表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/223

黒き忌み子は愚か者の末路を語る。後編。

 とあるゾンビ系実況動画を見るのが楽しくて仕方ないのです。

 そして実況動画を見ていると、自分もプレイしたくなってくるのです。

 しかし、実況主さんのように華麗なプレイは絶対できないのです……。

 今度セールがあったら購入しようかなぁ。



 男を牢へと入れてのち、すぐに戻ってきたヒルデブラントは、見知った人物を伴って聴取部屋へ現れた。


「バロー殿?」


「お疲れ様でございます、フェリシア殿。最愛の御方様はお心も安らかに買い物を続けておいでですので、御安心くださいませ」


「バロー殿の御高名は不肖の手前とて存じておりますので、その点の心配はしておりません……して、それは?」


 意識を奪ってあるらしい男女が、容赦の一片もなくバローに引き摺られている。

 目が覚めたその瞬間から、間違いなく節々が痛むだろう激しさだ。


「よりにもよって御方様の御前で、三文芝居もしくは茶番を繰り広げたのですよ。それだけでも業腹だというのに、男の方がお手を取っての挨拶を請うてきたのです!」


 高貴な方への挨拶。

 それも王族と同等かそれ以上の相手には、きちんとした手順が必要不可欠だ。

 一見マナーに則っていると思われがちだが、それは定められた場所で、良識のある相手にしか許されぬ所作でもあった。

 ましてや、アリッサ様への御方の御寵愛は広く知れている。

 男性からの声がけなど、王族とて無謀だ。

 貴族の常識として身分が高い者への挨拶は、高貴な方からのお声がけをひたすら待つ……というものがあったはずだというのに。


「それはまた……愚かな真似をしたものですね?」


「全くです。花屋の店主は御方様も遠慮なくお声がけできる、良識ある職人でしたが、その妻が最悪でした」


 バローが塵芥を見る目の先には女があった。

 花屋の妻とやらなのだろう。


「金目当てで嫁いだ挙げ句、不倫した相手が侯爵家の使えないスペアだったと」


「ほぅ」


 そんな妻を愚者と見抜けなかった夫である店主にも問題があるかもしれないが、化ける女は時に言葉通りの化け物になる。

 バローが良識ある職人と表現するのならば、店主が見抜けなかったのも無理からぬ結果なのだろうか。


「で。花屋の良質さを愛でていた公爵家夫人の逆鱗に触れ、とうとう侯爵家当主に勘当された屑が、その妻と駆け落ちを目論んだというわけなのです」


「……確かに三文芝居。笑えない茶番ですな」


 しかし愚かなその二人は駆け落ちが失敗して、かえってよかったのではなかろうか。

 罪を贖う機会を与えられたのだから。


「バロー殿もフェリシア殿も御覧になられますか?」


 バローと顔を見合わせてお互い大きく頷く。

 アリッサ様へきちんと報告するためには必要だろう。


「では……起きろ」


 屑二人の体がびくっと大きく跳ねた。

 フェリシアの知らない強制覚醒系スキルのようだ。


「っ! ここはどこ……あ、アッシュフィールドっ!」


「ふむ……我が名を叫ぶならば、ここがどこであるか理解できているのであろうなぁ?」


 フェリシアにとっては背筋を何かが這う程度に感じる威圧だが、屑には堪えたらしい。

 顔色を蒼白にしてがくがくと震えている。


「まぁ! こちらの麗しい御方はアッシュフィールド様とおっしゃるのですね? ヴィンフリート様っ! 私を紹介くださいませっ」


 屑の片割れは威圧に完全屈服したヴィンフリートの様子を理解もせず、己の欲望ダダ漏れのオネダリをし始めた。


「し、静かにしないか、エルヴィーラ!」


「ヴィンフリート様……酷いですわ! 紹介していただけませんの? 嫉妬してくださるのは嬉しゅうございますが、紹介いただけないと御挨拶すらできないではありませぬか!」


 紹介のない挨拶は許されないという常識は理解していても、それ以外が非常識すぎて残念だ。


「挨拶の必要はない。ここは騎士団聴取部屋。罪を犯しし者から必要な情報を引き出す場所だ」


「罪を犯しし者……? 私が、罪人?」


 何とエルヴィーラは罪の自覚がないらしい。


「麗しき最愛の御方様への不敬と横領。ヴィンフリートの罪状は同じく御方様への不敬。あとは結婚詐欺だな」


「結婚詐欺?」


「そうだ。ヴィンフリートは貴殿から絞るだけ絞って捨てるつもりだったが、他の情人には全て捨てられた。よって仕方なく貴殿を連れて逃げ、適当なところで貴殿を奴隷として売却し、その資金で生活をしようという浅はかな計画をたてていたのだと推察する」


「私と結婚するつもりがなかった? 他の、情人って、え? 私を奴隷として売るとか……そんな! そんな酷いっ! 全部嘘ですわよね、ヴィンフリート様!」


「……そいつの……ごっ! 騎士、様の、おっしゃるとおりだ。貴賤の身で私と婚姻を考えるなどとは、無礼極まるなぁ?」


 アッシュフィールドをそいつ呼ばわりして、頬を殴られたヴィンフリートは、八つ当たりとばかりにエルヴィーラを貶める。


「貴様など、金や花を貢いでよこしたから、お情けで種をくれてやったのだぞ? 種を与えてもらえただけで、這いつくばって感謝するべきだというのに! 婚姻を望むなど、どこまでつけあがれば気がすむんだ? 最中の戯言を本気にするなど……これだから愚民は!」


