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旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。ドレッサーを選びたかった!

 どんなドレッサーにするのかうきうきしうながら画像検索しました。

 自分では似合わない&買えない、でも好きな家具を主人公に使ってもらうのは、楽しいのです。

 メモは取ってあるので、そのうち登場させられると思います。

 

 

 夫と一緒の買い物は何処に行ってもスムーズだった。

 夫の頭の中では何時でもそのときに買う物が、明確にイメージできているからだと思う。

 友人とのショッピングなんて夢のまた夢だった私としては、女性しかいない買い物にはかなりの夢を抱いていた。

 叶わないと思っていた夢の大半が叶ってとても嬉しい。

 しかし女性の買い物に男性はついていけないという男性の意見に、一部だけ同意してしまった。

 

 皆が嬉しそうにくれる意見をなるべく生かしたいと考えても、誰かの意見を否定しなくてはいけないのがとても寂しかったのだ。


 男性が女性との買い物を苦手に思う理由は、女性の反応に気を遣うというのと、単純に時間がかかるのが面倒! というのがメインの意見だと考えている。

 私の場合はついていけないというよりは、申し訳ないと感じているので、その点は違ったかもしれないが。

 そもそも私は申し訳ないと感じてしまうけれど、できれば一緒に楽しみたいと思うのだから。

 

「主、どうした? もしかして疲れたか? いい人たちも多かったが、あれな人もびっくりするほど多かったからなぁ……」


「いいえ。向こうで女性同士の買い物ってしたことなかったから、主人と二人の買い物とは随分違うのね……なんて、しみじみしていただけなの」


 さすがに飾らない本音はさらせない。

 彼女たちを無駄なことで惑わせたくはなかった。

 だから飾った本音を伝えた。

 本音にも伝え方、というものがあるのだ。

 私はその重要さを夫で存分に学んだ。


「まぁ! ご主人様は女性との買い物をされなかったんですの~」


「ええ。楽しく買い物できる友人には恵まれなかったの。この方たちとなら友好な関係を持てそうだなと思っていたときに、こちらへ召喚されてしまったものだから……」


 料理教室で出会った三人を思い出す。

 向こうへ帰還できた際には、仲良く揃ってランチやショッピングなどを楽しみたいものだ。


「では、こちらで練習して。向こうで本番を、迎えればよろしいのです!」


優しい彼女たちなら私の無作法にも怒らず、丁寧に諭してくれるだろう。

 だからこそ、今のような機会に練習できるのはちょうどいいのだ。


「ふふふ。そうね。次のお店では何を見るのかしら?」


「次はドレッサー、ティーテーブルと椅子五脚。あとはテラス用のインテリアかしらね?」


「テラス用インテリアですとぉ……ガーデンテーブルと椅子は欲しいですわ~」


「ご主人様のお好みで、花も植えたらいいと思うのです!」


「そうなるとお花だけ別のお店かしら?」


「ですねぇ。ノワールかランディーニに手配してもらうといい感じになるかと」


 次に行くお店は専門店ではないらしい。

 テーブル専門店はさて置き、ドレッサー専門店は維持が大変そうだ。


「次に行くお店は、家族経営なんだけどそれぞれ専門が違うの。父はテーブル担当、母はドレッサー担当みたいにさ。センスが良い家系らしくてね。昔から若い女性に人気なんですって!」


 なるほど。

 専門店が幾つか入って、情報共有が正しくできている感じの経営らしい。

 家族でやる気楽さもあるが、甘えが前面に出ると赤の他人よりこじれてしまう。

 その点が家族経営の厳しいところだが、老舗の良店というのなら上手く折り合いを付けているのだろう。


「いらっしゃ~い! よく来てくれたわねん!」


 家具店というよりは雑貨店といった印象を受けるカントリー調の店構えの前、雪華の手を借りて馬車から降りようとしたところで、声がかけられる。

 空中に足を浮かせたままの私を、ローレルが背後から抱き締めて馬車の中へと引き寄せた。

 勢いよく雪華が扉を閉める。

 それだけ店の中から現れた人物に衝撃を覚えたのだろう。


「あららん? どうして可愛い子を隠しちゃうのかしらん? 貴女はお呼びじゃないのよん?」


 そこに立っていたのは、ガチムチのゴスロリ。

 そう、ガチムチのゴスロリ。

 大切ではないが、衝撃が過ぎたので二回言っておく。


 スカートはミニ丈。

 せっかくの絶対領域には、手入れすらされていない剛毛が蔓延っていた。

 そういったキャラでもなければ基本、剛毛はきちんと手入れをした上でコスプレしてほしいとは、大半のオタクが思うことではなかろうか。


 禿頭の上には純白の帽子。

 帽子には同じ大きさの白い花が飾られている。

 この場合は帽子か生花、どちらかにした方がセンスがいいように感じる。

 しかも生花からは、カサブランカの匂いを十倍強くしたような匂いがした。

 良い香りも度を超せば悪臭となる見本かもしれない。

 

それでもまぁ、そこまでなら、人の趣味はいろいろとあるからねぇ……で、スルーできるのだけれど。


「早く馬車に逃げた可愛い子ちゃんを出しなさいよぅ!」


 私に執着するのは駄目だ。


 ええ、その通りですよ?


