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旦那様は分限者です。守護獣たちと昼食を楽しみましょう。後編。

 近所のスーパーがついに、マスク必須になりました。

 ほとんどの方がしていらっしゃるようでした。

 除菌アルコールもきちんとしている方が多いです。

 自分はどちらもやってます。

  



 茉莉花茶を飲んで待っていると雪華が、しまった! と声を上げる。


「待たずに食べられる前菜系を頼み忘れたわ!」


 そうだったかしら? と注文したものを振り返ってみた。

 鮮竹巻、小籠包、蝦餃子、鼓汁蒸鳳爪。

 店長にお勧めされた鶏絲炸春巻と煎蘿蔔糕。

 言われてみれば時間がかかるものばかりだ。


「調味料と一緒にある搾菜は食べ放題みたいですわ~」


 抜かりなくチェックをしていたローレルが教えてくれる。

 差し出された小壺には、みっしりと緑色の搾菜が詰まっていた。


 ネイが自分で食べられる分を切り取り、残りをローレルの皿へと入れる。

 リスが口一杯に食べものを入れている場面を想像してほしい。

 もすもすと搾菜を咀嚼するネイをつい凝視してしまう。

 彼女的には毒味のつもりなのかもしれない。


「……とても美味しい搾菜ですので、これを食べて待つといいと、思うのです」


「ふふふ。そうね」


 小壺を回して、それぞれ適量皿へと取り分けが完了する頃合いで。


「お待たせしましたあるー!」


 ノックと同時に店長が現れる。

 ノックの意味あるの? とは、問うては駄目なのだろう、たぶん。


「これはサービスあるねー。御方の奥方様特別仕様なので、他のお客様には内緒あるよー」


 まずは各自頼んだお酒が置かれて、中央に大皿が置かれた。


「前菜盛り合わせあるよー。ゲテモノは避けてあるので安心するよろしー」


 ゲテモノ料理は美味しくても見た目で敬遠してしまう料理が多い。

 サービス品を残すのは申し訳ないので、避けてもらって良かった。

 鼓汁蒸鳳爪を頼むネイは案外といけるかもしれないが、ゲテモノに関しては基本的に私がいないときに楽しんでもらおうと思う。


「蒜泥黄瓜、白切鶏、皮蛋あるね。えーと、キュッカバとすり潰しニクニンの和え物、茹で味付けコッコーもも肉、特殊加工したクエックの卵あるよ。小壺に入っている緑搾菜は、他のお客も食べ放題あるから遠慮なく食べるよろし」


 キュウリとすり潰しニンニクを和えた料理、下味を付けて茹でた鶏もも肉をしっかりとスープに浸して保存する料理、そして皮蛋。

 向こうでの鉄板前菜と同じだった。

 どれも好きな料理だったので嬉しい。

 ローレルが手早く小皿に分けて回してくれた。


「では! 乾杯!」


 せっかくなので乾杯をした。

 皆でグラスをぶつけあう、一般的な乾杯だ。

 ネイのグラスには殊の外慎重にグラスをあてるのに、笑い合ってしまった。


「あー、ニクニンの栄養が染み入る感じー」


 雪華がむふーと鼻息を荒く蒜泥黄瓜を食べている。

 

「これもお肌に良さそうですわよ~、ネイ」


 ローレルが口にした白切鶏には、コラーゲンがたっぷり含まれています! といった感じで見るからにぷるぷるしていた。


「はい! 皮蛋も臭みが全くなくて、とっても食べやすくて、美味なのです! 姉さんたちにも食べさせてあげたいのです」


 ネイの言うとおり皮蛋の好き嫌いが分かれる最大の要因ではないかと思う、アンモニア臭が全くないのに驚かされる。

 濃厚でねっとりとした食感は、かなり癖になる味だ。

 サービスの前菜と搾菜を満遍なく摘まみつつ、茘枝酒を飲む。

 底に茘枝が沈んでいたのでつい、さらって食べてしまった。

 はしたなかったかしらと思いつつ、アルコールに浸りきった茘枝の香りが鼻から抜けていくのを楽しんだ。


「再びのお待たせしましたあるー!」


 ワゴンに乗せられて料理がやってくる。

 ぱっと見全部揃っていた。

 最優先で作ってくれたのだろうか。

 優秀な料理系のスキルや魔法を使える、料理人がいるのかもしれない。

 多めの取り皿と一緒に、注文した料理が全て置かれた。


「御注文は以上で大丈夫あるかー?」


「ええ、大丈夫です。美味しくいただきますね、ありがとう」


「他に注文がある場合は、テーブルの上に置いてあるベルを鳴らすあるよ」


 言われて調味料と一緒に置かれていた金色のベルを確認する。

 個室では音が届かないのではないのかという疑問を抱くも、このベルにもきっと何かしらの仕掛けがされているのだろう。

 一度くらいは使ってみたいなぁと思いつつ、ローレルと雪華がせっせと料理を取り分けてくれるのを、ネイと一緒に大人しく待った。


 まずは自分が注文した鮮竹巻に箸をつける。

 ユーバは箸でさっくりと切れた。

 全体がスープに浸っていたが、割れた中からもたっぷりとスープが溢れ出る。

 キノッコとハムハの出汁とタケノッコンの食感が秀逸だ。

 ふーふーと息を吹きかけながらいただく。

 ほっとする系の優しい味だ。

 数ある点心の中でも、女性に人気が高いというのも頷ける。


「はふはふはふはふ! んーっ! 熱い! そして美味しいっ!」


 小籠包をまるっと口の中に入れた雪華が悶えながら、その味と熱さを堪能している。

 続いて紹興酒を口にすると、くはー! と美味しそうな声を上げて飲み干してしまった。

 

