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旦那様は分限者です。朝食を楽しみましょう。前編。

 週の初め、顔に帯状疱疹が出てしまいましたよ……。

 まさか顔に出るとは思わず……瞼が腫れぼったくなったり、薬で視野がぼけやたり、鎮痛剤必須の痛み+痒みがでたりときつかったです。

 早く完治するといいなぁ。

 


 百合の芳香に包まれて目が覚めた……と思ったら、鼻が嗅ぎ慣れた香りを察知した。


「緑茶?」


 がばりとベッドでの上で勢いよく身を起こす。


「はい。緑茶にございます。主様にはこちらもよろしゅうございましょう?」


「うん。嬉しい」


 声のする方に振り向けば、ノワールが急須で緑茶を淹れてくれている最中だった。


「煎茶『爽やかな風』でございます。起き抜けの体を爽やかに駆け抜けてゆく風のような煎茶として知られている緑茶です。心地良い目覚めに最適な緑茶として、広く飲まれております。熱いのでお気をつけくださいませ」


 そっと渡された湯飲みは熱かったが、持てないほどでもなかった。

 湯気が鼻を擽る。

 ふーふーと息を軽く吹きかけてから一口。

 ぎりぎり飲める熱さが、喉を通っていく爽快感に目を細める。

 まろやかな甘みのある飲みやすい煎茶だった。


「しっかり覚醒できそうだわ。毎日飲んでも飽きなそうな味ね」


「お気に召したようであれば、モーニングティーのローテーションに入れましょうか?」


「是非お願いしたいわ」


「畏まりました。本日の朝食はいかがいたしましょうか?」


「……そういえばこちらは朝食を外で食べる習慣ってあるのかしら」


「ございますよ。トースト専門店、サンドイッチ専門店、お粥専門店などが人気でございますね」


「じゃあ、今日の朝食は外食で!」


「畏まりました」


 会話の中で冷めていく煎茶を飲みきった頃合いを見計らったように、彩絲が現れた。

 

「本日の朝食は外でと聞いたが、それでよいな?」


「うん。いいわ……もしかして、それを着るの? 主人から駄目だしされないかしら?」


 彩絲がベッドの上へ広げたのは、純白のタートルネックワンピース。

 ただし総レースで、透け透け仕様だ。

 更にノースリーブで、ロングスカートのバックラインが太ももから綺麗に割れている。

 ふわりと風が舞えば、下着が丸見えになりそうな予感がする代物なのだ。


「うむ。こちらのロングケープを羽織ることで許可をいただいたぞ!」


 抜かりなく夫の許可を得ていたらしい。

 正直よく許可がでたなぁと思ったら、ロングケープは全身をすっぽりと覆う仕様。

 個室等でケープを脱ぐときに、身内以外はいないと判断されたのだろう。

 一応総レースの下には、こちらは透けないインナーも着るようだ。


「朝食は何を所望じゃ? 我のお勧めはお粥専門店『好柔米こうじゅうまい』四種類のズーチ粥は、幾度食しても飽きぬ味じゃぞ?」


「洋風お粥! 新しい感じね。お粥ならシンプルなお米のみの物に、出汁の餡を後がけするメニューを食べたいかしら」


「私はトースト専門店ね! 厚切りのパンにしみしみのターバ。別途ついているカリカリコンベー(ベーコン)と半熟目玉焼きが美味しいの」


「あら、そっちも美味しそうね。迷うわぁ……」


 着替えを任せながら悩む。

 アクセサリーは可愛らしいピンク色の淡水パールで統一された。

 花びらの形を模したイヤリングが実に可愛らしい。


「でしたら今回は好柔米に行かれるとよろしいのでは? 個室利用の先着十名様に『トッピングマシマシ』特典がついているようですから」


「おぉ! あそこのトッピングはどれも美味じゃからのぅ!」


「お得感には負けるかなー」


「では予約を入れておきましょう。今なら先着十名に入れそうでございますから……」

 

