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ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 2

 ロングヘアなのですが、暑さで頭が汗だくになって困っていたところ、髪の毛の中に保冷剤を入れてまとめる方法を教えてもらいました。

 自宅でもっぱら作業の生活なので、風呂上がりのようにタオルを巻きながら、その中に保冷剤を入れてみました。

 驚くほど汗が出なくなって快適です。

 ちなみに保冷剤は、常時十個ぐらい冷やしています。

 この時期は何かと重宝しますね。

 おもにケーキ購入時についてきた保冷剤です。



 ダンジョンまでは直通馬車が出ているが、一般的に新人は使わない。

 慣れた冒険者でも、理由がなければ使わない。

 馬車を使うぐらいなら、酒と女に使うぜ! というのが、大半の冒険者たちの意見だ。

 ちなみに、男性冒険者より少ない女性冒険者たちは比較的よく使うのだが、それは見栄を張った結果の愚行が多い。

 そんな状況なのだがクレアとネラが御者を誑かし、これまた無料で馬車へ乗ることに成功した。

 どうやら同乗者たちは彩絲を見知っていたらしく何も言わない。

 しかしクレアとネラを見る目は初級ダンジョンで一番嫌われているモンスターのゲジを見るのと同じ目つきだった。

 ルール違反、マナー違反はどこの世界でも嫌われる。

 命のやり取りが身近な冒険者たちは、特に実力なき者が違反するのを嫌った。

 三人の肩身が狭そうだが、他人の振りをしているせいか、他の冒険者たちは同情の眼差しを向けている。

 誰しも一度や二度は、意に沿わぬ者とパーティーを組んだ経験があるからだろう。

 美人だが顔に派手な傷がある女性は、許可を得てネマとネイの頭を優しく撫でていた。


 ダンジョンに到着し、ダンジョンの入り口を守る門番に媚びを売りすげなくされてふて腐れる二人の背後で、門番に深々と頭を下げた三人に彩絲は声をかける。


「我は基本、蜘蛛形態で同行する。疑問点は遠慮なく質問していいが、我から声をかけるのはよほどの緊急時以外ないものと思うがよい」


「ええ、分かっておりますわ~。重々注意をして進みたいと思っております」


「はい、ローレルさん、ネマ姉、行きましょう」


「お二人とも! 入りますよ!」


「えぇ? そんなに先走らなくてもいいじゃない、ちょっと! 待ってぇ!」


 まだ門番に何か言いつのろうとするクレアの兎耳を引っ張れば、クレアはようやく三人の背後に付いた。


「ローレルさん、やはり女性ばかりのパーティーは心配ですから、男性を一人二人入れたほうがいいのではないかしら? 新人でもソロの方もいらっしゃるようですし」


 追いついたクレアがローレルに話しかけた。

 先行するソロの男性が二人それぞれ、背後をちらちらと見ている。

 敵が近付いているのに気が付かない冒険者未満の者とともに行動したとて、足を引っ張られるだけだと思うのだが。


「……今回は私たちの力の見極めでダンジョンに入ったわけですから、緊急事態以外では他者の介入は避けたほうがよろしいかと思います。それに……」


「それに?」


「あんなに近くまで敵に近寄られて気が付かない方たちと、ともにいるのは正直不安ですね?」


「なっ!」


「げっ!」


 男たちは自分に向かってくるモンスターに、ローレルの発言で初めて気が付いたらしい。

 幾ら何でも油断しすぎだ。


「え、援護を頼む!」


「こっちもだ!」


 しかも、助けを求めてきた。

 出現したモンスターは、ガードスライム二体。

 こちらから攻撃しなければ様子を窺うだけのモンスター。

 一体何の助けが必要だというのだろうか。


「ええ!」


「勿論よ!」


 ネラはさて置き、クレアがガードスライムの特性を知らないはずもない。

 ここで恩を売って、金やら何やらを引き出す心積もりなのか。

 単純に、男を近くに置きたいだけなのか。

 妹がそばにいないからこそ、男に全力で媚びを売れるのかもしれない。

 ネラも同じく姉がいないからこその暴走のようだ。

 三人が止めもしないのに驚く。

 どころか、愚かしくもガードスライムに襲いかかっていった二人を避けながら、先へと進む。


「え?」


「ええぇ?」


「お、おい! どこ行くんだよ!」


「人助けしてる仲間を置いていくとか、何て情がねぇ奴等なんだ!」


 しかし彼らの言葉など歯牙にもかけない三人は、マイペースに依頼の達成に向けて採取をしている。


「手の平サイズののこのこを五個、折れ枯れ部分のないうさくさ三本、極力形が似たえるのみ二個採取完了です!」


「私はのこのこ三個、うさくさ十本、えるのみ二個だわ~」


「のこのこ十個、うさくさ十本、えるのみ十個。確認お願いします」


「ね、ネイちゃん凄いわね! 特にえるのみが分裂したみたいにそっくりの形だわ!」


「ネイは採取が得意なのですよ!」


「ネマ姉みたく戦闘でお役に立てないので、その分採取をと……」

 