「雪華、お酒のおかわりも遠慮なしに頼むといいわ」


「ありがとう、アリッサ! ローレルもまだいけるんでしょう? ボトルで頼んじゃおうかなー」


「よろしいんですの~? でしたらこちらの、瓶入りとかも美味しそうですわよ~」


 二人が楽しそうに選んでいると、ネイがしゅたっと手を挙げる。


「私も一杯は、いただきたいです!」


「勿論よ! 皆で楽しもうね!」


 ベルを鳴らしてお酒の再注文をする三人を尻目に、私はまだ茘枝酒が入っているグラスを振って見せ、お代わりはまだいらないと伝える。


「私はこの食べ方を推奨しますよ……」


 独り言を呟きながら、レンゲの中に入れた小籠包の端っこを少しだけ崩して中身のスープを外へ出すと、更に息を吹きかけてから食べる。

 以前スープごと食べたところ、中身のスープで口の中を軽く火傷してしまい、それ以降の食事が今一つ楽しめなくなった経験があるのだ。

 ちなみに一個だけだとこの食べ方だが、数個食べる場合は酢醤油を使って食べている。

 

「うん。美味しい」


 恐らくコッコーの挽き肉だけだと思うのだが、肉汁が飽きの来ない味だった。

 ゆえに、酢醤油を付けて食べたくもなってしまう。

 二個目が食べたくなる、恐ろしい小籠包でもあった。


「二個目の誘惑に打ち勝って、他の物を食べておかないと駄目ですよね」


 頷いて、今度は鼓汁蒸鳳爪を口にする。

 よく煮込まれているからか、異世界特性なのか、食べるべき部分がするっと取れる素敵な仕様だった。

 八角の香りはせず、異世界の調味料が使われているようだった。

 スパイシーな香りなのだが食べやすい。

 そしてコラーゲン感もたっぷりで、明日の肌つやが楽しみだ。


 三人が瓶入り紹興酒で乾杯するのが美味しそうだったので、まだ茘枝酒を残しながらも少しだけ紹興酒をもらった。

 ざらめを入れずとも飲めるのに驚かされる。

 ふだん飲んでいるものより、まろやかで飲み心地の良い味だった。


「飲みやすいわ、食べやすいわ……異世界は怖いわねぇ、いろいろと……」


 今のところ目に見えて太ってはいないようだが、今後は気をつけないといけないだろうか。

 雪華や彩絲、ランディーニは、指摘してくれそうだが、他の人々は私が悲しまないように隠してしまいそうだ。


 恐ろしい考えを払拭するのに茉莉花茶を飲んで、次の皿に取りかかる。


「……ローレルこれは、由緒正しいぷりっぷりかしら?」


「ええ、主様! 理想のぷりっぷりな蝦ですわ~」


 蝦餃子はローレルが求めた味だったようで良かった。

 頬をほころばせるローレルの気持ちがよくわかる美味しさだ。

 食感もさることながら、噛んだ瞬間に広がる蝦の旨味がまたたまらない。


「あー、魚介に肉に野菜と、全ての旨味が入っているとか贅沢ですねぇ……」


 続いて蘿蔔糕を口にして、どこか懐かしい味に安堵する。

 醤油をさしたくなるシンプルなものも多いのだが、こちらの蘿蔔糕は味が深いので何か付ける必要性を感じなかった。

 外側が少しカリッと焼かれているところも大変好ましい。


「主様! 鶏絲炸春巻が、まだとても熱いので気をつけて、召し上がってください!」


「そうなの? ありがとう、ネイ。気をつけて食べるわ」


 小さなグラスに入った紹興酒を三杯も飲んでいるところを見ると、随分と熱かったようだ。

 私はそのまま齧りつくのをやめて、鶏絲炸春巻を半分に割った。

 これだけ時間が経っているにも拘わらず、もわっと湯気が立ち上る。

 保温スキル的なものが働いているのかと思う、維持具合だ。

 半分はそのままでいただき、半分は醤油と辛子でいただく。

 夫の支援店なので、中華調味料も日本調味料も普通に置かれているのが安心だった。

 売ってもらえるのなら、欲しいところだが、どうだろう?

 拠点で料理ができるくらいに落ち着いた頃に、買いに来た方がいい気もする。


「アリッサ、何か他に食べたいものはあるの?」


「これで満足……あぁ、何かデザートが欲しいかも」


「せっかくだから、点心らしくする?」


「それがいいかしら……」


 メニューを覗き込みながら悩む。


「芝麻球と馬拉糕だったら、どちらが食べたい……」


「「「両方で!」」」


 どうやらデザートは別腹だったらしい。

 ベルを鳴らして注文をお願いする。


「できたて杏仁豆腐があるけど、そちらもおすすめあるよ?」


 手早く使われた皿をワゴンの上へと下げながら、店長がそんな悪魔の囁きをしてきた。


「……それも一緒にお願いしますね」


 三人からの歓声が上がったので、追加注文も正しいようだ。


 デザート用にと新しい茉莉花茶がポットで置かれた。

 どれも甲乙付けがたく美味しかった点心の感想をそれぞれ熱く語っているうちに、デザートが届く。

 デザートは別腹が激しく作用したらしく、三人は全部をお代わりしていた。

 私は三人の熱い視線に負けて、一番カロリーが低いのではないかと考えて杏仁豆腐だけを注文する。

 いろいろと負けた気がしてしまったのは内緒だ。

 大丈夫ですよ、全然太っていませんからねーという、夫の甘い囁きにもよろよろしながら頷いておいた。



 外出を控えるようにと言われたので、スーパーと医者にしか行っていない今日この頃。

 ん?

 いつもと変わらない?

 ……そんな日常です。

 

 次回は、全ては主様のご意向のままに……。(仮)の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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