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ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 7

 アプリ『まいどく』で配信されている、この作品。

 取り敢えず、トップ10以内には入り続けてくれているようです。

 読んでくださっている皆様にはありがとうございます!


 今回も引き続きダンジョン攻略です。



 拘束したネラを見下ろす。

 這いずって逃げようとするので、蜘蛛糸を爪で引っかけて目線まで持ち上げる。

 背けた顔を無理矢理正面に向けさせた。


「我は、かかわるな、と言ったぞぇ?」


「緊急事態じゃないのっ! あんなっ! 酷い、けがっ!」


「自業自得じゃ。初級ダンジョンとはいえ、欲にかまけて盛っておるから、あんな目に遭う。尻拭いがしたければ、己が身でするがよい。転売時に借金が加算されるだけじゃから、

まぁ、ない頭でよく考えた方がいいと、最後に忠告しておこうかのぅ」


「転売って!」


「うぬとクレアは決定じゃろうな。主も拒否はせんだろうて」


「ふざげないでょぅ! あたしの、みみ! あるじだって、すき、って! すきっていったじゃないのよぅ!」


 呆然とするネラに変わって、拙い口調でクレアが喚く。

 クレアの言うとおりアリッサは兎人の耳を、特にへたれている愛らしい耳を好んではいる。

 だが妹のセシリアもいるし、現時点でクレアの耳は欠損しているのだ。

 転売するにしても、せめて治癒してから……と優しいアリッサは言うかもしれないが、彩絲は二人と男たちにこれ以上優しい対応をする気が、すっかり失せてしまっていた。

 

「今は、欠損しておろうが。主が愛でるのは何も外見だけではないのじゃ。貴様の無礼を許すほどには、好ましくはなかろうて。そもそもじゃ! 我らにかかわるなと申しつけたであろう? 奴隷の分際で好き勝手をしたんじゃ、最後まで貫き通すがよい。欠損を治して主に縋りたいと戯れ言を吐くのならば、せめて欠損ぐらいは己で治すがよかろう」


 クレアがネラから奪ったポーションは、最低限のものだったらしい。

 出血こそ止まったものの、痛みは酷いようだ。

 自分が持っているポーションは初心者セットに入っていたポーションのみ。

 クレアは震える手で、使う必要のないポーションまでを使い果たしてもまだ、苦しげに喘いでいる。


「ちょっと! なに! ぼさっとしてんのよ! 早く高級ポーションを寄越しなさいよ!」


 戻らなくてもよかった不遜な命令口調で、クレアがリーダーに向かって手を突き出す。

 リーダーは、銅ランクパーティーが持っている中でも最低限の収納しかなさそうなマジックバッグの中を覗き込み、首を振った。


「すまない。欠損を完治できるポーションは切れているようだ。おい! もっとポーションを飲んどけ! おまえもだ!」


 リーダーは口先ばかりの謝罪をすませて、パーティーメンバーへポーションを配っている。

 火傷を負った男も、性器を失った男も、患部に振りかけたり直飲みしたりして、いくらかは状態は勿論、気持ちも落ち着いたようだ。

 喚き続けるクレアの欠損した耳や焼けただれた顔を見て、溜飲が下がったから冷静になってきたのかもしれない。


「……大変申し訳ないが、私たちは護衛を切り上げて帰還してもよいだろうか?」


 初級ダンジョンとはいえ、パーティーの損傷を考えて続行は難しいと考えたようだ。

 あと一階も我慢できぬのか! 生温いことを抜かすでないわ! と言い放ってもよかったのだが、ここはあえて許しておく。

 その方がより多くの人間に、自らの犯罪行為を知らしめす嵌めに陥るだろうから。


「ふむ。それは我らに聞くべきことではないのぅ」


 唇を噛み締めたリーダーは、クレアの前に跪く。

 

「護衛の依頼を最後まで達成できないで大変申し訳ないが、共に帰還してくれないか?」


「とも、に?」


「ああ。冒険者ギルドに預けてある金を引き出して、教会へ行くか、高級ポーションを購入するか、ギルドの職員に相談してみよう。君の欠損も、彼らの怪我も完治できるはずだ」


 さてさて銅ランクパーティーの彼らにそこまでの預金があるのだろうか?

