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旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。カーペット 後編

 最終校正の段階で、投稿するものではなくずっと先の話を校正していたことに気がついた悪夢。

 最近多いなぁ……。



 全てのカーペットを選び終えて精算をお願いする。

 悪戯心が刺激されてしまい、私としては珍しく指輪からお金を取り出したのだが、老婦人はにこやかな笑みを全く崩さなかった。

 素敵な老婦人に対する甘えでもあったのかもしれないと反省しつつ、カーペットは後日配送及び設置までしてくれるとの打診に頷いた。

 全員が喜びに浮かれながら老婦人の背後に続く。

 

 私の老婦人を試すような態度で、フラグが立っていたのかもしれない。

 馬車が止めてある方向から、何やら女性の甲高い声がする。

 命令するのに慣れきった、大仰に不遜な声音だった。


「だから何度申しつければわかりますの? この馬車は妾のものだと申しているであろう!」


「何度でも申し上げます! こちらは、貴女様の馬車ではございません。当店においでいただいた貴女様ではない、他のお客様の所持するものでございます!」


「本当に躾のなっていない店員ですわ! 公爵令嬢である私がそうだと申しつけたなら! そうに決まっております! さぁ! 早く私の手を取りなさい!」


 豪奢かつ愛らしい馬車だ。

 この手の難癖は想定していたが、公爵令嬢の目に留まるとは思っていなかった。

 公爵といえば、王族に次いで人の目を気にしなければいけない立場だろうに。

 老婦人の額に初めて深い皺が寄る。


「……御方の奥方様には、お目汚し大変申し訳ございません。深くお詫び申し上げます」


「買い物に回っているとき、災難に出会うのは初めてではないわ。貴女が悪いわけではありません。彼女が悪いのです……公爵令嬢というのは本当なのでしょうか?」


 華やかな赤毛こそ美しく感じるし、本来であれば優しい印象を持つはずの垂れ目も愛らしい。

 だが、悪趣味極まりない格好をしていた。

 お金に物をいわせて全身を飾り立てているが、全く似合っていないのだ。

 一目見て、これは絶望的な残念御令嬢様だ! そんな呆れた印象を抱かせてしまう。

 一種の才能ではないのかとすら思った。


「由緒あるベルゲングリューン公爵家当主様の、ご寵愛深い愛人の一人娘でございます」


「なるほど親の威光を笠に着まくっていると……」


「さようでございます。ご寵愛の方は大変弁えておられるのですが、その娘であるあの方は、高級店街では悪名高き御令嬢でございます」


「あら。なかなか珍しいパターン……」


「多少の悪名であればこそ今まで公爵様が、金銭による納得いく賠償で贖ってこられたようですが……御方の奥方様の持ち物に目を付けたとなっては、放逐処分になるかと推察いたします」


 放逐処分か……幽閉よりも死に近そうな処罰だ。

 

「まぁまぁまぁ! ちょっと、そこの女! 私より豪奢な衣装を着るなんて許されませんのよ? 今この場で服を脱ぎ、高貴な私に捧げなさいませ!」


 それならば特に私が動くこともないか……と思っていると、従者が必死に止めるのも聞かず、令嬢が走ってきた。

 ドレスの裾を幾度も踏んでいるところから察するに、きちんとした教育を受けていないように見受けられる。

 恐らく周囲が必死に教育を施そうとしても、叶わなかった結果なのだろう。

 今までどうにか無事だったというのは、寵愛が深い母の存在と、自分より身分が上の者には不敬を働かなかったということなのだろうか。

 さすがにあの王妃に喧嘩を売るのは拙いと思えたのかもしれない。


 しかし、いきなり服を脱げはないだろう、いくらなんでも。


「ちょっと! 聞こえているのでしょう? 早く服を脱ぎなさいな!」


 重ねて言われてしまった。

 これでは、幻聴かしら? と聞かなかったことにもできやしない。


「……そこな従者に申す。そなたの主に話は通じなさそうだからな。我が主は時空制御師最愛の称号を持ついと尊き御方。その御方の持ち物を、我がものとするなど決して許されぬ不敬。とくその愚か者を連れて、この場を去るがいい!」


 私を庇うように前へ立った雪華が朗々と声を張り上げる。

 令嬢は何を言われているのか理解できないものの、自分の望みを否定されたことに更なる奇声を上げたが、従者は雪華の言葉の意味を数秒かけて飲み込んで、顔色を紙のように白くした。