 見ているだけでネイの採取の腕前がずば抜けているのが分かる。

 早くて丁寧なのだ。

 それぞれ一ダースずつの依頼を既に達成してしまった。

 なかなか良い滑り出しだろう、この三人は。


「何暢気に採取なんかしてるのよ! ちょっとネイ! アンタこっちに来なさいよ!」


 ネラがネイに飛びかかろうとするのをローレルが叩き落とした。

 何が起こったのか理解できなかったのか、ネラがぽかーんと間抜けに口を開けてローレルを見上げる。


「ガードスライムはこちらから攻撃しなければ様子を見るだけなのですわ。そんなことも知らず助けを求める冒険者と関わりたくないんですの。クレアさんとネラさんが助けるのは自由ですけれど、私たちは主様に高く評価していただきたいので、どうぞ巻き込まないでくださいませ」


「そ、そんな! 私知らなかったの! 教えてくれたっていいじゃない!」


「クレアさんは知っているはずですよ?」


「……ええ、知っていましたけど。突然モンスターに対峙してパニックを起こした冒険者を助けるのも、主様は評価してくださるのでは?」


 彩絲に向かって話しかけられる。

 ローレルの肩の上へ降りた彩絲は大きく首を振って、再び岩陰へと隠れた。


「助けるに値しない方もいらっしゃると、主様はお考えのようですわ~。私もそう思います」


「てめぇらっ!」


 一人の男が逆上する。

 自己責任という言葉を、彼等は知らないらしい。

 ローレルは冷ややかな侮辱の眼差しで男を見やってから、優美な動作で氷花狂い咲く杖アイスマッドブルームワンドを振るう。


「手加減が難しいですわね?」


 男の体が足から胸元まで凍り付いた。


「か、格好良いです!」


「無詠唱ですね。すばらしい!」


 ネマとネイが絶賛している。

 ワンドを振るったのは相手への威嚇の意味も兼ねているのだ。

 本来なら無詠唱で頭の天辺まで一瞬のうちに凍らせて終了だろう。


「な、何でこんなに強いんだよ! おかしいだろ!」


「ローレルさん! やり過ぎです!」


「そう思うなら、貴女が助ければいいでしょう。先ほどのように、ねぇ?」


 ローレルの言葉に唇を噛み締めたクレアは、マジックバッグの中からポーションを取り出して男に甲斐甲斐しく飲ませている。

 ネラは男の足下に何やら小瓶の中身を振りかけた。

 氷が溶けていくところを見ると、状態異常解除のポーションだろうか。

 随分と高価なアイテムを買ったものだ。

 ガードスライムで助けを求めるくらいにダンジョンを知らない無知な冒険者に、ポーション代金を払う経済力はないだろうに。

 まさかとは思うが、無償で与えるつもりだとしたら非常識が過ぎるだろう。

 ここは忠告した方が良さそうだ。


「高価なポーション代、誰が払うつもりで使ったのか、聞かせてみよ」


 威圧をかけながら人型に変じれば、男は二人揃って粗相をした。

 クレアとネラも一緒に硬直している。


「答えよ、ネラ」


「え! あの、その!」


「その者たちが払えないならば、お前とネラで支払うことになるぞ?」


「そ! そんな! 主様はそんなに冷たい方なの、ひぃっ!」


 威圧を強くすれば男たちは震えだし、クレアとネラも粗相をする。


「冒険者の常識じゃ、馬鹿者が。貴様ら、支払う気はあるのかぇ?」


「あ、あります! 助けていただいてありがとうございます! 支払う気持ちはありますが、即時全額は無理でございます!」


「そ、そうだ。分割で! 分割で頼む!」


 どうにも真剣みにかける。

 経験上逃げる確率百%だ。

 

「では、冒険者ギルドに肩代わりしてもらおうかのぅ。クレア、ネラ。共に行き、事情を話して契約を結んでくるのじゃ」


「そこまでしなくても、よろしいのではない……」


「お前が肩代わりするのかぇ? どの道、ギルドで契約じゃ。できないというのであれば、我の権限で以前いた奴隷館に転売するが、それでもよいのかのぅ」


「……急ぎ冒険者ギルドへ戻り、契約を結んで参ります」


「マジックバッグは置いていくがよい。冒険者ギルドの初心者向けキットだけ持って行け。無理さえしなければ、お前たちの装備だけで合流が叶うはずじゃ」


「わかり、ました」


「何、他人のふりをしておるのじゃ? ネラ、貴様も準備せよ」


 ……はい、といまだかつてない小さな声で囁いたネラは、クレアに自分の荷物を持ってもらうようにねだっている。

 眉根を寄せたクレアはそれでも、ネラの荷物も一緒に腰へ括った。


「なるべく早く戻ります」


「地の底を這っている評価をわずかでも上げたいのであれば、それが無難じゃろうなぁ」


 彩絲の嘲る声音に、二人は真っ白な顔になった。

 男たちに至っては挙動不審で、今にも走り出しそうだ。


「では、三人は引き続き探索を続けるがよい」


「「「はい」」」


 揃った返事に頷けば、三人は立ちすくむ者たちを視界に入れもせずに先へと進む。

 彩絲が蜘蛛に変じて視界から消えた途端、男たちは転げるようにして走り出し、クレアとネラはそのあとを追った。

 



 暑さで消耗して横になって起きると熱中症のような症状になる困った日常です。

 基礎体力をつけないと! と四十分ヨガを始めたら、四日で腰が痛くなってしまい、運動も様子を見ながらやってます。

 早く涼しくならないですかねぇ……。


 次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 彩絲編 3 の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。


 



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