「そうそう。行くのは私たち守護獣とアリッサだけだよ。他の皆は料理上達のために頑張るんだってさ」


「ノワールもそちらの監修で残るそうじゃ。ランディーニは……」


「我は奥方とともに行くぞ! 久しぶりにほうじ茶粥が食べたい」


 ランディーニはなかなか通好みのメニューが食べたいらしい。

 私もまだ食べたことがないので、味見ができたら嬉しいのだけれど。


「ん? 美味なるものは分け合うべきじゃろう。遠慮なく希望を言わねばならぬぞ?」


 ランディーニに隠していた欲望を暴かれてしまった。

 ネットで得た情報では、一口頂戴という行為は嫌われるらしいのだが……。


「ほっほっほっ! 価値観の摺り合わせがすんでおる親しい間柄なら、全く問題なかろう。のぅ、彩絲、雪華」


「そうだよ、アリッサ! むしろ遠慮される方が寂しいし」


「じゃな。守護獣は基本、主の喜びは己の欲望より優先されることじゃ。例えば生理的、種族的に受け入れられないようであれば、きちんと説明するしのぅ」


「心配であれば、そういった行為に抵抗があるのかどうか、最初に聞けばいいだけの話じゃ。奥方がそうしたいと望む相手ならば、きっと喜ぶはずじゃからのぅ」


 家庭環境が複雑だったので、その手の距離感が全然上手く掴めない。

 時間をかけて理解したり構築したりする必要があると、頭の片隅で認識していてもまどろっこしさが拭いきれないのだ。

 乙女ゲームのように、正解の選択肢があればいいのにと思ってしまう。


「取り敢えず、私も彩絲もランディーニも『一口頂戴』は大丈夫だから、アリッサも存分に楽しみましょう!」


「そうね。よろしく」


 自分たちを使って練習すればいいと屈託なく笑う、彼女たちの優しい言葉に甘えて、私は料理シェアの楽しさを学ばせてもらおう。



 馬車を使うまでもないと、特殊な近道で徒歩五分。

 粥専門店・好柔米についた。


「え? 何かがおかしい気がする」


「ほっほ。秘密の近道を使ったからのう。人の歩く道であれば倍はかかるじゃろうな」


 ランディーニが自慢げなので、どうやら彼女がいないと使えない近道らしい。

 鳥道的なものだろうか。

 歩いているつもりが、空を飛んでいたら面白い。


「ノワールが予約を入れた者じゃが……」


 あえて名乗らなかったランディーニの意を汲まない男性店員は、まさか店長だったのだろうか。


「当店へ時空制御師様の最愛がお越しになりました! どうぞ拍手を持ってお迎えくださいませ! さぁ、ケープをお預かりいたしましょう!」


 店の入り口付近で待ち構えていた男はあり得ない暴言を吐いただけでなく、ケープまでをも剥ぎ取ろうとした。

 

 彩絲の繊手が男の手をはたき落とし、雪華が男の腹に拳をめり込ませる。

 男はがひゅっ? っと息を吐いて天井に叩きつけられた勢いのまま、床に落下した。


「奥方様は静かに食事を楽しまれる。また一切の詮索は無用じゃ!」


「主様は女性の接客を好まれる……我らの許可なく主様に触れようとした不埒者の処分は、店の責任者に任せよう……店長はどこじゃ? まさか、この不埒者が責任者というのではあるまいなぁ?」


「当店の副店長が大変御無礼つかまつりました! 店長は新たな食材を求めて外出しており、明日戻る予定になっておりまして、現在不在でございます。自分は料理長です。最愛の御方様への無礼を、店長に代わってお詫び申し上げます!」


