ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 4
耳の聞こえが悪くなった気がして、耳鼻科へ行ったのですが、数値的には前回データとほぼ変わらないと言われる不思議。
普通の薬→強い薬→弱めの薬で長く様子見ましょう! に落ち着きました。
パソコン変えて聞こえ方が変わったとかだったら泣ける……。
「三階の宝箱は良いアイテムが入っているといいですわねぇ~」
三階に下りてすぐに宝箱があるので、きちんと罠チェックをするネマの背後から覗き込むようにしてローレルが呟く。
「はい。そうですね。まさか、二階の宝箱の中身が棍棒一ダースと鎌一ダースの外れ宝箱だとは思いませんでしたものねぇ」
あうんの呼吸でネマに自分たちの体型に合わせて作った特注の罠解除具を順に手渡しながら、ネイも頷いた。
中身が空の宝箱もあるのだから、まだ良かっただろう。
それでもモンスターを倒したときと同じアイテムが出るのは寂しいものなのだ。
ましてや、棍棒はなぜかバラの香りがするという効果付で、鎌に至ってはキリキリのドロップアイテムより価値の落ちる、武器としては使えない農具だったのだ。
どちらも需要は多分にあるし、買い取り価格も決して悪くはないのだが、宝箱=希少なアイテムという認識が強いだけに、どうしても物足りなく思ってしまうのが冒険者心だろう。
「……ん、よし! 開ける!」
額ににじんだ汗を軽く拭ったネマが、そっと宝箱の蓋を開ける。
重そうだったので後ろからローレルが手を伸ばして手伝った。
「え? えぇ! 凄いわぁ~。無限浄化石ですって!」
「やったね!」
「うん。やりましたね!」
両掌を差し出したローレルのそれぞれの掌に、ネマとネイが小さい両手をたしたしと叩きつける。
宝箱の中に入っていたのは、使用回数制限のない浄化石だった。
小さな石が一つころんと転がっていただけの物足りなさだが、その価値は大変高い。
運良く入手できたら手元に置いておきたいアイテムトップ三には入るだろう。
また高額で買い取ってももらえる。
「幸先良いねぇ~! この調子で、あと三個ある宝箱も良いアイテムだといいなぁ~」
ローレルが慎重にアイテムバッグへ浄化石をしまい込むのを、嬉しそうに見守った二人も大きく頷く。
「……このまま二人が戻ってこなければいいのに……」
「ネマ姉……」
「そうよねぇ~私も同感だけど、どうかしら? まぁ特に待つことはせずに、追いついてきたら行動を共にする感じでいきましょう」
「じゃあ、さくさく行動しましょう! ね? ネマ姉!」
ネマはすっかりネラを疎んでしまったようだ。
彼女はストッパーとしてのネルがいないだけで、酷い暴走を繰り返している。
もしかすると今までもネルがいないときには、すぐ下の妹であるネマが多くの被害を受けていたのかもしれない。
「この階で達成できるクエストは、傷薬一ダースです」
三階はほとんどが膝下までの水が揺れている階層だ。
水は海水だったり真水だったりそれ以外の水だったりする。
傷薬は海水に潜むヒーリングフィッシュのドロップアイテムだ。
ちょっとした擦り傷切り傷に効く傷薬は、薬師が作るものもあるが、そちらは割高だったりする。
冒険者が金銭的な面からドロップアイテムの傷薬を使うことが多い関係で、なかなか達成されない依頼の一つでもあるのだ。
冒険者ギルドが常に依頼を出している状態だが、達成金は安い。
ただ、そういった依頼の達成はギルドに感謝される。
ゆえに初心者には向いている依頼ともいえた。
ヒーリングフィッシュは真っ白い魚体をしており見つけやすく、穏やかな性質で、初心者でも狩りやすい。
「ヒーリングフィッシュってわかりやすいから、簡単でいいわよね~」
ダンジョン地形が水であるならば、人魚であるローレルの独壇場だ。
ローレルは尾びれを使って、あっという間にヒーリングフィッシュを空中に跳ね上げる。
跳ね上がった魚体が再び海水へ落ちる前に、半分をネマとネイが、残りをローレルが素早くとどめを刺した。
「水に落ちた傷薬を拾うのは、ちょっと面倒だよねー」
ぽちょんぽちゃんと音をさせながら傷薬が水中に落ちてしまうのを、ネマとネイが潜って一個づつ丁寧に拾っている。
いつの間にか水中眼鏡をしていた。
「採取依頼はないけれど、主様のために採取はしておいた方がいいわよね~?」
傷薬の回収を二人に任せたローレルはアリッサのために採取をするようだ。
ネイほどではないけれど、ローレルの採取も丁寧で評価は高い。
特に水場でローレル以上に素早く採取できる者は、そうそういないだろう。
三階層で採取できるアイテムは三種類。
というか、王都初級ダンジョンで採取できるアイテムは各階層三種類と決まっていた。
それ以外を採取しようとしても、例えばダンジョン内で消費するのは可能なのだが、ダンジョン外へ持ち出すことはできなかった。