 冒険者の大半は、宵越しの銭は持たねぇぜ! を信条としているし、この男たちは悪い意味での典型的な冒険者でしかないように思う。

 職員に頼んでクレアとネラを売り飛ばして、自分たちの治療費に充てる魂胆といったところだろうか。


「でも、彩絲さんが、助けてくれれば!」


「違反行為が過ぎる愚かな奴隷に、与える慈悲はない。このままダンジョン攻略ができぬというのなら、冒険者ギルドで我らの帰還を待つがよかろう」


 潤んだ瞳で必死に訴えてきたところで鬱陶しいだけだ。


「そうそう。忘れずにネラも連れて行くのじゃぞ? 何度も言うようだが、貴様らは主の奴隷なのじゃ。ゆめゆめそれを忘れるでない!」


 しつこく縋る目を向けてくるクレアに背中を向ける。

 逃げようとしていたネラもリーダーに回収され、マジックバックの中に放り込まれた。

 犯罪者の扱いに、ネマとネイが眉根を寄せた。

 姉が犯罪者扱いされたのに怒りを覚えたのではない。

 アリッサの奴隷が、犯罪者扱いされたのに怒りを覚えたのだ。

 ローレルも、よろしいですの~? と窺う目を向けてきたので、目を閉じることで、構わないのだと、示してみせる。


「では、失礼いたします」


 リーダーが深々と頭を下げるのに、パーティーメンバーも続く。

 納得がいかないことだらけだ! という不満しかない顔をしているが、彩絲たちと離れてから、リーダーが上手く纏めるのだろう。

 今までがそうだったように。

 何処までも自分たちに都合良く、事実をねじ曲げるのだ。


 クレアだけが頭を下げず、リーダーに強く手を引かれながら、ずっと彩絲たちの背中を見続けていた。

 己の未来が絶望に満ちてしまったのだと、少しは理解できたのだろうか。


「全く。自業自得だというのに、どこまでも不遜な輩じゃ」


「身の程を知らない輩でしたわねぇ~。結局、彩絲さんのお手を煩わせてしまって、本当に申し訳ございません」


 ローレルが腰を折るのに倣って、二人も頭を下げる。


「実の姉が……あれほど、愚か者だとは……お恥ずかしい限りです」


「しみじみ、ネル姉の有り難みを知ったよ……本当に、姉が失礼いたしました、彩絲さん」


 心では姉を見限っていても、頭を下げられる二人には好感を持つ。

 そんな二人をフォローするローレルにも、同様の好感を持った。

 最初に感じていた三人に対する負の感情は既に払拭されている。

 独特の口調から脳天気が過ぎると思っていたローレルは、脳天気どころか慎重な思考で協調性も高い、優秀な奴隷だった。

 二人もそうだ。

 きちんと見てみれば、没個性どころか実に個性豊かだった。

 ネラの個性は歓迎できないものだったが、五人姉妹ともなれば一人ぐらい問題がある者も出てしまうだろう。

 雪華が担当したネリも、恐らく何かしでかしているだろうから、五人中二人が使えない奴隷になりそうだが、三人は優秀なので最終的には、よい買い物だった! と判断できそうだ。


「皆は良くやっておるよ。依頼達成できるように最後まで気を抜かずに励むがよい。それと……あやつらのことは気にせずともいいのじゃ。冒険者ギルドも馬鹿ばかりではないからのぅ」


 キャンベル以下、真っ当な職員たちに二人と彼らは目を付けられている。

 密かに忍ばせておいた小蜘蛛たちから、二人と間抜けな初級冒険者たちが冒険者ギルドで激しくやり合った様子を受け取っている。

 双方自分の言い分だけを言い募る、聞いている方が無駄に疲れるやり取りだったようだ。

 それでも、初級冒険者たちは多額の借金を背負い、ギルドが肩代わりした分を自分たちに現金で手渡してほしいという、ふざけた二人の言い分も退けられていた。

 キャンベル自らの采配は、容赦の欠片もなく見事だった。


 そんな醜態をさらした二人に、自ら声をかけたリーダーには、後ろ暗いものがあるとしか思えない。

 二人は常識ある冒険者なら避けて通る問題児でしかないのだ。

 キャンベルも彩絲と同じ判断を下しているだろう。


「どうしてもあれこれ考えてしまうじゃろうが、今はダンジョン攻略に集中せよ。依頼分はどうなっておる?」


 完全掌握しているが、あえて聞いてみる。


「はい。ゲジの肉五ダース、やわやわを指定容器に五個分。共に完了いたしましたわ~」


「ゲジ肉は良質な物が取れたと自負できます! また、主様に渡す分として同じく五ダースを確保しましたっ!」


「やわやわも最高ランクが取れると、思います。主様に渡す分は別の容器に、指定容器換算二十個分を確保、しました」


 報告は過不足なくなされた。


「他にこの階層でやっておくことは、何じゃ?」


「ニーカの身、ニーカの爪肉、スカイフィッシュの切り身、ミートスライムの肉、ダントンの足は十分に取れましたので、戦闘は避けつつ、採取と宝箱探しに集中しようかと思いますの~」


「うん。けしけしとぽてっとは、たくさん入手しておきたいよね!」


 けしけしは人の背の高さほどある幅広の草で、使うのは上部分十センチほどだ。

 ぽてっとは拳大サイズで、天井からぶら下がっている。

 料理の添え物にぴったりの、イモジャガを蒸かし潰して味付けされた料理だ。

 外側の殻は手で簡単に剥けるので、ダンジョン内での食べ物としても重宝されている。

 どちらもネマとネイだけで採取するより、ローレルも手伝った方が早いし楽だろう。


「何となく、ですが……高級ポーションが、出そうな気がします」


 彩絲にも同じ予感があった。

 心を入れ替えて頑張っていれば、欠損治癒が可能なポーションや、火傷が跡形もなく消える傷薬などが出る気がする。


「我もそう思う。あって困るものでもない。入手できたならば、しっかりと確保しておこうぞ」


「「「はい!」」」


 揃った返事に大きく頷いた彩絲は蜘蛛型に戻った。



 四階層を丁寧に探索した結果は以下の通り。


 宝箱×五個。

 欠損治癒ポーション 一本。

 火傷完治傷薬 一つ。

 欠損治癒ポーション(ただし痛みが一定期間残る)一本。

 火傷完治傷薬(ただし痛みが一定期間残る)一本。 

 精神安定ポーション 三本。


 採取できた物。

 けしけし五十本。

 ぽてっと五十個。


 けしけしとぽてっとは運良く群生地があった。

 欠損治癒ポーションと火傷完治傷薬があった隠し部屋が、群生地となっていたのだ。

 三人は無邪気に喜んでいたが、彩絲は都合が良すぎてひっそりと笑うしかなかった。


 また、精神安定ポーションは三人にその場で飲むように指示を出して、案の定出てしまった高級ポーションの使い道を、しばし悩んだ。




 ぽてっとの実とか、あったら便利ですよね。

 マッシュポテトは大好きなのですが、熱いうちにじゃがいもを潰すのが大変です。

 牛乳混ぜればすぐにできるマッシュポテト! とかも購入してみたのですが、やはり味が今一つでした。


 次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 8 の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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