテント内の空気を冷たいものへと変えていった。その時ふいにテントの入口が開いた。


「そやつは撃つことができないということは知っておることじゃろう?」


 入口の光から見えたのは(はん)であった。畔は入口の布を閉め、中へ入ってきた。


「外におる者が皆このテントに近づこうとしないから何事かと思って来たら、こういうことだったか」


 畔は亘が座っていた机の前まで真っ直ぐ行き、書物を手に取った。畔の急な訪問に亘は苛立ちを見せた。


「お前さんは何の用でここに来たんだ?」

「儂か?」


 畔は振り向き、手に取った書物を掲げた。


「儂はあんたに貸したこの書物を返してもらおうと思ってね。急に再び読みたくなったもんだから」


 呆れた亘は畔を追い払うように手を振った。


「そういうことかい。その書物ならもう持って行っても構わないよ。まだ読み終わってはないが、私の好みには合わないようだからね」


 書物を手にした彼は微笑み、テントの出入口へ向かった。しかしふと何かを思い出したように彼は足を止めた。


「剛太がまたここにいるということは、また何か問題が起こったのかい?」


 『また』という言葉に亘は顔をしかめた。


「今朝方の狩りにまた邪魔が入った。しかも今回は銃でだ」

「だから剛太を疑っていたというのか」


 以前にも狩りが邪魔されることがあり、その度に剛太が疑われてきた。しかし、毎度証拠不十分として追放されることはなかった。


「あんたもわかっておることだろう。四年前に剛太は撃つことはできないということはあんた自身の目で確認したはずじゃ」


 二人は歳でしぼんだ目で互いをじっと見た。日の光が入ることのないその目は黒く染まっていた。疑いに満ちた目は諦めることはなかった。


「四年前も今までもすべて演技だったということもあるだろう。あの日のことをすべて事実とすることはできんな」


 頑なに剛太を離そうとしないその目に畔はため息を吐き、ある提案を持ち出した。


「そんなに疑うのであれば、剛太を殲滅部隊に配属してはどうだ?」


 その提案にそこにいる者皆が驚きを隠せなかった。


「何を――」


 一番に反応を示したのは直人であったが、亘はそれを制した。


「何を目的としてそのようなことを提案するんだ?」


 異様な空気の中、畔は平然とその答えを返した。


「簡単なことじゃ。そこで剛太が未だにライフルを扱うことができるかどうかを確認することができる。もし扱えたとしても、殲滅部隊の者たちなら簡単に剛太を押さえることができるじゃろう。そして何よりあんたらの監視下に置くことができるからな」


 亘は畔の目をじっと見つめた。互いに黒く染まった光は揺らぐことはなかった。亘は仕方ないとばかりにため息を吐いた。


「そういうことなら剛太を殲滅部隊に配属しよう。ただし、もしものことがあっても慈悲を乞うなよ」


 その言葉に「何のことだか」と畔は笑った。畔がテントを出ていく姿と共に「お前も行っていいぞ」という声が剛太にかかった。そして剛太がテントを出ようとすると後ろから声が聞こえた。


「次の遠征には俺も参加することになっている」


 その落ち着きのある低い声は成矢であった。そして剛太は後頭部に鋭い視線を感じた。


「首を洗って待ってろよ」


 剛太は何も答えず、ただその視線を一瞥してそこを出た。


 その後剛太は畔の後を追った。


「おい! じじぃ、待てよ」


 剛太の前を行くその背は止まり、振り返ることなく声が返ってきた。


「何じゃ?」


 未だにとぼけようとするその背に剛太は苛立ちを感じた。


「どういう風の吹き回しだ? 俺に肩入れするなど何を考えている?」


 小さいその背が振り返り、剛太の目と合った。小さくも鋭いその視線に剛太は圧倒されそうになった。そしてその目は卑しく笑った。


「肩入れ? ふん、儂がお前などにそんなことするわけがなかろう。お前は何か勘違いしているようだな」


 二人の距離は縮められ、鋭い視線が剛太に迫ってきた。


「儂はただコロニーのために動いているのじゃ。お前のようなコロニーの異端児が野放しにされているとコロニーの空気が乱れる」


 その視線は剛太の目の前まで迫ってきていた。その目は黒々としており、剛太は吸い込まれそうになった。その目に映る剛太の目にニヤリと笑う老人が見えた。


「だから儂はこの機会を待っていたのじゃ」


 その一言に剛太はぞっとした。一瞬にして様々な可能性が脳裏をよぎった。


「じじぃ、もしかして……今までの事件はすべてあんたが仕組んだことなのか?」


 目の前にいる老人はニヤリと再び笑った。


「今までの事件、か。そういう面白い考えもあるな。だが違う」


 笑みは一瞬にして消え、老人は再び剛太に背を向けた。


「儂が自作自演など危険な真似するわけがなかろう。あれはすべてただの未解決事件じゃ」


 老人はそう言い残してその場を立ち去ろうとした。しかしまだ聞き足りない剛太はその老人を何とかその場に留めようとした。


「本当にただの未解決事件なのか? あんた、本当は首謀者を知ってるんじゃないか?」


 畔にその声は届いていたが、ただ手を振るだけで何も答えなかった。子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる。透き通ったその声さえも剛太は疑うことしかできなかった。

次話「デウス殲滅部隊」は2017/2/2(木)に更新します。

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