これは王都初級ダンジョンの大きな特徴の一つとして広く知られている。
ちなみに持ち出そうとしても、ダンジョンから一歩出た途端、霧散してしまうのだ。
知らずに入って、採取で一儲けと考えた冒険者の悲惨な悲鳴は、時々醜く響いている。
赤い海藻である・かめーわ、海水の底に沈んでいる砂・しーさんど、何とも気持ち悪い形をしている・うしうしは、水に濡れるのを厭わなければ採取そのものは難しくない。
「かめーわは乾燥させると日持ちするから料理の彩りにも良いのよね~。しーさんどは畑の肥料にいいと聞いたわ~。主様なら自ら野菜作りなんかもされそうだから、少し多めに取っておこうかしら? うしうしは……うん。この形は気持ち悪いけど、食感がいいのよね~」
さすがに海の物には詳しいようだ。
うしうしの姿蒸しは遠慮したいが、姿形が想像できなくなる身を刻んだ酢の物ならアリッサも喜んで食べるだろう。
「ローレル! 手伝おうか?」
「あ! 傷薬の回収、終わりましたのね? 御苦労様でした。こっちも終わるから大丈夫ですわ~」
「依頼は達成できました。戦闘はどうしますか?」
「宝箱でもの凄い浄化石を入手できたから、クリーンシェルと戦う意味が見いだせない……」
「ポーションを落とすフィッシュ系も、ヒーリングフィッシュと同じ方法で簡単に戦闘終了できますものねぇ~? トラップスライムのレアドロップアイテムでも狙ってみましょうか?」
トラップスライムのドロップアイテムは燃料と火打ち石だが、ごくまれに罠解除道具一式が出る。
最後にとどめを刺した者にあったサイズでドロップされるので、ネマかネイがとどめを刺せば特殊料金を支払わなくても彼女たちのサイズにあった罠解除道具が入手できるのだ。
挑戦する価値はあるだろう。
壊れやすい道具でもあるので、予備は持っておいた方がいい。
「うん! 賛成!」
「……何となく、ですが。宝箱で出る気もします」
「勿論、宝箱は最優先で回収いたしますわ~。しかし水の階層なのに、魚系がドロップしないのは不思議ですわねぇ」
「次の階層で、出るみたいですね?」
「肉メインなのにね。魚も肉扱いなのかなぁ?」
ダンジョンモンスターは、それ以外のモンスターよりも、御方曰くファンタジー要素が強いとのことだ。
「空飛ぶ魚だから、そもそも魚じゃないのかもしれませんわね~」
両肩にそれぞれネマとネイを乗せながら、本来なら苦労するはずの水の階層を、余裕綽々で進むローレル。
攻撃態勢を取った途端、モンスターたちはローレルの尾びれにより空中へと高く投げられて、落ちるまでにネマとネイが絶命させた。
ドロップアイテムはローレルが拾った。
二人は、ローレルばかりに働かせてしまうと恐縮していたが、ローレルはこの特殊な階層だけだから、何の問題もないと笑う。
本来なら行けない場所でも、小さな体の二人が行ける場所は少なくなかった。
そんな場所でする採取は人の手が入っていない分、良質なものが多いのだ。
ローレルはそれをきちんと理解してる。
「あらぁ? 出ましたわねぇ~」
ローレルが水の底、砂の中に埋まっていた宝箱を掘り出して膝の上に載せた。
宝箱の上に乗って今回は簡単だったらしい罠解除を終えて頷いたネマと、蓋を開けるのを手伝ったネイが、よく見えるようにローレルに向けて開いたのだ。
ローレルが驚く声を上げた宝箱の中には、罠解除道具が三セット入っていた。
ネル、ネマ、ネイ用の三個なのかと思い至って、ダンジョンの得体が知れない意思を感じてしまい、背筋がぞくりと怖気立つ。
ローレルに合わせたサイズではなく、戻ってくる気があるのか疑問なネラの分でもなく。
最初から別行動を取っているネルの分だと、思ってしまったのだ。
「……三個なら、ネル姉、ネマ姉、私用ですね」
当たり前のようにネイもそう言っていた。
一つだけマジックバッグに入れたネイは、一つを自分で持ち、一つをネマに渡した。
「初級ダンジョンなら難しい解除も少なそうですから、二人で、試してみましょう」
「そうだね! 新しい道具には早くなじんでおきたいものね。性能は……どっちが上かな?」
「初級ダンジョンとはいえダンジョンものですからねぇ~。でも、今使っているのも一応オーダーメイドものですから、使ってみて判断した方がよろしゅうございますかしら」
ローレルの言葉に二人は素直に頷いている。
このまま三人で行動すれば、何の問題もなくダンジョンが踏破できそうな。
そんな穏やかな雰囲気がほんわりと周囲に漂っていた。
暑さとホラーでストックが減ってしまった。
頑張って増やさないと……。
次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 5 の予定です。
お読みいただきありがとうございました。
引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです




