旦那様は分限者です。朝食を楽しみましょう。後編。
前話ですっかり変換し忘れていた食材を異世界風に修正しました。
スライムほどではないですが、こちらの作品もいろいろと変換してるんですよね。
投稿してから資料への追加忘れがないか、もう一度増えた食材を確認しておきます。
大きなワゴンに載せられて、料理は一度にやってきた。
「大変お待たせいたしました。本日のお米お粥とあんかけ、ほうじ茶粥、海鮮粥、ズーチ粥になります。トッピングはカメーワのタラノコ煮と、ニガバナとオニオーンのシラカツーナマリネ。ブリガッコ、サイザー、チリチリジャッコに、ミドリナの炒め物。フライドニクニン、輪切りレッドシラカ少なめ、クチパ多め。カリカリコンベーとカリットン、ドライセリパとドライ赤パップリンでお間違いないでしょうか?」
手早く大テーブルに料理と取り皿が並べられる。
「ズーチ粥には、こちらのホワイトソルトパッペー(塩胡椒)、海鮮粥には、ギーネオイル(葱油)もお勧めですので、どうぞお使いになってくださいませ」
「おお。当たり前過ぎて、忘れておったぞ。ホワイトソルトパッペーだけでも十分に美味なのじゃ! アリッサにも是非食べてもらわねばのぅ」
「うんうん。ギーネオイルも海鮮粥にしみじみあうんだよねー」
「ほうじ茶粥は早速全種盛りで食させねばなるまいぞ」
皆がうきうきと小椀を手に取ってシェアする分を取り分け始める。
私は何とも美味しそうな飴色のとろみ餡を小さじで掬って味見をした。
何とも癒やされる味だった。
「食後のお茶はこちらの工芸茶をサービスさせていただきますので、お好きな物をお選びくださいませ。食中茶には香りを押さえた当店自慢の茉莉花茶を用意いたしましたので、こちらはお代わり自由でお楽しみくださいませ」
朝食後から工芸茶が堪能できるとはすばらしい。
やはり見た目が華やかな芍薬かカーネーションがあったら頼んでみたい。
茉莉花茶に関しては、美味しい物は驚くほど飲みやすいので、楽しみだ。
料理長が深々と頭を下げてワゴンとともに下がっていく。
「では、いただきましょうね」
小椀に米のお粥をよそって、上からとろりと餡を回し入れる。
カメーワのタラノコ煮と、ニガバナとオニオーンのシラカツーナマリネは、別の小皿に載せて一緒に渡した。
わいわいと堪能し始めている様子に浮かんできた微笑はそのままに、まずは自分の注文した餡かけお米粥をいただく。
「……美味しいお米ね」
日本のブランド米に匹敵する味の米だった。
何もかけずともぺろりと平らげられそうだ。
米の持つほんのりとした甘みが、食欲を増進させる。
また、餡がいい。
米本来の味を損なわずに、絶妙な塩味が絡む。
日本人は塩味好きだよねぇ……と、小椀に盛り付けた分を食べ尽くしてしまったので、箸休めのトッピングを摘まんだ。
カメーワのタラノコ煮は、想像通りの甘めで美味しい。
噛み締める度に煮汁がじゅわっと口の中に広がる。
煮込んでもカメーワの鮮やかな緑色が損なわれないところにプロの技を感じた。
そういえば、王都初級ダンジョンで出るかめーわも、色は違えど似た味だ。
こちらの店では採用しないのだろうか?
ニガバナとオニオーンのシラカツーナマリネは、実にさっぱりとしている。
酢の効き具合が実に好みだった。
ニガバナの苦みとシラカの辛みのバランスも絶妙だ。
トッピングとは思えないほどに、一品一品が丁寧に作られている。
毎日食べても飽きないのは、料理の良質さもあるのだろう。
続いて彩絲がくれたズーチ粥をいただく。
料理長お勧めのホワイトソルトパッペーを少しだけかけた。
パッペーは舌に残る粗挽きだ。
噛み締めたときに広がる香りが鼻を楽しませてくれる。
ズーチの濃さもスパイシーな香りで、少し軽減されている気もした。
一口含んだ茉莉花茶は当店自慢の! と誇るだけあって、飲みやすかった。
今はホットでいただいているが、よく冷えた茉莉花茶も飲んでみたい。
飲むときと、飲んだあとにふわっと茉莉花の香しい匂いが広がるのだ。
海鮮粥も料理長お勧めのギーネオイルでいただいた。
帆立系の香りとギーネの香りの相性がとてもいい。
ふと雪華を見れば、クチパを山のように盛って食べていた。
どうやら彼女は香菜マニアらしい。
私的には少量が好ましいのだが、向こうでもクチパ山盛りが大好きな知人は多かった。
大量摂取しないとわからない、たまらない魅力があるのだろうか。
「我のお勧めはチリチリジャッコがけじゃな。ほれ! 試してみるがええ」
「ふふ。ありがとう……ええ、このかりっとした食感は好ましいアクセントになるわね」
「そうじゃろう、そうじゃろう! ほんにここのほうじ茶粥は美味なのじゃ。とっぴんぐものぅ」
「アリッサの頼んだトッピングは、箸休めにいいね! お代わり、もらっちゃう?」
「たっぷりめで頼みたいの。茶の追加も所望じゃ」
椅子から立ち上がった雪華が扉をノックする。
