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黒き忌み子は愚か者の末路を語る。中編。

 メリークリスマス!

 プレゼント交換は昨晩しました。

 XLサイズのメンダコなぬいぐるみが、すっごくやわらかくて最高の肌触りなのです。

 しかし、メンダコは可愛いです。

 リアルメンダコも可愛いと思ってます。



 アッシュフィールドが見る者の背筋を怖じ気立だせる微笑を浮かべて口を開く前に、犯罪者がフェリシアに向かって罵声を浴びせた。


「天使族の忌まわしき漆黒が、尊き御方の従者を名乗れるはずもない! 下がれっ! 下がって跪き、我に頭を垂れるがよい!」


 フェリシアは沈黙を守る。

 アリッサ様に無礼を働いた者に下げる頭はない。


「きさっ!」


 犯罪者の目の前に剣が振り下ろされる。

 乱れほつれて額にへばりついていた前髪が、一房切り取られた。

 

「尊き御方様自ら選び抜かれた従者相手に、これ以上恥ずかしい真似をされるならば……」


 振り下ろされた剣は、切り落とされた一房の髪を、今度はみじん切りにして犯罪者の目の前に舞わせて見せる。


「ひぃっ!」


「この髪の毛と同じ結末を辿ると知れ!」


 さすがの犯罪者も口を噤む。

 しかしフェリシアには憎悪の眼差しを向け続けた。

 機を見る才が人一倍あるとされる商人とは思えぬ愚かさだ。


「ぎ! あああああああああっ!」


 浅い溜め息を吐いたアッシュフィールドが、犯罪者の小指を第一関節だけ切り落とす。

 出血は派手に犯罪者の顔を染めた。


「うるさい。黙れ」


 テーブルの上に置かれた布が犯罪者の口に押し込まれる。

 犯罪者の髪の毛を引っ掴んだアッシュフィールドは、そのまま勢いよく犯罪者の顔をテーブルに叩きつけた。

 その激しさがどれほどのものだったかは、犯罪者の歯が一本抜け飛んだ様子から十分推察できる。


「全く、商人とは思えぬ愚かさだな。これ以上フェリシア殿への不敬はならぬ。天使族が何を考えているかはさっぱりわからぬが、フェリシア殿は騎士団にとって英雄で、御方様が大切にされている従者。妻子を助けたくば、弁えよ!」


 妻子にまで何を! とでも言いたげな眼差しがアッシュフィールドに向けられる。

 アッシュフィールドは静かに目を細めるだけで答えて見せた。

 どうにか何かを悟れたらしい犯罪者が頷いたので、アッシュフィールドは口の中から布を抜き取った。

 布は血まみれで、歯が二本ほどくっついている。

 アッシュフィールドは無造作に、ポーションと思わしきものを犯罪者の口の中と指にかけた。

 出血は治まったようだが、犯罪者の顔色は真っ青のままだった。


「さて。御方様にあれほどの不敬を働いたのだ。王都の商人ではあるまい?」


「……ビュッテノヴより参りました」


「ああ、なるほど。閉鎖的な地方だな。領主は人嫌いだが、王へも最低限の敬意を払っている、どちらかと言えば頭のいい者だったはずだが……」


「そ、その! ビュッテノヴを治めておられるベルゲングリューン侯爵殿が、我に御助言くださったのだ! 貴殿は、王都へ行くべきだと!」


 犯罪者の鼻息は荒い。

 領主が言葉に秘めた嫌みを微塵も推測できていないようだ。

 世情に疎いフェリシアですら、理解できたというのに。


「なるほどな。領地に貴様のような阿呆な者がいては迷惑だから王都へと追いやったわけか。王都は身の程知らずには冷たい地だからな」


「そ、そんなはずはない! 今の王都は何かと緩いからやりやすかろうと、おっしゃってくださったのだ。ベルゲングリューン侯爵殿が嘘を吐くはずがない!」


「……さっきから気になっておるのだが、貴様は爵位持ちか? ベルゲングリューン侯爵『殿』とは、また随分と不躾な物言いだが」


「爵位はない! だが、ベルゲングリューン侯爵殿に咎められたことは一度もないのだ! 問題はあるまい! むしろ! 私を重宝して、不遜な物言いを許してくださっているのだ。誠に慈悲深き御方よ!」


 密かに馬鹿愚かとしかいいようがない犯罪者を相手する、アッシュフィールドに同情を覚える。

 普通なら気がつくだろう。

 既に指摘するまでもないほどに、見限られているのだと。


「咎めないのは貴族の作法だ。許されていないのならばきちんとした敬称を付けるべきであったな。不敬罪が一つ増えた」


「はぁ?」


 素っ頓狂な声を上げる犯罪者を尻目に、さらさらと滑らかにペンの記す音が聞こえる。

 フェリシアの対角線上に座ったヒルデブラントが書いているのだ。

 どうやら彼は武だけでなく、文にも長けているらしい。


「王都へ入って何日目だ?」


「……一週間ほどで」


「御方様の情報はどうやって得た?」


「目端の利く者ならば、誰でも知っています。誰からと指定できるはずもなく、自然と耳にしたものばかりです」


 犯罪者はどこまでも愚か者らしい。

 王都についてたったの一週間。

 自ら動きもせずに得た情報だけで、アリッサ様に近づこうとしたのだ。

 本当に目端が利く者であれば、そんな不確かな情報で動こうとはしないだろう。

 

