終幕
「コノハ、走り回って転ぶなよ。」
「ふふふ…やんちゃなところは貴方に似たのかしらね。」
桔から離れていない山奥の小さな家の前で、三歳ほどの女児を白い狐と赤い眼の女性が見守っていた。
モミジは、イチョウから神の座を譲られたが、姿を見せて都を統治しようとはせずに、そっと近くの山から都を守護することにしたのだ。
イチョウが姿を変えて演じていた不死の赤巫女が水巫女の石像と共に姿を消した直後は都は大騒ぎだったが、巫女の「本来の神が戻られた。私の役目は終わりとする」という旨の書置きが発見されたとの発表がなされ、すぐに騒ぎは鎮静化したのだった。
「イチョウとわたしも話したかったな…。」
コハクが寂しそうにそっとささやいた時だった。足元から仔猫のかわいらしい鳴き声が聞こえた。
鳴き声の下方向に二人は目をやると、家の影からまだ乳離れしたてであろう大きさのふわふわとした仔猫が飛び出してきた。
「どこから入ってきたんだ?姿隠しの術を施してあるはずなんだけどな…。」
コハクの抱き上げた仔猫に鼻の匂いを嗅ぎながらモミジは首を傾げる。
「あんたが神になったとはいえ、わしも元神だ。あんたの術をわしがやぶれないわけないだろう?」
その仔猫は、コハクとモミジを見つめながらいたずらっぽく笑いながらそう言った。