 高さのあるコック帽を外して直角に腰を折られた。

 白髪白髭の見事な老爺の登場に、夫の駄目出しはない。

 彼もまた生粋の職人なのだろう。

 料理長の背後には料理人、ホールのスタッフも揃って腰を折っていた。

 どうやらお花畑思考の持ち主は、副店長だけのようだ。

 店長不在で暴走してしまったのだろう。


「謝罪を受け入れます。予約の通り朝食をいただきたいのですが、叶いますか?」


「勿論でございます! 注文はわしが伺ってもよろしゅうございますでしょうか?」


「料理長自ら光栄ですわ。席への案内は……」


「そちらもわしがいたしましょう。御予約の個室はこちらにございます」


 料理長は料理人たちに素早く目配せをする。

 ホールスタッフたちは、料理人と同じような目配せをした。


「お食事を堪能中の所に、失礼いたしました。引き続き、どうぞ朝食を御堪能くださいませ」


 自分が悪いわけではないが、こういった場面では謝罪をしておいた方が無難だろうと、軽く頭を下げておく。


『最愛様が謝られる必要はございません!』


『こちらのお粥はとっても美味しいですから、どうぞ楽しんでいってくださいませ!』


『お姿を拝見できただけで、自分どもは光栄です!』


『ぶっちゃけ、駄目なのは転がってる奴だけですから! 御安心くださいね!』


 沈黙を守って様子を窺っていた他の客は、私の詫びに対して、そんな言葉を向けてくれた。

 朝の活力となる食事の場面で、不快な思いが残らないのなら良かったと思う。


「副店長は食料庫に縛り上げて収容しておきます。店長が戻り次第詳細を伝えてのちに、退職になるかと思いますが、謝罪に向かわせましょうか?」


 料理長が掃除の行き届いた寛げる個室へと案内し、椅子を引いてくれる。


「副店長の謝罪は不要じゃよ。主様の領域へ一歩たりとも足を踏み入れさせたくはないのでな」


「他のお客様もおっしゃっていたように、彼だけが困った店員だったのでしょう? 次に来たときの接客が彼でなければ、これ以上の謝罪は不要ですよ」


「お優しい言葉に感謝いたします。次の御来店も自分が接客いたしましょう。わしもたまには、お客様のお声を直に聞かせていただきとうございますからなぁ」


「お忙しい立場なのに恐縮です。ではそうしていただきますね?」


「こちらがメニューでございますが、メニューにないものでも、ご要望があればお受けいたしますので、遠慮なく申しつけてくだされ」


「うむ。我はほうじ茶粥を希望するぞ!」


 私に近しい者の中では一番遠慮がないランディーニだが、全く図々しさを感じないのは彼女が空気を読んだ上で自分を演出しているせいだろう。


「おぉ! 随分と渋い好みでいらっしゃる。添え物は何にいたしましょう。ほうじ茶粥ですと……ブリガッコ(いぶりがっこ)サイザー(搾菜)チリチリジャコ(ちりめんじゃこ)に、ミドリナ(高菜)の炒め物などが人気ですな」


「全部じゃ!」


「ほほう。全部となると一人前より多めに、お持ちした方がよろしゅうございますかな?」


「そうじゃな。皆にもほうじ茶粥の美味しさを楽しんでもらいたいのでな」


「承りました。一口サイズの小さな粥椀も多めにお持ちいたしましょう」


「そんな風にシェアする方たちも多いのかしら?」


「女性同士や家族連れに多く見られますな」


 私が思っているよりシェアを楽しんでいる人たちが多いようで安心する。


「我は四種類のチーズ粥をいただこう! トッピングはカリカリコンベーとカリットン(クルトン)ドライセリパ(パセリ)とドライ赤パップリンじゃ」


「私は海鮮粥かなー。トッピングはフライドニクニン、輪切りレッドシラカ(赤唐辛子)は少なめ、クチパ(パクチー)多めでお願いします!」


 二人もさくさくと決めていく。

 慣れているので幾度となく訪れているのだろう。


 私は同志が多いらしく、結構目の引く大きさで掲載されていた、本日のお米お粥とあんかけをお願いする。

 トッピングは選びきれなかったので、箸休めにもいいからと、料理長にお勧めされたカメーワ(若布)のタラノコ(たらこ)煮と、ニガバナ(菜の花)とオニオーンのシラカツ-ナ(ツナ)マリネを注文しておいた。 


 

 某隅で暮らすキャラクターの新キャラ入手に気合いを入れてしまいました。

 今はディスプレイの下に鎮座しているのでとっても癒やされます。


 次回は、旦那様は分限者です。朝食を楽しみましょう。後編(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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