「……子供をけしかけたのは貴様か?」


「けしかけたなどとは恐れ多い! 私は申し上げただけです。二本も角がある馬なんてすばらしく格好いいな、と」


「では、フェリシア殿が責任を取るべき者を呼んだとき出てこなかったのは?」


「忌み……彼女が私の子を抱き上げたのに耐え切れ……驚いてしまったのです」


「御方の奥方様と呼びかけたのはどうしてだ? 従者への返事もせず、よもや直答が許されると思ったのか」


「せ、せめてお詫びをと!」


「尊き御方へ詫びたいと望むのならば、手順が必要だ。手順を踏まねば、更なる罪を重ねるだけなのだが」


「と、申しますと?」


 ここでその質問が出るとは信じがたい。

 調書から顔を上げているヒルデブラントも、呆れたように頷いていた。


「罪を犯した貴様ができる最善は、フェリシア殿が声をかけたときに名乗り出て、言い訳を一切せず謝罪することだった」


「い、今更! そんなことを言われたって!」


「うん。無理だな。だから最善な行動の結果に得られたであろう、即時王都からの退去及び永久追放の夢は潰えた」


 犯罪者の口があんぐりと間抜けに開かれた。

 最善でも酷すぎる罰とでも思ったのだろう。

 

「次点でフェリシア殿に謝罪。そして最愛の御方様に謝罪の機会をいただく慈悲を請うことだった」


「忌み子に謝罪などできるかっ!」


「はぁ。あのなぁ、貴様はどこまで馬鹿なんだ? 天使族の血を引いているのが御自慢なのかもしれないが、純血の天使族から見れば、貴様が無学にも貶めているフェリシア殿に遠く及ばぬ塵芥なんだぞ?」


「え?」


 思わず声を出してしまう。

 それは知らなかったのだ。


「天使族は愚かにも、唯一美しき漆黒を纏うフェリシア殿の優秀さに嫉妬して、その身を貶めた。いいか、嫉妬するほどの強さと美しさがフェリシア殿にはあった。だが天使族に取っては同種族以外は心を動かされる存在ではない。貴様は天使族の中でも性欲を制御できない痴れ者による、戯れの果てに生まれた子なのだよ」


 戦いに明け暮れる日々の中で、その恐怖から逃れるようにして性欲を暴走させる者もいたように思う。

 暴走した者は痴れ者と言われて、フェリシアほどではないが、蔑まれる対象だった。

 だがそれ以上に性欲処理に使われた者は疎まれた。

 ほとんどがその場で殺されていたはずだ。


「……その者はしかし、随分と、運が良かったのだな」


「ええ、そのようです。でも運が良かったのはそこまで。こうなってしまっては妻子を持てたのも良かったとは言えますまい」


「それ、は。どういう、ことだ?」


「……天使族から見れば塵芥。人から見れば犯罪者。そんな貴様が、どうして、フェリシア殿を貶められるんだ?」


「申し訳、ござませんでした。最愛の御方様の従者殿。今までの無礼を、お詫び、申し上げます」


 犯罪者の目から憎悪は消えた。

 と、同時に。

 あれだけ満ち溢れていた生命力も残ってはいなかった。


 天使族の血を引いているのが、彼が持つ最後のよすがだったのだろうか。


「妻子は連座だ。御方様よりお慈悲をいただいているので、子に関しては様子を見て奴隷に落とすか、孤児院へ預けられるか決めよう。妻も連座……いや、話は聞かねばなるまいな」


「……天使族の父の最愛は、人である母だったのです。幼き頃、そう、聞かされて育ったのです」


「父親に?」


「いいえ、母親に」


 で、あろうな。


 母子が無事だったのならば、もしかしたら本当に最愛だったのかもしれないが、その可能性は低かろう。

 天使族と渡り合える……上手く転がせる……商人が哀れんで引き取った。

 そんなところだろう。


「御方様は自分への不敬で人が死ぬことを好まれない。ベルゲングリューン侯爵にも話を聞き、最終的な罰が決定する。それまでは一般牢へ入ることになる。資産は全て没収だが……」


「こちらで全てにございます。妻と子には小遣い程度のものしか渡しておりません」


 懐から取り出したのは小さな袋。

 使い古された袋の中身は、軽そうだった。


「あい、わかった。では続いて母子に話を聞こう」


「妻子と話す時間は、いただけますでしょうか?」


「……こちらが話を聞いたあとで、少しであれば」


「ありがとう存じます」


 フェリシアに罵声を浴びせた犯罪者とは思えぬほどに憔悴した声で、礼が述べられた。

 完全に折れた心にならば、届く言葉もあったのだろう。


 立ち上がったヒルデブラントに腕を掴まれて立ち上がった男はよろよろと覚束ない足取りで、牢へと連れられていく。

 ドアが開き、外へ出る前に振り返った男は。

 アッシュフィールドとフェリシアへ、それぞれ深く頭を下げた。

 そして今日。

 スーパーで売っているクリスマスチキンセットがどうしても気になって購入。

 それをメインに献立を決めました。

 今年は体調不良で手作りローストビーフもパエリアもできなかったのが寂しいです……。


 次回は、黒き忌み子は愚か者の末路を語る。後編。(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

  

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