扉の向こうには人が控えていたらしく、雪華は手早く追加注文を済ませた。
「お茶とトッピングだけだからすぐ来ると思うけど……工芸茶、選ぼうか? アリッサはどれがいいの」
「芍薬かカーネーションで迷っているの」
「ふむ。どちらも華やかじゃしのぅ」
「我は菊と梅の工芸茶じゃな。大ぶりの黄色い菊の中に、梅の花が載っているお得な工芸茶での。見た目もさることながら味がいいのじゃよ!」
ランディーニは我が道を行く。
何となく老婆が好みそうな組み合わせに感じた。
健康にも良さそうだ。
「じゃ、私はカーネーションにするよ。アリッサは芍薬にすれば? 白もいいけど、やっぱりピンクかな」
「そうね……ピンク色の芍薬にするわ」
「我は木蓮にしようかと思う。華やかさにかけるが味と香りが秀逸なのじゃよ」
以前飲んだ木蓮の紅茶は大変好きな味だった。
木蓮の工芸茶は初めてなので、是非味見をさせてもらいたい。
「ふふふ。味見したそうな顔じゃのぅ? 勿論茶杯は多めにもらうから安心するといいぞ」
「顔に出ちゃった? じゃあ遠慮なくいただくわね」
写真と見紛うばかりの精緻なイラストを眺めながら工芸茶を選びきったところで、料理長がワゴンを引いてきた。
追加したトッピングとお茶の他にも、何か用意があるようだ。
「工芸茶に合わせた極々軽めのデザートでございます。摘まんでいただけたら光栄ですな」
鉢の中に入っていたのは、豆腐花と芒果布丁。
どちらも口の中ですっと溶けるデザートなので、朝食のあとにはちょうどいい種類で分量だろう。
「美味そうじゃのぅ! 工芸茶がくる前に食べ尽くしそうじゃ!」
「余力があるようでしたら、他にも何かお持ちいたしましょうか?」
「我は月餅を所望する!」
「ランディーニ。月餅は量が多すぎるのでは?」
「うーむ。なれば小さめで頼む」
「ははは。なかなかに健啖家であられる。一口サイズの月餅がございますので、そちらをお持ちいたしましょう」
「それなら我は馬拉糕を少なめで追加じゃな」
「私は蛋撻で!」
朝から食べ過ぎな気がして仕方ないが、皆の視線を浴びてしまっては私も選ぶしかない。
「少なめの愛玉子をお願いいたします……」
こちらもつるっとぷるるん系。
レモン味なので、食べやすいだろう。
きっとおなかにもたまらない……はず。
「承りました。すぐにお持ちいたしましょう」
恭しく頭を下げた料理長が手早くテーブルの上を片付けて、追加した料理を並べていく。
カメーワのタラノコ煮とニガバナとオニオーンのシラカツーナマリネの他に、サイザーとミドリナの炒め物も並べられる。
一品料理とまではいかないが、薬味よりは多い量だった。
「ふむ。これは甘物・塩物ループをすべく、工芸茶がくるのを待つべきじゃ!」
彩絲が取り分けている横でランディーニが訴える。
「あー朝からそんな危険なループをやっちゃうんだ!」
「食べ過ぎたなら帰宅して寝てもいいしのぅ」
「さすがにそれはノワール殿に怒られるだろうに……」
「そのときはそのときじゃよ!」
一瞬ランディーニの目が泳いだのを私たちは見逃さない。
しかし突っ込みを入れる前に、料理長が工芸茶とデザートを持ってきてくれた。
大きな男性の手が、優雅に工芸茶へ湯を注いでくれる。
私たちは花が開いていく様子を十分に堪能した。
「今日は照明と……ドレッサーも行っとく?」
「ドレッサーのぅ……間を置いた方がいい気もするが、逆に早いうちに行った方がいい気もする」
ガチムチ駆除の噂が回るのは早かろう。
従来の姿を取り戻して、混雑する前に行くのが無難かもしれない。
「お店の近くに寄って、あまり人がいないようであれば顔を出す感じでどうかな?」
「もともと人気店じゃからな。アリッサの提案に賛成じゃ」
「照明を売っているお店は、何ていう店名なの?」
「煌めきの恩寵……で、大丈夫じゃと思うがのぅ」
「女性店主で、女性だけのお店なんだけど、その店主が気難しいのよ。まぁ、アリッサなら大丈夫だと思うけど」
「気に入られるのは間違いなかろうて。好かれすぎたら……我が何とかするさ」
どうやらきらびやかな名前のお店にも気になる点があるらしい。
主人も駄目出しはしないが、悩んでいる気配がする。
まずは主人に、問題があるようなら即時退去する旨を伝えておく。
「頑張って適切な距離を取るようにするわね」
何かとトラブルに遭遇しがちなので、今日はすんなりと買い物をしたいなぁと思いつつ、香しさが立っている工芸茶を飲みつつ、デザート各種を楽しんだ。
先日バレンタイン狩りへ行ってきましたが、事前チェックをした自分の食べたかった物は全て完売していました……ふふふ……。
目を皿のようにして、なんとか好みの物を発掘しましたけど、買えなかったチョコへの妄執が募ります。
次回は、旦那様は分限者です。守護獣達と家具選び。照明。(仮)の予定です。
お読み頂いてありがとうございました。
次回も引き続き宜しくお願いいたします。