 夫が許さない。


「ぎぃゃあああああああ!」


 野太い絶叫が上がった。

 怖い物見たさに小窓から外を覗き込む。

 ローレルとネイも一緒だ。


「……御方の、お怒りです?」


「ええ、そうね。私へ執着を見せたのが問題だったみたい」


 純白のゴスロリ衣装は、真っ黒な煤と化して男性をおおっている。

 帽子や生花も煤化しており、頭はまるで髪の毛でも生えたかのように、真っ黒になっていた。

 首から下にはモザイクのような、ぼんやりとしか見えない処理がほどこされているあたりが、間違いなく夫の仕業なのだと知れる。

 夫は異世界から、こういった干渉もできるようだ。

 凄まじい力だと思うも、まぁ喬人さんだし! の一言で片付けてしまえた。

 私にとって夫は、そういう存在なのだ。

 私の周囲にいる人も、ああ御方ですから、の一言で同じように納得するのだろう。


「主ー。もう出てきても大丈夫みたいよ。死んではいないし、動けないけど、意識はあるみたいだから」


 馬車から顔を出せば、雪華が男性の顔を覗き込んでいるところだった。

 ローレルの手を借りて馬車を降りる。

 雪華に近寄ろうとすると手で制されるので、先に店へと向かった。


「た、大変、失礼を、いたしました……」


 顔色の悪い男性が店の中から現れる。

 高熱に浮かされているかのように足元が覚束ない。

 

「ご主人様は男性の接客を、好みません。女性従業員を、お願いします」


「少々、お待ちください、ませ」


 青かった顔色を白へと変化させながら、男性が入り口近くにあったベルを鳴らす。

 引っ張って音を鳴らすタイプのベルだ。

 かろんかろんと可愛い音がする。

 

「ローレル、その方を椅子へ」


「はい、ご主人様」


 恭しく頷いたローレルは、近くにあった売り物ではなさそうな椅子へ男性を座らせる。

男性が深々と息を吐き出し礼を述べる頃になって、妙齢の女性が現れた。


「我が息子が大変な失礼をいたしました。伏してお詫び申し上げます……」


 若さよりも疲れが全身から滲み出る女性が、土下座をしようとするので慌てて止める。


「言葉だけの謝罪で十分ですわ。これもきっと想定外のことだったのでしょう?」


 私の言葉に女性は瞳を潤ませる。

 金色の美しいはずの瞳は酷く濁っていた。

 ストレスか疲れか。

 どんな原因だったとしても、外の男性がかかわっているに違いない。


 彼女の目が、盲目に近い状態なのは。


 ローレルが同じように女性も椅子へと誘う。

 女性は過剰に謝罪をしながら椅子へと座った。


 雪華が髪の毛を掻き上げながら店の中へと入ってきた。

 不愉快そうな表情でも愛らしさが損なわれないのには驚かされる。


「御方の罰が下ったわ。外の男は再起不能ね。意識があるから死んではいないけど、介護が必要な状態よ」


「おぉ! ありがとうございます!」


「こ、これで、もう迷惑をかけられないで、すむのですね?」


 喜ぶ二人を静かに睥睨した雪華が、打って変わった穏やかな目線で私を見つめる。


「……主が望むなら、神殿への放逐も可能よ?」


「神殿への放逐というと?」


「御方の罰を受けた者は、その始末を神殿が請け負ってくれるのよ」


 ええ、それぐらいは役に立っていただかないと。

 

 夫にも相槌を打たれてしまった。

 きっと神殿は過去に、夫を怒らせるような何かをしでかしてしまったのだろう。

 その贖いとして未来永劫、面倒な始末を引き受けているのだ。


 一般人どころか訓練を受けた相手でも、ガチムチ男性の対応は難しいと思う。

 この家で介護させれば神殿へ預けるよりも、今まで舐めてきた辛酸の復讐ができる気もする。

 食事をさせなければ人はいつか死ぬのだ。

 被害者にこそ、生殺与奪の権利があってしかるべきではないのか。


「……貴方方はどうして欲しいですか?」


「神殿への放逐を!」


「……さすがにそれは……介護の方がいいのではないかしら?」


 参考までに二人へ聞いてみたところ、意見が割れた。

 女性の意見にこそ闇の深さを感じるのは気のせいだろうか。

 外聞をはばかっているとも考えられたが……。


「……貴方たち、あの男の管理をきちんとしていたの? 家族なんでしょう?」


 雪華の声は鋭く冷たい。

 彼女は自宅での介護を望む気がする。

 生殺与奪の権利は、その苦労に見合うもの。

 逆に苦労なしで得られぬものでもあったから。


「しておりました!」


「私どもの、できる範囲ではございますが……」


 そこだけは誤解されたくないと、必死な二人が説明するところによると……。

 

