旦那様は時々頼まれ講師。料理に石付指輪は危険かと。
サブタイトルを予定より変えました。
石付の指輪は、料理の中に紛れ込みそうで怖いかなと思った次第です。
後は単純に料理しずらいですよね?
シンプルな結婚指輪とかは別ですけど。
「しかし……素敵なデザインのネックレスですねぇ」
ほぅと、紗枝が溜息を吐く。
「料理教室につけていく物ではないと言ったんですけれど……」
つけて行かないと駄目ですよ? と重ねて言われ、ネックレスも指輪もわざわざ夫がつけてくれた。
「旦那様がつけておくれとおっしゃったんですね? と、言うか、もしかしてつけて下さったんじゃないんですか」
私、わかってますよ! とキラキラとした眼差しで、亜美が首を傾げる。
「はい。そうなんです」
否定するのも仕方ないので肯定しておく。
三人三様の嬉しそうな悲鳴があがった。
私は改めて自分の格好を頭の中でなぞらえる。
紺のシンプルなAラインワンピースは足首まであるロング丈。
襟、袖、裾に手縫いの綿レースが幅広く縫い付けられていた。
スクエアカットに開いた胸元には、日本の老舗が限定品として出したサファイアのネックレスが輝いている。
メインはハート型にカッティングされた30カラットのサファイア。
ネックレス部分はダイヤで花柄をモチーフにして繋がっている。
正直重い。
このネックレスを外した後は、必ず夫に念入りなマッサージをして貰っているほどだ。
左手の薬指には、10カラットのハート型サファイアをダイヤが囲んでいるデザインの指輪が嵌っている。
料理をするのに指輪は! しかもこのデザインは無理すぎます!と強く拒否したが、対で買ったのだから駄目です! 許せません! と頑なに却下されてしまったのだ。
指輪をするくらいなら、イヤリングの方が良いとも訴えたのだが、そちらの意見もどうしてだか拒否された。
「人にもよると思いますけどねぇ。麻莉彩さんがされていると、むしろ身体の一部かというくらいにしっくりしていますわ」
「あら? でも佐瀬奈≪させな≫のご老体は麻莉彩さんにご執心だった気が……」
「……そういえば、確か息子さんも、ですよね?」
「そもそもハートデザインを始めた切っ掛けが麻莉彩さんだったはずですよ。ご老体が推し進めたらしくて、息子さんが驚きながらも大賛成したとか」
「はい?」
何か恐ろしい話を聞いた気がする。
「あら、ご存じない?」
「ふふふ。麻莉彩さんらしいですね」
「お噂通りの方で……本当、お近づきになれて嬉しいです!」
好意的なものであるのは大変ありがたいのだが、どんな噂が回っているのかは、気になるところだ。
「そういえば、エプロンはどんな物をお持ちになられましたの?」
「はい、これになります。亜美さんでしたら着こなせそうですが、私には正直愛らしすぎるかと」
綿レース仕様なのは好ましいのだが、ポケットと胸部分がハート型なのだ。
アクセサリーがハート型の分、エプロンのデザインは大人しくして欲しかった。
白一色なのが、せめてもの救いかもしれない。
「私だと、丈があわないわ。でも麻莉彩とお揃いで着るんだったらいいかも!」
「ああ、お揃いのエプロンと言うのも良いですね。ベタな友人らしくて」
「色違いのモチーフ違いとか如何ですか 次回には間に合わせますよ」
着々とお揃いエプロン計画が進んでいる。
優貴のセンスなら問題はないはずだ。
夫も喜んでくれる気もする。
料理教室が始まる前にと夫が用意してくれた場は、想像以上に穏やかに嬉しく、少々面映ゆくもあるものだった。
次回は、旦那様は時々頼まれ講師。自覚できない愚かさ。
反省した人には、ちょっとだけ、ざまぁを。
出来ない人には、痛烈なざまぁを仕掛けたいものです。