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旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。カーペット 前編

 二度目の買い物描写スタート。

 リアルで買い物をすると消耗するので、休憩は欠かせません。

 友人と出かけると、軽く買い物→ランチ→何かしらのイベント→お茶→何かしらのイベントもしくは買い物→休息もしくは早めのディナーとか普通です。

 ランチは気合いを入れて予約していくことが多いのですよ。



 ホークアイが軽やかに引く馬車が音も静かに王都のメインストリートを進む。

 窓からそっと外を窺えば、案の定、人々がホークアイと馬車に注目している。

 耳に届く範囲では、何処かの国の王族がお忍びで現れたのだろうという説が、一番有力らしい。


「雪華さん。まずは、何から買いに行く、予定ですか?」


「そうねぇ……カーペットからと考えているけど?」


「それ以外にどんな家具を買われる予定ですの~?」


「えーと? 天蓋付きベッド及び寝具、ドレッサー、ティーテーブル&椅子五脚、照明三個、テラス用インテリアにカーペット。あとは貴女たち用のベッドとチェストかしらね?」


「えぇ~? 私たちのベッドですかぁ~。ベッドもチェストも奴隷どころか、行儀見習いの貴族メイドでも、分不相応な家具を使わせていただきましたわ~?」


 ローレルが驚いている横で、ネイも同じ顔で頷いていた。


「あー、ノワールが取り敢えずあり合わせのもので我慢してもらわないと! って言ってたから、グレードを下げた家具を買いに行ってこい! とか、そういう意味じゃ……ないかぁ……」


 雪華は自分の思案結果を否定している。

 

「奴隷に与えられる物といえば、基本廃品利用と言われております。貴族メイドでも、中古品がせいぜいだと。ですがその、ノワールさんは、もしかして。中古品ではなく、新品を買ってくればいいと、そういう判断をされているのでは?」


 普通ならあり得ない判断だ。

 だが、私の意向を汲むのならばそれが正しい。

 だから、それが正解だった。


「そうですね。長く勤めてもらいたいから、新品で良質なものをと、私が考えていたから……」


「主様ぁ~! お優しすぎます~」


「そう? でも皆一緒に暮らす家族みたいなものでしょう? だったら全員で心地良く日々を過ごしたいと思いませんか?」


 私と上手く生活してくれる人は稀少だと理解している。

 だからこそ、そんな人たちを大切にしたいと思うのだ。

 そこに、奴隷とか、守護獣とか、妖精とか、幻獣とか。

 世間の括りは関係ない。


「そうだよねー。アリッサがそういう考えだから、必然私もノワールもそうなるからねぇ。ローレルにもネイにも慣れてもらうしかないかなぁ」


「姉さんたちと一緒に……頑張り、ます!」


「私は楽観的な思考をするから自重しつつ頑張り続けますけれど、フェリシアには少し難しいかもしれませんわねぇ~」


「あー、確かにねぇ」


 ローレルの言葉に雪華が頷くが、私は心配していない。

 奴隷の中でも誰より血縁者に恵まれなかっただろうフェリシアだ。

 慣れてくれば素で皆を家族のように慈しみ、大切に接するだろう。


「ふふふ。彼女はきっと大丈夫でしょう。そんな気がしますから。あら? 着いたみたいですよ」


 馬車が止まったので、雪華がドアを開ける。

 入り口を挟んでそれぞれの窓ガラスに、大きなカーペットを貼り付けてある。

 そんな店の入り口はとても広かった。

 精緻な織りのカーペットからは、技術の高さを連想させる。

 また、高価なカーペットを入り口付近に置くことで、防犯の完璧さをアピールしているようにも思われた。


「カーペット専門店で、一番歴史があるお店よ。御方といた頃から誠実な経営だったお店だから安心できると思うわ」


「私たちが奴隷として売られる前にも、少々値段は割高であるけれど、良質な品々が豊富に取り揃えてある店と、聞き及んでおりました」


「海をテーマにデザインしたカーペットを作りたいと、毎日海辺に絵を描きに来ていた人物が確か……この店のお抱えデザイナーだったような記憶がありますわ……」


 三人の持つ情報を統合すると、高価だが良質なカーペットを販売してくれる歴史あるお店のようだ。

 

 雪華の手を借りて馬車から降りる。

 周囲から何故か歓声が上がった。

 過剰反応をするとよろしくない気がして、ベールから僅かに見えるだろう口元に、静かな微笑を浮かべるだけに止めておく。

 店のドアが内側から大きく開かれて、中へと誘われる。

 後ろから馬車もついてきたのには驚いた。

 カーペットの搬入をここからも行うのだろうか。

 雪華が馬車とホークアイをきちんと保管しておくように手配をした段階で、白髪を頭頂

にシニョンでまとめ上げた女性が優美に腰を折った。


「ようこそおいでくださいました。御方の奥方様。当店を選んでいただき光栄の極みにございます」


 今まで訪れた店での対応から察するに、一流店には情報が回っていると考えて良さそうだ。

 それで僅かながらもトラブルが回避されるというのなら、問題もないのだが……。


「……何点か購入を考えております。いろいろとアドバイスいただければ、有り難いですわ」


「委細承知いたしました。お屋敷がどちらかは把握してございます。奥方様のお好みを申しつけていただきましたならば、何点かお持ちいたしますので、こちらでおくつろぎくださいませ」


 どうやらこのお店は、希望の品物をわざわざ持ってきてくれるらしい。

 小説や漫画では幾度となく見かけた、お金持ちの買い物風景だ。 


「……主様のお部屋には、ベッド下に一つ。お足元に一つ。ドレッサー下に一つ。ティーテーブル下に一つでしょうか。あとは玄関に一つ。サロンに大きめなものを一つ……主様のお部屋に飾り用としてもお考えでございましょうか?」


