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ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 8

 高級野菜っていうと、品質の良い野菜という印象があります。

 さくっと検索してみたら、国産チコリとロマネスコが目に付きました。

 どちらも好きな食材ですが、使いどころは悩みます。




 五階層に下りた途端、ネマとネイの鼻息が荒い。


「ど、どうしたの~?」


 ローレルも驚いている。


「この階層には、しるきーはっとが浮遊しているのよ! ほら、あれ!」


 言っているそばから、ローレルの肩の上にいたネイが飛び上がって、真っ白い小さな帽子によく似た生き物を捕獲している。

 百個集めて専門業者に持ち込むと、家事技能上昇効果有のシルキーハットになるといわれているが、捕獲の際に傷つけてしまうと効果が落ちてしまうので、せっかく収集しても全く効果のないシルキーハットができるという悲しい現実があるので、挑戦する者は少ない。

 が。

 そういった事情なので常に依頼はある。

 故に冒険者ギルトで、専用の捕獲アイテムを貸し出していたはずだ。

 いつのまに借りていたのだろうか。

 気がつかなかった。

 困った二人を買い出しに行かせている間、知識を吸収する傍らでギルドから借りられる物を存分に借りていたのかもしれない。


「依頼は、受けていません。試してみたいと申し出たら、ギルド長が許可を、くださいました。ネル姉と、ネマ姉と私の分を、捕獲したいのですが……大丈夫でしょうか?」


「勿論! 難しいと聞いておりますけれど、貴女たちなら大丈夫ですわ~。依頼は私が達成いたしますので、貴女たちはそちらに集中してくださいませ~」


「ありがとう、ローレル! なるべく早く捕獲して、依頼の野菜入手も頑張るからね!」


「すみません、ローレル。たくさん浮遊しているので、想定よりは早く終われると、思います。頑張りますので、申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」


「大丈夫ですわぁ~。この階層のモンスターは氷よりは炎に弱いですけれど、氷でも十分倒せますもの~」


 小さなアイスボールが四方に放たれる。

 この階層の主なモンスターは蝶だ。

 放たれたアイスボールの冷たさと強さに負けた蝶が、あちこちではらはらと地面に落ちてゆく。


「嬉しいですわ~! 満遍なく野菜がドロップしているみたいですのよ~。この調子ですと、主様にもいろいろな野菜をお渡しできますわね~」


「シルキーが出たら、私たちも戦うね! どんな高級野菜が出るか楽しみ!」


 ローレルの肩を足場に使って、幾度となく捕獲を繰り返すネマは楽しそうだ。


「でもさすがに、野菜のコンプリートは、難しそうですよね?」


 ネマより丁寧になおかつ迅速にしるきーはっとを捕獲するネイは、捕獲→収納→ドロップアイテム回収→捕獲のループ作業に切り替えたようだ。

 

「それでも主様がお喜びになると思いますから、できるだけ多くの種類を回収したいですわね~」


 雪華たちのパーティーがどこまでダンジョンを攻略できたかは分からないが、ドロップアイテム他ダンジョン土産を受け取ったアリッサは、まずダンジョンに潜りたいと主張するだろう。

 バローに王城の様子を確認してからの方がよさそうだが、さてどこまで状況が改善しているのか。

 三聖女とやらは心配しなくても大丈夫だろうが、小蜘蛛をつけておいた方が無難な気もする。

 アリッサから聞くにかなりの愚物だ。

 こちらの常識的な思考が通じない可能性も考えて、安全策を取っておきたい。

今のところ王城からの監視はないので、アリッサの願いは叶いそうだが、残った奴隷たちにはこの手の事情も説明した方がいいだろう。


 彩絲が思考に沈んでいる間にも、着々としるきーはっとや野菜が貯まっていく。


「あ! シルキー、です!」


「うわっと!」


「……あら? あらら?」


 先手必勝とばかりに放った数個のアイスボールは、シルキーが纏うメイド服の長い裾が踊り、優美な動きで全て弾かれた。

 シルキーは、にっこり笑ってスカートを摘まむと、典雅に腰を折る。

 全く戦意がないようだった。


『同族の、上位の方の気配がいたします。彼の方がお仕えしている御方はこの場におられますでしょうか?』


 三人はさすがにおろおろしている。

 上位の同族とはノワールのことだろうか?

 ノワールかもしれない人物を出された時点で、判断が難しいのは無理もない。

 彩絲は何度目かになる人型に変じた。


「上位の同族とはノワール殿のことだろうか? 私が守護する方に仕えておられるぞ。主はこの場にはおられぬのじゃ」


『ノワール様とは素敵なお名前です。また主様を得られたのですね! それはよろしゅうございました。我らシルキーは、ノワール様に敵対しません。できません。高級野菜がお望みでありますれば、お望みの物をお望みの数だけお渡しいたしましょう』


 シルキーが再びスカートの裾を翻すと、大きな箱が現れた。

 箱の中には素人が見ても分かる、瑞々しく美味しそうな野菜が隙間なく詰め込まれている。


『経験を積みたいということであれば、不肖お相手いたしますが……初級ダンジョンに生息するモンスターでございますので、あまりお役に立てぬかと存じます』


 敵対できないという相手と、無理に対峙することをアリッサは好まない。

 ノワールの顔を潰すことにもなりそうだ。


「では、有り難く頂戴しようかの。他のシルキーも皆、貴殿のように対応するのじゃろうか?」


『はい。ノワール様に敬意を払っておる者ばかりでございます。万が一、敵対行動する者がおりました際には、それはシルキーではございませんので、どうぞ他のモンスター同様経験の糧にしていただきとうございます』