 しかし、凜とした雪華が格好良い。

 やればできるのじゃよ、と屋敷に残る彩絲が頷いていそうだ。


「あ、主に代わりまして、伏してお詫び申し上げます。主の不敬はベルゲングリューン公爵家当主が処罰することをお許しいただけますでしょうか」


「どうしますか?」


 わかりきっているのに雪華はわざわざ私に確認を取る。

 なので私もできうる限り大仰な様子で言い放った。


「許す」


 頭の中にはお気に入りの乙女ゲームの悪役令嬢が浮かんでいたのは、夫だけが知ることだ。

 よく似ていますよ、と夫の囁きも聞こえる。


 従者は令嬢の鼻先にハンカチを押しつけた。

 合計三人いた従者のうち、二人は令嬢をしっかりと拘束している。

 そこまでの強さで捕獲されたことはなかったのだろう。

 令嬢はハンカチを押しつけられた状態で、三人の従者を、どうして? という驚愕の眼差しで見つめていた。

 意識を失い崩れ落ちた令嬢の頭を床につけ、自分たちも同じように床へ額を押しつける。


「公爵家での処罰をお許しいただき、誠にありがとうございました。迅速に手配いたします。御報告はどちらに伺えばよろしいでしょうか?」


「……冒険者ギルドのギルド長に」


「確かに承りました。それでは御前失礼つかまつりまする」


 従者は横抱きに令嬢を持った。

 令嬢に対する態度ではないのだが、彼らとて感情はある。

 意識がない令嬢の扱いが多少手荒になったとて、誰も咎めはしないだろう。


 従者たちは令嬢がまき散らしていたどぎつい香水の香りまで丁寧に始末すると、腰を折って再度謝意を示したあとで飛ぶように去っていった。


「……あそこまで放置しないと処罰できないとは……高貴な方々の世界とは恐ろしいですね」


 自分の立場をきちんと理解できていたのならば、分不相応で贅沢な生活を満喫できていただろうに。

 全くもって勿体ないことだと考えてしまうのは、自分が根っからの庶民だからに違いない。


「王の周辺が不穏でございましたから、勘違いする者が常より多く出ているのでございましょう。ですがそれも、奥方様のお蔭で改善されてきたと窺っております。この国の民として、心より感謝申し上げます」


「早く、本来王妃となるべき方が戻られるとよろしいですね?」


「はい。私どもも心の底からそれを願っております……御方の奥方様に、愚見を申し上げてもよろしゅうございますでしょうか?」


「ええ」


「現王妃が退きましてすぐに、かの方がお戻りになられれば何の問題は起きないのですが、王妃の空位が続きますと、奥方様を王妃にと、願う声が多く上がると懸念されます。どうぞ、御身の周辺警護を厳重になされた方がよろしいかと、愚見を申し上げます」


 雪華が目を大きく見開いてから真剣な表情になる。

 ネイとローレルは妙に納得したように頷き合っていた。


「……私の夫は紛れもなく時空制御師だったとしても、でしょうか?」


「はい。御方は現在こちらの世界におられないと伺っております。お恥ずかしいことでございますが、どこにでも愚か者はいるのでございます。御方がおられないからこそ! と逸る者は少なくないでしょう。王妃として祭り上げるのは、まだ良い方で、奥方様を手に入れれば御方の力が全て我が手にできる! というような考えを持つ者も既に出ておるでしょう……男性の護衛はお考えではないのでしょうか?」


 何処の世界でも愚か者はいるらしい。

 この世界でも既に幾人もの愚かしい者たちに出会っている。

 夫が傍にいないときの被害の多さには慣れているが、不快さは募ってしまう。

 でも、男性の護衛なんて、絶対に無理だ。

 いるだけでも抑制になるのだとしても、夫が許さないだろうし、私も御免なのだ。

 夫が隣にいるにも拘わらず、自分しか守れないからと嘯いて、私の意思など関係もなく自分に都合良く行動するのだ。

 夫がいない今、どれほど壮大な勘違いをするのかなんて、軽く十通りは想像がついた。


「ええ、考えておりません。不要です。信用がおけないのですよ。夫にもきつく止められておりますしね。私を守護する者は既に十分揃えました。その点の心配は無用です」


 老婦人が静かに黙礼する背後で、控えていた男性がしょんぼりしている。

 貴男方を否定したわけではない。

 むしろ一流の商人として、一定の敬意すら払っている。

 なので、大型犬が落ち込んでいるような様子を見せないでほしい。

そっと頭を撫でたくなってしまう。


「……置けても門番が限界だよね? 御方に相談してみる?」


 雪華も男性がいることによって回避できる問題について、重く考えているようだ。

 しかし私は首を振った。


「大丈夫よ。どうしてもというのなら、そうね。フェリシアあたりに男装の麗人になってもらおうかしら」


 下手な男性よりよほど、問題を解決してくれそうだ。

 一緒に彩絲も男装させたら、それこそ違う文化が開ける気までしてくる。


「あー、その手があったか……まぁ、私たちと妖精で十分よね。この子たちだって優秀だし」


 嬉しそうに目を輝かせる二人は揃って、背筋を伸ばした。


「屈強な人材には広く伝手がございます。外見もまた警護には重要な条件の一つにございます。もし御用がございましたときには、どうぞ申しつけてくださいませ」


 老婦人の提案には大きく頷いておく。

 所謂タンク役になりそうな女性を一人二人雇うのもいい気がしてきた。

 雪華の手を借りて馬車に乗る前に、ホークアイの頭を撫でるのも忘れない。

 香水臭くて、蹴り飛ばしてやろうかと思いましたよ! と鼻息を荒くするホークアイを宥めながら、私たちはカーペット専門店をあとにした。




 そういえばやっと18禁乙女系作品に取りかかり始めました。

 二次同人の女体化作品をベースにしています。

 昔の作品なので、修正が凄いです。


 次回は、旦那様は分限者です。守護獣達と家具選び。次の店へ行く途中……。(仮) の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします

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