 調子に乗ったヴィンフリートが軽薄な言葉を続ける。

 その、言葉の。

 どこが逆鱗に触れたかは、わからない。

 エルヴィーラは、ヴィンフリートに今まで一度も向けなかったであろう憎悪の眼差しを向けて、頭突きをした。

 微塵も止める気がなかった周囲に見放されてしまったので、頭突きはヴィンフリートの鼻の骨をぐしゃりと砕いた。


「わ、我の鼻があああああああ!」


「うるさい」


 はぁ、と呆れの溜め息を吐いたアッシュフィールドが、投げやりな所作でヴィンフリートの鼻にポーションを振り掛けた。

 鼻は押し潰されたままだが、ヴィンフリートのうめき呻き声が小さくなる。

 痛みを和らげるタイプのポーションだったようだ。


「お、恐れながら騎士様! 私はその男に騙された哀れな女でございます。どうぞ、お慈悲を賜りたく! 伏してお願い申し上げます」


「……公爵夫人が愛でられる花屋を穢した罪は重い。それ以上に御方様への不敬に対して慈悲はない」


「あ、あんな女のどこがっ!」


 フェリシアは反射的にハルバードを振るった。

 エルヴィーラの髪の毛を天辺だけ刈り取る。

 バローだけが無反応だったが、男性陣は呻いていた。

 ヴィンフリートまでもが声を出して笑った。

 それだけ滑稽な髪型なのだ。


「御主人様に対する、新たな不敬は許さぬ。次は髪ではなく首が刈り取られると知れ!」


 まだ喉を鳴らすアッシュフィールドが懸命に表情を取り繕いながら、エルヴィーラの不敬を止められなかった謝罪をしてきた。

 ヒルデブラントも同じく頭を下げる。

 ヴィンフリートは、今気がついたとばかりにフェリシアの容姿を褒めた。

エルヴィーラもフェリシアを見て驚いている。

 商人に貶められるより、今その容貌に気がついた! と驚かれる方がいたたまれないのはどうしてだろう。

 

「エルヴィーラ。罪状は、理解できたか?」


「はい……できました。どの程度の罰が科せられるのか、教えていただけましょうか」


「横領分を指定された娼館で弁済といったところか」


「御方様への不敬も、金銭での弁済が叶いましょうか」


 叶うはずもない……と一瞬考えたが、アリッサ様に一番利がある方法は案外金銭での贖いなのかもしれない。

 何より弁済を申し出る以上、罪の自覚が出たのだから、ヴィンフリートよりよほど真っ当だ。


「慈悲深い御方だ。誠心誠意謝罪した上での申し出であれば、叶うかもしれぬ」


「……御方様の従者様。恐れ多くも慈悲深き最愛の御方様へ、度重なる不敬を働いてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。大変、申し訳ございませんでした」


 床に額をつけての謝罪がなされる。

 わかりやすい最上の謝罪だ。

 一体この短時間で、何故エルヴィーラはここまで反省できたのであろうか。


「従者様のように美しくも強い方が忠誠を誓われる御方様は、私なぞが妬むのも恐れ多き御方なのだと、ここにきて理解いたしました。誠に申し訳ございません。どうか、金銭での弁済をお許しいただきたく……」


 額が床へぐりぐりと強く押しつけられる。

 忌み嫌われてきた自身の容貌が、こういった効果を出したことに驚く。

 しかしアリッサ様の役に立てたのだと思えば、なかなかに誇らしい。

 ふとヴィンフリートを見れば、エルヴィーラに嘲りの眼差しを向けていた。

 悪い意味でこの男は、どこまでも貴族でしかなかったようだ。


「我の一存で貴殿の願いを叶えることはできぬ。しかし、反省と弁済の旨はしかと、御主人様に伝えよう。アッシュフィールド殿、それでよろしいだろうか?」


「慈悲深き最愛の御方様は、きっとお喜びになるだろう。お優しい方だ。無論騎士団は貴殿や御方様の意思を尊重しよう」


「お心遣い、痛み入る……正しく罪を受け入れ、反省の色が見える者には慈悲を。そうでなき者には、相応しい罰をお願いしたい。御主人様も、きっとそうおっしゃるだろう」


「フェリシア殿の意見に同意いたします」


「確かに承りました」


 自分たちの立ち会いはここまでで十分だろう。

 あとは、心が折れるまでヴィンフリートが痛めつけられるだけだ。

 こいつはそうでもしないと、反省すらできなそうだから。


 ヒルデブラントがエルヴィーラを抱き起こし、手を貸してやりながら聴取部屋を出て行く。

 フェリシアとバローも続いた。


「おいおいおいおいおい! どうして私が、こいつと残され! がふっ!」


 またしてもアッシュフィールドを、こいつ呼ばわりするヴィンフリートの体が吹っ飛ばされる。

 フェリシアの足元に転がってきたので、助けを求める目で見上げてくるヴィンフリートの体を、アッシュフィールドの元へと蹴り転がしておいた。

 洋服やアクセサリーの描写をしているとショッピング心が擽られます。

 某執事喫茶と好きなブランドがコラボしているネックレスに惹かれているのですが、購入したとして、していく場所がないと理解できる冷静さはあるのですよ……。


 次回は、旦那様は分限者です。朝食を楽しみましょう。前編。の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