 ガチムチは先妻の子供らしい。

 先妻は浮気をしたので離縁したところ、子供をおいていってしまったようだ。

 検査の結果。

 顔色の悪かった男性(店主)の子供ではなかった。

 先妻の親族は、既に問題児であったガチムチの受け取りを激しく拒否。

 仕方なくそのまま養っていたとのこと。


 筋肉をつけることに命をかけていたガチムチだったが、ある日嫁いできた盲目に近い女性(店主の後妻)の若さと愛らしさに何故か猛烈な嫉妬をして、あのような格好をするようになったらしい。


 また、それまでは店の経営や接客になど全く興味がなかったのだが、センス良く接客の評判もいい後妻に強烈な闘争心を抱き、無謀な経営方針のごり押しや、センス最悪な上に歯に衣着せぬ接客をするようになってしまった。


 家族以外に迷惑をかけるのは認められないので、さすがに放置はしておけないと、寝ているときを見計らって、奴隷の首輪を付けて管理を始めたようだ。

 奴隷の首輪をつけてからは、経営にもかかわらせず接客にも出さずに隔離しておくことに成功していたので、安心していたところ。

 私の話を盗み聞きして、妄想を滾らせてしまった。

 私を手に入れれば、後妻を超えられるかもしれないと。

 挙げ句。

 奴隷の首輪を引き千切って、今回の暴挙に出たらしい。


 突っ込みどころ満載の思考だが、いっている人の思考を理解しようなんて、無謀な話だ。


 店主がよろよろしていたのは、体を張ってでも止めようとした店主を弾き飛ばしていったからだそうだ。

 ちなみに後妻の目も、やはりガチムチが原因の疲れとストレスと診断されたとのこと。

 

 奴隷の首輪は基本千切れるものではない。

 問題児の情熱だけは認めてもいい気がしてきた。

 夫からの駄目出しが激しそうなので、思うだけにしておくが。


「想定外過ぎる事態ね……それならまぁ、選択の余地はあるかな?」


 雪華の瞳と声から不快さが消える。

 

 問題児を見捨てず、管理をしていた点は、評価されてしかるべきだと判断したのだ。

 

「……でしたら神殿への放逐をお勧めします。介護は相手がどんなに大切な人であっても、心身ともに消耗するものですからね。始末の際に、要望はある程度聞き届けられるのでしょう?」


 夫のことだ。

 その辺りは抜かりない手配を完璧に済ませているはずだ。


「ええ、できるわ! なるほどね。被害者の味わった心身の痛みを与えてから、始末をすると、そう要望を出せばいいのよ!」


 雪華は店主と後妻を振り返る。

 店主は大きく何度も頷いた。

 後妻は躊躇ってのちに、何故か私を縋るような目で見つめた。


「……貴女はよく頑張りました。このままでは貴女は壊れてしまいます。貴女が彼を神殿に放逐したとて、貴女を責める者はおりません。だから安心して、放逐なさい」


「ありがとう、ございます……」


 金色の瞳から涙が溢れ出る。

 しゃくり上げるのを、店主が優しく宥めていた。

 私に向かって、ありがとうございます。妻を救ってくれて、ありがとうございます。店を救ってくれて、私どもを救ってくれて、アレをも救ってくださって……ありがとうございます、と謝意を示し続けた。


 店主の心労は綺麗さっぱりと失せるだろう。

 後妻の涙に濡れた瞳も乾く頃にはきっと、あの濁りは取れているはずだ。

 目も見えるようになる。

 金色の瞳は、美しい本来の輝きを取り戻すに違いない。


「今日は大変でしたね。後日また、伺いますわ」


「いいの?」


 目の届く範囲で見る限り、商品は好ましいものが多かった。

 またガチムチが、あそこまでの力を発揮してしまうほどに羨んだセンスを見てみたい。


「ええ。今度は他の子たちとも一緒に来たいし」


「それがいいと思いますわ~」


「私も、賛成です!」


 二人も賛同してくれた。

 ガチムチの手配をすませて落ち着いた二人は、私の好みに合ったすばらしい品々を見せてくれるだろうと確信しながら、仲良く寄り添って私たちを見送る二人に会釈をして、馬車の中へと戻った。



 ここ最近暑くなってきたせいか、頭痛が酷いです。

 季節の変わり目は、どうしても多くなるみたいなのですが、根本的な解決って見つからないんですよね……とりあえず、鎮痛剤を投与して駄目なら睡眠と時薬で対応してます。


 次回は、旦那様は分限者です。守護獣達と夕食を楽しみましょう。1 (仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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