 一部、厄介なシルキーがいるようだが、それでもノワールの存在はシルキーの中でも格別のようだ。

 アリッサの笑顔が浮かぶ。

 我が主は、自分の身内が高く評価されることを、自分が評価されるよりも喜ぶのだ。


「美味しそうなお野菜をありがとうございますぅ~」


「美味しく調理して、美味しく食べるから、安心してね!」


「頂くばかりでは申し訳ないので、何か、欲しいものはありますか?」


 シルキーは勿論、ローレルやネマも、私も驚いた。

 しかし考えてみればネイが言っていることは至極真っ当だ。

 アリッサがこの場にいたら同じ対応をするだろう。


『いえいえ。美味しく召し上がっていただければもう、それだけで十分でございます。もし、お気に障るようでございましたら、ノワール様に美味しかったとお伝えいただけると有り難いです。ノワール様にお褒めいただくのは栄誉でございますれば……』


 微笑みが一層深まった。

 ここはシルキーの顔を立てて引いた方がいい。

 ネイもメイドとしての立ち位置などを考察したらしく、納得したようだ。


「きっと、主様も、喜んでくださいます」


『有り難きお言葉を胸に、今後も勤しみたいと思います。機会がございましたならば、どうぞまた、足を運んでくださいませ』


 シルキーは頭を下げたままで、すーっと後ろへ下がっていったかと思うと、その姿を消してしまった。


「ノワールさん……ノワール様と呼んだ方がいいのかしら~」


「ど、どうだろう。取り敢えず、ノワールさんのお蔭で、こんなにたくさんの美味しそうな野菜が入手できたわけだから、報告とお礼はきちんとしよう!」


「そうだね、ネマ姉」


「あ! しるきーはっとの捕獲状況はどうなったのかしらぁ~」


「うん。順調だよ! もう少しで三百に届くんだ!」


「はい。これで三人分は確保、できそうです……依頼は受けていませんが、もう三百ほど集めた方が、評価は上がるでしょうか?」


「迷うところですわ~。私たちが帰還するのをギルド長たちが、首を長くして待っていそうな気もしますもの~」


「「あー」」


 嫌なことを思い出したとばかりに、二人が顔を顰める。

 ローレルはそんな二人の頭を優しく撫でた。


「じゃあ、今回はやめておこう。で、宝箱の回収をして……」


「その前に、もう少し通常野菜を取った方が、いいのでは?」


 依頼分は確保できたが、アリッサへの土産分が物足りないらしい。


「それもそうだね! うーんと。残りちょっとはネイに任せて、私はローレルさんと普通野菜の入手に勤しむよ」


「助かりますわ~」


 シルキーにこそ効果がなかったアイスボールも、ひらひらと舞う蝶には大変有効だった。

 勿論小さなしるきーはっとに流れ弾が飛ばない心配りも完璧だ。

 ネイは岩場などに隠れてアイスボールが当てにくい場所を中心に、蝶を屠りながらドロップアイテムを回収する。


「えーと? 根菜系が欲しいので、モルフォンを見かけたら集中して狙ってほしいです!」


「了解いたしましたわ~。あとはキャベキャベの出が悪いので、アオアゲハも狙ってもらえますぅ~?」


「はーい。満遍なく出てる方だと思うけど、まだ出てないのってあるのかなぁ?」


「私が知る限り、パップリンとシモヤンが、出てないみたい」


 どうやらしるきーはっとを捕獲完了したらしい。

 ネイも蝶狩りというか、野菜狩りに参戦した。

 パップリンとシモヤン狙いで、モンシロを集中的に攻撃している。


「根菜類と、キャベキャベ、パップリンとシモヤンが、納得いく数が出たら、宝箱回収にかかりましょうか~」


「頑張るよ!」


「励みます!」


 確認しあっている最中にも、ドロップアイテムが増えてゆく。

 三人の納得する量が集まるのにさしたる時間はかからないだろう。

 そんな三人を温かく見守っていれば、先ほどのシルキーがよろしければもっと如何でしょう? と先ほどの倍量の野菜を持ってきてくれた。

 それを有り難く受け取りながら雑談している間に、三人は満足いく入手を完了したようだ。


 三人には勘づかれないようにシルキーとの会話を楽しみながら、宝箱を回収する様子も引き続き見守る。

 最終階層なので、十個の宝箱が回収できたようだ。

 明らかに多いと、シルキーも驚いている。

 普通は多くとも、五個。

 内容が良ければ一個というときもあるらしい。

 十個のうち七個は、小さい体を潜り込ませて隠し部屋を探し出したネマとネイのお手柄だろう。

 結局の所、この三人が優秀なのだ。


 宝箱の中身は……。

 シルキーセット(ヘッドドレス、ワンピース、エプロン、ブーツ、ホウキ。全て装備すると家事能力が大幅に上昇する) 一ダース

 高級野菜の種 十種類 一ダース ×五個

 高級野菜全種類セット ×三個

 モルフォンのブローチ(美味しくない野菜も美味しく食べられる効果有)

 

 ……どう見てもシルキーが手を回した結果、やり過ぎてしまった内容だった。

 モルフォンのブローチ以外は、シルキーの手配に間違いなさそうだ。

 思わず様子を窺えば、シルキーは彩絲の目線から逃れながら、少し音の外れた鼻歌を謳ってごまかした。



 セミオーダーなメイド服を持っていますが、それにあう靴はないのに、シルキーセットを考えていて気がつきました。

 この話の設置ではブーツですが、一般的にはナースサンダルデザインな革靴が無難でしょうかねぇ。


 次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 9 の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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