 あぁ、そういう使い方もあるんだった。

 自分の部屋には特に必要性を感じなかったが、サロンに一つあるといいかもしれない。

 しかし一般的に飾られるであろう美術品は他にも様々な種類がある。

 それに花を多く飾りたいと思っているので、他の物は控えめの方が良さそうだ。


「今はいいです。花を多く飾りたいと思っているの」


「まぁ、今全部決めなくてもいいだろう。主が欲しいものだけを買っていけばいい」


「では、順にお持ちいたしましょう。少々お待ちくださいませ」


 恐らく店の店主だろう老婦人が私と丈が同じくらいのスカートの裾を翻しながら、近くに控えていた男性たちに指示を飛ばす。

 男たちは四方に散っていった。

 私は香りも高く絶妙な熱さの紅茶を口にする。

 隣に座っているのは雪華。

 背後に侍っているのはローレルとネイ。

 できれば一緒に座ってお茶を楽しみたいところだが、こういった場面では止めておくべきだろう。


「ベッドの足元に置くカーペットは、シルク製がいいと思います。他はメーメーの毛を、使ったものがよろしいですね。必ずしも、ではありませんが」


「寒いときは温かく、暑いときはさらっと感じるんですの~。特に夏のさらっとした感じは人魚族の私も大満足ですわ~」


「たぶん希望するカーペットを持ってきてくれるんじゃないかな? あ、来たみたいだね」


「大変お待たせいたしました。まずはこちらを御覧くださいませ」


 老婦人が男たちに指示を出す。

 なかなか屈強な男たちで、それだけなら夫が酷く嫌がりそうではあったが、職人もしくは商人として鍛え抜かれた気配があった。

 こういった男性は損得に聡いか、自分の仕事環境を守ることを第一に考えるので、間違っても客に余計なことは言わないし、しないものだ。

 現に夫も同じ判断を下しているのだろう。

 彼らは男性ではなく職人なのだと。

 珍しい例ではあったが、何も囁かれてはいない。


「ベット下、ティーテーブル下用のカーペットにございます」


 その二種類は同じ大きさでいいらしい。

 男性は二人で組になり、角までピシッと伸ばした状態でカーペットを広げている。

 全部で五枚あった。


「全てメーメーの毛のみを使い、職人が手織りしたカーペットにございます。右二枚はグラトバッハ産、左三枚はルトリッツ産。グラトバッハは伝統的な紋章をモチーフに、青を基調とした繊細な織りを、ルトリッツは草花をモチーフにした情緒豊かな織りを特徴としております」


 驚くほど私好みのカーペットばかりだ。

 一体どうやって好みを判断しているのだろう。

 どちら産も好みなので、ベッドの足元に置くカーペットをルトリッツ産にして、ベッド下とティーテーブル用にはグラトバッハ産にしようと決める。


「右の二枚をいただきます。ベッドの足元用にはルトリッツ産のシルク製をお願いしたいのですが……」


「こちらでいかがでございましょう」


 今度も五枚並べられる。

 小さな物なので一人一枚を手にしていた。

 細かな織りが見たくて体を乗り出せば、失礼しますと、夫には遠く及ばなくても美声には違いない良く響く低音で断った男性が、一歩足を踏み出して間近でカーペットを見せてくれた。


「どうぞお手を触れて御確認くださいませ」


 言われるままに手でそっと触れる。

 シルクの肌触りは向こうの世界と変わらずに、艶やかに優しいものだった。


「ありがとう。最高の触り心地ね。細やかな世界観も美しいわ。こちらをいただきます」


「ありがとうございます。では続いて、ドレッサー下へ置くカーペットになります。ルトリッツ産でメーメーの毛のみ、シルクのみで織り込んだもの。グラトバッハ産でメーメーの毛のみ、シルクのみで織り込んだものにございます」


 今度は四枚提示された。

 相変わらず柄はどれも好ましくて頭を悩ませてしまう。


「ドレッサーですと、重みがありますので、シルクよりはメーメーの方が、よろしいかもしれません」


「お部屋ではルームシューズをお履きになりますものねぇ~。触れ心地よりも耐久性を考えた方が主様のお心にかなうのではありませんこと~?」


 二人のアドバイスを聞いて、再度迷う。

 

「ではルトリッツ産のメーメー毛でお願いいたしますわ」


「はい、かしこまりました。奥方様のお部屋のカーペットは、以上でよろしゅうございますでしょうか?」


「ええ。配達で手配をお願いします」


「承りました。玄関とサロン用のお品物も、奥方様がお選びになりますか?」


「いえ。玄関用は雪華が、サロン用はローレルとネイで選んでほしいわ」


「よろしいのですか!」


 ネイの目が喜びに輝いている。

 任されたのが嬉しいようだ。

 ローレルは嬉しいというよりは楽しそうに見える。

 老婦人と値段の駆け引きでもしたいのだろうか?

 雪華は既にカーペットを持つ男性の近くにより、一つ一つカーペットを凝視しながら真剣に吟味を始めている。


 私は新しく注がれた紅茶を飲みながら、三人がお互いの意見を交わし、男性や老婦人の意見を聞きながらカーペットを選びきるのを、まったりと寛ぎながら窺い続けた。



 買い物描写はしばらく続きます。

 トラブル描写もでてきます。

 リアルでここまでトラブルに遭遇したら、いい加減うんざりすると思います。


 次回は、旦那様は分限者です。守護獣たちと家具選び。カーペット 後編(仮) の予定です。


 お読み頂いてありがとうございました。

 次回も引き続き宜しくお願いいたします。

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